パタゴニアの定番レインウェアのひとつ〈トレントシェル3L・ジャケット〉。今シーズンはメインファブリックが3L(3層構造)になるなど、アップデートを加えて新たに登場。パタゴニア独自の防水・透湿基準として定評のある〈H2Noパフォーマンス・スタンダード〉を採用し、登山はもちろん、あらゆるアウトドアアクティビティで活躍する一着です。
そんな〈トレントシェル3L・ジャケット〉を、YAMAP MAGAZINEの好評連載「山道具の教科書」シリーズでおなじみの、登山ガイドの岩田京子さんが着用レポート! スペックや機能の解説に加え、ガイドならではの視点で「レインウェアを選ぶ上でのポイント」をたっぷりとお届けします。
2020.03.10
YAMAP MAGAZINE 編集部
登山ガイドの岩田京子さんは、エベレストなど、8,000m峰4座の登頂経験をもっています。その岩田さんは、どのようにレインウェアを考えているのでしょうか。アウトドアショップに行けばいろんなレインウェアが並びます。そんなとき、どういった点に注意すればいいのかをお聞きするとともに、〈トレントシェル3L・ジャケット〉についてもレビューしていただきました。
岩田:まず、信頼できる素材を使用しているかどうか。ガイドをしていると、ホームセンターで買ったカッパのようなもの、サイズもダボっとしたものをとりあえず着てくるお客さんもいます。でも、それが山で安全かといえばNO。いずれしっかりしたものを買い直すことになるので、最初から信頼できるものを選んでほしいと思います。
そういう意味では、この〈トレントシェル3L・ジャケット〉はH2Noという防水・透湿基準をクリアしていますし、まず間違いなく安心して着用できます。防水性はイメージしやすいと思いますが、透湿性って意外とわかりにくいもの。汗が抜けて快適なことを実感するのって、難しいですよね。でも、以前にビニールのカッパを着てみたことがあるのですが、裏側に水滴がびっしりつくくらい汗が溜まっていたんです。それで透湿性って大事なんだなと、改めて気づかされました。
登山に必須のレインウェアは、体や防寒着、インナーが雨から濡れるのを守ってくれる防水のジャケットのこと。登山用のレインウェアは雨を防ぐ「防水性」に加え、ウェア内のムレを発散してくれる「透湿性」を備えた生地を使用しているのが一般的。山を登っているとカロリーを消費することにより発熱が起き、発汗を伴うことがあります。その熱とムレがウェア内に溜まらないように「通気」してくれる機能を備えた特殊素材を採用しているんです。
〈トレントシェル3L・ジャケット〉は、H2Noという防水・透湿素材を採用。実は前シーズンまでは2.5層の生地だったのですが、リニューアルに伴い3層にアップグレード。防水・透湿性のあるメンブレンを、撥水のあるシェル素材を表生地と、軽量で着心地のよいニット生地で挟んだタイプになりました。しっかりと雨をブロックしながらも、快適に行動できる通気性もあり、優れた着心地と耐久性を実現しています。
アルパインクライミングやスノースポーツをはじめ、様々なアクティビティに対応するレインウェアを展開するパタゴニアの製品のなかでも、登山やハイキングにぴったりのアイテムが、この〈トレントシェル3L・ジャケット〉なんです。
〈トレントシェル3L・ジャケット〉に採用されているH2Noという素材。これはパタゴニア独自の素材名ですが、「H2Noパフォーマンス・スタンダード」という防水・透湿基準でもあります。完全防水性と防風性、透湿性はもちろん、DWRという耐久性撥水加工を施すことにより雨粒をしっかりとはじくアウトドアでの性能に加え、レインウェアであれば、雨をしっかりブロックできる機能を保持していることが、基準クリアの条件になります。
ちなみに、この基準をクリアするためには、「24 キラーウォッシュ」という過酷な洗浄テストが行われています。レインウェアを何度も繰り返し洗浄することで、「使い倒した」状態にし、その上で防水や透湿のテストを行っているのです。
新品の状態での防水・透湿性能ではなく、実際に使いつづけた状態を想定してのテストに加え、さらにパタゴニアのアンバサダーやテスターがフィールドで使用し、実用性をチェック。ラボでの数値だけではなく、本当に山やフィールドで使えるレインウェアなのかどうか、厳しくテストされることで、プロダクトの信頼性を高めています。
では、つづいて〈トレントシェル3L・ジャケット〉の機能やデザインについて、岩田さんのオススメポイントを交えて解説していきましょう。岩田さんが注目したのが、フードの形状。実際に山で雨が降った時に、ウェア内部の防水の要となるのが、このフードなのだそう。
岩田:生地に防水性があっても、しっかりと雨を防げなければ意味がありません。フードまわりのコードを調整することで隙間をなくし、雨の進入を防ぎます。〈トレントシェル3L・ジャケット〉はフードのツバの形状はもちろん、2箇所に設けられたコードのおかげで顔にぴったり調整できます。
雨が降っているときはもちろんなのですが、風があるときはフードをすることが多いんです。首は寒くなりやすい箇所なので、フードに守ってもらいます。お客さんにも、寒かったらフードをかぶるように勧めています。雨が降るからかぶるものではないんですよね。
フードまわりのコードが充実しているので、ぴったり調整できるのは嬉しいです。以前、顔まわりをしっかり締めていなくて、ウェア内をびちょびちょに濡らしてしまったことがあるんです。レインを着ているのになんでだろう?って思ったら、コードを締めてなかったんです。しっかりフィットさせないとダメ。ぴったり締められれば、台風で向かい風になっても大丈夫です(笑)。
普段はキャップタイプの帽子を着用することもあるという岩田さん。フードのツバがしっかりしているので顔の前もこれならOK!とお気に入り。さらにツバの下に設けられたコードを引くと、おでこの部分が隙間なく密着するように調整可能。こういった細部へのこだわりがレインウェアに大切なポイントなのだとか。
ツバ裏と顔まわりの調整はフード下のコードで行います。右手で抑えている箇所にアジャスターのパーツが入っており、締めたり緩めたりという調整が簡単に行えます。
ウェアの生地自体に透湿性が備わっていますが、急坂を登ったり、激しく動いたりしたときには発汗量も増えるため透湿が追いつかなくなることも。そんなときには脇下のベンチレーションを開けて強制的に通気を行います。脇下は血流も多く、とくに暑さを感じやすい箇所。このベンチレーションがあれば着用したままジッパーを開けてクールダウンできるというわけ。
岩田:暑くなったとき、すぐにリュックサックを下ろして着替えられればいいのですが、必ずしもそうもいかないときってありますよね。サッと開けて通気できるのは嬉しいです。
ウェアの裾部分にも着用感を調整できるコードを配置。ぶかぶかしていると雨が防げないので、ここの調整も防水には大切なポイント。両サイドに調整箇所があり、片手で引っ張るだけで締めることが可能。
岩田:雨だけでなく、冷気をシャットアウトする役目もあります。寒い時、風が強いときに活躍してくれますね。
フロントのジッパーはフラップでガード。風が強いときにジッパーから侵入してこないような機能です。ポケットは両サイドに配置。こちらもフラップつきでポケット内をしっかり防水してくれます。
岩田:止水ジッパーを採用したレインウェアもありますが、雨を防いでくれるフラップは染み込みも少なく安心。フラップタイプは見た目がすっきりすることと、岩などでスレたときにジッパーにダメージを受けないのがメリットです。そして、やっぱりポケットはあった方が便利! ポケットがないものもありますが、手を温めたりもできますし、ちょっとした小物を入れるのにも活躍します。
着用しないときは、左側のポケットにくるっと収納してパッカブルに。コンパクトになり、カラビナ用のループもついているので携行に便利。
岩田:パッカブルのジャケットはいくつか持っているのですが、収納しやすいかどうか気になります。ポケットが小さくて詰めるのが大変になると使わなくなってしまうんですよね。でも〈トレントシェル3L・ジャケット〉は余裕もあって、簡単にパッカブルにできました。
岩田:レインウェアというと、雨具としての機能が注目されることが多いと思います。でも、雨用としてだけではなく、風があるときや寒いとき、万が一のときに一番味方になってくれるものなんです。無事に下山できればいいんですけど、万が一、迷子になったり、怪我をしてしまって、その場にとどまらなければいけない、一晩そこで過ごさなければいけないというようなときに、一番「あってよかった」と思えるアイテムなんです。
〈トレントシェル3L・ジャケット〉はしっかりした生地の厚みがあります。最近のモデルは軽量化を追求したものが多くて、薄いモデルが多くありますが、その分デメリットもあります。薄いと風のブロック性能が落ちてしまいます。雨は避けてくれるけど、寒さはブロックしてくれない。雨が降るときって、だいたい風も吹いているはずなんです。
だから、〈トレントシェル3L・ジャケット〉のような適度な厚みがあるものは安心。風が吹いてもうまく受け流してくれるし、寒さがダイレクトに伝わってきません。山頂に着いたときに、薄いジャケットだとぴったり密着してしまうのって、なんとなく想像できると思います。そうなるとやっぱり寒い。着ていて安心感のあるジャケットを選んでほしいと思います。
岩田:〈トレントシェル3L・ジャケット〉は、本当にレインウェアのスタンダードといえる一着です。何かに特化しているわけではないけれど、基本的な機能を備えているので様々なアクティビティに対応できます。とくに登山やハイキングでは、こういうモデルが一番使いやすいんです。ちょっとハードシェルよりのレインウェアなんですよね。少しゴワッとするかもしれませんが、その分耐久性もあるし、枝や岩からも守ってくれます。
また、機能をどんどんつけていくモデルも多く見かけますが、実際に使う機能はそんなにたくさんありません。しっかり防水・透湿してくれて、雨天で安心して使えること。はじめてレインウェアを買うという方にもちょうどいいと思います。思ったように使えるし、迷わず使えると思います。〈トレントシェル3L・ジャケット〉のようなスタンダードなモデルを一着は持っていて損はありません。
岩田:レインウェアって、晴れていても着る頻度が高いんですよね。例えば、夏でも汗をかきすぎてしまうと、風で冷えてしまいます。そんなときにレインウェアを着るんです。夏だと防寒着を着ると暑くなってしまいますが、レインウェアなら風をブロックしてくれます。ベンチレーションやフロントのジッパーを調整したりすれば、寒くならずに汗をゆっくりと乾かすことができます。
また、雨が降っていなくても、前の日の雨が草についていたり、朝露がすごいときにも役立ちます。やはりとくに夏、気温差が大きいシーズンですね。そういうときはレインウェアを着ていてよかったと思います。
レインウェアの一番の目的である「濡れないこと」も大切。濡れてしまい体が冷えると、動けなくなってしまい、最悪の場合は命の危険があります。冷えてしまうと、指先などの末端が動かしにくくなりますし、ご飯も食べられなくなることもありあます。私は登山をしているときは、濡れるのを怖がっていますね。知らない人、体験したことのない人にとってはなかなかわかりにくいかもしれませんが、本当に危険なんです。だからこそ、濡れてしまう前に対策する必要があります。山では何にも危険なことがないのが一番です。
そんなふうに、レインウェアは身を守ってくれる大切なアイテム。でも忘れてほしくないのは、レインウェアがあれば雨の日でも楽しく登山ができるということ。最近は雨の予報が出るとツアーをキャンセルする人もいるのですが、本当にもったいない(笑)。ちゃんと着用できれば服が濡れることもありませんし、雨の日ならではの山の自然を楽しむことができます。
岩田:以前、アフリカ大陸の最高峰・キリマンジャロにツアーで登ったときの話です。現地に行ってびっくりしたのが、タンザニアが国としてビニール袋を禁止して、使用を厳しく取り締まっていたことなんです。日本からの持ち込みはNGで、持っていることも処罰されるそうです。知らないお客さんがいて、現地のガイドさんがこっそりしまって帰国のときに返してくれたということがありました。自然が観光資源であるタンザニアの環境への対策に驚きました。
なので、普段使うものも、山で使うものも、山で活動して楽しんでいる身としては考えていきたいと思っています。〈トレントシェル3L・ジャケット〉はリサイクルナイロン100%を使用し、フェアトレード・サーティファイドによる縫製を採用するなど、環境や労働への配慮もしっかりしています。山が好きだからこそ、環境のことも考えた製品を使うという選択も忘れたくないですね。
登山ガイド・岩田京子さんに、パタゴニア〈トレントシェル3L・ジャケット〉のレビュー&レコメンド、そして登山でのレインウェアのポイントについてご紹介いただきました。これからのシーズン、山に行こうという方も多いと思います。残雪期から春山、夏山に向けて、レインウェアを考えているはず。
優れた防水性と透湿性を実現した3層の新素材を採用、かつ登山で使いやすい機能とデザインを備えた〈トレントシェル3L・ジャケット〉は安心してオススメできる一着。雨の日はもちろん、風も寒さからも守ってくれるレインウェアとして、手にとってみていただければと思います。
モデル・レビュー:岩田京子
取材・カメラ:小林昂祐
協力:パタゴニア