アークテリクスの軽量バックパック「エアリオス」が進化|オーダーメイド級のフィット感

カナダ・バンクーバー発の高機能ブランド・アークテリクスから2022年にリリースされ、軽さと強さ、背負いやすさを兼ね備えた人気バックパック「エアリオス」。軽量で耐久性に優れ、ユニークなアイディアと機能を搭載し、機能美にあふれるスマートなデザインで人気を集めました。

そのテクニカルモデルが、基本的な素材やコンセプトはそのままに、さらなる進化を遂げて登場。「オーダーメイドのフィット感」をテーマに、すべてのユーザーに、それぞれにベストな背負い心地を提供するために生み出された革新的なアイデアは、新しい背負い心地を体験させてくれます。

現状に満足することなくよりよいものを求め続ける、ブランドのものづくりの姿勢が色濃く表れた大胆なリデザインの内容に注目していきましょう。

2024.06.27

小川 郁代

編集・ライター

INDEX

受け継がれる「エアリオス」のコンセプト

まずは、前モデルから引き継がれた、「エアリオス」の基本的な特徴とコンセプトをチェックしておきましょう。

210デニールの軽量なコーデュラナイロン生地に、液晶ポリマーをリップストップとしてグリッド状に施した、耐久性や引き裂き強度に優れる素材を使用。ムダをそぎ落としたシンプルなデザインと、軽量コンパクトで汎用性の高いコードをパーツに採用するなどのアイデアで、機能や背負い心地を犠牲にすることなく、フィールドで求められる軽さと耐久性を確保しました。

基本的な設計のベースには、トレイルランニング用パックパックの開発で培った技術が生かされています。

縦走登山などに使う大容量モデルのように腰で背負うのではなく、肩甲骨のあたりに荷重を分散させるバランス設計。比較的軽い荷物で、軽快に山を楽しむスタイルに最適です。

体上部の広い面積で荷重を受け止めることで、すばやい動きにも荷物がしっかりと追従し、揺れでバランスを崩されることなく、ハイキングやトレッキングでも軽く安定した背負い心地を保てます。

荷物と体の一体感を向上させる、幅広のショルダーハーネスを採用。行動中に手が届きやすい、体の前面を積極的に収納に活用しているのも、トレランパックの発想がベース

ウォーターボトルやスマートフォンなど、頻繁に出し入れするものの定位置を手元に設けることで、荷物を出し入れするためにバックパックを降ろす時間を、大幅に短縮してくれます。

荷物が内部で動かないようにするコンプレッションストラップとして、一般的なナイロンベルトの代わりコードを利用するのも、エアリオスの収納システムの大きな特徴。

フロントのバンジーコードは、サイドやフロントのポケットの中に、大幅な調整ができる長さを格納。荷物量に応じて伸ばして、各所に設けられたループにフックを引っかけるだけで、さまざまな形やボリュームの荷物を取り付けることができます。

ジェンダーレスを可能にする、常識を覆す大胆な発想

ここからは、生まれ変わったエアリオスの、進化の内容に注目していきましょう。

新しいエアリオスのラインナップは、荷物多めの日帰りやミニマムスタイルの1泊に使える、ロールトップスタイルの35Lと、ファスト&ライトなハイキングにぴったりな、18Lのデイパックの2タイプ。以前は15、30、45Lの3モデルがありましたが、用途を集約した2モデル展開になりました。

ラインナップ以上に大きな変化は、メンズ・ウィメンズ別のデザインから、ユニセックスモデルに変更したことです。

ある程度以上の容量があるテクニカルパックでは、男女で異なる体型を考慮して、細部のデザインを変えた別モデルを作ることが一般的です。しかし、アークテリクスはあえてその流れに逆行するように、ジェンダーでデザインを変えることをやめました。

その理由は、製品をより深く研究するうちに、人の体型を、男女の違いで分けることが難しいと気づいたことにあります。

もちろん、骨格や筋肉の付き方など、男性と女性の体型には基本的な違いがありますが、身長や体重、筋肉の量や付き方、姿勢やバランスなどには、性別が同じでも人それぞれに大きな違いがあります。

テスターやユーザーの意見、フィッティングに関するデータなどの情報を得るうちに、メンズ、ウィメンズで別モデルをつくることが、逆にジャストサイズの範囲を狭める可能性があると判断したのです。

では、複雑に異なる体型の違いに、どのようにして対応し、それぞれに快適なフィッティングを提供できるのか。その答えとしてエアリオスがたどり着いたのが、ショルダーハーネスとウエストベルトの両方を無段階に調節できるよう、本体から独立されるという手法です。

軽量化のためにウエストベルトが取り外せるモデルは珍しくありませんが、エアリオスのそれは、フィッティングを自在に変えることが目的。

上の写真は35Lモデルの荷室内部。ファスナー付きポケットの下に、フレームシートが収納されています。ソフトで軽量な、ウレタン製シートの中央にある細長いスリーブ内には、着脱可能な金属製ボーンを内蔵。抜き出して背中のカーブに合わせて形を変えることができます。

ボーンのスリーブの両側に見えるのが、ショルダーベルトの根元。ボディ背面からフレームシートを貫通する構造が、荷重を直接背中に伝えて肩にピンポイントでかかる重さを分散し、荷物に引っぱられることのないバランス設計を実現しています。

フレームシートは面ファスナーで固定され、簡単に着脱可能。1インチ(2.54cm)間隔でつけられたステッチを目安に、ショルダーベルトの長さや角度を調節します。

面ファスナーの面積が広いので大幅な調整ができ、なで肩やいかり肩も、肩の厚みやバストのボリュームも関係なく、自分が一番快適に背負えると思う状態に、自由で繊細な調節が可能。

ウエストベルトも、固定の手段は面ファスナー。背面パネルの下半分ほどがボディと分離するように、余裕で両手が入るほど大きく隙間が空いているので、着脱操作もスムーズに行なえます。

取り外したウエストハーネスを見てみると、中央部分が細い2本のベルトで連結されているのがわかります。このベルトも面ファスナーで固定されていて、長さの調節が自在。フロントでベルトを締めるだけでは、バックル同士が当たってしまう細いウエストの人や、前面で垂れ下がる余ったベルトが気になる人の悩みも解消。

しかも、上下で長さを変えればカーブも付けられるので、骨盤やウエストの形に合わせて立体的な調整できます。

実際に、体格の違う2人がウエストベルトだけを着けた状態がこちら。同じベルトがウエストのサイズやカーブによって、違う形で体にフィットしている様子がよくわかります。

このフィット感には、ベルトの素材や仕立ても大きく役立っているでしょう。

体のカーブになじんでフィットする、薄くしなやかなメッシュ素材。行動中の動きから荷物の揺れを防ぐには心もとなくも見えますが、メッシュのなかに部分的に配置された、パッド内蔵の生地の部分が支えとなって、ホールド感は申し分なし。フィット感にも優れ、食い込みやゴワ付きなどのストレスがありません。


ショルダーハーネスも薄手のパッド入り。ソフトで通気性にも優れ、暑い環境でも快適に使うことができます。これも、運動量の多いトレランシーンのためのバックパック開発の経験が役立っているのでしょう。

背面パッドは二重構造。ベースのパネルの上に、ドット状の凹凸が付けられたメッシュ素材を重ねることで、背中とパネルの間に空気の流れを作り出して、熱や湿気を排出。軽く柔らかでクッション性の高いメッシュが、長時間の使用によるストレスを軽減します。

見た目以上にたっぷり入る印象の35Lモデルは、ロールトップ部分を伸ばせば、さらに10Lの容量アップが可能。荷物が少ないときは、フロントコードを利用してコンプレッションすれば、同じモデルとは思えないほどコンパクトな状態で使えます。

また、35L、18Lともに、通常はフロントに縦に2本並んだ、コードタイプのデイジーチェーンにかけているフックを、背面パネル側のループにかけることでもコンプレッションが可能。

さらに、今回のリニューアルで追加された、サイドポケット内のベルトを引っ張れば、ボトム付近のボリュームを、効率よく潰すこともできて、荷物のバランス調整に役立ちます。

18Lサイズは、背面パネル内蔵の金属製ボーンがないこと、ウエストベルトがシンプルなバックルベルトタイプであることを除き、ショルダーハーネスの構造やバンジーコードのシステムは、35Lモデルと同じ。少ない荷物量を想定したコンパクトサイズモデルといえども、まったく妥協はありません。

取り外せるから交換できる。地球のために使い続けられるものへ

ハーネスやウエストベルトが取り外しできるようになり、もうひとつ手に入れた大きなメリットが、それぞれの交換が可能となったこと。

いいものをより長く使い続け、地球環境に負荷をかけない姿勢は、アークテリクスがすべての製品に共通して大切にしていること。ボディの素材はめったなことで破損することはありませんが、ダメージや劣化が起きやすいパーツが交換可能になったこと寿命を大幅に延ばすことができるでしょう。

違いがわかるユーザーを満足させる、大胆で繊細なフィッティング

ユニークで大胆なアイディアで、生まれ変わったエアリオスバックパック。以前にモデルを知っている人にも、初めてエアリオスに出会った人にも、とても魅力的で刺激的な製品であるに違いありません。ただ、これからアウトドアを始めようとする人の初めてのバックパックとしては、少しわかりにくいかもしれません。

シンプルで自由度の高い収納システムには、使いこなすためのパッキングテクニックや、何をどこに収納するのかを自分で考える発想力も必要。フィッティングに関しても、ウエストベルトの位置を決めたり、スタビライザーを適切に引いたり、基本的なフィッティングのノウハウを理解していることが大前提。経験が少ない人は、ショップスタッフなどに相談して、一緒に調整方法を確認することいいでしょう。

実のところ、細かく調整をしなくても、一般的なフィッティングだけで、かなり高いレベルのフィット感は得られます。ただ、もし今のバックパックの背負い心地に何かしらの不満を感じているのなら、ぜひエアリオスで、自分のベストフィット探してみてください。少し面倒な作業ではありますが、繰り返し、少しずつ調整していくうちにたどりつく、未体験のフィット感と異次元の背負い心地を、ぜひ体験してほしいのです。

これまでのバックパックが、お店に並ぶ上質の「洋服」だとしたら、エアリオスバックパックは、まるで「着物」のよう。性別や体型にかかわらず、着る人の体に合わせて「着つける」ように、ショルダーハーネスとヒップハーネスを体に合わせていく過程は、登山者の探求心を満足させてくれるに違いありません。

原稿:小川郁代
撮影:中村英史
協力:アークテリクス カスタマーサポートセンター/アメア スポーツジャパン

小川 郁代

編集・ライター

小川 郁代

編集・ライター

まったくのインドア派が、ずいぶん大人になってから始めたクライミングをきっかけにアウトドアの世界へ。アウトドア関連の雑誌、書籍、ウェブなどのライターとして制作に関わるかたわら、アウトドアクライミングの環境保全活動を行なう、NPO法人日本フリークライミング協会(JFA)の広報担当としても活動する。

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