ウールと化繊の良いとこ取り|機能性を極めた世界初のハイブリッドウール

登山ウェアにウール素材を取り入れる人が増えてきました。しなやかで防臭効果もある天然素材ですが、ちょっとチクチクするから苦手、という人も。その悩みを解決するためFoxfireが思いついたのが、表面にウール、肌面に化繊を使用した二層構造の画期的なハイブリッド素材。でも、その開発は苦労の連続だったそう。いったいどんな素材なのかを取材してみました。

2023.04.25

大関直樹

フリーライター

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登山におすすめのインナー素材とは?

今回は、日本のアウトドアブランド「Foxfire(フォックスファイヤー)」が世界で初めて開発した画期的なウェアを紹介します。

その名も「ハイブリッドウール」。肌面に化学繊維素材、表面にウールを使ったカットソーです。ウールと化繊素材を混紡したウェアはご存知の方も多いと思いますが、表面にウール、肌面に化繊を使い分けたものはあまり見たことがないはず。

ウールと化繊素材のダブルフェイス構造が身体をドライに保ち、汗冷えを防ぐFoxfireのハイブリッドウール

では、どんな点が画期的なのかを紹介する前に、ウールと化繊素材の機能について簡単におさらいしてみましょう。

ウールのメリット
1、濡れると発熱するので汗冷えしない
2、天然の防臭効果がある
3、大量の汗を吸って空気中に発散させる

化繊素材のメリット
1、速乾性がある
2、軽量で耐久性がある
3、肌触りがウールのようにチクチクしない

ウール素材は、汗などの湿気を吸うと発熱する性質があるので、保温性に優れています。また、防臭効果があって長時間着用しても臭いが気になりにくいのもメリット。

ただし、ウールは乾きが遅いため、汗を大量にかくような登山には不向きと言われます。一方、化繊素材は、速乾性があるため汗を素早く吸収し、肌をいつでもドライな状態にしてくれます。その反面、汗冷えしやすく、菌が繁殖しやすいため、臭いが気になる場合もあります。

このようなウールと化繊の両方のメリットを活かしつつ、デメリットを解消したのがFoxfireのハイブリッドウールなのです。ただし、このアイテムがリリースされるまでには、5年の時間と試行錯誤の繰り返しが必要でした。その立役者がFoxfireの開発責任者・松尾さん。では、開発のきっかけをマンガで見てみましょう!

ハイブリッドウール開発物語







構想から5年を経て、ついにハイブリッドウールが完成!

すごくいいアイデアが閃いたと思って繊維工場に相談に行った松尾さんですが、あっさりと職人さんに断られてしまいます。それは、ウールと化繊では染色できる温度が違い過ぎたため、一緒に染めると繊維にダメージが生まれてしまうからなのでした。

松尾さん:登山ウェアの開発者として、難しいことはわかっていたんです。しかし、それでもなんとかできないかと思ったんですよ。そこから、日本全国の繊維工場巡りが始まりました。

Foxfireの商品開発を担当する松尾さん。自他共に認める素材マニアで、防虫素材「スコーロン」を使った商品などオリジナリティあふれる商品を作ってきた

断られ続けてもあきらめずに繊維工場を廻っていた松尾さん。1年後にようやくある会社が「やってみましょうか」と引き受けてくれました。ところが試作品が上がってきたのも見たところ、納得のいく仕上がりではありません。

松尾さん:繊維強度が弱くてウェアとしては使えないものだったり、2つの素材の伸縮率が安定しなくてヨレヨレになってしまったりとか。とにかく試作品を作っては改良というトライ&エラーを何度も繰り返しました。せっかく引き受けてくれる工場が見つかったんだから、諦めたくなかったんですよね。

そして、構想から5年。ようやく松尾さんも満足できるハイブリッドウールウェアを作ることができました。そのときの広告が下の写真。「完成してみたら、世界初でした」というキャッチコピーは、とてもインパクトのあるもので、登山者の間でも大きな話題を呼びました。

2010年にニューリリースされたハイブリッドウールの広告。天然繊維と化学繊維の良い部分を融合させたウェアは大評判となった

トランスウェットウールってどんなウェアなの?

では、ハイブリッドウールは、どんな点が画期的だったのでしょうか。実はハイブリッドウールには、「TS(トランスウェット)ウール」と「PP(ポリプロピレン)ウール」の2種類があります。TSウールは、化繊に吸汗速乾性に優れたポリエステルを使った春~夏用。PPは保温性に優れたポリプロピレンを使った秋~冬用です。

TS(トランスウェット)ウールの3つの特徴

①いつでも肌面がサラサラして汗冷えをしにくい
ウールは行動中の汗を吸収してくれますが、日本のような高温多湿な気候だと、肌にベタッと張り付いて不快に感じることもあります。ところが、TSウールなら肌面がポリエステルなので、いつでもドライで快適です。

②ウール特有のチクチク感を感じずらい
ウールの中でもメリノウールのように繊維が細いものは、チクチクしないといわれています。ただし、皮膚感覚には個人差があるため、誰でも同じとは限りません。しかし、TSウールは、ウールが直接肌に触れないので、チクチク感はほぼゼロです。

③1枚でドライレイヤーとインナーを兼用できる
最近の登山ウェアのレイヤリングでは、水分を拡散させるベースレイヤーの下に、汗をベースレイヤーに移すドライレイヤーを着るのが一般的です。TSウールは、この2つの機能を1枚のウェアで兼用できるため荷物を軽量化することができます。

(左)メッシュ状に編み上げたポリエステル素材が、常に肌をドライにキープ  (右)表面のウールが気化熱を調節し、体温の低下を防いでくれる

TSウールの断面図。ポリエステル面が汗を素早く吸収し、ウール面が吸放湿を繰り返して一定の衣服内温度、湿度を維持してくれる

発売後に、大反響を呼んだハイブリッドウール

2010年にリリースされたハイブリッドウールは、世界初(*2010年当時。Foxfire調べ)のアイテムということだけあって、Foxfireの製品の中でも大ヒットを記録。実際に商品を購入したユーザーから、数多くの反響が届いたそうです。

松尾さん:「今までウールのチクチク感が苦手だったのですが、これなら安心して着られます」という女性からのメッセージが多かったですね。なかにはまとめ買いしてくださったり、シーズン毎に買い替えたいですという方もいらっしゃいました。

ほかにも「ウールのウェアって値段も高いし、ちょっとマニアックな感じがして尻込みをしていました。でも、Foxfireのカットソーは、デザインもカジュアルだしリーズナブルな価格なので購入しました」という声も多かったとのことです。

松尾さん:僕たちが自信を持ってリリースした商品が、ユーザーさんに喜んでいただけたことは開発者冥利に尽きますね。Foxfireは、アウトドア業界内でもいち早くGORE-TEXや防虫素材の活用を始めたブランドなのですが、今後も最先端技術をどんどん登山ウェアに取り入れて、機能的でユニークな商品を開発していきたいと思っています。

保管時には虫食いに注意しよう!

機能的にはいいことずくめのハイブリッドウールですが、メンテナンスには少し注意が必要。素材にウールが使われているので、クローゼット等に収納するときは防虫剤を入れないと虫に食べられてしまうことがあるからです。また、防虫剤を入れても、使用期限が切れていたり、こまめに替えていなかったりすると虫食いを防げないので注意しましょう。

また、洗濯をするときに漂白剤に気をつけることも大切です。ウールはタンパク質なので、洗濯槽に漂白剤の成分が残っていると溶けてしまうことがあります。とくに漂白剤でつけ置き洗いをした後にウール素材のウェアを洗濯するときは、洗濯槽を十分にすすいでからにしましょう。

発売から13年を経てハイブリッドウールの決定版がついに完成

発売開始からロングセラーを続けているハイブリッドウール。その間には、ユーザーの声を取り入れることで、細かなアップデートを繰り返してきました。それは、ディテールにまでこだわった作りからもよくわかります。そして現在、13年の歳月を経て決定版といえるものができたと松尾さんは言います。

裏地は、生地が平らな状態で縫製されているため肌に違和感を感じにくい

ストレッチ性に優れているため動きやすいのもTSウールの大きな特徴

登山以外でもTSウールを着用したいという声が多かったので、クルータイプもリリースされている

TSウールのウィメンズモデルは、女性らしいフェミニンなカラーとデザイン

ウィメンズモデルの袖口は、日焼け防止のため手の甲まで覆えるようなつくりになっている

松尾さん:機能的には、本当に満足のいくものができました。10年以上改善を重ねて、やっとここまでたどり着いたという感じです。2023年は、ゴールデンウィーク前後に石井スポーツさんと好日山荘さんの「GsMALL」で“TSウールフェア”を開催させていただきます。そこで読者のみなさんには、僕たちが自信を持っておすすめるTSウールをぜひとも見て、触って、着ていただけたらと思います。

秋冬には保温力抜群のPPウールのウェアを!

気温が下がる秋から冬にかけての登山には、断熱性の高いPP(ポリプロピレン)を使ったハイブリッドウールがおすすめ。いつでも身体をドライに暖かく保ち、気温が急激に下がるような環境でも体温が奪わるのを防いでくれます。 しかも、PPは疎水性があるので汗をかいてもベタつかず、汗冷えすることもありません。

軽量な上に保温力も抜群のPPウール。気温の低い秋から冬にかけての登山に最適だ

靴ずれに悩んでいる方にはPPウールソックス

ハイブリッドウールを使った登山用ソックスは、靴ずれしにくいのが特徴です。登山靴の中で汗をかくと皮膚がふやけて、靴ずれしやすくなりますが、PPウールならそんな心配は無用。ポリプロピレンが常にドライな状態をキープしてくれるので、足はいつでもサラサラ快適です。しかもウール100%のソックスにくらべて耐久性が高いので、数多くのユーザーに愛用されています。

いつでも足がサラサラなので靴ずれしにくいことで評判のPPウールソックス

裏返してみたPPウールソックス。水を吸わないポリプロピレンのパイルが厚くクッション性も高い

 

斉藤正史さん(プロハイカー)のフィールドレビュー


連続使用1,000kmでも全く問題ありません!
ロングトレイルでは、毎日長時間、ときには数か月間ほども履き続けることがあるのでソックス選びは靴選びと同じくらい重要です。私は、FoxfireのPPウールソックスを2013年から愛用していて、トータルで1万8000km以上のトレイルで使用しました。連続使用で1,000km以上の耐久性は実証済み。加えて足の蒸れをソックスの外へ逃がしてくれるので、足がふやけず靴擦れもできにくい信頼の逸品です。

原稿:大関直樹
撮影:小山幸彦(STUH)
イラスト:神田めぐみ
協力:株式会社ティムコ(Foxfire)

大関直樹

フリーライター

大関直樹

フリーライター

小中学校はボーイスカウト、高校はワンダーフォゲル部で自然に親しむ。好きなものは、タバコとお酒と競輪。最近は、山頂で一服すると周りの目が厳しいので肩身が狭いのが悩み。「みなさんが山で嫌な思いをしないように風下でこっそり吸いますので、許してください」