2019.07.05
大村 雄太
YAMAPスタッフ
「登山界のアカデミー賞」とも呼ばれるフランスの山岳賞・ピオレドール賞を2009年に日本人としてはじめて受賞した、登山家・天野和明さん。石井スポーツ登山学校の校長を務め、国内で登山ガイドを行っている天野さんが、登山をする際に気をつけていることとは?これまでに重ねてきた数々の経験をもとに、登山者に伝えたいことを語っていただきました。
(この記事は、大塚製薬株式会社の提供でお送りします。)
――天野さんといえば、荷物を全て自ら担ぎ上げるアルパインスタイルで数々の山を踏破されています。そういった大変なスタイルを選ばれたのには、どのような理由があるのでしょうか。
天野:大学を卒業してからしばらくの間は、比較的大規模なチームで臨む「極地法」と呼ばれる方法で8000m峰などに登ってきました。それはそれで自分にとって必要な経験で、高所での順応の仕方や身体のつくり方など、基本的なことをここで学びました。ですが、極地法は、下山時の労力を最小限に抑えるために登る際に使った物資などを自然の中に残したまま下山してしまう、という弊害もあるんです。いくら安全が最優先だからとはいえ、これでは自然の中にゴミを置いてくるのと変わらず、人間のエゴといいますか、登山としてあまり美しくないなと思って。なので、自分たちで担げるものだけを担いで登る、シンプルなアルパインスタイルを好むようになりました。
――現在もアルパインスタイルにこだわってヒマラヤなどに行かれているのでしょうか?
天野:いいえ、賞をいただいたときのような厳しい登山はしばらくやっていませんね。今はクライミングをしに北米へ行ったり、スキーや登山でヨーロッパアルプスに毎年行っています。国内だと、プライベートで自分の子どもや家族と登ったり、会社の仲間と半分仕事を兼ねて登山に行くこともあれば、お客さまをガイドしたりと、いろいろなスタイルで山と関わっています。
――これまで数多くの山に登られてきましたが、そういった経験から天野さんが登山に行く前の準備として、どのようなことに気をつけているのか聞かせてください。
天野:山に行く前の準備として、もしもの事態を想定して、忘れ物や道具のチェックを怠らずに行うことはとても重要です。しかし、私が何よりも重要だと思っているのが、「体調管理(コンディショニング)」です。
登山は長時間にわたって身体に負荷をかける、非常にハードな運動です。さらに、自然が相手なので、急な天候の変化によって体温調節が難しくなったりなど、様々な予期せぬ状況に順応する必要があります。
輝かしい実績を持つ著名な登山家が「山で死んではいけない」と常々言っていましたが、本人は不幸にも身近な山で亡くなってしまいました。その方が不注意だったとは言いませんが、山はどんな場所でも多かれ少なかれリスクをはらんでいることを忘れてはいけません。
少しでもリスクを下げるために、登山は体調管理を万全に行った上で、常にベストな状態で臨む必要があります。
――では、具体的にどのように「体調管理」を行っているのですか?
天野:もちろん、登山中に気をつけることもたくさんあります。ですが、登山って山に登る日だけを切り取っているわけではないじゃないですか。それまでの日常の積み重ねがあって、次の日以降の日常もある、つまり僕たちの生活と繋がっているというか。だから、普段から体調管理をしっかりすることが大切なんです。
もっとも気を遣っているのは、普段の食事です。1日3食しっかり食べる、栄養バランスを考える、お酒を飲みすぎないなど、当たり前のことかもしれませんが、これを実践するだけで、ちょっと登山に行ったくらいで体調不良になることが少なくなると思います。
また、普段の食事では不足しがちな「タンパク質」を摂取するために、プロテインやアミノ酸飲料を飲んでいます。筋肉が衰えないようにすること、そして身体をリカバリーするのに欠かせないアイテムとなっています。
最近はホエイプロテイン、必須アミノ酸・BCAAと一緒に乳酸菌も摂取できる「ボディメンテゼリー(大塚製薬)」を愛飲しています。
――箱根駅伝の選手やサッカー日本代表の選手など、すでに多くのトップアスリートがコンディショニングのために使っているそうですね。天野さんは、「ボディメンテ ゼリー」をどのように使っていますか?
天野:登山に行く・行かないに関わらず、食事だけでは補いきれない成分を摂取する目的で、毎日継続して飲んでいます。
もちろん、登山にも持参しています。昼食や行動食である程度のカロリーは摂取できますが、実はそれ以外の栄養素って意外と足りていなかったりします。そこで、ホエイタンパクと必須アミノ酸・BCAAを手軽に補給する手段として活用しています。他の乳酸菌飲料と違って常温保存できるので、日帰りや1泊の登山に持っていきやすいのも良いですね。
――「ボディメンテ ゼリー」を飲むことで、何かこれまでと変わったことはありましたか?
天野:3月に西穂高岳に登ったのですが、大荒れの吹雪の中をどうしても歩かなければならない場面がありました。タフで厳しいコンディションの状況を歩き続けたにも関わらず、リカバリーが速くなったと感じました。
登山はとてもハードな運動なので、下山後に体調を崩してしまうケースも少なくありませんが、身体のリカバリーが速ければ、そういったことも防ぐことができます。
――お話を伺い、改めて登山というハードなスポーツにおいては、体調管理が重要であることが分かった気がします。
天野:そうなんです。登山は体調管理を万全に行った上で、常にベストな状態で臨む必要があります。私が大学の山岳部時代に学んだことのひとつに、「細かいことに気が回らなくなると遭難する」という言葉があります。ちょっとしたことを「まあいいか」と言って見逃してしまうと、それがスキを生んでやがて事故につながる。ちょっとしたことに気付かなくなっているという状況は、もう自分に余裕がなくなっている証拠です。リスクはぐっと高まります。
――天野さんが登山学校で教えていらっしゃるのは、そういったことでしょうか。
天野:はい。登山学校の校長としては、登山で使えるスキルをみなさんにお教えするというよりは、登山するための心構えや姿勢といったものをしっかり伝えていきたいと思っています。技術を教えることそのものは難しくないですし、教わった側も理解がしやすいので、確かに授業の満足度は上がるかもしれません。ですが、登山の本質的な部分は技術ではなく、自然に敬意を払い、自然を心から楽しむことです。
若い頃は海外の高い山への憧れが強く、山梨出身で周りを山に囲まれて育っていたにも関わらず、周囲の山には全く魅力を感じていませんでした。ですが、きびしく険しい登山を経てもう一度国内に目を向けてみると、地元の山梨やそれ以外の場所にも素晴らしい山がたくさんあることに気づいたんです。それからは山や、自然に触れることの楽しみを伝える仕事をするようになりました。
――数々の山を経験されてきたからこそ、見えることもあったわけですね。どうもありがとうございます。最後に、これを読んでいるみなさんにひとことお願いします。
天野:高く険しい山や難しいルートに挑戦することだけではなく、登山には様々な楽しみ方があります。みなさんがそれぞれに合った方法で安全に自然と触れ合えるようにサポートできればと思っています。
※石井スポーツ登山学校は、山をもっと楽しく安全に登るための講習を実施しています。お申込みは全国各地のMt.石井スポーツ各店にて。
(制作協力:石井スポーツ登山学校)