もっと軽く、早く、暖かくを追求した、アクシーズクインのダウンジャケット

日本のアウトドアブランド・アクシーズクインからこの冬、一枚のダウンジャケットが登場しました。一見シンプルでベーシックなこのダウンには、日本の山を知り尽くしたブランドだからこその工夫が盛りだくさん。「ちょうどよい」がいっぱい詰まった「NMC Down Jacket」とは、いったいどんな商品なのでしょうか?

2022.10.26

小川 郁代

編集・ライター

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アクシーズクインから登場したダウンジャケット「NMC Down Jacket

毎年のように新しい素材や機能を使った商品が登場し、種類もアイテムも増えるアウトドアアパレルの売り場。選択肢が広がるのはうれしいことですが、あまりの種類の多さに、何を選べばいいのかと頭を悩ませることも少なくありません。

多くの商品のなかから理想的な1着を選ぶために大切なのは、その商品が、いつどこで、どんな使い方をするために作られたのかを見極めること。どれほどすぐれた商品も、目的がほんの少しずれるだけで、満足度が大きく変わってしまうからです。

アクシーズクインが2022年秋冬シーズンに向けて発売した「NMC Down Jacket(NMCダウンジャケット)」は、シンプルでベーシックなダウンフーディ。軽くて暖かい、冬の防寒着の「ザ・定番」といった印象の1着。

見るからに暖かそうなボリューム感には、定番ならではの安心感がありますが、スタイリッシュなデザインがあふれる今どきのアウトドアウェアのなかで、見た目のインパクトはさほど大きいとはいえないでしょう。ダウンの暖かさは誰もが知るところですが、化繊の中綿素材が進化した今、ダウン以外の選択肢もいろいろとあるはずです。

それなのに、アクシーズクインが、なぜ今あえて「ザ・定番」にこだわるのか。商品の特徴を深掘りしていくと、その理由が明確に見えてきました。

日本の山を知り尽くした「アクシーズクイン」だからできること

商品を紹介する前に、ブランドについて少し触れておきましょう。

アクシーズクインは、1988年に誕生した日本のアウトドアブランド。グローブや帽子など、機能的で小技の効いた小物類にはとくに定評があり、豊富な商品構成で、アウトドア用品の売り場には欠かせない存在となっています。

ブランドのコンセプトは、決して過剰ではなく不足でもない、日本の山に「ちょうどいい」ものをつくること。夏は高温多湿、冬は厳しく積雪も多い日本の山岳環境で、本当に使いやすいものを作ることができるのは、日本を知る日本のブランドだという信念のもと、使う人に喜びを与えるものづくりを続けています。

アクシーズクインのアパレルといえば、「凌(しのぎ)」シリーズを思い浮かべる人が多いかもしれません。伝統的な日本の衣類や道具のエッセンスを取り入れた個性的なアイテムは、森林限界以下の日本の山を、雨や風、寒さを凌げるだけのミニマムな衣類で歩くという、独自のコンセプトのもと作られたもの。高い機能を追求する他のブランドとは一線を画すスタイルが、マニアックなファンからの絶大な人気を集めています。

ただ、「凌」は個性が強いだけに、使いこなすためには充分な知識や経験が求められます。初心者が使うには、少しハードルが高いのも確か。そこで、初心者から経験者までがさまざまなシーンで使えるものをラインナップしたのが「アクシーズクイン」ブランド。今シーズンからはアパレルの充実度を増して、機能的で使いやすい、日本目線の商品を展開しています。

日本のハイキングシーンにふさわしい防寒着の条件とは?


冬の注目アイテムとして登場した「NMCダウンジャケット」が活躍するのは、登山やハイキングの休憩時や、テントや山小屋での宿泊時などの、寒い環境で運動量が落ちる場面。冷たい空気から体を守り、冷えた体をすばやく暖めて、体温を逃がさず暖かい状態を保つための保温着として、実力を発揮します。

同じ保温着でも、使う場面によって必要な機能は同じではありません。

たとえば、寒い環境での運動量の多いアクティビティに使うなら、大量に汗をかくことを考えて、水濡れに弱いダウンよりも、乾きやすく濡れても保温性が低下しない、化繊インサレーションが有利。

真冬の高所登山やアルパインクライミングなど、とくに寒さが厳しい環境にはダウンの保温性が有効ですが、岩や氷に囲まれた場所で使うための、耐久性やテクニカルな仕様を揃えると、いくら軽量なダウンを使っても、全体の重量がかさみ、収納性も悪くなるのは避けられません。

しかし、もう少し穏やかな冬山登山やハイキングで使うなら、快適なのは暖かくて着心地のいい保温着。動くときには脱いでしまい、止まっているときに荷物から取り出すという使い方を考えると、軽量でコンパクトに収納できることも重視しなくてはいけません。

そんな、日本の山にちょうどいい1着としての条件を満たしたのが、ダウンジャケット。あえて今、新商品としてシンプルなダウンジャケットを作るなら、最高を更新するものを作ろうと、素材選びには徹底的にこだわりました。

保温力の要はダウンのクオリティ

中綿には、保温力、復元力に優れるグースダウンのなかでも、とくに品質が高いとされるホワイトグースダウンを使用。アウトドアウェアのなかでもハイクラスに分類される、800FPのものを、たっぷり180g封入しました。水濡れに弱いというダウンの弱点をカバーするために、羽毛自体に撥水加工を施しています。

ダウンの機能は、「FP(フィルパワー)」という、かさ高さや膨張性、復元力を示す単位で表わされます。FPの高いものほどかさが高く、中に多くの空気をため込むことができるため、断熱効果が高まって保温力に優れる、良質なダウンということができます。

ただ、実際の保温力は、FPの数値だけでなく、ダウンの「量」にも左右されます。ざっくりというなら、高いFPのダウンを少し使うよりも、FP値は多少低くても、多くのダウンを使う方が、保温力が高いということ。薄手より厚手のものが温かいという、シンプルな法則が成り立ちます。

もうひとつ、ダウンの保温性にとって欠かせない要素が、ダウンの種類。アヒルの羽毛(ダックダウン)を使っているものは、ガチョウの羽(グースダウン)に比べて保温力が劣ります。また、復元力を増すためにフェザーを追加することもありますが、フェザーの比率は少ない方が保温力は向上します。

ひと目でわかるかさ高さ、大量の空気を含んだパフパフとした手触り。力を吸い取るように簡単に潰せるのに、手を離した瞬間に元の形を取り戻す復元力。これらはすべて、高品質ダウンを惜しげもなく使用したことの表れ。

撥水加工がされているので、雪や雨、テントの結露などの水分に触れることがあっても、一気に保温力が低下する心配はありません。休憩地点に着いてすぐダウンを着る時も、汗ばんだ状態を気にせずにすむので、ストレスなく使うことができるでしょう。

より暖かく、よりスピーディーにを実現するチタンの力

ダウンを封入する表地は、薄くて軽いミニリップストップナイロン生地。表目にうっすらと見える、グリッド状に織り込まれたナイロン糸が、引き裂きや摩擦に対する高い耐久性を発揮して、中のダウンをしっかりと守ります。

このジャケットの最大の特徴が隠されているのが、内側の生地。表地と同じリップストップナイロン素材ですが、表面すべてにNMC(ナノメタルコーティング)加工が施されています。

商品名にも付けられてる「NMC」とは、繊維にナノメートルの薄さでチタンをコーティングする技術。このコーティングが、体から出る熱を反射して、衣類内の温度を高める働きをします。

熱反射を利用する保温技術は、テントマットやエマージェンシーシートなどにも使われますが、一般的に使われるアルミニウム蒸着技術と違い、ナノメタルコーティングは、重量や風合いなどに影響を及ぼさないのが特徴。硬さやゴワつきがなく、バリバリと音を立てることもありません。生地全体に均一に加工ができるため、保温性にバラつきが生じることがなく、使用による剥がれや、汗や皮脂による腐食などの心配も不要。

たとえば、気温が下がって寒さを感じ、急いで荷物からダウンジャケットを引っ張り出して身につけた時、体が温まるまでに少し時間がかかるのを感じた経験はないでしょうか? 寒さが厳しい時はダウンジャケット自体が冷えていることもあり、着てしばらくは、ひやりとした冷たさすら感じることがあります。

ところが、このジャケットは身につけから温かみを感じるまでの時間が短く、その暖かさがずっと続きます。これがまさに、ナノメタルコーティングの効果。高品質ダウンの保温力を、最大限にサポートする技術が、ここに生かされています。

寒さと戦うディティールの工夫


ジャケットのデザインや細部の仕様にも、ダウンの性能を最大限に生かす工夫がされています。

ボリュームのあるフードは、頭によくフィットするコンパクトな形。高めの衿と顔周りのストレッチテープが、首元からの冷気の侵入をシャットアウト。

フードのちょうど耳の位置に、縫い目がないのがわかるでしょうか?

ダウンウェアは、表地と裏地を縫い合わせてバッフル(内側の仕切り)をつくり、中に羽毛を閉じ込めることで、ダウンの偏りを防いでいます。しかし、縫い目の部分にはダウンがないため、そこには「コールドスポット」と呼ばれる、保温力の低い部分が発生してしまいます。

耳の部分に縫い目がないのは、冷たくなりやすい耳をコールドスポットから守るため。作り手自身がフィールドで体験したことが、商品にしっかりと反映されているのが感じられます。

軽量コンパクト性を重視したミニマムなディティール

袖口は、フード周り同様、シンプルなストレッチコード仕立て。裾には、フィット感を調節できるコンパクトなドローコードが備えられています。ハンドポケットはファスナー付き。フロントファスナーは上下から開閉できるダブルファスナー仕様。

防寒着として最低限必要な要素は備えながら、且つ、細部の仕様は極めてミニマム。

フードにフィッティング調整機能はなく、もちろんヘルメットにも対応はしていません。袖口も、着脱のしやすさを考えたら、開閉できるカフスにしたほうが便利でしょうが、それをしていないのも、すべては軽量コンパクト性を優先したからです。

大きい方がジャケット、小さい方は同素材のパンツをパッキングした状態。あまりにもモデルさんの顔が小さいせいで、実際よりもやや大きく見えることをご了承ください!

その結果実現したのが、このコンパクト感。あれほどのボリュームのジャケットが、付属の収納袋に入れて、片手で持てるサイズにパッキングできます。

この状態でバックパックに入れてもいいのですが、実際に山に行くときには、袋に入れず広げた状態で、荷物の隙間に詰め込むスタイルもおすすめ。ダウンの復元力が高く表地も丈夫なので、アイゼンや調理器具などのように硬く鋭利なものに直接触れなければ、小さなすき間にガンガン詰め込んでも、出したときにはふっくらとしたボリュームがすぐに戻ります。

行動時の使用にも使える耐久性と耐水性を確保

休憩中に使う前提ではありますが、実際にフィールドにいれば、着たまま動かなくてはいけない場面もあって当たり前。もちろん、それも想定の範囲内。

肩の部分のキルティングが少し細かく不規則なのは、バックパックを背負うことを想定した仕様。ショルダーハーネスが当たってダウンが偏らないよう、肩の部分のバッフルを細かく設定しています。

運動時に限らず動きの多いひじから腕にかけても。細かいバッフルでダウンの偏りを防止。立体裁断で、動きやすさも確保しました。


全体のシルエットは、下に着るものを選ばないゆとりを備えながらも、腰回りは比較的コンパクトで丈も短め。保温性を確保しながら、バックパックを背負って歩くこともできるように設定されています。

軽くて柔らかいせいもありますが、腕周りが動かしやすいのには驚きを感じます。これなら、食事の準備や山小屋でのトランプ大会、荷物のパッキングはもちろん、バックパックを背負ったり下ろしたりといった動きにも、ストレスを感じることはないでしょう。

あくまでも保温性重視なので、日本の山で行動中に着用すると、暑すぎて汗をかくことになるでしょう。撥水ダウンを使用しているので、多少の汗濡れで保温力が急激に落ちることはありませんが、やはり、「動く時はしまって止まったら着る」という使い方でこそ、このジャケットの真価が発揮されます。

日本の山歩きにちょうどいい、保温力と軽さとクオリティのベストバランス

今のダウンをもっとFPの高いものに変えれば、もっと高い保温力が得られます。よりコンパクトに収納することもできるでしょう。ただ、ダウンのコストが大幅に増えるため、なかなか簡単には手が出せなくなるかもしれません。

胸ポケットを増やしたり、袖にカフスを付けたり、フードを取り外せるようにしたり、使いやすくするアイディアもありますが、休憩時に使うなら、収納性を犠牲にしてまで付ける必要はないでしょう。

このダウンウェアは、保温力も軽さも、品質も、日本の山あるきにちょうどいい、すべてを備えています。シンプルでどこにでもありそうな1着には、どんなハイテクウェアにも負けない「ちょうどよさ」と、安心感や満足感が詰まっているのです。

適度な厚みで動きやすく、温かい「NMC Down Pant」

同じ素材を使ったパンツは、ダウンパンツにありがちな、見た目のもたつき感がないすっきりとしたシルエット。適度な厚みで動きやすいのに、ナノメタルコーティングの効果で、確実な温かさを得ることができます。

こちらも仕様は、収納性を考えたミニマムな設計。裾はゴムでフィット感を出し、ウエストはゴムとドローコードで、着脱もスムーズにできます。2つのハンドポケットがあるので、常に近くに用意しておきたいものの収納に不自由することはないでしょう。

もうひとつ、「NMC Down Pant(NMCダウンパンツ)」は、ダウンパンツには珍しく、「NMC Down Jacket」と同様に3色(Black/Hydro/Burnt Olive)が展開されているのも特徴。ただでさえ、アウトドア用のボトムスは、トップスに比べて色展開が少なく、黒などのダークな色がほとんどですが、ニュアンスのあるカーキ系やブルー系があれば、ダウンパンツも機能だけのものでなく、着こなしを楽しむことができそう。

ジャケットもパンツも、高品質のダウンを惜しげもなく使っているため、決して安い買い物ではありませんが、何年も劣化せず、長く快適に使える高品質のものを手に入れるのは、今の時代にあった物の選び方。流行に左右されないベーシックな定番アイテムだからこそ、本当に納得できるものを手に入れることができるはずです。

ジャケットに比べて使用頻度が少ないパンツは、多少保温性が下がっても安く手に入れたいというのなら、700FPダウンを70g使用した、「Basic Down Pant」も用意されています。上下ともユニセックス展開の「NMC Down Pant」に対して、こちらは男女で別のモデルで展開されています。

(左)Basic Down Pant、(右)Women’s Basic Down Pant カラーはそれぞれBlack/Dusty Olive/Dark Nightの3色展開

アクシーズクインの注目アイテムPICK UP!「フィンガースルーミトン ORIGINAL」


最後に、アクシーズクインのグローブといえば、かゆい所に手が届く、ユニークなギミックが自慢。そのなかから、ネーミングも印象的な1品をご紹介します。

防水透湿ナイロン素材でできたオーバーミトンは、真冬の山には欠かせないアイテム。単体でもレイヤリングでも使え、インナーグローブの厚さを変えることで、幅広いシーズン使うことができます。ミトンは保温力が高い反面、細かい作業がしづらいのが弱点。いちいち外さずに使える指先の出せるタイプが便利ですが、このモデルの特徴は、大型ファスナーを開けて5本すべての指を含む、手のひら全体を出すことができるところ。指を出すというよりも、ミトンを脱いだ状態をすばやく作れ、外したミトンを落とすこともないので、繊細な作業も落ち着いてこなすことができます。撥水加工済みで、雨や水をはじく効果もあります。

取材・原稿:小川郁代
撮影:永易量行
モデル:加藤由佳、村上雄飛(jungle)
協力:株式会社双進

小川 郁代

編集・ライター

小川 郁代

編集・ライター

まったくのインドア派が、ずいぶん大人になってから始めたクライミングをきっかけにアウトドアの世界へ。アウトドア関連の雑誌、書籍、ウェブなどのライターとして制作に関わるかたわら、アウトドアクライミングの環境保全活動を行なう、NPO法人日本フリークライミング協会(JFA)の広報担当としても活動する。