ファイントラックの名作、カミノパンツをコアユーザーと開発者が熱く語り合った夜

縦走登山はもちろん、クライミングや沢登りなど、フィールドを選ばずタフに活躍してくれるアウトドアパンツとして、ユーザーから圧倒的な支持を集める、ファイントラックの「カミノパンツ」。今回はカミノパンツに並々ならぬ愛情を持つ愛用者4名、そして、2022年発売の3代目カミノパンツの開発担当者と販売スタッフという創り手を交えた座談会を開催!カミノパンツの進化の歴史と製作秘話、そしてコアユーザーだからこそ知り得るその魅力について、心ゆくまで語っていただきました。

2024.05.14

麻生 弘毅

フリーランスライター

INDEX

座談会に参加してくださったYAMAPユーザーさん

Kaedeさん
大学時代にワンダーフォーゲル部に在籍し、2年ほど前から登山を再開。縦走など、長く、しっかり歩く登山が好き。夏山縦走をメインに雪山、トレイルランニングなどを楽しみ、今年はウルトラマラソンに挑戦の予定。好きな山は赤岳。

TAKESHIさん
登山歴13年。大学時代に富士山に登り、また卒業旅行で岐阜から歩きはじめ、熊野古道を踏破して伊勢神宮へ。以来、登山に目覚め、北アルプスや百名山、ホームマウンテンである丹沢での登山を楽しむほか、スパルタンレース出場に向けて特訓中。好きな山は塔ノ岳。

(左)Kaedeさん、(右)TAKESHIさん

はなさん
登山歴2年。山岳看護師の資格を目指して、クライミングや沢登り、アイスクライミングなど、さまざまなジャンルの登山に挑戦中。昨年は、目標だった剱岳に挑戦。登山開始とともにカミノパンツに脚を通した、生粋のカミノっ子。好きな山は阿弥陀岳。

ちょまさん
登山歴7年。ジムでのクライミングからスタートし、アルパインクライミングや沢登り、アイスクライミングやドライツーリングなど登攀系をメインにオールジャンルの登山をハードに楽しみ、今年からはスキーにも手を伸ばす。好きな山は瑞牆山。

(左)はなさん、(右)ちょまさん

夏見智子さん
ファイントラック・プロダクト事業部。アパレルブランドでデザイナーやパターンナーとして活躍し、2020年にファイントラックへ。以来、カミノパンツ・ニューモデルの開発担当として手腕を発揮。縦走から沢登り、バックカントリースキーまで幅広く楽しむ。

柴崎篤信さん
ファイントラック・セールスプロモーション事業部。表参道のファイントラックTOKYO BASEにて、イベントを担当する傍ら、店頭に立ち、カミノパンツをはじめとした商品の魅力を伝える。日本各地の山や温泉を愛し、トレイルランニングに情熱を傾ける。

ファイントラックスタッフに聞いた「カミノパンツ」製作秘話

YAMAP:お忙しいなかお集まりくださり、ありがとうございます。

本日は、YAMAPユーザーさんにお声がけして集まっていただいた、選り抜きのカミノパンツマニアのみなさんと、ファイントラックにてカミノパンツに深く携わるスタッフの方にお越しいただきました。ベストセラーとして山好きに浸透しているカミノパンツの、製作サイドだけが知る誕生秘話、そして、ハードに使いこんできたユーザーさんだからこそ分かるすばらしさなどを語っていただき、いまだ「カミノ体験」をしたことのないみなさまに、その魅力をお伝えできればと思っています。

夏見さん:ファイントラックで3代目となるカミノパンツの開発を担当しました夏見智子です。

カミノパンツの誕生は、今から11年前の2013年。その後2017年、2022年にリニューアルしています。ですので、現在、流通しているのは2022年に発売されたサードモデルということになります。

元々、ファイントラックは、コアなユーザーさまに向けて、ギミックの効いた製品を出す…いわば、かゆいところに手が届く商品を出すブランドなんです(笑)。

カミノパンツの歴史を紐解き、開発者の立場から、忌憚のないお話を聞かせてくれる夏見智子さん

そんななか、カミノパンツは、バリエーションルートやハードな登山に向けた、丈夫な春夏用のパンツとして、開発がはじまりました。春夏用のパンツですから、生地は軽く、通気性をもたせたい。ところがそちらにばかりフォーカスすると、どうしても耐久性は損なわれます。

そこで「いかに丈夫に、いかに軽やかに着られるか」ということをテーマに、オリジナルの生地作りに着手したのが2010年ごろのことです。

YAMAP:丈夫で軽やか…。口にするのは簡単ですが、真逆のベクトルですね。そのポイントはどこにあったのでしょう。

夏見さん:まずは、素材にナイロン100%の生地を採用したことにあります。

一般的に登山用のパンツには、ストレッチ機能をもたせるためにポリエステルにポリウレタンを配合した生地を使います。ところが、ポリウレタンは経年劣化が早く、膝部分の生地が伸びきって戻らなくなる現象が起きやすい。さらに、ポリウレタンは水分を含みやすく、行動中に汗をかくと生地が吸汗し、その重みでさらに伸び、もたついてしまったり…。

そこで、カミノパンツは当初から、より強度に優れるナイロン100%の生地を使う方向で開発を進めていました。

TAKESHIさん:当時、丈夫なパンツを探しており、「ナイロン100%」が決め手となって、カミノパンツにたどり着きました。

夏見さん:ウェアを選ぶときに、素材を見るのですかっ!

TAKESHIさん:(照れながら)素材を見るのが好きというか、癖なんです。ナイロン100%なのに、ストレッチが効いていることにも驚きました。

懇切ていねいにカミノパンツの魅力を語る夏見さん。ユーモアあふれる人柄が、言葉の端々ににじみます

夏見さん:丈夫なナイロンにはもうひとつの特徴があり、それはポリエステルに比べて、乾燥時の水分含有量が高いこと。そのため、「接触冷感」というのですが、触れたときにひんやりとした独自の感触があるんです。

ちょまさん:あぁ、それはすごく分かります。脚を通した瞬間の肌触りが心地いいんです。

夏見さん:ですよね! そうして、強靱なうえにストレッチが効き、ハードな使用にこたえながら、夏場も涼しく過ごせるパンツとして、2013年にカミノパンツがデビューしたのです。

夏見さん:その後のリニューアルでは、ファーストモデルにおいてストレートで平面的だったシルエットに変化を加えました。初代モデルも当時は美しいラインでしたが、4年たつと、やや新鮮さを失ってしまいます。そこで、2代目モデルでは、腰まわりに余裕をもたせ、裾を絞ってラインの美しさを際立たせています。

具体的には、脇線を直線ではなく、膝の辺りで曲線を描くようにしている。そうすることで、足が細く見えるよう工夫しています。

もちろん、見た目だけでなく、リクエストの多かったヒップポケットを男性モデルに搭載するなど、機能面も改善しました。ちなみに素材自体は、初代モデルから同じ生地を現在も使っています。

YAMAP:そうして2022年、いよいよ3代目モデルの誕生ですね。

夏見さん:わたしはその2年前、2020年の11月に入社したのですが、着任早々からカミノパンツのリニューアルに携わることになりました。より美しいシルエットを目指し、カミノパンツに触れていくのですが、隅々まで目を走らせるほどに2代目は完璧で、直すところがどこにも見当たらないんです。

YAMAP:なるほど。では、3代目のリニューアルにあたり、目指したのはどんなパンツなのでしょうか。

柴崎さん:カミノパンツはわたしたちが考えていた以上に、日常的に着用してくださる方が多かったんです。わたしも店頭で「3本購入して、365日、山から下りても普段着として穿いています」というような声に触れていたんですね。

ときに店頭に立ち、ときにイベントをリードしながら、最前線でカミノパンツの魅力を伝える「熱い男」。ファイントラックの柴崎篤信さん

夏見さん:そんな声に応えるべく、より普段着にもフィットするカラーやデザインを考えなければ…ところがさっきも言いましたが、コアなユーザー様へ向けた商品創りをしているという自負から、「俺たちは命を守るギアをつくっているのであり、普段着なんか…」という山男たちも社内にはいるんです(笑)。

とはいえ、山から街へ、日常にとボーダレスに着てくださってる方がこれだけいらっしゃるなら、これまでの機能を保ったまま、街でもより美しく穿けるパンツを目指そうじゃないかと!

そうしてニューモデルに着手し、最初に驚いたのが生地の丈夫さ。社内で試作をする際、生地を2枚重ねてピザ用のような丸い刃のカッターで一気に裁断するのですが、わたしの力では下の生地が切れないんです。それまでも長くアパレルに携わってきたのですが、もちろんそんなことは初めて! なんてめんどくさいパンツなんだ(笑)!!

夏見さん:そんな洗礼を受けながら、型紙を見直してサンプルをつくり、社内の人に着てもらっては意見を吸収し、さらに改良を加える。パンツというのは直したいところを触れば美しく見えるかというとそうではなく、どこかを触るとひずみは別の箇所にも出るものなんです(涙)。

そうしていくつかサンプルを作ったところで行き着いたのは、パンツ単体できれいに見えるシルエットと、人が穿いたときに美しく見えるラインは別ということでした。

私はグループ登山で、誰かの後について山を登る機会があるのですが、鎖場などはもちろん、後ろ姿を気にしている人って多いですよね。総じて、日本人は横から見ると平べったく、正面から見ると腰骨が横に張っている。逆に外国人は正面から見るとスリムだけど、お尻が張っていたりするんです。そこで、横に広がりがちな日本人体型に奥行きをもたせることで、シルエットはより立体的になり、細く見えるのではないか…。

そう気づいて、さっそく腰まわりを中心に、そうした改良を加えました。簡単に言うと、横に広がる楕円を、縦の楕円に変えた感じです。

YAMAP:足が長く見えるデザインは、そうして生まれたのですね。

柴崎さん:3代目カミノパンツはファイントラックの社内でも人気なんです。美しいシルエットもそうですが、3本、4本と複数所有して日常的に着まわすとなると、鍵になるのがカラーリング。カミノパンツは日常で馴染む色使いがなされています。

はなさん:山のウェアで同じモデルをふたつ買ったのは初めてなのですが、限定カラーがすごくよくて…。

夏見さん:はなさんさんが穿いている限定カラーのライトブラウンは、一瞬で売り切れたんです!

写真左から2022年、2017年、2013年モデル

改良を重ねた3代目カミノパンツの特色

YAMAP:そんななか、改めて現行モデルの特色を教えてください。
  
夏見さん:まずは初代モデルから変わらない部分からお話しさせてもらうと、右ポケットに着けられたキーループ。同様に右ポケットにはコインポケットも装備しています。

そして、股の内側には紳士服などで採用されるシック布というあて布を使っています。股の縫い目にかかる力を分散したり、擦れによる負担を軽減する効果があります。

19世紀、ヨーロッパの乗馬パンツにルーツをもつというシック布。縫製工程の煩雑さゆえ、いまではあまり使われない技術だとか

さらに、ポケットは袋縫されています。これはステッチの間に生地の端が格納されるような縫製なのですが、これにより、表地にも裏地にも生地の裁ち目が表れず、ほつれや引っかかりが置きにくい。さらには肌触りもよくなるんです。

柴崎さん:そして、カミノパンツの足運びのよさは、生地のストレッチ性だけでなく、「歩かないパンツ」であることにも秘密があります。

夏見さん:通常、カジュアルなパンツの縫製工程は、内股の裾から股十字、さらにもう片方の内股裾に向かって一気に縫製します。このほうが簡単で手早く、効率がよいのですが、ミシンの構造上、縫い進めるうちに重ね合わせた生地同士が微妙にずれていくんです。そうしてできあがったパンツを吊ると、左右の足が前後に開き、「歩いているような状態」になってしまう。

そこで、ファイントラックでは、左右パンツの筒を、それぞれ上から下に向かって縫い、最後に股ぐりで左右縫い合わせる工程を行う。そうすることで、吊った状態でもまっすぐに、美しく仕上がるんです。ただ、手間もかかるし技術も要するので、工場さんにはとても嫌がられるのですが…。

YAMAP:そうして、見た目に美しく、足運びのよい逸品が生まれる。機能美の裏には、妥協を許さないものづくりの姿勢があるのですね。このほかに、初代から踏襲されている仕様はあるのでしょうか。

夏見さん:ベンチレーター裏の端処理もこだわりのポイントです。折り紙のように畳みこんだメッシュ素材を、開閉で噛みこまないようコバステッチを用い、さらにはメッシュ自体でファスナーの端をふんわりと覆っている。

それにより、ベンチレーションを締めるときに噛みこまずにすっと収まり、肌との接地面に違和感が生まれないようにしています。

柴崎さん:ここも工場サイドに嫌われるパーツですよね(笑)。

夏見さん:「ここの縫い方が分からない」という問い合わせが多い箇所ですね。ここも含め、肌へのあたりに影響が出る箇所は、検品時にそれはもう厳しくチェックし、基準に満たないものはしっかり修正し、製品に反映していただいてます。もちろん、その分、コストはかかってしまうのですが、やはりみなさまの使い勝手のよさを…。

いちばんのこだわりだというベンチレーション裏のていねいな縫製

そして、もうひとつ、大きな改変を加えたのが、左右のポケットのファスナーまわり。旧モデルはファスナーが見える仕様になっており、こちらのほうが薄くて軽く仕上がるんです。

ところが、カミノパンツはストレッチ性に優れているので、何十回、何百回と開閉を繰り返すことで生地が若干伸びてしまい、ワンアクションで閉まらなくなってしまう。それを改善したくて、ファスナーテープが隠れるよう玉縁仕様にし、ここで生地のコシをもたせることで、ストレスのない開閉を実現したんです。

右の3代目モデルにはポケット口に玉縁という裁ち端を生地でくるむ仕様を採用。ファスナー部分の生地にコシをもたせることで、ファスナーの開閉をスムーズに。我が子を育てるような愛情ともいうべき技術が各所に施されている

はなさん:ちなみに、バックルは改良しているのでしょうか。

夏見さん:こうしてみると、ベルトの素材は2代目のときに変わっていますね。ベルトの末端がポケットに収まる仕様は、初代からのこだわりポイントです。…なにかお困りのことがありますか。

はなさん:ウエストにはスナップボタンもあるから、パンツが下がるわけじゃないし、トイレのときはひと手間増える。言い方は悪いけど…わたし的には不要で、バックルはいつも止めていないんです。

Kaedeさん:じつは、わたしもそっち派です。バックルを締めての長距離の運転とか、なんか苦手で…。

男性一同:嘘でしょ~!?

夏見さん: じつは、この意見は社内の一部の女性陣からもあがっているんです。

TAKESHIさん:ぼくはバックルの有無もパンツ選びの重要なポイントで、ないものはまず買わないんですけど…。

ちょまさん:出発前にベルトをぎゅっと締めるのは、いわば気合いを入れる儀式みたいな…。

夏見さん:もちろん男性陣には好評です。実際、これでも弱いという声があるくらい。ただ、女性はおへその上を圧迫されるのが苦手なんですよね。それらの声は貴重な意見として、次回のリニューアルの際に検討したいと思います。

まさかの女性陣VS男性陣のバックル問題が発覚!? これを機に、座談会はさらに白熱化

ヘビーユーザーの登山者が実感。カミノパンツの魅力とは

YAMAP:こうしてカミノパンツはブラッシュアップされていくのですね。それでは、ユーザーのみなさんのカミノパンツの印象、長所などを教えてください。

TAKESHIさん:ぼくがカミノパンツを手にしたのは2年前です。筋トレをしていることもあってか、ほとんどの登山パンツではお尻と太股が突っ張ってしまうんですが、カミノパンツにはストレスがない。先ほど、横長の楕円を縦長に変えたという話がありましたが、ぼくにとってはそこが重要だったのかなと思いました。

それと特筆すべきは耐久性。奥穂高岳の山頂で股を開いてジャンプした写真を撮ったのですが、その直後、思い切り転んでいるんです。そうして身体にはものすごい擦り傷とアザができたのですが、パンツはノーダメージ(笑)。

柴崎さん:カミノパンツは「ヤスリで1000回削っても傷まない生地」というタフさを売りにしています。

ちょまさん:カミノパンツを木の枝でゴリゴリ擦る動画があがっていましたね。カミノパンツを手に取ったのは、その丈夫さが印象的だったからです。実際、アルパインクライミングなどハードなシチュエーションや、クラックに挟まってずりずり登っていくようなクライミングをしても傷ひとつついていない。あの動画は本当でした。

Kaedeさん:わたしは登山道整備ツアーに参加したときに、ガイドの矢ヶ崎晶さんにすすめられたのがきっかけで、お店で手に取りました。国産メーカーだからか、サイズ感もよくて心地よい。そしてやっぱりシルエットがきれいなので、直感的に「これにしよう」と決めました。

ちょまさんと同様、わたしも岩場が好きでよく行くのですが、どんなに擦っても傷がつかない。また、山を歩いていると裾が擦れて泥がつき、一見、傷っぽく見えるけれど、洗濯するときれいなままなんです。ハードに穿きこんでも裾の糸がほつれたり飛び出したりもしてこない、あれはどうしてですか?

夏見さん:糸は通常のものを使っているのですが、裾は三つ折りにして縫っているんです。

柴崎さん:カミノパンツに関しては、修理で持ちこまれることがほとんどありません。ぼく自身も登山中に転倒することがありますが、カミノパンツに穴を開けたことがないんですよね。

Kaedeさん:そして、縦走で長く歩いても汗染みができにくく、匂いませんよね。

TAKESHIさん:ベンチレーションがよく効くからじゃないでしょうか。そのおかげで汗でパンツが張り付くことはない。夏のアルプスは完全にこれ一本です!

Kaedeさん:後ろを向いたときのラインが気にならないのも嬉しいポイントです。そのうえ、足上げでもゆとりがありながら、ダボつかない。そして、先ほどの話で納得したのですが、片手で開けて、まとわりつかずに収納できるベンチレーションの使いやすさはすばらしいと思います。そんな信頼感から冬山では「ストームゴージュアルパインパンツ」を穿いています。

ちょまさん:これは一般的な話ではないかもしれないけれど、ぼくは厳冬期もカミノパンツを穿いています。雪山ではラッセルが多いとかなり汗をかくので、「ドライレイヤーウォームタイツ」にカミノパンツを重ね、ハードシェルパンツを穿くというレイヤリングが個人的にベスト。状況に応じて、下に穿くタイツで温度調節をしますが、厳冬期のアイスクライミングもアルパインクライミングも、これ一本です。

柴崎さん:アイスクライミングでも使うというのは、初めて聞きました!

ちょまさん:カミノパンツと「ドラウトタフジップネック」の組み合わせが、快適で強靱な最強タッグをヘビロテしています。撥水性もすばらしいのですが、沢登りに使うのはもったいない気が…いざ穿いていくと、やっぱり快適なのですが(笑)

はなさん:わたしがカミノパンツに出会ったきっかけは、山ナースガイドの小林美智子さんにすすめられたから。当時は山についてなにも知らなかったので、最初のパンツとしてカミノパンツを購入しました。

実際に動きやすいし、毎週のようにハードに穿いているのに、くたびれた感じがしない。お気に入りは、やっぱりベンチレーション。開け閉めにストレスがなく、気軽に温度調節できますよね。バックルはあれですけど(笑)

でも、先ほど男性陣の話を聞いていて思ったのですが、わたしにとっては、足を入れたときのしゃりっとくる心地よさが、バックルを締めるようなものなのかな。脚を通すたびに「今日もやるぞ!」って思うんです。

男性陣:おぉ~っ!

はなさん:山岳看護師の講習会に集まるのはほとんどナースですが、かなりの人がカミノパンツをはじめとしたファイントラック製品を身につけています。

ここだけの話、看護師って職業柄、言うべきことを言う必要があるというか、気が強いというか、要するにこだわり屋が多いんですよ(笑)。そんなナースがそろって身に着けている状況に、ブランドへの信頼感が現れていると思います。

TAKESHIさん:じつは、ぼくも看護師なんです(笑)。

はなさん:山梨県北杜市の山パトロールにも参加しているのですが、実際の事故現場にはまだ遭遇してはいません。ただ、山で怪我した人に処置を施すのは、登山以上のさまざまな動きが要求されるはず。そんなとき、わたしたち看護する側にストレスを感じさせず、耐久性に優れるウェアの存在は、とても心強いです。

TAKESHIさん:ぼくは訪問看護でいろいろな患者さんのお宅へと自転車で駆けつけていますが、そこでもカミノパンツを穿いています。猛烈にペダルを漕いでもストレスはないし、少々の雨ならカッパを必要としない優れた撥水性もありがたいです。

はなさん:もうひとつ、わがままを言っていいですか…(笑)。

夏見さん:ドキッ…なんでしょう(笑)。

はなさん:ベンチレーションを開けたときの肌の見え方がどうにかならないかな、って。メッシュの色が紺だからか、よけいに目立ってしまうんです。

夏見さん:なるほど。肌の色に近づけたほうがよいのでしょうか。

Kaedeさん:たしかに、他の方が穿いていても、遠巻きで見るときにならないのですが、近くで見ると…。

はなさん:そうなんです。なにかで足を上げたときに肌色が見えていることに気づくと、ちょっと恥ずかしいわ、って。

YAMAP:男性は気にしませんもんね。

夏見さん:気にしない女子もいるんですよ(笑)。

はなさん:あとは、次の新色を楽しみにしています。どんな色が出るのか、明るい色だといいな~。

夏見さん:貴重な御意見をありがとうございます。毎日着てくださる方がいらっしゃるので、カラーリングについても増やしています。わたし自身、新しい色が出るたびに欲しくなり、買ってしまうんですよね(笑)。

ちょまさん:ちなみに、後ろのポケットが右にしかないのはなぜですか。

夏見さん:ポケットも圧倒的に男性から多い要望なんです。両方着けても、ハーネスを着用したら使わないだろうなと思ったんです。女性はあまりポケットにものを入れませんから、ウィメンズモデルには装備していません。

柴崎さん:手ぬぐいを入れるのに便利です…なんておすすめするのですが、女性にはまったく刺さりません。ちなみに、YAMAPさんと共同開発した「YAMAP別注カミノパンツ」で両腰に着けたスマートフォン用ポケットは女性にも好評でした。

YAMAP:あれは好評をいただいていますね。ところで、カミノパンツは男性用で19,030円、女性用で18,480円とやや割高です。ここまでのお話をうかがうと「なるほど!」と思いますが、そこはハードルにならなかったのでしょうか。

TAKESHIさん:店員さんに「耐久性が高く、へたらない」と聞いていたし、実際に、2本分以上の寿命があるので、数千円の差は気になりません。

ちょまさん:確かにはじめは高いと感じました。でも実際に使ってみると、納得のいく機能と品質ですから。それと、このパンツはウェアというより、登山のギアだと感じるんです。シビアなコンデションでの快適性と壊れないだろうという信頼感…そう考えると得心がいきます。

夏見さん:わたしたちも「命を守るギア」だと考えて、作っています。これを使って安全に遊んでもらい、怪我なく笑顔で家に帰ってほしい…そういう願いをこめています。

Kaedeさん:わたしはきれいな縫製を確認し、「この値段になるよね」と納得して買いました。これを穿くことで、山のなかのちょっとしたストレスの積み重ねを感じないのならば、ぜんぜんありです。

とはいえ、山をはじめたばかりだと、わかりにくい部分かもしれませんね。ただ、経験を重ねて比較ができるようになると、この製品の素晴らしさを噛みしめることができると思います。

YAMAP:最後にうかがいたいのですが、4代目カミノパンツはどんな製品になるのでしょうか。

夏見さん:ファイントラックの製品は、時代に応じてアップデートを繰り返してきました。だから、何年後かには考えなきゃいけないね、っていう話はしています。でも、またこのパンツにうなされるな~(笑)

はなさん:バックルの件、ぜひお願いしますね(笑)


ときに熱く、ときに和やかに、トークは夜更けまで盛りあがる…。愛情をこめてつくった道具が、使い手によって新たな物語を紡がれてゆく。作り手と道具、そして愛用者のすばらしい関係がここにはありました。みなさん、遅くまで楽しい話をありがとうございました!

座談会の会場は表参道のファイントラックTOKYO BASE。ファイントラックのラインナップのほとんどが揃っています

カミノパンツについて

(左)メンズ:19,030円(税込) カラー ドルフィングレーほか3色、 (右)ウィメンズ:18,480円(税込) カラー クラフト ほか3色

取材協力:ファイントラック
撮影:宇佐美博之
文:麻生弘毅

麻生 弘毅

フリーランスライター

麻生 弘毅

フリーランスライター

バックパッキングやカヤックによる長い長い旅にハマりがち。ロックと酒、焚き火が好き。著書に北極圏の泥酔紀行『マッケンジー彷徨』(枻出版社)がある