ウェアやシューズなどのゴアテックス製品は登山者の強い味方。でも「洗濯できるの?」「お手入れの方法は?」と悩んでいる方も多いようです。そこで、アウトドアウェア専門のクリーニング店「山洗」店主の露木さんにゴアテックス製品の洗い方を教えてもらいました。きちんとケアすることが快適性を保ち長持ちさせるコツ。この記事を参考にご自宅でゴアテックス製品を洗ってみませんか?
2020.12.03
池田 菜津美
ライター
防水性・透湿性に優れたゴアテックス製品。レインウェアやシューズなどの登山用品だけでなく、アウタージャケットやスニーカーなど、タウンユースの製品にも多く使われるようになりました。
ところで、みなさんはゴアテックス製品をどうやってケアしていますか。「洗うと性能が落ちそう」「ゴアテックスは洗えない」という噂もありますが、それは間違い! きちんと洗った方が快適かつ長持ちするんです。
そこ今回は、ゴアテックス製品の正しいケアについて、日本ゴア合同会社の伊藤由里子さんと、アウトドアウェアを専門に扱う「山洗」クリーニングを立ち上げた露木幹也さんにお話をうかがいました。
伊藤さん:ゴアテックスファブリクスを使ったアウターウェアは、積極的に洗って使うことを推奨しているんです。
露木さん:「ゴアテックスは洗わない方がよい、洗えない」という考えは、なかなかなくならないですよね。私も登山をするのですが、ハイキング仲間にも「え?洗っていいの?」と驚く人が多くて。どうして洗えないと思うのか尋ねると、たいていの人が「コーティングが取れそう」「効果が洗い流されてしまいそう」と答えます。そういう人が多いから、「山洗」というアウトドアウェア専門の宅配クリーニングを思いついて。
伊藤さん:ゴアテックス製品の防水・透湿効果は、特別なコーティングで生み出されるものではないです。生地そのものがもつ機能なので、洗うと効果が流れ落ちてしまうというのは間違いです。
露木さん:洗わない方がよっぽどよくない。
伊藤さん:そうなんです。簡単に言うと、汚れが原因で、ゴアテックスのせっかくの機能が発揮されなくなってしまいます。
露木さん:みなさん気がつかないのが、汗による汚れですよね。汚れというとどうしても泥や雨など、ウェアの外側につくものと思われがちです。
伊藤さん:目に見える、わかりやすい汚れですね。
露木さん:でも、ウェアの内側の汚れも見落としてはいけない。例えば、汗による汚れ。汗が蒸発してウェアの外へ出ていくとき、汗に含まれる成分がウェアの内側にたくさん残ります。チリも積もれば山となるで、透湿性はどんどん低下していきます。一度着たら軽く洗って、汗による汚れを落とした方がいいと思う。
伊藤さん:高頻度で洗うと生地を傷めると思う人もいるかもしれませんが、バックパックの摩擦や、岩場・草木のこすれなど、アウトドアで使用できるだけの強度をもっていますから、洗濯くらいでは生地がおかしくなってしまうことはありません。
露木さん:ときどき、消防団のウェアなど、ゴアテックスの作業着が持ち込まれることがあるのですが、1年洗ってないなんて当たり前、ひどいときは10年間一度も洗濯したことがないものも。性能が落ちるどころか、劣化していることも多いです。きちんと洗っていれば、高い機能性を持続させることができるのに、本当にもったいない。
伊藤さん:そういう話を聞く度に、「ゴアテックスは洗った方がよい」という事をもっと多くの人に知って欲しいと思います。
露木さん:このあと洗い方を紹介しますが、手洗いコースでさっと洗うだけ。簡単なホームケアで十分なので、ぜひ洗ってください。ウェアの寿命が延びますし、使用感も快適になるはずです。
露木さんにゴアテックス製品の洗い方を伝授してもらうべく、用意したのはこちらのレインウェア。使い始めて1年ほどですが、全体的に生地がよれていて水をはじきにくくなった代物です。用途は自転車通勤で、雨の日のほか、肌寒いときにはおっているので、使用頻度はほぼ毎日。週に1回ほど通常の衣類と同じように、普通の洗剤で洗っています。
特に汚れが目立つのは、ジャケットのえりと袖口と肩の3か所。やっかいなのは肩の泥汚れ。取材の前々日に自転車で転んでついたもので、かなり派手にぶつけたので、繊維の奥まで入り込んでしまっています。
製品によって洗濯方法は異なりますので、洗濯タグや製品情報を事前に確認しましょう。水洗いできる製品は、洗濯機でのホームケアが可能です。これから紹介する方法できちんと洗って、快適なゴアテックスウェアをキープしましょう!
まずは頑固な汚れがないか確認します。あまり汚れていないようなら、いきなり③の工程へ進み洗濯機へポンでOK。
頑固な汚れのチェックポイントはいくつかあって、ジャケットはえりや袖口、ポケット口に皮脂汚れと、パンツ裾などに泥が残りやすいです。泥や砂などの大きな汚れが残っているときは、ブラシではたき落としておきます。こうした汚れは一度水をつけてしまうと繊維の奥に入ってしまい、余計に落ちにくくなるからです。
使うのは乾いたブラシ。馬毛など、天然素材のブラシがベスト。ポリエステルなどの化繊素材のブラシは、ジャケットの素材よりも硬く、毛先が角張っているので、生地を傷める可能性があります。歯ブラシは、毛先が丸く整えられているのでOK! 落とし方は、生地の表面をなでる感じでやさしく。生地の表面が傷むのでゴシゴシこすらないこと。汚れが濡れているときは、ブラシを使わずに、水で洗い流しましょう。
皮脂汚れや泥が繊維の奥まで入り込んでいるときは、洗濯機へ入れる前に一手間かけます。市販の中性洗剤を30度くらいのぬるま湯で半分くらいに薄め、それをブラシにつけて汚れた部分をポンポンたたきます。ブラシで汚れをこすり取るのではなく、ブラシで洗剤を繊維の中に入れていくイメージです。
この行程で、繊維の奥に入り込んだ汚れに洗剤が行き届くので、しっかり汚れを浮かせてくれます。最後にぬるま湯でさっとすすいだら完了です。
設定は「手洗いコース(弱で5分ほど)・すすぎ2回・脱水3分」がひとつの目安です。注意点は、しっかりすすぐこと。洗剤には汚れや水を吸着させる性質があります。そのため、繊維に洗剤が残っていると、フィールドで新たな汚れや水を寄せる原因となってしまいます。
お店では3分くらいのすすぎを3回行っていますが、洗剤の量が少なければ2回で十分です。洗剤の量の目安は、通常の半分からそれ以下。あまり汚れていないようなら、3分の1でも大丈夫です。水量は多めに。たっぷりの水で泳がす感じで洗いましょう。脱水は3分ほど。水がしたたり落ちるくらいでよいです。Tシャツなどの衣類は生地が水を吸っているため、脱水しないと乾きにくいですが、ゴアテックスジャケットの生地は水を含みにくくできているので、脱水しても表面の水が飛び散るだけ。脱水時間を長くしてもあまり意味がないので、早々に干してしまいましょう。
露木さんに洗ってもらったウェアの仕上がりが気になりますが、その前の豆知識をご紹介。もっときれいに仕上げる方法や、上手に乾かすコツなど、すぐに使える知識ばかりなのでお試しあれ!
しばらく洗っていないなど、全体的にかなり汚れているときには、30〜35度のぬるま湯を使って洗います。高温の方がよく落ちそうですが、洗剤が効果的に働く温度がぬるま湯なので、無理に温度を上げる必要はありません。夏場は冷たくない、冬場はちょっとぬるいかな、くらいの温度でちょうどよいです。手洗いするときは、こすったりもんだりせず、やさしく押し洗いをしましょう。すすぎは2回以上で、洗剤を残さないように。
ジャケットが水を抱えた状態で脱水に進むと、洗濯槽に偏りが生じて、洗濯機が大暴れすることがあります。脱水前に乾いたバスタオルを入れておけば、タオルが水を吸ってバランスが取れ、スムーズに脱水されます。洗濯機から出すときに、水がしたたりにくくなり、干してからの乾きもよくなりますのでぜひお試しを。
逆さ吊りの方が、ポケットから水が出るのと、フードがボディと重ならないので、乾きやすいです。日当たりのよい場所なら、表裏30分ずつ、1時間ほどですっきり乾きます。(*注:あまり長時間、外に干すのはNGです)
熱を加えると、繊維が締まって撥水力が高まります。自宅の乾燥機や、コインランドリーの乾燥機にかけるだけでも、撥水力がかなり復活します。乾燥機がなければアイロンでもOK。スチームで水分を入れる必要はないので、当て布をしてドライアイロンをさっとかけるだけでも効果は抜群です。
熱を加えても撥水機能が戻らないと感じたら、市販の撥水剤を使います。撥水剤は洗濯機に入れるウォッシュインタイプがおすすめ。すすぎを3回に増やし、3回目に撥水剤を入れて3分ほど回すだけ。追加のすすぎは不要で、そのまま脱水へ。
洗濯後、乾燥&アイロンを施して、仕上がったウェアはこちら! どこに汚れがあったのかわからないほど、すっきりきれいに生まれ変わりました。
皮脂汚れでゴワゴワしていたえりや袖口は、サラサラの手触りに。肩にこびりついた泥は跡形もなく消えました。パンツの裾についていた泥はねのシミもなくなっています。生地に張りがあって、まるで新品のような仕上がりです。
露木さん:洗濯機で洗うだけ。本当に簡単なホームケアで、防水性・透湿性が保たれます。
伊藤さん:普通の洗濯で使われるソフターや柔軟剤は、ゴアテックス製品には不要です。柔らかさを出すための油分などが生地の上に残るため、かえってゴアテックスの機能性が発揮されにくくなります。
露木さん:すすぎを2回行うのも、生地に洗剤を残さないため。
伊藤さん:そう。汚れも洗剤も、何もついていないまっさらな生地でこそ、力を発揮するんです。そういえば、洗剤は中性のものを使っていましたが、ゴアテックス製品は弱アルカリ性でも洗えます。
露木さん:弱アルカリ性の方が洗浄力が高いので、汚れがひどいときに取り入れるとよいですね。ブラシでたたくときには、食器用の洗剤も使えます。油汚れに強いので、えりや袖口の皮脂汚れに効果的なんです。
伊藤さん:汚れが蓄積されると生地が剥離する原因にもなり得るので、普段は自宅で洗濯し、ときどきクリーニング店にお願いして重点的にメンテナンスしておくと安心ですね。
露木さん:宣伝になっちゃいますが、シーズンオフの前にクリーニングに出すのもおすすめですよ。ゴアテックス製品が扱えるか、事前にお店へ確認しておくと安心です。うちの場合、汚れがひどい部分は超音波や高圧洗浄機で繊維の奥まできれいにしますし、撥水剤を施したあとでアイロンにもかけます。よっぽどひどい状態でなければ、新品さながらの撥水性を携えてお戻しできます。
伊藤さん:ゴアテックス素材自体は耐久性に優れていますので、正しくケアすれば長期間使うことができます。ひとつのものを繰り返し使うというサステナブルな考え方も広まっていますし、愛着のあるウェアを長く大切に使っていただけたらうれしいです。
■取材協力
アウトドア専門宅配クリーニング「山洗」
東京都武蔵野市を中心に工場直営のクリーニング店を9店舗展開。アウトドアウェアを専門に扱い始めたのは30年以上前からで、ゴアテックス製品をはじめ、フリースやダウンなど、さまざまな素材のウェアを宅配クリーニングで引き受けている。日々進化するウェアに対し、洗剤の種類や洗濯の方法など、常に試行錯誤を続けている。
〒180-0022東京都武蔵野市境2-5-6
TEL 0120-114-360 FAX 0422-60-2948
原稿:池田菜津美
撮影:北村華子
協力:日本ゴア合同会社・アウトドア専門宅配クリーニング「山洗」