一期一会の景色をスマホの中に|YAMAP フォトコン 2024スマートフォン優秀賞・最上栞里さん

YAMAPフォトコンテスト2024でスマートフォン優秀賞を受賞した、神奈川県大和市在住の最上栞里(もがみしおり)さん。受賞作は富士山(3,776m)山頂でダブルレインボーをとらえた一枚です。最上さんに、写真を撮りながら登る喜びを伺いました。

2025.07.02

米村 奈穂

フリーライター

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登り返したご褒美のダブルレインボー

最優秀賞を受賞した作品。富士山山頂でのダブルレインボー。雷雨の中、登りきった後のご褒美のような1枚。1年分の運を使い切ったのではと最上さん

── スマートフォン優秀賞の受賞おめでとうございます!

最上栞里さん(以下、最上) YouTubeの発表を見ていて知りました。あれ? この写真見たことある! 私の写真じゃん! みたいな感じでした。ずっと人の写真を見ている感覚だったんで、すぐには気づきませんでした。

── 受賞作は、絵に描いたような虹のある景色です。撮られたときの状況を詳しくお聞かせください。

最上 4回目の富士登山だったんですが、すごい雨と雷で一旦あきらめて下山したんです。

神奈川県大和市在住の最上栞里(もがみしおり)さん(30)。登山歴3年。初登山の富士山をきっかけに山へ通うようになり、今ではひとりでテント泊山行もこなす

── 弟さんと一緒に登られたそうですね。

最上 初めて弟と一緒に登りました。もともと弟は登山をしていたわけではないんですが、自分から登りたいって言ってきたんです。陸上自衛隊だったんで大丈夫だろうと思い、一緒に行くことになりました。

── お姉さんが登ってるのを見て登りたくなったんでしょうか? 大人になってから一緒に山に登ったりできるのっていいですよね。

最上 5歳下なんですが、実はふたりで出かけるのは初めてだったんです。

── 山だから一緒に行きやすいというのもあるかもしれませんね。弟さんにとっては初めての登山が富士山で、しかも大雨だったんですね。先に進めなくなって下山したのですか?

最上 そのときは、富士山を少し登ったところにあるもう一つの火口の宝永山(2,693m)に登っていたんです。火口の縁から登山口まであと20分位のところまで下山したんですが、そこでやっぱり行きたいねってなって、 とりあえず雷が落ち着くのを待ってまた登り返しました。

── すごい雨だったからこその虹なんでしょうね。山小屋で1泊されて翌日の朝に撮った写真なんですね。何時くらいだったんですか?

最上 日の出後なので6時くらいだったと思います。山小屋に泊まって夜出発する時にはもう晴れていたんですけど、前日の雨で下山した人が多かったみたいで、山頂は思っていたよりも人が少なくて道も空いていました。諦めきれずに登り返し、一泊してからの日の出と虹だったので、感動と興奮で涙が出そうでした。

── ダブルレインボーを見られたのは限られた人だけだったんですね。虹がかかった瞬間はどんな感じでしたか?

最上 最初は日の出ばかり見ていたんです。剣ヶ峰(3,776m)の方に行こうとして振り向くと徐々に虹が出てきました。山頂でココアを飲んだりしていたらどんどん虹が濃くなってきて、歩き始めた頃にはちょうど2重になっていて、これは写真に撮らなきゃと思いました。

── すごい瞬間に出会えましたね。初めての富士登山で虹を見れた弟さんは何かおっしゃってましたか?

最上 生きててよかったって言ってました(笑)。

撮りたいと思ったらすぐ撮る!

御嶽山(3,067m)、三ノ池

── 写真を撮るときに気をつけていることやこだわりはありますか?

最上 特にこだわりはないですが、同じ景色でも角度を変えたりして、何枚か撮るようにしています。カメラの知識があるわけではないので、直感で自分のいいと思う画角で撮るなど、多分みなさんとあまり変わらないと思います。撮りたいと思ったらすぐ撮る!です。

── スマホで写真を撮るコツなどはありますか?

最上 同じになっちゃいますが、気になったものや景色は何枚も撮ります。彩度調整の簡単なアプリで、肉眼で見ている色に近づけてみたりもします。カメラに詳しくないので高度なことはできないんですけど(笑)。

── 受賞作の虹の写真も彩度調整をされてるんですね。

最上 でも、なかなか完全に自分の好きな感じには調整できてなくて。

​​── インスタを拝見していて、これ全部スマートフォン? と感じました。色合いも雰囲気があるので、一眼レフで撮ったものも混ざってるのかな? と思いました。

最上 全部iPhone13です。

常念小屋から望む槍ヶ岳(3,180m)

​​── スマホで撮ってインスタに上げたりするときは、調整してから上げていますか?

最上 iPhoneに付属のもので調整をします。

​​── 調整する時に気をつけることなどはありますか?

最上 盛らない?(笑)なるべく自分が見ている景色の色合いのままであって欲しいので。

​​── 今はどうにでもできるので、逆に難しいですよね。自分の見たままの絵を作るために調節するという感じなんですね。 写真を撮る楽しみは何だと思いますか?

最上 私の場合は、そのときしか見られない一期一会の景色を残せることや、SNSで私の山の写真を楽しみにしてくれている友人がいるので、登るときはひとりでも、後からその楽しみを共有できることです。

​​── 楽しみに見てくれている友達がいらっしゃるんですね。

最上 何人かいて、写真を見たと連絡をくれます。自分は山には登りきれないけど、景色を写してくれるから、見ていて面白いと言ってくれます。

焼岳(やけだけ、2,444m)山頂にて。この後、同じ写真を最上さんに撮ってもらおうと列ができた

お楽しみは下山アイス&温泉

── 登山中に好きな瞬間はどんなときですか?

最上 登頂して、下山するぞとなったときです。力がみなぎります。下山アイス&温泉が待ち遠し過ぎて(笑)。朝日が差し込む登り始めの樹林帯もたまらなく好きです。

── どうして下山時に力がみなぎってくるんでしょうか?

最上 山頂に着いて、ワーッとなって、帰ろうってなったときに、もう気持ちが切り替わってて、早くお風呂に入ってご飯食べてアイス食べたい!みたいな気持ちになってるんです。

── 山頂で既に外界が見えてるんですね(笑)。下山アイスはどこがおすすめですか?

最上 その地域の、例えば赤城山(1,827m)だったら、赤城牛乳とか地元の牛の乳を使った限定ソフトを食べます。

── 温泉はどこが好きですか?

最上 私からしたらすごく近場なんですけど、神奈川県の七沢温泉っていうところがあって。そこの温泉はすごくよかったです。

── どこの山に登った帰りに寄るんですか?

最上 三峰山(934m)というちょっとマイナーな山なんですけど、神奈川にある大山(1,252m)の近くにあります。その帰りに寄った温泉なんですけど、お湯がほんとにトロトロなんです!シャンプーしてもトロトロ過ぎてちゃんと流せてるのか分からないぐらいで、化粧水みたいです。

焼岳山頂から北アルプスと上高地(1,506m)を望む

谷川岳(1,977m)

── 写真に撮ってみたい山や景色はありますか?

最上 地元北海道の大雪山(2,291m)や長野の白馬岳(2,932m)を撮ってみたいです!北海道の山はまだ羊蹄山(1,898m)しか登ってないんです。咲き誇る花や池にも憧れます。

── 登りたい山はありますか?

最上 今、百名山をのんびり登ってるんですけど、とりあえず制覇を目標にしてます!今、29座くらい登りました。若いうちに剱岳(2,999m)には登っておきたいです!

── 今まで登られた百名山でどこが印象に残っていますか?

最上 北岳(3,193m)ですね。ひとりで2泊3日で登ったんですけど、肩ノ小屋でテント泊をして、2日目の夜にものすごい熱を出してしまったんです。前の日に雨が降って、カッパは着てたんですけど夏だったので中が蒸れてしまって、それで多分冷えちゃったんだと思います。

苦しんでいたところ、途中で知り合った方がすごく心配してくれて、ジャスミンティーをくれたのが心に染みました。 薬を飲んで寝ていたら大分回復しました。

── じゃあひとりでテント泊もしてるんですね。登山歴3年で進歩がすさまじいですね。

最上 どちらかというとひとりで登ることの方が多いかもしれないです。私、登るのがめちゃくちゃ遅いんです。下るのはめっちゃくちゃ早いんですけど。お風呂入りたいから(笑)。

── 初めてのテント泊もひとりだったんですか?

最上 最初もひとりでしたね。金峰山(きんぷさん、2,599m)と瑞牆山(みずがきやま、2,230m)に登りました。テント泊入門にはちょうどいいと紹介されていたので行ってみようと思って。家で一回練習をして、割とスムーズにテントを立てられました。

台風後の尾瀬ヶ原(1,401m)に虹がかかる

── 尾瀬の写真にも虹が出ています。これは尾瀬ヶ原ですね。テント泊だったんですか?

最上 テント泊です。台風が来ると言われていた日で、山小屋のおじさんに怒られました。次の日は風速がすごい予報だったみたいなんですが全然確認してなくて、そのまま山に登って下りてきたらおじさんに、「今日、風速○○メートルあるぞ、バカじゃないのか!」って怒られました。 ふざけてですけどね。

── そのときもひとりだったんですか?

最上 そのときは富士山に登った友だちと一緒でした。気合いで登っちゃうんですよね。もともとサッカー仲間だったのでスポコンというか、気合いで登っちゃうところがあるんです。地元の北海道で小中高とずっとサッカーをやっていて膝も腰もボロボロなんで、整体に通いながら登っています。

── 体育会系だったんですね。それじゃあテント泊の装備もなんてことないですね。想像以上にパワフルな方でした。

最上 いや!重たいです!

なぜか男体山(2,484m)でお揃いの尾瀬小屋Tシャツを着て登り、山小屋のスタッフと間違われる

山の入り口に立つだけでも楽しい。

── 最後に、山の中での特別な時間をお聞きしてもいいですか?

最上 登っているときの時間は常に特別ですね。ひとりで登っているときは特に、自然を全身で感じながらひたすら前に進む感じが、生きてるーって気持ちになります。あと、他の登山者との交流も特別な時間です。

── ひとりで登っているときの方が、他の登山者と話したりしますよね。 山での出会いで、 印象に残っているエピソードなどありますか?

最上 ライチョウの調査をしている人と友達になって、一緒にライチョウを探したのがすごく楽しかったです。本当はふたりで生息数を数える予定だったみたいなんですけど、ひとり来れなくなって探すのが大変だから、手伝って欲しいと言われて。

──どのように探すのでしょうか。

最上 ひたすら肉眼です。歩いては辺りを見回しながらカウントしていくんです。面白かったのは、調査なので登山道じゃないところにも入っていいんです。どんどん登山道じゃないところに入っていくのがすごく新鮮でした。

──すぐに見つかるものなんでしょうか。

最上 そのときは、北岳から間ノ岳(あいのだけ、3,190m)まで行ったんですけど、その間は全然いませんでした。登山道じゃないところだったんですけど、50メートル先ぐらいに鳥がいる! となって見に行ったら、ライチョウの親子がいました!

── 登山歴3年で、登る山も山仲間も広がる最上さんですが、山に登るようになる前と後で、自分が変わったところはありますか?

最上 なんて言えばいいんだろう。 どこかに出かけていても、あの山、何山だろうとか、登った山があると、私あの山登ったぜとか、ずっと山のことを考えるようになってるかもしれないですね。

── どこに行っても視線と思考が山になってしまうみたいな感じですね。

最上 街中に行っても、山に使えそうなものとかを探してしまいます(笑)。

── 山とは関係ないものでも、「これ山で使えるんじゃないか」とつい考えちゃいますよね。

最上 あと、強くなれている気がします。ひとりでもできるみたいな。必要なものやルートを全部ひとりで考えたりすると、実行能力がついてきたというか。

── もしかしたら、この記事を読んでいる人の中には、山には登らないけれど、写真は好きという人もいるかもしれません。そういう人たちを山へ誘うような言葉を一言いただけますか? 

最上 山頂を目指さなくても、山の入り口に立つだけでも楽しいところってあるじゃないですか。そういうところに一歩踏み出してみたらいいんじゃないかなと思います。

── 上高地とか、白馬の駅周辺とか、入り口に立つだけでも山岳の雰囲気を味わえてテンションが上がる場所ってありますよね。まずはスタート地点に立つことからですね。アドバイスをありがとうございました!

八ヶ岳(824m)

最上栞里さんのアカウント
YAMAP:もが
Instagram:shiory.mogami

米村 奈穂

フリーライター

米村 奈穂

フリーライター

幼い頃より山岳部の顧問をしていた父親に連れられ山に入る。アウドドアーメーカー勤務や、九州・山口の山雑誌「季刊のぼろ」編集部を経て現職に。