福岡市街地から車で約50分、美しい田園が広がる宮若市の六ヶ岳(339m)は、知る人ぞ知る登山スポット。近年は24座もある山頂を結ぶ無数の登山道が網の目のように整備され、自由にルートを組める穴場として話題を集めています。今回は、その中でも体力や気分に合わせて「お手軽絶景登山」を楽しめるコースをご紹介。旬の味覚が堪能できる周辺エリアの魅力もレポートします。
取材したのは福岡在住の編集者・後藤麻与さんです。福岡県内では珍しい雲海スポットでもある六ヶ岳。これから訪れる冬にこそオススメしたい隠れた名山です。
2025.12.01
Goto Mayo
編集者兼ライター

「六ヶ岳探検隊」のお二人。探検隊の活動は公式Instagramでも発信中です
福岡市と北九州市のちょうど真ん中、福岡県宮若市に位置する六ヶ岳は、主要な6座の峰々が連なることがその名の由来です。最高峰は標高339mの「朝日岳」。低山ながら、山頂には360度見渡せる大パノラマの絶景が待っているとのこと。
そして実はこの山、主要なピークは6座ですが、その他にも18座の小ピークを有しており、合計24座の峰が連なる珍しい低山なのです。それらピークを結ぶ登山道は、まるで蜘蛛の巣のよう。コース選びにも悩んでしまうほど、多様な選択肢があります。
そこで今回、案内をお願いしたのが、地元ガイド「六ヶ岳探検隊」隊長の高司晃さんと、事務局長の梶栗浩二さん。週に何度も六ヶ岳を歩いているという70代の強者二人に、知る人ぞ知る“推しポイント”を教えてもらいながら、登山を楽しんできました。
お二人に案内してもらったのは、朝日岳を中心に3座を巡るお気軽山歩。朝7時半から登山を開始し、下山後は麓のまちで「温泉」と「名物グルメ」を満喫する“いいとこどりハイキング”のスタートです。
今回は宮若市側の登山口をスタートし、登頂後に別ルートから戻るコース。所要時間は2、3時間。(地図をタップすると拡大できます)。該当の地図はこちら
今回のスタート地点は、六ヶ岳の南側に位置する宮田登山口。登山口から徒歩5分の場所に、登山者向けに開放された西教寺の無料駐車場とトイレがあり、車でのアクセスも便利です。

宮田登山口近くの「西教寺駐車場」も今秋から利用可能に。25台の車が止められます(西教寺敷地内にトイレもあり)

ホッパー跡の側の登山道は足場が良く歩きやすい
登山口から歩き始めて5分。見えてきたのは、砕石工場のホッパー(石を一時的に貯蔵する施設)跡。炭鉱で栄えた筑豊の歴史が垣間見える風景につい立ち止まってしまいます。
そこから10分ほど歩くと、見えてきたのは「内野池」という小さな池。頬を撫でる風や、水の音、鳥のさえずりが聞こえ気分は上々です。


内野池を通り過ぎると、周囲は竹林に。朝の澄んだ空気に僅かに混ざる竹の爽やかな香りと差し込む光が、幻想的な雰囲気を作り出します。
竹林の先、小さな沢を越えたあたりから最初の山頂まではやや急登気味です。粘土質の土やでこぼこした岩など足場の悪い箇所もありますが、お子さんや初心者の方でも無理なく歩ける程度ですので、ご安心ください。

野鳥の会、山岳環境保全団体、毎日登山のご長寿など多くの山愛好家が訪れる。
あたりの森に目を向けると、街では見慣れない植物がちらほら。
「カラスザンショウは、枝や幹に棘があるから気をつけて」「白いレース状の網で覆われたあのキノコはキヌガサダケっていう名前でね…」「ヤマシロギクが咲いているよ」。
六ヶ岳探検隊のお二人が山中の植物について丁寧に説明してくれます。

開始からおおよそ1時間、いよいよ最初の山頂「朝日岳(山頂にある標識は六ヶ岳と記載)」へ。ゴール目前、鬱蒼とした緑の間から差し込む光が何とも言えず美しいです。

山頂には大きな樹々がないため、360度の大展望!隊長いわく、「六ヶ岳は山ばっかりじゃなく、山の美しい眺めと麓のまち並みが一緒に味わえるのがいいところ」とのこと。
山頂からは地域の暮らしを支える「遠賀川」が望めます。人々が生活する街並みを山から俯瞰して眺め、地域と自然の深いつながりを感じる、これこそ低山の醍醐味です。
また、宮若市が位置するのは山に囲まれた盆地。そのため、条件が揃った冬の朝には幻想的な雲海が出現することも。

あの方向には、陶芸家でもある隊長が開いた「こう窯」も微かに見える
冒頭でもお伝えしたように、六ヶ岳は蜘蛛の巣のように張り巡らされた登山道が特徴。でも、道迷い防止の道標がしっかり整備されているので安心です。実はこの道標、その大多数は、今回ガイドをしてくださったお二人が設置したそう。

山頂にある記念撮影用スマホ立てもお手製です。切り株を運んで来たのは梶栗さん。差し込み口をチェンソーで作ったのは隊長。至るところに二人のアイデアが光ります。

朝日岳の後は、アップダウンのある登山道を歩き、次のピーク「龍ヶ岳北峰」をめざします。途中には、剥き出しになった樹の根が階段状になっているところも。山が崩れないようにしっかりと大地を抱えるように広がる木の根。自然の強さと優しさを感じる風景です。

見やすい工夫を凝らした五差路の道標。見やすい工夫を凝らした五差路の道標。龍ヶ岳北峰直下には名物「龍の右脚」があります
「龍ヶ岳北峰」そばにあるのは、スダジイの巨木。山の斜面に幅5mを超える板根を広げています。隊長が龍ヶ岳にちなんで「龍の右脚」と名付け、撮影スポットとしておすすめしているそう。近くにはもう2本のスダジイが聳え、これらをまとめて「板根三姉妹」と呼ぶのだそうです(笑)。

根の窪みは人がすっぽり入る大きさで、年甲斐もなくはしゃいでしまう私でした
「龍ヶ岳北峰」の後は、10分ほどの距離にある「龍ヶ岳南峰」へ。戦国時代に大内氏の家臣・杉氏が山城を築いた場所だそうです。
きれいな状態の石仏と一緒に杉の木が祀られています。ここだけでなく宮若市側には、山腹の斜面に沿って掘られた竪堀や石仏がいくつも見られ、「史跡探訪」を目的にコースを組む登山者も多いそう。
龍ヶ岳南峰を後にし、スタート地点の宮田登山口へと下山を開始します。ガイドのお二人の案内のおかげで、絶景だけでなく、歴史や自然の奥深さにも触れることができ、大満足の山歩きとなりました。心地よい疲労感とともに、「下山後のご褒美」が待ち遠しいです。
朝7時半に出発して、約3時間半で下山。時計の針は11時を回り、お腹の虫も騒ぎ出す時間です。
今回、下山飯に選んだのは、宮田登山口から、車で約30分の場所にある地元で人気の古民家食堂「三季」。

ぷりぷり食感の海老ハンバーグがメインのわんぱくな定食
ぐうぐうなるお腹に手を当てながら選んだのは、一番人気の「海老ハンバーグともち餃子の定食」です。小鉢は農家の収穫や仕入れ状況による日替わり。おかずの天ぷらは食材が充実していると野菜のかき揚げになります。この日は幸運にも風味や食感が違う6種の野菜のかき揚げで、優しい味わいが最高でした。


食後は、揚げたてピース饅頭を手土産に購入。グリーンピースが練り込んであり、モチモチの食感がクセになる昔懐かしい味です。
代表の徳永晶子さんの穏やかな雰囲気に心から癒され、何度でも通いたくなるお気に入りの場所となりました。

お腹を満たした後は、遠賀川の支流・犬鳴川沿いにある「脇田温泉(わきたおんせん)」へ。開湯は奈良時代という歴史ある温泉郷で、昔ながらの和の風情がただよう癒やしのスポットです。

田んぼから温泉が湧き出てきたことに由来

現在3軒の宿と立ち寄り専用の「湯乃禅の里」が営業中。お風呂の前に、犬鳴川のほとりを散策するのもオススメとのこと。
温泉の周辺には、地域の人の暮らしを支える水汲み場も。100円で3分の給水が可能で、遠くから汲みにくる方も多い名水です。くせのないまろやかな味は忘れられません。


山行でかいた汗を、ここでしっかり洗い流してリフレッシュさせます。「湯乃禅の里」の湯は、肌に優しいアルカリ性単純泉。男女合わせて9種類の露天風呂、食事処、サウナ・ボディケア、家族風呂などがあり、1日中ここで過ごすことも。旅に余白時間が出たら、プラスで計画するのに使いやすいスポットです。

宮若市は、田園が広がる米所。取材が新米の季節だったため、もちろん購入して帰ります。せっかくなので、地元で人気の販売店をふたつめぐりました。
「ドリームホープ若宮」は、地元の採れたて・出来たてを届ける直売所。生産者名と商品のポイントを手書きの店内 POPで伝えています。


セレクトに定評のある宮若産のお米は品揃え豊富で、どれにすれば良いのか迷います。お弁当は、9時頃から順次店頭に並ぶので、登山前に立ち寄り山頂で食べるのもおすすめ



新米を目当てに来たはずが…普段は見かけない珍しい野菜・山菜・果物・農産加工品が並んでいて、ついつい買いすぎました。中でも、100円のベビーしいたけは切らずに使えて丸ごと冷凍してもいいという使い勝手の良い食材でとても満足。

次は、ドリームホープの館長も絶賛していた「安河内農産」へ。販売所へ行くと、近くで収穫作業中とのことだったので見学してきました。秋の風物詩・稲刈りの風景や、田んぼ越しの六ヶ岳を眺めながら山頂で見た里山の風景とリンクし感慨深い気持ちに。

寒暖差の大きい盆地で、山からミネラル豊富な澄んだ水が脈々と流れ、豊かな土壌を育くんでいくそう。
地域の豊かな自然を守るためいち早くアイガモ農法を取り入れ、安心・安全な美味しいお米を届けるためデータベースによる徹底した品質管理を行っています。

稲を倒すことなく、少しのズレもなく美しい状態で刈っていく代表の安河内豊孝さん

近年は宮若産米をより多くの人へという思いから、真空パックの商品にも力を入れているとのこと。宮若の地域の魅力が詰まったお米を手土産に選びました。ふわっとした食感と深い甘みが素晴らしく、周りからとても好評です。

まだ明るいうちから一杯やるのもいいけれど、本日は帰宅後のご褒美としてテイクアウトすることに。今年(2025年)5月にオープンした話題のブルワリーから、ご当地ビールをゲットしました。

特定の香りによって記憶が蘇ることを意味するプルースト効果からインスパイアされて生まれた、ブランド初となるシリーズ「PROUST」。ひと際爽やかな「SAISON」、熟したフルーツのような「NEIPA」、5種のホップの奥深い香りが立つ「West Coast IPA」の3種類のラインナップ。

終始楽しそうにメニューについて教えてくれた森下店長と代表の関岡寛さん。二人は大学の先輩後輩ということで、その和やかな関係性が味わいの秘訣かも
イートインには飲み比べのセットもあります。山行の締めくくりに、ここへお気に入りの一杯を見つけに来るのも良さそうですね。

歩きやすく、登山ルートの自由度も高いので知れば知るほど楽しくなる山でした。山歩きは、ガイドの二人に山道の状況やペース配分を見てうまくコントロールしてもらったおかげで、最後までバテることなく片道1時間で登頂できました。山頂の景色は視界が良ければ山口県まで見えるそうですし、まだ見たことがない雲海を見てみたいので、次はしっかり心身が整う5時間のコースにチャレンジして、冬の根菜グルメでより充実した山行の思い出を作りたいです。
今回は、体力に自信のない私に合わせて、3つのピークを巡るお手軽登山コースを歩きましたが、そんな自由度の高いコース設計ができるのが、六ヶ岳の魅力。
ここでは「オススメの登山コースと絶対に外さないルートと麓のまち歩き」のパターンの楽しみ方を他にも2つご紹介します。その時々の体力や気分に合うベストな山旅をお楽しみください。
【歩きごたえあり!縦走コース】
◉5時間の神話&絶景登山+温泉に直行でしっかり心身が整う癒しプラン
主要6峰プラス2峰をめぐる人気のコース。宗像三女神の伝説や日本史にふれながらの山歩きと、山頂ごはんの美味しさを満喫。下山後は温泉に直行し、お風呂もサウナも楽しんでしっかり整うまで寛ぎます。
旅程:宮田登山口から主要6峰プラス2峰〜温泉&サウナ
(YAMAP該当地図はこちら)
【完全制覇に挑戦!24座ピークハントコース】
◉10時間の全峰制覇+1泊・温泉三昧で自然を味わい尽くすプラン
一度で全24座制覇を目指す上級者かつこだわり派向けの山旅。六ヶ岳の奥深さを探求することはもちろん、脇田温泉内の宿に泊まり、ゆっくり湯めぐりも堪能。全峰制覇は、季節を変えて少しずつクリアするのもおすすめです。
旅程:宮田登山口〜MSC(六ヶ岳山塊コンプリート:全24座)縦走&山中で昼食〜脇田温泉内の宿にチェックイン&小休憩〜温泉めぐり
(YAMAP該当地図はこちら)
記事でご紹介した「六ヶ岳」や「脇田温泉」、そして新鮮な食材が並ぶ「ドリームホープ若宮」。これらをたっぷり満喫するなら、時間を忘れて過ごせる「お泊まり旅」が断然おすすめ!
宮若市では、この冬(2025年12月15日〜2026年3月15日)、とってもお得なキャンペーンを実施します。
宿泊代金の助成に加え、市内の農産観光体験やタクシーで使えるチケット、さらに記事でも登場した「ドリームホープ若宮」で使える割引券などがセットになった、登山者にとっても嬉しい充実の内容になっています。 冬の六ヶ岳で雲海を狙うための前泊や、下山後に温泉宿でゆっくり疲れを癒やす“ご褒美旅”に、ぜひご活用ください。
※本キャンペーンの詳細については、(一社)TEAMみやわかじまん公式Instagram(@team_miyawaka_jiman)などで順次発表されます。ぜひチェックしてみてください!
原稿:後藤麻与
撮影:永井匠太郎
協力:宮若市 産業観光課