山梨県内の様々なスポットを巡りながら「山」と「街」の両方を満喫する山麓旅。2022年、23年に続く第3弾となる今年も旅人はもちろん漫画家の鈴木ともこさんとアウトドアスタイル・クリエイターの四角友里さん。普段は山をフィールドに活動するふたりが街に繰り出し、「おいしい」「楽しい」「美しい」を求めて各所を訪れます。雄大な富士山や南アルプスを目前に望み、街にいながらも山の恩恵をたっぷりと感じられる場所、山梨。今回はどのような出会いがふたりを待っているのでしょう。
※YAMAPでは、やまなし県央連携中枢都市圏の9市1町(甲府市・甲斐市・北杜市・韮崎市・南アルプス市・中央市・笛吹市・山梨市・甲州市・昭和町)にて、YAMAP×やまなし県央『山のぼり・まち歩き』キャンペーンを開催中。期間は2024年8月31日(土)から12月1日(日)まで。山や麓の観光スポットでデジタルバッジをゲットできるキャンペーンです。
2024.08.30
武石 綾子
ライター
「今年も楽しみだね!これまでとちょっとタイプの違う体験ができそう」
「街歩きがメインだけど、山梨に来たからには山歩きもしたいよね」
甲府駅で合流後、そんな話をしながら旅のはじめに向かったのは、甲府駅から昇仙峡方面に車で20分程の距離にある「千代田湖」。湖畔の駐車場から徒歩15~20分程で山頂に到達できる「八王子山(628m)」で街歩き前のライトハイキングを楽しみます。
木漏れ日に目を細めながら樹林の道を登るとがらりと景色が変わり、ざらっとした砂浜のように広がる白い道。その様子から別名「白山」とも呼ばれ、地元のハイカーやトレイルランナ—にも愛される人気の里山です。
途中の展望スポットにある岩場をよじ登ってみれば、眼前には富士山!少し視線をずらすと南アルプス方面の山々や甲府盆地が広がり、山に抱かれ地続きにつながる街の様子を間近に感じることができます。
山旅で欠かせないのが山梨グルメ。八王子山をのんびり歩いて時間はちょうどランチタイム。ふたりが訪れたのは、昇仙峡ロープウェイから車で5分ほど、湖を見下ろす抜群のロケーションにある老舗「民芸茶屋 大黒屋」(甲府市)。「御岳そば」と書かれた趣きあるのれんをくぐると「いらっしゃい。今日は暑いねぇ。奥で涼んで」とほっとする笑顔でおかみさんが出迎えてくれます。
その名の通りそこかしこに並ぶ民芸品と木の優しいぬくもりが感じられる店内。山側から吹き抜ける涼やかな風が心地良さを感じさせます。メニューに並ぶ様々な「御岳そば」はどれも魅力的。山菜そばやきのこそばも捨てがたい…、と迷いながら、ふたりは山梨の名物「おざら」と「ほうとう鍋」をオーダー。
太陽が照り付ける季節は「おざら」のツルっとしたみずみずしいのどごしが嬉しい!しっかりと山を歩いた後や寒い時期にはごろごろ野菜の滋味深いほうとう鍋も染みいりそう。
満腹になった後に店内を眺めていると、個性的な天狗の面や写真が目を惹きます。聞けばその多くが「お客さんから贈られたもの」だそう。この地にお店を開いて40年ほど、おかみさんと話していると、金櫻神社への参詣や昇仙峡観光とともに全国から常連さんが足を運ぶ、という話にも頷けます。
昼食後は足湯につかり、ほっと一息。現在では全国屈指の名湯として名高い笛吹市の「石和温泉」ですが、実はそのはじまりは石和のぶどう園。遡ること1961年(昭和36年)、ぶどう園(農園)から湧きだした高温のお湯が付近の川に流れ込み「青空温泉」として親しまれたことから徐々に観光温泉地として発展したのだとか(※諸説あり)。温泉とぶどうの意外なつながり。そんなエピソードにも山梨らしさを感じてしまいます。
足湯は写真の「石和源泉 足湯ひろば」の他、石和温泉駅前でも楽しめます。筋肉痛や疲労の回復にも効能あり。観光や登山の後、休憩したい時にぜひどうぞ。
次にご紹介するのは、甲州市勝沼町にある「大善寺」。奈良時代の僧・行基(ぎょうき)により開創された、国宝および複数の重要文化財を有する山梨を代表する仏教寺院です。
厳かな境内を歩いていくと、本殿に向かう階段の手前に一面に広がるぶどう畑が! なんと大善寺、住職自らの手でオリジナルワインを醸造しているんだそう。旬を迎えようとする美しい色合いのぶどうからは住職の愛情を感じます。このみずみずしいぶどうからできるワイン、間違いなくおいしいはず。のちほど、じっくりいただかなければ…。
青もみじにおおわれた階段を登りきると、国宝である本堂(薬師堂)がお目見えします。檜皮葺(ひわだぶき)の屋根が描くなめらかな曲線。弘安9年3月16日(1286年)の刻銘があり、現存の鎌倉建築の中でも最高峰の技術が用いられているというその佇まいは、静かながらも深みと荘厳さを感じさせます。
「ぶどう寺」とも称される大善寺、実は「甲州ぶどう」はじまりの地とも言われる場所。開祖である行基(ぎょうき)が柏尾山(かしおさん)の日川渓谷で修行した際に夢に現れた(感得した)という「ぶどうを持った薬師如来像」を建立したこと、また法薬としてぶどうの栽培法を村人に伝えたことで広まったといわれています。
大善寺でワイン造りが始まったのは戦後のことだそうですが、甲州ワインの原点であるこの地でグラスを傾けるのも贅沢なひととき。
歴史的観点で紐解くと、戦国時代には甲斐大名・武田家と、幕末には新撰組・近藤勇との所縁もあるこの地。住職の愛情たっぷりのワインとともにはるか昔の物語に想いを巡らせるのも楽しい時間。詳しくはぜひ現地へ足を運び、感じてみてください。
宿泊先は南アルプス市にある宿坊「Temple Hotel 南アルプス法源寺」。宿坊と聞くと修行のイメージが湧くかもしれませんが、そこにあるのは美しく設え(しつらえ)られた和の空間と、「こころ穏やかに南アルプスの魅力を感じてほしい」という想い。
2022年に開業したばかりという棟内には和室が3部屋、洋室(ベッドルーム)が1部屋。用途や人数に合わせて利用することが可能です。リノベーションされて間もない空間でありながら、そこはかとなく漂う畳の香りになつかしさを覚えます。
先ほど紹介した「ぶどう寺・大善寺」も宿坊としての利用が可能。せっかく山旅に出かけるならいつもの旅行と違う宿を選んで、非日常を楽しんでみてはいかがでしょうか?
穏やかに晴れた翌日。宿坊から徒歩5分の法源寺では「テンプルモーニング」と銘打って様々な「朝」の活動を行っています。この日は7時に本堂へ入り、「読経」と「写経」を体験。いずれも少し難しそうな印象ですが、横山瑞法住職が初心者向けに丁寧に解説してくれるのでリラックスして臨むことができます。
まずは「お勤め」として住職にあわせ読経を。その後写経に移ります。元々は師の言葉を弟子が書き写して覚えるための修行のひとつであったという写経。今回は30分程を想定した短めのコースを体験します。
「あまり深く考えずに、ご自身のペースで進めてくださいね。はやい・おそい、うまい・下手という概念はそこにはないので、焦る必要はありません。自分とじっくり向き合ってみてください」
ゆっくりと硯(すずり)で墨をすることから始め、少しずつ精神を集中。住職のお話のとおり、それぞれのペースで筆を進めるともこさんと友里さん。写経の最後には、各々が今願うことを書き込みます。
「デジタルなものをすべて脇において、朝の清らかな時間にあえて筆を使ってじっくり書く。なんだかすごく良い時間になりましたね」と友里さん。まさに「自分と向き合う時間」がそこにはありました。
山梨の旅で欠かせないのがパン屋さん巡り。今回は2つのお店をご紹介しましょう。
ひとつめは甲斐市にある「ルパン」。開店時間はなんと5:00。日曜日・祭日・月曜日は定休としながら、5:00~8:00の時間帯に限り365日休まず営業しているんだそう。早朝から焼きたてのパンが食べられる、登山者にはありがたいお店。おすすめはほんのりとした優しい甘みが特徴のジャンボカステラパン。リーズナブルなお値段も嬉しいお店です。
もうひとつは韮崎市の「コーナーポケット」。店内を彩るカラフルなパンは毎月種類が入れ替わり、常時100種類近くが店頭に並びます。お客さんからの意見も積極的に取り入れ開発される新商品はいつも大人気。
山梨県産小麦「かいほのか」、富士山の北麓で採取された酵母菌を用いた「富士山酵母の山形食パン」の他、定番のクロワッサンにもちもちのフランスパンがおすすめ。皮まで一切余すことなく練りこんでいるぶどうパンも、ぜひ試してほしい一品です。
山梨県産の野菜や果物をお土産に買いたい!そんな時は昭和町の「JA山梨いーなとーぶ」へ。昭和町をはじめ、近隣の市町村で栽培されたフレッシュな野菜が並びます。友里さんとともこさんが一昨年訪れた、甲府市の五味醬油さんのお味噌もゲットできますよ(2024年9月時点)。店舗内には清里・清泉寮の販売コーナーでは絶品のソフトクリームをいただけます。お土産と一緒に、ぜひどうぞ。
「元々は県外に住んでいたんですが、クライミングをしに瑞牆山(みずがきやま)に通ううちにすっかりこのエリアが好きになってしまって」
そう話すのは、友里さんとともこさんが最後に訪れた「みずがき食事処」を営む大中夫妻。3年ほど前、瑞牆山の麓にある北杜市・増冨(ますとみ)地域に県外から移住し開店。当時蕎麦屋として営業していた店舗をほとんどそのままの姿で引き継ぎ、元々調理師として磨いた腕を活かしジビエ料理中心の食事処をオープンしました。
ハンバーグやメンチカツなどの鹿(ジビエ)メニューに加え、季節ごとの野菜・山菜・きのこを使った自家製ピザも感動的な、思わず顔がほころぶおいしさ!(筆者個人的には、これまで食べたピザの中でトップクラス)
お休みの日には野菜を栽培したり、集落の活動に従事したり、とても忙しいそう。「クライミングが好きで移住してきたんですけど、瑞牆になかなか行くヒマがないんですよ」そう話しながらも、山梨での生活を心から楽しまれている様子。この地への愛情、お料理からもひしひしと感じます。
「季節ごと、タイミングごとに採れるものを一番新鮮な状態でお出ししています。この土地ではこんなにおいしいものが採れるんだ、そんなことを感じてもらえたらすごく嬉しいですよね」
最高の食事と、嬉しい出会い。そんな醍醐味を感じながら旅は締めくくられました。
今回も、新たな「おいしい」「楽しい」「美しい」にたくさん出会えた2日間。
少しずつ日差しが柔らかくなり、過ごしやすくなるこれからのシーズン。都心からも約2時間程度とアクセスしやすい山梨県へ、ぜひおでかけください。
*今回の「やまなし県央の山旅」で2人が訪れたスポットはこちら
YAMAPでは期間限定で、YAMAP×やまなし県央『山のぼり・まち歩き』キャンペーンを実施中。
これは、やまなし県央連携中枢都市圏の「9市1町」(甲府市、韮崎市、南アルプス市、甲斐市、笛吹市、北杜市、山梨市、甲州市、中央市、昭和町)にある指定のランドマークを訪れることで、YAMAPアプリの期間限定デジタルバッジ(5種類)を獲得でき、さらにデジタルバッジを3つ以上集めた方は、指定の配布場所で特製コラボ手ぬぐいがもらえるという大好評のキャンペーンです。実施期間は、2024年8月31日(土)から12月1日(日)まで。
詳細はYAMAP×やまなし県央『山のぼり・まち歩き』キャンペーン・ページをご参照ください。
【旅をしたひと】
四角友里|Yuri YOSUMI
アウトドアスタイル・クリエイター。 「自然に触れる喜びを多くの女性たちに感じてもらいたい」との想いから執筆、講演、アウトドアウェア・ギアの企画開発を手掛ける。2023年、“自然と仲良くなるためのプロダクト”をコンセプトに自身のオリジナルブランド『MOUNTAIN DAISY PRODUCTS』を立ち上げ。著書に『一歩ずつの山歩き入門』、『山登り12 ヵ月』など。
鈴木ともこ|Tomoko SUZUKI
漫画家。自身の山登り体験を描いたコミックエッセイ『山登りはじめました』(KADOKAWA)シリーズがロングセラーに。近著は『山とハワイ』(新潮社)。山好きが高じて東京から長野県松本市に移住。松本市観光大使も務める。SBCラジオ『ソラトモとスズトモ』パーソナリティ。
原稿:武石綾子
撮影:加戸昭太郎
モデル・イラスト:鈴木ともこ(Instagram:suzutomo1101)
モデル:四角友里(Instagram:yuri_yosumi)
協力:甲府市(やまなし県央連携中枢都市圏)