グレゴリーの中型バックパック「ズール/ジェイド」|フィールドレビュー

Don’t carry it, Wear it. (バックパックは背負うのではない。着るのだ)

これはグレゴリーの製品哲学。この言葉のとおり、まるで体と一体化するような背負い心地がグレゴリー・バックパックの最大の持ち味です。

その中型モデルの中核をなす「ズール/ジェイド」が4年ぶりにフルモデルチェンジを果たしました。日帰り登山から山小屋泊、容量によってはテント泊にまで使える汎用性の高さが魅力のこのモデル。グレゴリーのラインナップのなかでも屈指の人気を誇ります。登山ガイドの岩田京子さんが谷川岳で2日間にわたって使い込み、詳細をレポートします。

なお、記事の末尾にて、本記事で紹介している「ズール/ジェイド」をお試しいただけるYAMAPユーザーモニターを募集しますので、ぜひ最後までご覧ください。
※募集期間は3/14(火)で終了しました。

2023.03.01

森山 憲一

山岳ライター/編集者

INDEX

グレゴリーの人気バックパック「ズール/ジェイド」とは?


容量40リットル前後の中型バックパックは、その汎用性の高さから最も人気が高いクラス。グレゴリーでも、この中型クラスに3つの異なるシリーズを用意しています。

まずは、エントリーモデルの「スタウト」と、同じ作りで女性用に設計された「アンバー」。グレゴリーならではの機能性を持ちながら軽さにも注力したシリーズです。

次に、「パラゴン」(男性用)と「メイブン」(女性用)。これは68リットルモデルまで揃える本格バックパッキングモデルで、中型クラスを超えた背負い心地のよさが最大の特徴となっています。

そして今回モデルチェンジした「ズール」(男性用)と「ジェイド」(女性用)。「スタウト/アンバー」と「パラゴン/メイブン」のいいとこ取りをしたような中間的なシリーズで、それゆえに最もバランスがよく、ベストセラーとなっていました。登山者からの注目も高いこのシリーズ。どこがどのように変わったのでしょうか?

女性用の新型ジェイドをテストした登山ガイドの岩田京子さん。ハイキングから縦走まで幅広くガイド。エベレスト登頂経験者でもあり、先日は南米最高峰アコンカグアに登りにいってきたばかり

ポケットが大きくなった「ズール/ジェイド」

「外観的には、あれ? どこが変わったのかな? というくらいで、大きな変化を感じなかったんですが、いざ手に取ってみると、全面的にリニューアルされていることがよくわかりました」

ジェイドの旧モデルを愛用している岩田さんは、新型ジェイドを手に取ったときの第一印象をこう語ります。

「いちばん最初に、あ~、これはありがたい! と感じたのが、ヒップベルトのポケットです。容量が大きくなっていて、私のスマホがすっぽり入るんですよ! 旧型のときは微妙に収まりきらなかったので、これはうれしいポイントです」

新型ジェイドのヒップベルトポケット。大容量化して、Google Pixel 7 ProやiPhone 14 Pro Maxなどの大型のスマホでも収納できるようになった

こちらは旧型ズールのヒップポケット。新型に比べて深さがないため、大きめのスマホは収納しづらい

「スマホをはじめ、行動中にすぐに取り出したい物っていろいろありますよね。そういう物の収納場所としてはヒップベルトのポケットがいちばん便利なので、このポケットのサイズと使い勝手はとても重要だと思うんです」

近年、スマホが大型化していますが、ヒップベルトポケットの大きさは旧態依然のものも少なくなく、ものによってはアメくらいしかまともに入らないバックパックもあります。ここをしっかり改善してきたズール/ジェイドは、さすがに最新型といえるでしょう。

歩行時にも重心がブレにくくなったヒップベルト

そのジェイドを背負って早速、谷川岳天神尾根を登り出す岩田さん。テレビCMでちょっと有名になった天神尾根。多くの登山者が行き交うなか、足取り軽く登っていきます。

頂上まではあと1時間くらい。ここまで背負って歩いてきて、なにか気がついたことありますか?

「ヒップベルトですね。脚を上げたときにヒップベルトが微妙に動いて、バックパック本体がブレないような感覚があります」

岩田さんによれば、ヒップベルトとバックパック本体の接続部分が旧型と新型では変わっているそうです。これがブレにくくなった理由ではないかと。

上が旧型、下が新型のヒップベルト。丸で囲った所に注目。ヒップベルトが本体に直結していた旧型に比べ、新型は体の動きに合わせて可動するゆとりがある

脚を大きく上げるとヒップベルトも上に動く。旧型はヒップベルトの動きにつられてバックパック本体も微妙に揺れ、重心がブレることがあったが、新型では解消されている

「あと、ヒップベルトのパッドが厚くなりましたね。旧型では若干当たるような感触もあったんですが、新型はそれがなくて、しっかりフィットします。安定感も増したので、見た目の重厚感とは裏腹に、背負ったときに軽く感じます」

旧型(左)と新型(右)のヒップベルト。旧型のヒップベルトはやわらかめでコシがない印象だが、新型は成形された厚めのパッドで腰を包むようにフィットする

背面パネルもさらにブラッシュアップ

ズール/ジェイドシリーズの最大の特徴は、背面パネルとバックパック本体に空間を設けることで、背中の通気性を高めた構造にあります。これは旧型からも変わらず引き継がれているのですが、比べてみるとパネルの作りが変わっていることに気づきます。

旧型は背面メッシュパネルの横が空いているのに対して、新型はそこにもパネルを追加しています。これによってメッシュパネルのテンションをより高く保つことができ、背負ったときの背中への荷重の分散効果が高まるといいます。実際、両者を背負い比べてみると、新型のほうが均一に背中にフィットし、歩いたときの安定性も高く感じました。

旧型(左)と新型(右)。旧型は背面メッシュパネルの横が空いているが、新型は新たにパネルが追加されている

ズール・ジェイドシリーズ最大の特徴が、空間を設けて背中を蒸れにくくした構造。真夏などでも快適だ(写真は旧型)

さまざまな体型に合わせられるのもグレゴリーのバックパックの大きな特徴。SM/MD、 MD/LGの2サイズを展開するうえ、背面長の調整も可能。調整幅は最大89mmと大きい

宿泊地に着いて荷物を取り出すときに便利なフロントオープン機能。開口範囲が広く、底のほうに入れた荷物を取り出すのも簡単だ。これは旧型にも備えられているズール/ジェイドの魅力のひとつ

さらに谷川連峰の奥深くへと…

山頂の小屋に泊まった翌日は、谷川連峰主脈方面へと縦走。天気は曇りがちですが、ときには一瞬だけこんな青空がのぞくことも。

群馬県と新潟県の県境にある谷川岳は、天気の境目ともなっているため、晴れと曇りが混在したこんなドラマチックな光景もよく見られる

途中に現れた急傾斜の鎖場を登っていく岩田さん。ここでも新型ヒップベルトの効果を感じられたようで、大きく脚を上げても重心が振られにくく、登りやすかったといいます。

本体の素材が改良された!

前日からジェイドを背負って歩いてきた岩田さん。もうひとつ新型の違いに気づきました。

「本体素材が変わっていますよね。さわったときの質感が旧型と明らかに違います。より分厚くて丈夫そうな素材に変わっているので、耐久性は上がっているはず」

岩田さんの言うとおり、本体素材もモデルチェンジの大きな変更点のひとつ。旧型は軽量化を追求して薄手の素材を使っていたのですが、新型はより厚手で耐久性の高い素材に変わりました。

「生地がしっかりしていて、中に入れた荷物が動かず、型崩れしにくくなっていると思います。生地に適度なハリがあるので、適当にパッキングしても、バックパック外側のシルエットがきれいに見えるのもいいですよね」

左が旧型、右が新型。旧型はハニカム状のリップストップパターンが印象的な薄手の生地を採用していたが、新型は400デニールの丈夫な素材に変わった

本体素材はリサイクルポリエステルを採用。素材だけでなく、PFCフリーの撥水加工や開発工程の合理化などの環境対策を全面的に採り入れた結果、製造に際しての温室効果ガスの排出量をトータルで27%削減できているという(ジェイド33の場合)

本体素材がしっかりしたものに変更された結果、バックパック重量は旧型と比べて200~300グラムほど重くなっています。軽さをひとつの売りにしていた旧型と比較すると、平均的な重量になってしまったように感じますが、これについて岩田さんは常々思うことがあると言います。

「ネット通販が普及したせいか、重量などの数値や機能の多さなどで道具を選ぶ傾向が強まっているように感じるのですが、そこにとらわれすぎるとよくないなと思うんです」

特に、バックパックや靴、ウエアなどは、数字上の重量よりも身に付けたときの感覚のほうがよほど大事。数字ばかりが注目されて、「自分の体に合っているかどうか」ということがおろそかにされがちなことに危惧を抱いているそうです。

「実際、私は新型の重量増は気にならなかったし、むしろ背負い心地が改善されてより快適に感じました。こういう、文字や数字に表れない部分もしっかり見て道具を選んでほしいですね」

山で役立つ便利機能

山の現場でありがたい便利機能が満載されている多機能性もズール/ジェイドの特徴です。しかし旧型から2つ、省略された機能があります。それはショルダーベルトに付いていたサングラスホルダーと、付属のレインカバー。ここは好みが分かれるところかもしれません。

旧型は機能を盛り込みすぎてややゴテゴテしていた印象もあるので、よりバックパックとしての本質的な機能に絞って整理したということでしょうか。外観のデザインやカラーリングも新型はシンプルで締まったものになっているので、これが新型ズール/ジェイドの方向性なのだと思います。

濡れたレインウエアなどを入れておける大容量のフロントポケット。ストレッチパネルの面積を減らし、入れた物がよりしっかりホールドできるようになった。バックルやストラップも洗練された新しいタイプに変更(左は旧型で、右が新型)

トレッキングポールやピッケルを固定できるホルダー。シンプルながら、さまざまな形状のものをホールドできるように工夫されている

ハイドレーションポケットも旧型から引き続き装備。リザーバーを固定するフックが変更され、より簡単にセットできるようになっている

バックパックは正しく背負ってほしい

そうして無事、テスト山行は終了。岩田さんは新型ジェイドの仕上がりには満足がいったようで、特に、「快適に歩く」ための本質的な機能がことごとく改善されていたことに、好感を持ったそうです。

「やはりバックパックは快適に背負えてなんぼですからね」と言うと、「そういえば…」と言って、岩田さんがフィッティングについて話し始めました。

初心者も多く行き交う谷川岳。なかにはバックパックが体にまったく合っていないまま歩いている人も珍しくないそうで、そんな人たちを見ていてフィッティングの重要性を思い出したと言います。

「バックパックは性能云々の前に背負い方が大切なんです。どんなにいいバックパックでも体にフィットさせずに背負っていては台無しですからね」

自分の体にきちんとフィットさせて背負うか否か。それによって疲労度も快適性も劇的に変わってしまうと岩田さんは言います。

自分の背負い方が正しいのかそうでないのか、一度しっかりチェックすることをすすめます。岩田さんが実例を示してくれたので、鏡を見ながら、自分の背負い方と比べてみましょう!

正しいフィッティング例。ポイントはヒップベルトの位置と、ショルダーベルトが肩周りに均一にフィットしていること。ヒップベルトは腰骨を上から包むような位置がベスト。ヒップベルトの余ったストラップは写真のようにたくし込んでおくとブラブラせず、歩いたときに邪魔にならない

よくある悪い例。ヒップベルトが高すぎてお腹の位置にきてしまっている人が少なくないと岩田さんは言う。これでは腰で荷重を支えられず、肩にばかり負担がかかってしまう。ショルダーベルト最上部のトップスタビライザーをまったく締めていないため、バックパックの重心が後ろに倒れてしまっているところにも注目。チェストストラップを止めていない人も多いが、ここを止めないと体とバックパックの一体感が損なわれ、振られやすくなる

極端な悪い例。ストラップやバックル類をほとんど締めずにダラ~ンと背負ってしまっている。さすがにここまで極端な人は多くないが、「若い人でたまにいますよ」と岩田さん。これで長時間歩き続けるとさぞ疲れることだろう…

グレゴリーの中型バックパック「ズール/ジェイド」・YAMAPユーザーモニター募集

今回の記事で紹介した「ズール/ジェイド」のモニターになっていただけるYAMAPユーザーを「4名」募集します。

モニターに選定された方には「ズール/ジェイド」を、実際に登山で使用し、その使用感や感想をYAMAPの活動日記でレポートしてください。また、レポートいただいた後で、ユーザーモニターのみなさんによる「ズール/ジェイド」のオンライン座談会を実施し、レポートと合わせてYAMAP MAGAZINEの記事にする予定です。なお、お送りした「ズール/ジェイド」は、そのままプレゼントさせていただきますので、奮ってご応募ください。募集の詳細は以下のリンクから。

※募集期間は3/14(火)で終了しました。

 

モデル・レビュー:岩田京子
原稿:森山憲一
写真:西條聡
協力:グレゴリー(サムソナイト・ジャパン)

森山 憲一

山岳ライター/編集者

森山 憲一

山岳ライター/編集者

1967年神奈川県横浜市生まれ。早稲田大学教育学部(地理歴史専修)卒。大学時代に探検部に在籍し、在学中4回計10カ月アフリカに通う。大学卒業後、山と溪谷社に入社。2年間スキー・スノーボードビデオの制作に携わった後、1996年から雑誌編集部へ。「山と渓谷」編集部、「ROCK&SNOW」編集部を経て、2008年に枻出版社へ移籍。雑誌『PEAKS』の創刊に携わる。2013年からフリーランスとなり、登山と ...(続きを読む

1967年神奈川県横浜市生まれ。早稲田大学教育学部(地理歴史専修)卒。大学時代に探検部に在籍し、在学中4回計10カ月アフリカに通う。大学卒業後、山と溪谷社に入社。2年間スキー・スノーボードビデオの制作に携わった後、1996年から雑誌編集部へ。「山と渓谷」編集部、「ROCK&SNOW」編集部を経て、2008年に枻出版社へ移籍。雑誌『PEAKS』の創刊に携わる。2013年からフリーランスとなり、登山とクライミングをメインテーマに様々なアウトドア系雑誌などに寄稿し、写真撮影も手がける。ブログ「森山編集所」(moriyamakenichi.com)には根強い読者がいる。