これからの秋冬シーズン、山に何を着ていくか頭を悩ませている登山者も多いのでは? 発汗する行動中と休憩時の体感温度の違いが激しくなる季節は、ミドルレイヤーがその調整役を担います。でも、登山ショップにはたくさんの種類があって迷ってしまうはず。今回は、その解決策になりそうなパタゴニア「R1」の新シリーズをご紹介。実際にライターの大堀啓太さんが冬のフィールドで試した「ちょうどよい一枚」の実力を解説します。
2024.09.19
大堀 啓太
ライター・編集
多くの登山者から好評を得ているパタゴニアのR1ファミリーに、新たなシリーズ「R1サーマル」が登場しました。
「R1サーマル」は、山の空気が冷える秋から冬にかけて活躍するアクティブフリースで、R1シリーズのなかでは最高の保温力を誇ります。滑らかで伸びのある生地は、まさに極上。高い耐久性でバックパックとの擦れも気にすることなく、アウターとしての着用もOK。
通気性と耐風性を絶妙なバランスで両立しており、風が吹く寒冷のハイクアップ中でも、寒さから身を守りつつ、同時にムレを防ぎ、快適なウエア内環境をキープ。雪がちらついても、滑らかで丈夫な表面素材のおかげで、安心して行動し続けられます。
新シリーズの「R1サーマル」の実力を試すため、山梨県・乾徳山(2,031m)を訪れたのは、寒さも盛りだった今年の2月。早朝の空気がピリッと冷たく、樹林帯を抜けると雪が付いていました。
登っているときから実感したのが、「山では、この1枚があればいいな」ということ。これまでたくさんの候補が乱立するミドルレイヤー選びに頭を悩ませてきましたが、秋冬登山のレギュラーがようやくみつかりました。
まず、袖を通したときに感動。とてもやわらかくて動きやすく、着用ストレスがまったくありません。むしろ、着続けていたくなるほどの着心地のよさ。滑らかな生地なのに、守られているような安心感もあります。
早朝の山の冷気で体が冷やされることもなく、しっかり登っても汗が吹き出さないという快適な状態で登ることができました。
パタゴニアのアンバサダーであり、世界中のクライマーから「ジャンボ」の愛称で親しまれている登山家の横山勝丘さん。秋の瑞牆山でのクライミングや、冬の八ヶ岳トレーニングなど、様々なシーンでR1サーマルを試したようなので、その使い心地を聞いてみました。
「まず、着心地がいい!しなやかな生地感と、袖口やフード周りの肌当たりが気持ちいいんですよ。見た目もスタイリッシュでシンプルだから、山にも街にも、この気持ちよさをどこにでも着ていけるのはうれしいですね!」
「昨年末に、八ヶ岳の天狗尾根をピストンしたときには、ベースレイヤーとR1サーマルのレイヤリングで快適でした。長時間動き続けて、ラッセルとかもしたのに、汗や熱気がこもるような感覚がないんですよ。僕は暑がりで、普段はウェアをよく脱いで調整する方なんですが。保温性、通気性、吸汗速乾性のバランスがいいんでしょうね。」
登山だけではなく、クライミングのときにも驚かされたといいます。
「登っているときにも、腕と肩周りにまったくストレスがないんです。生地もストレッチするので、クライミングのムーブにしっかり集中できました。」
R1サーマルの出番は多く、使い勝手は上々のようです。
「秋冬登山のミドルレイヤーとしてだけじゃなく、軽いので、携行保温着にもいいかもしれません。いろんなシーンに活躍するので、すべての登山者におすすめです!」
ここで、登山におけるミドルレイヤーの役割をいま一度確認しましょう。
ミドルレイヤーは、ベースレイヤーとアウターシェルの間にレイヤリングする行動保温着。保温性が必要な秋冬の登山には欠かせないウェアで、快適さを左右する重要なレイヤリングです。
【秋冬登山のレイヤリングと必要な機能】
ベースレイヤー:吸汗速乾性
ミドルレイヤー:吸汗速乾性、保温力、通気性、運動性
アウターシェル:防水性、防風性
内側の熱や汗、外側の冷気という異なる環境の両方に対応するミドルレイヤーには、多くの機能が求められます。
ただし、保温力が高すぎると余計に汗をかいて必要以上にウェアを濡らし、通気性が高すぎると寒冷な山の空気で体を冷やしてしまいます。
秋冬登山における濡れや冷えは、致命的な低体温症のリスクを高めるため、ミドルレイヤーには高い機能だけではなく、それらの機能のバランスよく備えることが求められます。
そんなミドルレイヤーカテゴリーで、「R1」がはじめて発売されたのは1999年。
当時、ミドルレイヤーの定番だった両面起毛のフリースに取って代わるほどの衝撃が、登山者に走りました。肌面にグリッド構造のポーラテックパワーグリッドを採用した「R1」は、やわらかく軽い着心地ながら、吸汗速乾性、保温力、通気性を理想的なバランスで備えていたためです。
「R1」は瞬く間に多くの登山者に愛用され、シーンやスタイルが異なる登山者のニーズに合わせてファミリーを拡大。軽く通気性の高いR1エア、耐久性と耐風性のあるR1テックフェイスなどを展開しています。
そして今シーズン、ファミリーの中でもっとも保温力が高いR1サーマルが登場。ここからは、フィールドで実感した「R1サーマル」の良さをご紹介しましょう。
乾徳山を登るときには、薄手のウールのベースレイヤーに「R1サーマル」をレイヤリング。
登山口近くの駐車場では、吐く息が白くなるほどの冷え込み。それにも関わらず、羽織ったときのやわらかな暖かさにホッとし、登山前の緊張した体が和らぎました。
登山口からは急な登りが続き、樹林帯を抜けると冷たい風が頬をさしてきます。
こういった熱い、寒いが入り交じる登山シーンでも、「R1サーマル」で快適に登り続けられました。ハイクアップの熱がこもるような感覚もなく、冷たい風が吹いているのに寒さに震えることもありません。
その秘密は、生地にあります。
フラットな表面には、ほどよい耐風性があるため、冷気や風の侵入を軽減。
そして、肌面はR1シリーズでお馴染みのグリッド構造を採用。細かい格子状のマイクログリッドが、運動中の蒸れを通す溝となって、オーバーヒートを防ぎながら保温してくれます。
吸汗力も高く、水滴を垂らすとスッと生地に入り込むほど。急登で汗をしっかりかいたはずなのに、肌面を触っても濡れた感じはありません。
乾徳山の頂上直下には、緊張感が高まるクサリ場が連続。
ウェアのちょっとした突っ張りも気になるシーンですが、「R1サーマル」を着用したままでも登りに集中でき、クサリ場を無事に通過できました。
動きやすさのポイントは、生地のストレッチ性だけではなく、脇下の立体パターンにもあります。腕の下からサイドにかけて一枚のパネルを入れることで腕上げがしやすく、裾もずり上がりにくい仕様に。肩回りの動きは、まさにストレスフリーです。
「R1サーマル」は機能だけではなく、やはりこのソフトな着心地がなによりも快適。しかし、気になるのがバックパックとの摩擦です。気付くと毛羽立ったり毛玉ができたりして、みすぼらしい姿になってしまうミドルレイヤーも少なくありません。
「R1サーマル」を今回以外の登山でも3回着用しましたが、生地にダメージは見られませんでした。
袖口や裾は、摩耗性のある生地でカバーするパイピング仕様になっています。行動中の岩やクサリ、休憩中のベンチなどとの摩擦も気にする必要はなく、安心して着続けられます。
これだけ耐久性があれば、来年も再来年もちゃんと使えそうです。ひとつのものを長く使い続けられるのは、環境にもやさしいので、うれしいポイントですね。
気温が低い朝の秋冬の山では、体が温まる前の登り始めは、やはり少し肌寒いもの。かといって、グローブやネックゲイターをするほどでもない中途半端な状況もあります。
「R1サーマル」は、そういったシーンで温めたい手や首の保温力を、思いのままに調整可能。
首が寒いときには、フロントファスナーを上げきれば、保温力が一段階アップするよう。高さのある襟で首回りが暖かさにやさしく包まれるフィット感は心地よく、ウェア内の熱が外に逃げるのを抑えてくれます。
手の指先が冷えているときには、袖口のサムホールを使用。血管や神経が集中している手首を温められて、指先までポカポカに。
これまでに、数々のサムホールに親指を通してきましたが、屈指のフィット感と心地よさ。突っ張り感もなく、親指の付け根が締め付けられることもありません。
*編集部注:サムループがついているのはR1サーマル・フルジップ・フーディのみ。R1サーマル・ジャケットにはついていません。
ウェアが多くなる秋冬の登山で気になるのが、レイヤリングしたときの着用感。シルエットだけではなく、動きやすさにも影響するため、大事なチェックポイントのひとつ。
樹林帯を抜けて、強くなる一方の風を防ぐために、アウターシェルをレイヤリングして行動しましたが、着膨れ感はなく、動きやすさに変わりはありません。
カメラマンに撮影してもらった写真を確認したところ、「おぉ、いいね」という言葉が思わず漏れるほど。高い保温力の割に薄い生地と、体のラインに沿いながらも動きやすい立体デザインの「R1サーマル」だからこそのきれいなシルエットです。
ミドルレイヤーに必要な吸汗速乾性、保温力、通気性、運動性といった機能がバランスよく備わっている「R1サーマル」は、多くの人が求める「THEミドルレイヤー」。
乾徳山を登ってから下りるまで、行動中でも蒸れず、汗で濡れそぼることもなく、稜線を抜ける風に冷やされ過ぎず、クサリ場でも動きやすく、「R1サーマル」を着たまま快適に行動し続けられました。
行動のリズムが乱れたり、タイムロスにもなったりする、ウェアの脱ぎ着がなくなるのは、日照時間が短い秋冬登山で安全登山の大きなポイントでもあります。
登山などのアクティブなアウトドアだけではなく、キャンプなど自然に親しむアウトドアにも心地よい暖かさ。さらにタウンユースにまで活躍するマルチさは、1枚あれば間違いなしのミドルレイヤーです。
取材・原稿:大堀 啓太
写真:後藤 武久
協力:パタゴニア/横山勝丘