神奈川県丹沢大山|親子キャンプ&登山体験で感じる子どもの成長

季節が移ろい始める10月の下旬。丹沢大山国定公園の麓にある秦野市表丹沢野外活動センターにて、YAMAPが主宰する親子向けの自然教育プログラムが実施されました。自然との触れ合いを通して、子どもたちはキラキラした好奇心を存分に発揮します。フィールドを舞台に成長していく子どもを見つめるお父さんは、どんなことを思ったのでしょう。そんな親子×自然の旅の様子をお伝えします。

2021.02.23

西村 健作

ものがたりエディター

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「宿題もうやった?」話すとしたら学校の話題と明日までの準備物。兄弟もいると喧嘩も耐えなくて、ゆっくり話したのはいつだっただろう? そんな思いもありつつ、 小学3年生になった長男といつかは実現しようと思っていた親子キャンプへ。初めてのテント泊に慣れない登山。山里の景色や水、心のこもった食事にも後押しされて、丹沢大山(おおやま)・三ノ塔を目一杯感じてきました。

表丹沢野外活動センターを拠点に、安心の山旅を開始

東京から車で約1時間半。9時集合なのに勢い余って8時に到着したのは、親子揃ってやる気十分だったから? 当日の天気は快晴。初心者親子キャンプ・山旅には絶好の機会になりました。

朝から絶好調の息子。3年生になって野球を始めました

集合時間まで余裕があるので、近くを散策。すでに標高は約400メートル。空気が澄んでいて、気持ちが綺麗に洗われていく。今日・明日とお世話になる秦野市表丹沢野外活動センターは、2005年から2年かけて改修が行われたそう。すでに職員の方が多数清掃をされていて、とても綺麗に整っていました。息子と二人で、あっちに行ったりこっちに行ったり。いつの間にか集合時間になっていました。

秦野市表丹沢野外活動センター。職員さんたちが気さくに話しかけてくれる

今回は、息子に自然体験をさせてあげることと、対話を楽しむことが目的。初日はサツマイモ掘りに魚のつかみ取り、湧水汲みに火起こし、テント設営と盛りだくさん。翌日の丹沢大山登山に向けてパワーを溜める初日を、どんな顔で楽しんでくれるのでしょうか。

共同作業のサツマイモ掘りで顔合わせ

今回の旅のメンバーと顔合わせ

まずは今日・明日のツアーをリードしてくれる、YAMAPの専属ガイド、ヒゲ隊長から参加者へ挨拶。言葉の訛りが懐かしく感じて出身を聞いてみると、同郷の鹿児島とのこと。急に親近感。挨拶に続いては、参加者各自からの目標宣言です。
「初キャンプ、本格登山を、息子と楽しむこと。二人で普段感じない発見をすること」。
宣言した後は、さっそく車に乗り込み、最初のアクティビティーであるサツマイモ掘りへ向かいます。

前日も幼稚園児のサツマイモ掘りを受け入れていた

「サツマイモは根からできると思われているけれど、大事なのは茎です。茎を植えることでイモができます」。 サツマイモ掘りをレクチャーしてくれるのは、地元農家の栗原さん。今回掘るのは“べにはるか“。他の品種よりも”はるか“に美味しいことが由来だとか。綺麗に整えられた畑に踏み入れると、土がふかふかで、なんだか気持ちがいい。

みんなでこんなにも掘りました。大きなサツマイモがゴロゴロ

スコップも使わずに、手でゴリゴリ。大きなサツマイモがいくつも出てきます。パンパンに大きく育っていて、甘そう。「顔よりもデカイんじゃない?」そんなことを言うと、素直に顔の前に持っていってくれました。サツマイモから出ている白い液はなんだろう。土の中に入れておくと長持ちするらしい。なんて、栗原さんからお話を聞いて、手元のフィールドメモにしっかり書き込んでいました。新しいことを逃さない、好奇心はこのまま持っていてほしいなと感じるサツマイモ掘りでした。

山の恵みを感じる魚のつかみ取りと自然の恵みを感じるお弁当

たくさんのサツマイモを車に積んで、また山の方へ30分ほど移動。「キャンプに行きたがっていたお母さんや弟たちにお土産ができてよかったね」そんなことを話しながら、水無川に隣接する滝沢園キャンプ場にやってきました。山間のキャンプ場で、少しひんやりする空気が気持ちのいい場所です。山旅当日も、たくさんのキャンプ客で賑わっていました。

空気がとても澄んで、リラックスにちょうどいい場所です

「さあ、魚のつかみ取りの準備をしよう!」ヒゲ隊長の声かけとともに、川にいけすを作ります。紅葉も進む時期の川は寒そうだなぁと遠目で見つつ、子どもたちは靴と靴下を脱いで、気にせずどんどん川へ。

男の子チーム。大雑把(笑) でもスピードは早い。どんどん石を組み合わせていきます

小学校6年生のお兄さんと一緒に、川をせき止めていきます。魚が逃げないようにするには? 大きい石と小さい石を組み合わせて…。一心不乱に準備をしていきます。完成したら、お待ちかねの“ニジマス”を投入です。

逃げるニジマスを追いかけ、ジャブジャブ。上手に捕まえていきます。「お父さんの分も頼むよ」と声をかけて、お父さんは楽をさせてもらおう。こんなに素直に楽しく取り組んでくれるのはいつまでかな? 貴重で可愛い姿をしっかり記憶して。気づいたら、割り当てよりも多くの魚をゲット。

内臓をうまく取って塩ふって。美味しくなれとお願いをして

滝沢園の方に、割り箸を使った魚の内臓の取り方を教わり、挑戦。なかなか難しかったよう。周りの仲間たちの協力も得ながら、魚を焼く準備ができました。「どんな味がするんだろう?」 炭火にのせてしばらくすると、ホクホクとした湯気とともに、美味しそうな、魚の焼ける匂いが漂ってきました。里山で育てた野菜をふんだんに使ったお弁当もいただき、満腹の様子です。

里山の恵み。魚に手作りこんにゃくなど、山からの癒しを一身に受けました

川の水にもう一度入ってみたり、水切りをしたり、少し川遊びを楽しんだら、キャンプ地へ戻る前に寄り道。秦野市表丹沢野外活動センターからすぐにある、葛葉の泉で湧水を汲みます。秦野市のある秦野盆地には多くの湧き水があり、秦野盆地湧水群として日本名水百選にも選ばれているほど。ミネラル分が豊富に含まれていて、料理にも最適なんだとか。この水で炊いたご飯は、どんな味がするのかな?

口飲んで「なんか柔らかい感じがするね」って、どこで覚えたその言葉?確かに軟水だ…

自分の寝床は自分で。テント設営と豪華な山里の夕食

職員の安田さんは、山はもちろん、子どもも好きそう。テントをテキパキと立てていきます

サツマイモ掘りに魚の掴み取り、山里のお弁当に、名水も楽しんで、すでに満喫モードですが、暗くなる前に寝床を確保しなくては。 野外活動センターに戻ってからは、テントの立て方や紐の結び方を教わり、自分たちでテント設営へ。

今回一緒に参加しているお姉さんにも助けてもらい、テント設営達成

今日はセンターのテントをお借りして、初めてのテント泊。重たいテント道具を場所まで持ってきて、一つずつ組み立てていきます。ペグ打ちも子どもの力で。こういう機会がないと、経験がしづらくなったハンマーの使い方も、やっているうちに徐々に上手くなり、綺麗にしっかりテントが完成。テント設営後は、テントの中の環境も整えます。マットを膨らませ、寝袋を用意し、ステキな秘密基地が登場しました。

こういう表情を見せてくれるのも、親として来てよかったなと感じる瞬間

飯盒でご飯を炊く時の音も聞いて、学びも多い夕食に

テントが張り終わったら火起こしと夕食の準備。母親の料理の手伝い経験もあって、野菜を切るのは得意なようです。いのししや鹿といったジビエメニューが次々と並び、キャンプとは言えないような豪華な食事がスタートしました。味噌味のボタン鍋に、ちょっと冷えていた体もポカポカに。

キャンプ場に併設されている大浴場もお借りして、さっそくテントへ。夜のテントはランプの光もあって落ち着いた雰囲気です。寝袋にくるまったら自然と親子トークがスタート。「鹿の鍋、おいしかったね! おなかパンパンだけど、もっと食べたかったな」。食いしん坊も大満足の初日を終え、明日の登山に向けて早めに休みました。

丹沢大山・三ノ塔へ登山開始。隊長を任され、責任重大!

朝日が昇る山と秦野市。そして、海

暖かい寝袋でもう少しまどろんでいようかと思っていたところ、朝日が見たいという息子。テントを出てみると、ツンと冷える秋空が広がっていました。海と山と街が全て見える絶景も、テントを出ただけで見られる贅沢。朝飯前にテントたたみを終えて、山登りに向けた腹ごしらえ。自分たちで汲んだ湧水を使って、焚火で炊いて握ったおにぎりは、息子にとっていい思い出になったようです。

湧水で炊いたご飯で握った焼きおにぎりと、昨日収穫したサツマイモ

初めての親子本格登山へ

そしていよいよ、この山旅のメインイベント「親子登山」。山頂で食べるお弁当を受け取り、今日の親子旅の記録にYAMAPを設定し,9時18分、さあ登山のスタートです。丹波大山、二ノ塔から三ノ塔を目指すルートへ向かいます。

本日のルート。該当の地図はこちら

良いタイミングで隊長交代。子どもの成長が感じられる瞬間

ツアーをリードしてくれるヒゲ隊長の軽快なトークとともに、どんどん登っていきます。「よーし、じゃあ、ここで隊長交代!」 山登りに慣れてきた子ども達を見て、先頭を歩く隊長を順番に交代。道はどっちに進む? みんなはついてきている? 身体も疲れてきている中で、頭も感覚も使って登っていきます。

運動不足の大人にはちょっと大変な山道

アスレチックのような岩場や、木の根を避けて通る林間道、赤土に足を取られながら、一歩づつ。「ここ頭の方に木があるので気をつけてくださーい!」「みんなついてこれていますかー?」先頭を歩く隊長代理の息子の声。確かにさっきヒゲ隊長も同じことを言っていたけれど、本当によく聞いて実行しているなと感心して親バカになりつつ、(ちょっと待って…)と声も出せない父。途中の景色と山道のかわいい花が背中を押して、やっとこさ足を上げて進みます。

山頂へ到達! 差し込む光と富士の絶景が疲れを癒す

丹波大山三ノ塔。標高1,205m到達!

足もガクガク、肩で息をする父を後ろに、スイスイと登っていく息子。先頭で他の大人に見守られながら、丹波大山三ノ塔、標高1,205mに到達!休憩も取りながら登った登山時間は2時間26分。登り切った先には、360度遮るものがない、どこまでも広がる山と空。一気にやり切った達成感が、疲れた身体に駆け巡ります。

頂上で食べる、里山の恵みが詰まったおにぎりは格別

山頂で長男と達成を認め合うハイタッチをしてから、おにぎりを頬張ることに。山の幸がふんだんに使われたおこわにぎりなど、景色だけでなく口でも山を感じます。

山頂では、この2日間の山旅クイズ大会が開かれました。「サツマイモの白い液は何?」「山の途中で見かけた植物、3つ答えよ!」「ニジマスの英語名は?」など、山旅での経験を振り返るクイズ。しっかり逃さないようにメモしていた息子ですが、1問、どうしても答えられない問題があり、悔し涙を流す場面も。素直さと真面目さと負けん気を、しっかり伸ばしていきたいと感じる山頂の時間でした。

ワクワクとハラハラのキャンプと登山ツアー。そして。

雲の切れ間には富士山

雲の切れ間から覗く富士山を撮影。いずれは富士登山と心に決めつつ、山頂での休憩時間を1時間ほどで切り上げ、登頂とは別ルートで下山開始。

いつの間にかススキをリュックへ。こういうところも息子のいいところ

山の中は、木の陰に隠れてすでに暗くなり始めていました。急な下り坂で足を滑らせるシーンもあり、登頂よりも神経を使います。下山隊長の安田さんより、「目で見て危ないなと感じるところは、みんな注意するから大丈夫だけれど、その先が危険。危ないなと思った次の場所で気を緩めないように」と危険を乗り越える心構えなども教わりながら、ゴールへ。

流石に疲れた息子に、ベンチに座る特別権

2時間28分の下山を経て、とうとうスタート地点の秦野市表丹沢野外活動センターに到着。山頂の時間も含めて、全行程6時間45分の登山が完了しました。ここまで一度も泣き言を言わず、荷物も誰かに渡すこともなく、隊長代理ではない時も2番目を歩き切った息子。いつの間にか、私も驚く体力と根性・負けん気を身につけていました。

ヒゲ隊長から登頂証明を授与。おつかれ山(さん)ポーズで締めくくり

2日間を通して、息子の成長を間近で感じられる最高の山旅になりました。朝晩寒くなりそうなため、テントではなく宿泊棟の利用を提案された時も「外じゃないとキャンプじゃない」と意志をはっきり伝えたり、登山の隊長代理では、チームメンバーの様子を見ながら注意を伝えたりと、親としては知っていると思っていた息子の姿を、はるかに超えた成長を見せてくれました。

ツアーをリードしてくれたスタッフ陣からも、「大人は口を出しすぎない」「はい、そこは正解を言わない。指示しない」など、親へのアドバイスも多数ありました。一つの目標に向けて、普段関わらない斜めの大人との関係や同世代の子どもたちとの緩やかな競い合いが、達成につながったのでしょう。

短くも濃い山旅2日間。親子と自然との対話を楽しみました

母親の前では甘えてなかなか行動に移さないところもある息子ですが、親に聞くこともなく発言し、道を決め、歩き、教わったことをメモと頭に記憶。親に正解を聞こうとするのではなく、自然の状況や周りの大人たちから得られる情報を頼りに、自分で決めて動く力は、この2日間通して得られた成長だったに違いありません。

「ワクワクもしていたけれど、この道でいいのかハラハラもしていた」

こんな言葉に表された、ちょっと背伸びして達成した今回の経験が、この先の息子の将来に繋がってくると信じて。

西村 健作

ものがたりエディター

西村 健作

ものがたりエディター

自分では表現しきれない、本当に伝えたかったことにそっと寄り添って増幅して。必要な人に伝える、ものがたりエディター。自分テーマ「子育て×教育×キャリア」に、最近は「登山」が加わりました。登るときは必死だけれど、登り切ったときの爽快感が忘れられません。初仕事をもらってから月1ペースで、家族で登っています。自然の中で感じること、人の気持ちの変化に心を向けて、今日もコツコツ活動中。