自分らしく、自由に、山はもっと楽しめる|野草愛好家・KUSACOさんに聞く「PLAY」とは

1920年代にフランスで誕生したアウトドアブランド、ミレー(MILLET)。そのミレーが、アウトドアの地平を拡げる「PLAY」というキャンペーンをスタートさせたそうです。いったい「PLAY」とは? そしてそれを支えるティフォン 50000 ウォームストレッチジャケットとは? 北海道で取材してきました。

2022.10.14

林 拓郎

アウトドアライター

INDEX

ミレーが「PLAY」のひとことに込めた「山を楽しむ自由さ」とは?

1921年に創業し、長い歴史を刻んできたミレー。1950年には、フランス隊による人類初の8,000m峰となるヒマラヤ山脈のアンナプルナ遠征でもミレーのバックパックが使われるなど、ミレーの製品は多くの登山家たちに愛用されながら成長を続けてきた。さまざまなアイデアを盛り込み、徹底して現場で使い込まれながら進化を遂げている。言ってみれば山はミレーの原点。

登山を愛する人々の山の楽しみ方は多岐に渡る。ハイキング、ラン、クライミングなどスタイルにとらわれず、その人なりの形で山を楽しむ自由さを、ミレーは「PLAY」のひとことに込めた。

山での楽しみはエキサイティングなアクティビティの中だけにあるものではない。雄大な自然の中で得られる「知的な幸福感」もまたアウトドアの大きな喜びのひとつだ。ミレーは「アウトドアウエアの機能性はそうした知的な活動を支えるためにも存在する」、と定義した。

フィールドワークの中で、PLAYの達人はどんなウエアを選んでいるのか。今回は四季を通じて植物と向きあう、野草愛好家のKUSACO(くさこ)さんにお話をうかがった。

野草愛好家 KUSACO/くさこ

野草愛好家・KUSACOが出会った運命の図鑑

高山植物が好きな人は多い。初夏の花の時期に山をめぐるという人も珍しくはない。けれど花だけではなく、早春の米粒のように小さなつぼみに喜び、秋の枯れたような茎をしゃがみこんで愛で、葉が散った冬の樹が育む新たな芽に喜ぶ。一年を通じてこれほどあらゆる植物に、これほど広いフィールドで、これほどノンジャンルに、これほど真正面から向き合う人も少ないだろう。

「私は花が、とか樹が、じゃなくて、植物そのものが好きなんです。山に咲く花も、湿地の草も、道端の雑草も、全部が好きなんですよ」

KUSACOさんは北海道在住の野草愛好家だ。しかし、ただ植物を眺めるだけではない。
「植物についての知識を身に着けたいんです。分類をしていくうえでも、この植物とこの植物は明確に何が違うのか、といったことが分かるようになりたいんですよね」

だから自分のことをこう表現する。
「私たぶん、植物オタクなんです」

その熱意は並大抵のものではない。平日は会社に勤めながら、ここ数年は春から秋にかけての休日ほぼすべてを植物観察にあてているという。
「金曜日に仕事が終わったらそのまま出かけて、土日は丸々植物を見てる生活です。やっぱり植物観察が楽しいのは夏なんですけど、北海道で夏の草花を観察できるのは5月から10月くらいまでしかありません。しかも北海道は広いから移動に時間がかかるし。短い期間に効率よく動かないといけないんで、どうしてもフル稼働になっちゃうんです」

プライベートをすべて植物観察につぎ込む。これほどの情熱に火を付けたのは、一冊の植物図鑑との出会い。

「植物写真家の梅沢 俊(うめざわしゅん)さんの『北海道の花(絶版。現在は「新北海道の花」として新版刊行)』っていう本が素晴らしいんです。要点が分かりやすくまとめてあるし、写真がきれいに撮ってあるのはもちろん、葉っぱの重要な部分とか、わずかな産毛とか、その植物ならではの特徴や見たいところが全部おさえてあるんです。植物が好きなのでいろんな図鑑を見てきましたけど、これは完璧だなぁって感動しました」

もちろん、KUSACOさん自体に素地は整っていたのだろう。小さな頃から生き物が好き。大学では教授に “キミはどの植物がどこにあるのか、きちんと頭に入ってるんだね。そういうものを見つける目は誰もが持てるものではない。きっとフィールドワークの才能があるぞ” と言われたことがあったそうだ。

「私の中ではとても自然なことなんです。あの植物があそこにあるな、っていうのはなんとなく把握できていたし、複雑な植物の名前も覚えるのに苦労したことはほとんどありませんでした」

こうした植物に対するセンスを備えた人が、きちんとした知識を求めていく過程で、完璧な図鑑に巡り合ったのだ。
「まさに運命の出会いです。これだ! と思えて、嬉しかったですね」

「だからちゃんと見た、って思えたものにはマーカーで色を塗ってるんです。いつかこの本のページが全部マーカーで埋まったら楽しいだろうなぁって思って」

KUSACOさんは明るく笑いながら、使い込まれた『北海道の花』をパラパラとめくる。
「植物のことを調べるたびに、本当に素晴らしい図鑑だなぁ、私にもこれくらい深い知識が身についたらなぁって思ったんです。でもそれって、図鑑を作れるくらいの知識量ってことなんですよね」

だから、と彼女は続ける。
「将来的には、自分で図鑑を出すことを目標にしたいなぁって思ってます。すごく時間がかかるだろうけど、きちんと観察して、メモを残して。写真も図鑑に載せられるようなクオリティで、被写体の特徴をきちんと理解しながら撮っておきたい。どうなるかわからないけど、いつかある日、もっとこうしておけば良かったって思わないで済むように、ていねいに記録しておこうと思っています」

空振りがない、だから出かけ続けてしまう

こうして彼女は夏の間、カメラとメモ帳を片手に、見るべき植物をたずねて北海道じゅうをとびまわっている。

しかし、見たい花が常に見られるわけではない。相手は自然、時には天気が悪い日もあるし、目当ての花が見つからないこともある。見たい花を求めて出かけることは、同時に何も収穫がない空振りのリスクも背負うことになるのではないだろうか? そう聞いてみると彼女は当たり前のように、「あ、空振りはないんですよ」と答えるのだ。

「目当ての植物を見に行こうって出かけて、たとえ見つけられなくても、他の植物の “こんな姿があったんだ! ” っていう発見が必ずありますから。登山で頂上を目指す人は、天気が悪いと見通しがきかなくてガッカリ、っていうのがあるけど、植物はそこにいけばあるので、私は雨降りだったとしてもOKなんです。植物は日々姿が変わるので、思い通りのものが見れないこともあります。けど、枯れた花なら果実の写真が撮れたとか、芽生えの姿は初めて撮った、とかの収穫が必ずあります。その全部が嬉しいから、いわゆる空振りなんてのはまったくないんです」

天気は関係ない。タイミングがずれても大丈夫。出かけて、そこに行きさえすれば必ず新しいことに出会ってしまう。

「だから、とにかく行ってみることが大事だと思ってます。あと、私はどんなに見つけにくい植物だとしても、人に教えてもらうんじゃなくて自分で探し当てたいんです。お天気や地形や植生なんかはもちろん、この植物は塩基性の岩場に特有だとなると、北海道全域の地質図を見て、この地域にあるんじゃないかって目星をつけたり。そうして自分で探すからこそ、巡り会えたときの喜びは大きいし、出会いまでのプロセスが全部知識につながっていくんです。そうやって現地に行って、納得するまでフィールドを歩き続ける。その時間はものすごく楽しくて充実してますね」

育まれた「冬のアンテナ」

けれど冬はそうはいかない。夏のように、情熱的に植物を訪ねることはできない。
「そうなんです。私は北海道の生まれなんですけど、寒いのきらいなんですよ。なのでこれまで冬は、夏の間に撮りためた写真を整理したり、じっくり調べ物をする時間にあてていたんです」

KUSACOさんがフィールドで撮影した、ミヤマガマズミの冬芽と葉痕。「先の赤みがかったトンガリ部分が冬芽、すぐ下に逆三角形で枝を折ったような跡がついている部分が葉痕です。見つけたとき、冬芽が孫悟空みたいだなぁって思って撮影したんですよ。ガマズミとミヤマガマズミは毛の有無で見分けるんですが、毛がある方がミヤマ。だけどこの冬芽は他のに比べて毛が少ないんです。植物は個体差も大きいので、もしかしたらミヤマではないガマズミかなとも思っていて。夏になってしっかり葉が出てきたら、もう一回確かめに行きたいなぁって思ってます」

 

ところがある日、眺めていた植物図鑑に小さな発見があった。
「冬の樹木は何を見て同定したらいいんだろうって思ってたけど、春に備えて作ってる冬芽(ふゆめ。とうがとも読む)が手がかりになる。冬芽は樹種によって形が違うって」

「あとは葉っぱが落ちた後に樹皮に残る葉痕(ようこん)なんかを通して、木の種類や成長の様子がわかるって。そういう話は聞い
たことあったけど、実際に見たことなかったなぁって思って近所の里山に行ってみたんです」

こちらもKUSACOさんが撮影。「枝に、笑ってる人の顔みたいな部分がありますよね。これがオニグルミの葉痕です。葉っぱがついていたんですが、冬になって落ちてしまった痕跡なんですよ。オニグルミの葉痕は通っていた管の位置が絶妙で、いい感じに目と口に見えるんです。それで、ヒツジだったりアルパカだったり、小人だったり、いろいろなものに例えられていて。私もなるべく興味を持ってもらえるように、かわいいものを見つけて撮りためるようにしています」

 

驚きだった。冬は雪に覆われて単調な景色が広がる無の季節だと思っていた。寒くて外に出ることがおっくうな季節と思っていた。けれど。

「実際に森の中に来てみると、毛に覆われた冬芽の中に新芽ができてるんですよね。樹木はもう春の準備に取り掛かっていたんです。それまでは冬は何もない、どこに行っても同じ景色だと思ってました。だけど見回してみたら、冬の樹木にも面白いところがたくさんあるなぁって気がついたんです。ある日急に冬の植物にフォーカスできるようになったような、不思議な感じでした」

それこそ、積み重ねの成果なのだろう。たくさんの植物を見ているうちに、きっとKUSACOさんの中にさまざまなものが蓄えられて、いつの間にか冬の植物の楽しさを受信するアンテナができあがったに違いない。ある日、何もない真っ白で退屈だった風景が色づいて見えた。冬の景色とひとくくりにしていた森は、ひとつひとつ名前のある樹の集まりだった。夏と同じだ。ここにも、植物たちの営みが満ち満ちていた。

「私は高山植物がいいとか、かわいいお花がいいとかっていうのはないんです。植物だったらそれで嬉しい。山も、見たい植物があるから登るだけで、登山をしたいわけじゃないんです。海の近くの植物を見たい時はいちにちじゅう海岸を歩いてるし、低山の湿地にずっとしゃがんでることもあります。それが夏だけだったのが、最近は冬もなんとなく楽しめるようになってきたなぁって思ってます」

もちろん、一番好きなのは夏だ。
「夏は花も咲くし、果実もなるし、芽生えもあるし。植物自体が濃密で、学べる量は圧倒的に多いですから」

それはまさに、仕込んだ知識のぶつけ甲斐がある、不足のない相手なのだ。対して冬の楽しさは穏やかだ。
「かわいい冬芽を探して、いい形の葉痕を探して。雪の下にも植物はいるし。何もない季節じゃなかったな。みんな、ちゃんとそこにいたな、って思ってます」

こうして彼女は一年中歩いている。ある日は山を、ある日は海岸の丸石の上を、そしてある日は雪の低山を。どこにいても、何を見ても楽しい。それを支えているのは豊富な知識だ。そして、推進力になっているのはもっと知りたいという知の欲求だ。

「調べれば調べただけ、また新しく知りたいことが出てきて、見たい植物が増えてしまう。これはずっと終わらないんだろうな、我ながら長続きしそうな、いい趣味を持ったなって思ってます」

愛用はミレー「ティフォン 50000 ウォームストレッチジャケット」

そんなKUSACOさんが雪の季節に愛用しているのは「ティフォン 50000 ウォームストレッチジャケット」。

「何よりムレないんですよ。冬って雪の中を歩いたりするので、いつもより体の動きが大きくなって汗に繋がることが多いんです。だからといって薄着でいると、寒くて一日耐えられない。そういうときに適度に暖かくて、多少動いてもムレず、雪がひどくなってきてもへこたれない防水性や撥水性を持ってるものがいい。そう考えるとこの、ティフォン 50000 ウォームストレッチジャケットなんです」

KUSACOさんの植物観察は歩くことが基本。冬ならマイナス10度を下回る気温の中、降り積もった雪をかき分けながら森の中を散策する。

「夏も冬もなんですが、私はいったん外に出ると、長い時間歩いていることが多いんです。そうなるとやっぱり、フィールドでの急な天候の変化にも対応できるティフォンを選んじゃいますね」

いちど植物観察が始まると、納得いくまでそこにいたい。これでじゅうぶんと思えるまで撮影をしたい。寒さや汗冷えといったことで、自分の行動や集中力を途切れさせたくない。だからこそ快適さが重要なのだ。

「ムレなくて、防水性がある。その安心感が嬉しいんです」

KUSACOさんによると、この冬用のティフォン最大の魅力は柔らかさなのだそうだ。

「冬はどうしても重ね着をすることになりますけど、アウターの生地がよくある固い感じのものだと肩が凝っちゃうんですよ。この、冬のティフォンは生地感がソフトで、アウターっていうよりも着心地はミッドレイヤーみたいなんです。ホント、このまま外に出ても大丈夫なの?っていうくらいの柔らかさ。だけど撥水性や防水性はさすがティフォンで、多少の雨でもまったく染みてくることはないですね」

独特の柔らかさは、他にも数多くのメリットを生み出している。

「ひとつは動きやすいことです。これは生地がストレッチすることとのあわせ技だとおもうんですけど、何をしててもストレスがない。この、動きやすいっていうのは冬のウエアではとても大事なことだと思うんです。それだけでも快適さや疲労感がワンランク違うくらい。観察中は植物の写真を撮ったりメモをしたり、何かと細かい動きが多いのに、腕の動きもスムーズだし、フードをかぶっていても、首を動かしたときに変なつっぱり感がないのは嬉しいです。

もうひとつは衣擦れの音が小さいんですよ。私は相手にしているのが植物なので、多少音を立てても気にする必要はないんです。だけど雪が積もった森の中を歩いてる時、ガサガサよけいな音を聞かないですむのはとても心地いいんです」

加えて、その細やかなデザイン思想にも感心している。

「びっくりしたんですけどフードのアジャスト機能が素晴らしくて、長時間フードをかぶってても全然視界のじゃまにならないんです。あと、ポケットがバックパックのウエストベルトをしてても使える位置にあるとか、裏地のトリコットの肌触りがうっとりするくらい気持ちよかったりとか、細かいところまでよくできてるなぁって感心してます」

厳しい条件の中で、自分のペースを守りながら、落ち着いて記録を重ねる。その中で、出逢いと発見の喜びにひたる。ティフォンは、こうした穏やかで知的な活動をも支えているのだ。

■ティフォン 50000 ウォームストレッチジャケット

裏地の起毛トリコット生地によってライトな保温性を発揮する低温向けの防水透湿ジャケット。

その名に与えられた「50000」とは透湿性を表した数値。ミレーが独自に開発した極薄メンブレン『DRYEDGE™ TYPHON 50000』は、50,000g/㎡/24hという最高度の透湿性を発揮。20000mmの耐水圧を備えることによって、雪はもちろんみぞれの中ででも快適な活動を約束する。

さらにストレッチ性を与えることで、激しい動きや大きなムーブにも対応。裏地には起毛トリコット生地を使用することで心地よい肌触りを備えた。

柔らかい着心地で冬のアウトドアはもちろん、街なかでも優れた使い勝手を誇る。


ソフトな風合いはソフトシェルと言われても信じてしまうほど。それでいながらハードシェルとしてもじゅうぶんに機能する防水透湿性を備えた。さらに生地は適度なストレッチ感を確保。裏地を起毛にすることで、デッドエアーを効率よく確保しながら、ストレスのない軽やかな着心地を実現している。


裏地には起毛トリコット生地を採用。熱気をためすぎないコントロールされた保温性を発揮するとともに、肌当たりの良さも叶える。


フードはストレスがないことで好評。ヘルメットに対応する容積を持ちながら、頭部へのフィットと、ツバ部分の高さとを独立して調整可能。悪天候の日にも快適な視界を確保し、保温性をサポートしてくれる。


生地が柔らかいことから収納性も抜群。フードは収納袋としても機能する。

取材・原稿:林拓郎
撮影:中田寛也
協力:ミレー・マウンテン・グループ・ジャパン

林 拓郎

アウトドアライター

林 拓郎

アウトドアライター

スノーボード、スキー、アウトドアの雑誌を中心に活動するフリーライター&フォトグラファー。滑ることが好きすぎて、2014年には北海道に移住。旭岳の麓で爽やかな夏と深いパウダーの冬を堪能しながら、2018年にはアウトドア用品店「Transit 東川」をオープン。ライターとしての知見をいかすと共に、文字だけでは伝えきれない細かな情報の提供にも励む。