宮崎県椎葉村|親子で秘境を冒険。登山と伝統文化を味わい尽くす旅へ

日本三大秘境のひとつにも数えられ、自然と共に生きる生活が今なお残る宮崎県の椎葉村。そんな古き良き里山を舞台とし、子どもたちに自然の美しさ、そして山村の営みを知ってもらうための登山&文化体験ツアーがこの秋開催されました。最初はちょっとシャイになっていた子どもたちですが、大自然の中での1泊2日の冒険で、どの様な変化が生まれたのでしょうか? 旅の様子をご紹介します。

2020.12.21

中川 薫

ローカルエディター

INDEX

秘境、椎葉村

福岡市街からは高速を経由して南下。3時間と少しの道のり

椎葉村。宮崎県の西北端、九州山地の真ん中に位置し、東京都の4分の1ほどもある広大な面積の96%が山林というこの村。

言い換えると、どこに行っても、どちらを向いても山、やま、ヤマ。初めて訪れた時には、その切り立つ山々の迫力に圧倒されながらも、どことなく神秘的な気持ちになったのを覚えています。

かく言う私、「日本三大秘境」の響きに魅かれ椎葉村に移住してきてまだ間もない身です。日々尽きることのないこの村の魅力をひとつ、またひとつと知りながら、ここでの暮らしを楽しんでいるところです。

春夏秋冬それぞれに、自然や伝統行事などの楽しみが散りばめられた椎葉村ですが、四方の山々が満遍なく色づく秋の紅葉はまた見事。そんな秋も深まる10月31日〜11月1日にかけての2日間、椎葉村に新しい観光の形を作ろうとする試み「親子で行く登山&伝統文化体験ツアー」の第1回目が開催されました。

参加したのは九州他県から訪れた2組の親子。ガイドやスタッフを含め総勢8名のアットホームなアウトドア旅に、登山初心者の私も同行させてもらいました。

初日の朝、宿の前での初顔合わせ。これからの登山を前にYAMAPアプリの設定をする大人たちをよそに、ソワソワと緊張した様子の子どもたち。

そこで、ちょっとジャブを打ってみることに。
「ねえねえ、椎葉村には、コンビニがないんだよ。」
「え!(そんなことって、あるの?)」

そうなんです。椎葉村には、これまで当たり前だと思っていたものが、当たり前に無かったりします。そんな都市部の生活とはかけ離れた“秘境”と呼ばれるこの地で、自然はもちろん、人との出会いや伝統文化とのふれあいも楽しんでほしいなあ。そんな思いもありながら、ツアーがスタートしました。

今回の参加者は5名。男の子1名(とういくん)とお父さん、女の子2名(いとちゃん・あんちゃん)とこちらもお父さんというアットホームな布陣

ベストシーズン! 紅葉色づく扇山を親子で登頂

ツアー1日目は、扇山(おうぎやま)登山からスタート。

扇山(1,661m)は椎葉村民にも一番親しまれている山で、毎年5月に行われる山開きは多くの参加者で賑わいます。また昭和54年に開催された「第34回日本のふるさと宮崎国体」で山岳競技に使用されたことをきっかけに、となりの白岩山(1,647m)へとつながる縦走ルートは、登山者に広く知られる様になりました。

この日は松木登山口からの登山ですが、今年の台風・豪雨災害により登山口までの車道が一部通行できなくなっていたため、1時間ほど手前から車道を歩いて登山口をめざしました。

参加者最年少のとういくん。初対面の他のメンバーに囲まれ、ちょっと緊張気味のよう。でも旅はまだ始まったばかり。これから2日間かけて、ゆっくり仲良くなれるといいな。

一方こちらは、いとちゃん、あんちゃんの仲良しコンビ。道路脇の植物に興味津々で、早速手にとってはのんびり寄り道です。

(左)サンゴみたいな植物発見! (右)ちっちゃな山栗は、とても濃厚な甘さ。ほとんどイノシシやシカが食べてしまい、なかなか人の口には入らないのです

大人たちもそれぞれのペースで山を楽しみながら、体を慣らします

体が温まってきたところで、登山口へ到着。いよいよ入山です。

扇山にはブナやヒメシャラ、シャクヤクなども生息しており、頂上付近にはシャクナゲの群生地も見られます。椎葉村観光協会の髙島さんのガイドを聞きながら、大人も子どもも「へえ〜」とうなずき勉強しつつ、ゆっくりと歩を進めていきました。

それにしてもこの登山道、地面がとってもふかふか。積もった落ち葉がクッションになって、先ほどまでのアスファルト道とは比べものにならない、やさしい歩き心地。ありがたいです。

椎葉育ちの髙島ガイド、山の知識も豊富!
踏み締める地面はこんな感じ。ちょっと疲れてうつむいても、赤く色づいた葉やコケに癒されました

中腹になるにつれ、紅葉の色づきも濃く深くなっていきます。

そして、山の楽しみ方もそれぞれ。旅の始まりに配られた地図を広げ、今どの辺かな?と確認しあったり、お父さんの持ってきたカメラで赤や黄色に染まった木々を写真に収めたり。

秋の山というのは、どこを切り取っても本当にフォトジェニック。カメラを抱えて登るのはなかなか辛いものですが、それでも撮りたい瞬間を前にすると、重さに耐えてきた甲斐もあります。

橙色の輝きに、足を止めてうっとり

紅葉を楽しみながらゆっくりと登ってきた登山道も、頂上まで残りわずかで最後の難関。少し険しい岩場が現れました。

ステッキを片手に、迷いながらも足を踏み出すとういくんに、「こっちから回った方がいいぞ」と後ろから声をかけるお父さん。振り返ることなく黙々と前に進んでいく息子の姿は、父にどう映ったのでしょうか。それをさらに後ろから見ている私も、どことなくジーンとした気持ちになりました。

そしてついに!扇山の山頂に到着!

秋晴れの澄んだ空の下、眺めはまさに絶景。大人たちはこの景色に大満足のご様子で、写真を撮ったり、たそがれながら遠くを見渡したりと山頂での時間を楽しんでいました。子どもたちも登り切った達成感からか、リラックスしたこの日一番の笑顔です!

ひと山登って、子どもたちも打ち解けてきたご様子。とういくんは使い捨てフィルムカメラ!渋い!

みんなで登ったぞ!やったー!

夕日を浴びながらの下山。朝とは違った葉の輝きがまぶしくてきれい

今回の登山ルート。豪雨災害の影響により、松木登山口から1時間手前の一般道から歩き始めた。YAMAPの該当地図はこちら

夜は国指定重要文化財で郷土料理を堪能!

登山の後は、お待ちかねの夕食タイム。

この日夕食をいただいた鶴富屋敷(つるとみやしき)は、椎葉村の観光スポットのひとつ。椎葉に伝わる平家落人伝説の主人公、平清盛の末族と言われる鶴富姫と、壇ノ浦の戦いで敗れた平家の残党を討伐するためにやってきた源氏・那須大八郎の悲恋の舞台となった歴史あるお屋敷です。昭和31年には国の重要文化財にも指定されています。

そしてちょっとすごいことに、このお屋敷、重要文化財ながら室内で食事を食べることができるんです。今回は、かまどのある土間「どじ」と呼ばれるお部屋を特別にご用意いただきました。

鶴富屋敷に到着。「どじ」と呼ばれる土間部分に興味津々。今でもかまどはお料理に使っているそう

食卓に並ぶのは、椎葉村の郷土料理。川魚や山菜、菜豆腐にそばなど、地元名産の品々です。見た目も鮮やか!

郷土料理が口に合うか心配だったのですが、子どもたちもパクパク食べてくれました!うれしい!

(左)椎葉村には焼畑農業が今でも残っており、そばの栽培も盛ん(右)ヤマメのことを椎葉では「エノハ」と呼び、馴染み深い川魚

こちらは、ご飯よりかまどの火に夢中。どの世代の男子も炎に魅せられるようです

椎葉の歴史を歩き、文化に触れる

ツアー2日目。この日はちょうど椎葉厳島神社で秋季例祭が行われており、神楽奉納も見られるということで足を伸ばしました。

椎葉神楽もまた、国の重要無形民俗文化財に指定された椎葉を代表する伝統のひとつです。

上椎葉地区の、椎葉厳島神社

ちなみにこの椎葉厳島神社は、平家落人を追ってきた那須大八郎が、椎葉山中で細々と暮らす落人たちと鶴富姫の姿を見て深く哀れみ、平家の守り神である安芸の宮島、厳島神社を勧請して建てられたものだと伝わっています。なんともロマンのあるお話ですね。

真剣に神楽を鑑賞する女子ふたり。目の前で見るのはきっと初めてだね

続いて、椎葉民俗芸能博物館へ。ここを訪れれば、椎葉村の四季や暮らし、今も受け継がれている慣習や民俗文化などが丸わかり。写真や民具、祭礼具などの充実した展示物を通して詳しく紹介しています。
ぶら下がったイノシシにびっくり!

国指定天然記念物 八村杉の迫力を生で体感!

さらに、椎葉に来たら見逃せないのは巨木の数々。村内には、「大久保のヒノキ」や「松尾の大イチョウ」となど固有の名前がついた巨木が点在しています。

中でも、十根川神社の「八村杉」の迫力は圧巻。下に立って大きな杉の木を見上げれば、感嘆の声がもれるのはほぼ間違いありません。ぜひ足を運んで見ていただきたいスポットのひとつです。

子どもたちは、分厚くてごつごつとした杉の樹皮に触れて「すごーい……」、堂々と太く天に伸びる八村杉を見上げて「……すごーい!!」。写真で見るのとは、全然違うよね。やっぱり、最後にここに寄れてよかった!

見上げて圧巻。首が痛くなるほどの高さです

自然だけじゃない!子どもも楽しめる図書館やボルダリング、ものづくり体験も充実。ワーケーションも!

旅の最後は、椎葉村に今年できた新施設、交流拠点施設Katerie(かてりえ)へ。「かてりえ」という名前は「かてーりの家」という言葉からきています。「かてーり」とは椎葉の伝統的な助け合いのことで、例えば田植えや稲刈り、そばの収穫など、互いに協力し合って暮らしを守ってきた村人たちがずっと大切にしてきたお守りのような言葉です。

村人だけでなく、遠くからここを訪れる人たちとも温かな交流が生まれることを願ってその名が付けられたKaterie(かてりえ)。立体的な展示が新感覚の図書館、レーザーカッターや3Dプリンタなどを備えたものづくりLab、ボルダリングもできる交流ラウンジなど、新しい楽しみを発見できる設備が盛りだくさんです。

レーザーカッターを使った木のキーホルダー作りやボルダリングも可能。ワーキングスペースもあったりします!秘境でもWi-Fi完備! 椎葉村のワーケーションについての記事はこちらから

最後の最後に、この旅一番の笑顔!

普段気付かなかった、自分の中の好奇心を発見!

2日間のモニターツアーもあっという間。さよならの時です。昨日、今日と旅に同行させてもらい、私が一番に感じたことは「新しいことは、やってみないとわからない」ということ。
 
もしかすると出発前、知らない人と一緒に山登りするなんて、つまんないなあ、面倒だなあと思っていたかもしれない子どもたち。本当は田舎に行くよりゲームをしてたかったのに、お父さんに連れられて嫌々おうちを出てきたかもしれません。

でも実際に知らない者同士、話をしながら一緒に山に登ったりご飯を食べたり、珍しい草木を見つけて見せあったり、きれいな景色の写真を撮ったりしました。初めて見る神楽に驚いたり、知らなかった歴史の話にわくわくしたり。

それは、大人も子どもも関係なく、新しいことに触れ、自分の中に眠っていた好奇心が起こされた証拠だと思うのです。

そして「夏はキャンプに、川遊びに来たい!」と、次なる冒険の約束をしてくれた子どもたち。椎葉村を好きになってくれたことが、私はとっても嬉しかったのでした。

お見送りする私たちへ、バスの中から手を振ってくれた皆さん。楽しい2日間をありがとう!

旅というのは、訪れる者も、受け入れる者にも発見がある。そうですね、そこには必ず新しい出会いがあるのです。また来てね!待ってるよ〜!


椎葉の旅を満喫できるツアーのお問い合わせはこちらから

このエッセイでご紹介した宮崎県椎葉村の旅に興味を持った方は、下記にご連絡ください。扇山の登山ガイド並びに村内の宿泊施設についてのご案内をいたします。

一般社団法人椎葉村観光協会
〒883-1601 宮崎県東臼杵郡椎葉村大字下福良1826番地108
電話番号:0982-67-3139 FAX:0982-67-3155
宮崎県知事登録 旅行業第3-164号

中川 薫

ローカルエディター

中川 薫

ローカルエディター

熊本県熊本市出身。高校を卒業後、アメリカや東京で映画製作を勉強。映画助監督や撮影スタジオ勤務などを経て、2020年より宮崎県椎葉村に移住。現地のローカルメディアづくりに携わりながら、カメラ片手に日本三大秘境での暮らしを満喫中。特技はバスケットボール。好きな映画監督は市川準。

YAMAP STORE

YAMAPが運営する登山・アウトドア用品のセレクトオンラインストア