ハードな耐久性とアメリカ西海岸の遊び心、自由な発想を融合させたモノ作りで、世界中から人気を集めるマウンテンハードウェア。彼らが誇る「ストレッチダウン」は、10年という歳月を費やして開発され、その使い勝手の良さと耐久性の高さにより、ロングセラーを誇る商品です。登山やクライミングはもちろん、多様なアウトドアアクティビティや普段のタウンユースにも広く適した「ストレッチダウン」の特徴を、着用シーンと共に紹介します。
2023.12.14
大関直樹
フリーライター
山やショップで、よく目にするアウトドアブランドのロゴマーク。特にインパクトがあるのがマウンテンハードウェア(以下、MHW)の六角ナットではないでしょうか。これは、「どんなにタフなアウトドアシーンでも、耐えることができるギアを作り続ける」という創業当初からのポリシーを表しています。
1993年に米カリフォルニア州のバークレーで生まれたMHWは、ブランド誕生直後からアメリカ人で初めて8000m峰全山登頂を成し遂げたエド・べスターズなどの先鋭的な登山家をサポートしていました。ロゴマークにイメージされるハードな耐久性に加えて、カウンターカルチャーが盛んなアメリカ西海岸の遊び心と自由な発想をミックスしたモノ作りが世界中のユーザーから人気を集めてきました。
その大きな特徴は以下2点に集約されます。
①登山のプロと共同開発した使い勝手のよさ
②どんな状況でもタフに扱える耐久性の高さ
MHWでは、製品開発の段階からクライマーやアルピニストなどマウンテンスポーツで活躍するアスリートと、製品開発の段階からパートナーシップを提携。彼らの声を真摯にフィードバックすることで、動きやすく使い勝手のよいギアを作り続けています。また、「耐久性の向上こそが、アウトドアスポーツの安全性を確保する」というポリシーに基づいた製品作りが、世界中のユーザーからの信頼を得ることにつながっています。
そんなMHWが10年の歳月をかけて開発し、今でもロングセラーを続けているダウンウェアが「ストレッチダウン」。愛され続けている機能と、山だけでなく街での着用シーンについて徹底解説します。
一般的なダウンジャケットは、ダウンが偏ってしまうのを防ぐために糸で縫った部屋を作る「バッフル(隔壁)構造」を採用しています。この縫い目が着用しているうちに広がってしまい、中からダウンが噴き出したり、冷たい外気が入り込み暖かい空気を逃してしまうコールドスポットができてしまうことがあります。また、ストレッチ性が低いものが多いので、行動着には向いていません。
そこで、MHWは生地を縫い合わせたり、溶着剤で貼り付けるのではなく、表地と裏地を織り込むことでバッフルを作るスーパーDS構造を生み出しました。この新技術は、世界初となる画期的なもので、伸縮生地に採用する仕組みは、完成までに約10年かかったそうです。
これによって、ストレッチダウンはダウンの抜けやコールドスポットを大幅に軽減。縫い糸を使わないことで軽量性と耐久性も大きくアップしました。
登山時にインナーダウンとして着用する薄手のダウンジャケットは、上にシェルなどを着る前提で開発されているものが多く、軽量性が重視されていることから、生地が薄く耐久性が弱いことがあります。そのため、暑くなってシェルを脱いでダウンだけの状態で歩くと、木の枝に引っかかったりして生地が裂けてしまう心配があるのです。また、同様の生地のダウンパンツで直に岩などに座って休憩すると、破ける恐れもあります。
それに対してストレッチダウンは、登山時やクライミングの行動中に着ることをコンセプトに開発されているので、耐久性の高い素材を使っています。表地には、ナイロン87%、ポリウレタン13%を混紡したデュラブルストレッチウーブンを採用。ナイロンは耐摩耗性に優れた素材なので、登山中に岩や木に擦ったりしても破けにくいのが特徴です。また、ポリウレタンはゴムのような伸縮性があるので、体の動きにウェアが追従。前述のスーパーDS構造と素材の組み合わせで、伸び縮みし最適なキックバックを提供してくれるので、上半身を使うような登山やクライミングでも、行動し続けられます。
ウェア内に封入されているダウンは、寒冷地や登山で実力を発揮する高品質な700FPのものを採用。さらに、生きた鳥からの羽毛採取や強制的な給餌などを行っていないことを保証する国際認証基準(RDS)のものを使っています。タグには、QRコードがついており、これを読み込むと、羽毛の産地や品質が、ひとめでわかるようになっています。
ダウンは保温性に優れた素材ですが、濡れに弱いという弱点があります。水に濡れることで、デッドエア(暖かい空気を溜め込む層)が潰れてしまい、持ち前の保温力を発揮できなくなるからです。それを防ぐためにストレッチダウンは、DWRという撥水加工が施されています。しかも、環境汚染の原因となるPFC(フッ素化合物)を使用しないDWR技術を採用することで、環境保護にも配慮をしているのです。
次は、どんなシーンでストレッチダウンを着用するとよいかについて、実際に愛用している2人の方に教えていただこうと思います。まずは、2016年に20歳で世界最高峰のエベレスト(8,849m)に登頂(当時の日本人最年少)し、現在は登山ガイドとして活躍する伊藤伴さんです。
――伊藤さんは、どんなシーンでストレッチダウンを着ていますか?
僕は4年くらい前から使っているのですが、ストレッチダウンでアフリカ大陸最高峰のキリマンジャロ(5,895m)の山頂に立ちました。表地が撥水になっているので多少の雪や雨でも濡れず、安心感があるんですよね。日本の山だと、秋から春にかけてのハイキングに向いていると思います。山頂でゆっくりランチを食べたりするときに羽織ると、すごく暖かいですよ。また、秋冬の登山では、歩き出したときは身体が温まっていないので、寒さを感じることがあります。そんな時にこれを着て歩くと暖かい上に、ストレッチが効いているので動きやすいです。
――MHWの製品は、耐久性が高いことで知られていますが、実際に使ってみていかがですか?
そんなに丁寧に扱っているわけではないのですが(笑)、破れたりダウンがヘタったりせずに4年間使い続けています。やはり、耐久性はとても高いんじゃないかなと思います。その理由のひとつは、縫い目のないバッフル構造じゃないでしょうか。よくフリースの上にダウンを着ると、フリースに抜けたダウンの羽根がついちゃうことがありますが、ストレッチダウンでは、そういうことが少ないですね。また、もともとクライミングのとき着られるダウンを開発しようというコンセプトで生まれた製品だけあって、岩で擦れても全然大丈夫です。
――ほかにも、「ストレッチダウンは、こんな点が優れている」と思う点について教えてください。
アウトドア・アクテビティで使えることは、もちろんですが、街でも使いやすいです。登山用のウェアって表地がテカテカ光ってるものが多いので、街ではちょっと目立ちすぎてしまいます(笑)。また、保温性を高くするためにダウンをたくさん封入したものは、モコモコし過ぎて暑かったりとか。ストレッチダウンは、表地がマット仕上げなので街着としても十分に着られます。ダウンも適度な量がマッピングされているので、暑すぎることもありません。アウトドアのテクノロジーが搭載されていながら、街でも着られるデザインのウェアは、それほど多くないと思います。
次は、MHWでマーチャンダイジングを担当されているという近藤伊織さんです。MHWのアイテムについての知識は豊富なのはもちろん、ご自身も登山が大好きでストレッチダウンを着て毎週のように、山に出かけているそうです。
――近藤さんは、ストレッチダウンをどのように着用しているのでしょうか?
今年の11月中旬に丹沢の塔ノ岳(1,491m)に登ったのですが、そのときも持っていきました。夏以外の3シーズンは、低山から八ヶ岳くらいまで、どこでも使っています。厳冬期もストレッチダウンの上にシェルを着ていますね。というのも、ストレッチが効いているので圧倒的に動きやすく着心地がいいんですよ。ストレッチダウンって、今や色々なメーカーさんも販売していますが、MHWのものは本当にストレスフリーです。これもマウンテンスポーツで活躍するアスリートと共同開発しているからなんだなとあらめて実感しています。
――アスリートと共同開発したことは、具体的にウェアのどの部分に反映されているのでしょうか?
たくさんありますが、ひとついうならダウンのマッピング(配置)ですね。登山での動きやすさ、使い勝手を考えて、ダウンの量を変えています。具体的には、フードと脇、サイドパネルのダウンは他の部分より20%少なくしています。そうすることで、ザックを背負ったときでもフードが邪魔になりませんし、オーバーヒートしないように考えられています。山で動きやすいってことは、実は街で着ても快適なんですよ。アウトドア用ダウンを普段使いすると、暑かったりかさばったりすることが多いですが、ストレッチダウンなら、そんな心配はありません。
――ストレッチダウンは、女性モデルもラインナップされていますが、女性目線でのインプレッションについて教えてください
着心地の良さを重視する女性の方はとても多いと思うのですが、耐久性がある素材は、硬くてしっかりしたイメージがあると思います。ストレッチダウンは、柔らかくてしなやか、着ていてストレスがないので、ショップで見かけたらぜひ試着していただきたいですね。あと、女性は手が冷たくなる方が多いと思うのですが、ハンドポケット内が起毛しているので温かく快適ですよ。ほかにもパンツは、テーパードシルエットなので足さばきがよく、スタイルアップに見えます。
――最後に読者の方にメッセージがありましたらお願いします。
アウトドアウェアは、アクティビティのためだけに買うとなると、値段が高いと考える方もいらっしゃると思います。でも、ストレッチダウンは、街でもフィールドでも使えるので、お得ですし、機能もアスリートのお墨付きです。私も1着持っているんですけど、今回改めてお話しさせていただいて、もう1着欲しくなりました(笑)。
ストレッチダウンは、ポケットなどのディテールにも、アスリートからのフィードバックが反映されています。フィールドでの使い勝手にとことんこだわったディテールへのこだわりを紹介しましょう。
ウエスト部分には、ジッパー付きのハンドポケットを搭載。手の甲があたる部分は起毛加工されているのでハンドウォーマーの役割も果たします。行動中はポケットに手を入れることは、あまりないかもしれませんが、冬山で休憩や調理を待つときなどに手がかじかんでしまうのを防いでくれます。
寒い季節は、スマホのバッテリーが低下しないように、胸ポケットに入れて体温で温めている人も多いと思います。ストレッチダウンの胸ポケットは、ウエストポケット同様に起毛しているので、画面が傷つくのを防いでくれます。
身頃の右側には、グローブや水筒などを収納できる大きめのダンプポケットを配置。バックパックを下ろさなくても、さっと収納できるので便利です。女性の中には、ここに携帯カイロを入れてお腹を冷やさないように使っている人も多いそうです。
寒い季節の登山では、呼気で襟の口元が濡れてしまうことがあります。そこで襟には乾きやすい化繊綿を使用することで濡れによる不快感を解消。しかもダブルレイヤーになっているので保温性も高く、ネックゲイターなしでも首周りもしっかり保温してくれます。
フードと裾には、絞ったり開いたり調節可能なドローコードがついています。このコードを締めることで、温かい空気が外に逃げていくことを防いでくれます。また、裾のコードはウエストのハンドポケットにつながっているので、ポケットに手を入れながらコード調節ができます。
行動中も着続けられるのがストレッチダウンの特徴ですが、登っている最中などは体温が上昇して暑く感じることも。そんなときは、上からも下からもファスナーを開けるダブルジップをうまく活用することで自分好みの温度に調整できます。
ここまでは、ストレッチダウンシリーズのなかでも「フーディタイプ」を紹介してきましたが、他のラインナップも見てみましょう。
フードがないジャケットタイプ。フーディにくらべて60g以上軽いので、持ち運ぶときの軽量性や、通勤や通学での着回しのしやすさを重視する人におすすめ。また、上にシェルを重ね着してもかさばならいので、インナーとしても使いやすくなっています。首周りは、フーディと同様に化繊綿のダブルレイヤー構造なので、乾きやすく保温性も高いのが特徴です。
もともとはクライミングのビレイヤー(ロープによる安全確保をする人)のために開発されたアイテム。フーディに比べると着丈も長くボディのダウン量も多いので保温性が高いのが特徴。ハーネスに干渉しないようにウエストポケットの位置も高くなっています。また、首元とフード、脇に濡れに強い化繊綿をマッピングしているので、ビレイ時に汗をかいても乾きやすくなっています。
ストレッチダウンと同様の性能を持つダウンパンツ。耐久性とストレッチ性に優れているので、野外でも使いやすいモデルです。ウィメンズのダウンパンツ(写真左)は、バッフルが小さめで着用時にきれいないシルエットに見えるように調整されています。
MHWが自信を持っておすすめするストレッチダウンシリーズの徹底解説は、いかがでしたでしょうか。最後にMHWのマーケティングを担当する梶恭平さんからメッセージをいただきました。
「ストレッチダウンは、登山やクライミングだけではなく、雪中キャンプや自転車、釣りでもOKですし、雪山に行くときの車中やタウンユースでも使えます。YAMAPマガジンの読者の方は、登山をはじめとして様々なアウトドア・アクティビティを楽しんでいる方が多いと思いますが、ぜひマルチシーンで着用できるストレッチダウンを相棒に選んでいただけたらうれしいですね!」
原稿:大関直樹
撮影:小山幸彦(STUH)
モデル:本多遼(jungle)
協力:コロンビアスポーツウェアジャパン