安達太良山(福島県)|“ほんとの空”と爆裂火口といで湯を巡る絶景ハイク

日本百名山にも数えられる東北の名峰「安達太良山(あだたらやま 1,699m)」。山頂には遮ることのない360度のパノラマが広がり、目を落とせば、大地の躍動を感じる爆裂火口が見る者を圧倒します。この記事では、安達太良山の絶景を楽しみ、くろがね小屋で癒しの温泉を楽しむ1泊2日の山旅をご紹介します。

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2021.09.06

YAMAP MAGAZINE 編集部

INDEX

山と山麓の特徴

南東北を代表する山のひとつ「安達太良山」。東北新幹線の車中から眺めるその穏やかな姿は、東北にやってきたことを実感させてくれます。山頂部に小さく突起する岩峰が女性の乳房を連想させることから“乳首山”との愛称もありますが、山頂の西面に大きく口を開ける爆裂火口(沼ノ平)を望めば、この山がいまも胎動を続ける火山であることがよくわかります。火山だけに温泉も魅力で、東斜面の標高1,345m地点には、山中唯一の山小屋・くろがね小屋や8km下流にある岳(だけ)温泉の源泉が湧出しています。紅葉の名所でもあり(TOP写真)、稜線上では9月中旬~10月上旬、山腹では10月上旬~中旬にかけて見頃を迎えます。

彫刻家・詩人である高村光太郎が妻・智恵子との思い出を綴った純愛詩の名作『智恵子抄』にも、安達太良山は「阿多多羅山」の名で登場しています。東京で病魔に冒された智恵子にとって安達太良山の空は、心も身体も癒してくれる美しい故郷の象徴。智恵子はその情景を「ほんとの空」という言葉に込めたのです。この空のもとに広がる二本松市には、先述の温泉をはじめ、造り酒屋や数々の郷土料理、智恵子の生家、そして40本近くある桜の名木・古木など、見逃せない立ち寄りスポットがいっぱい。ある日の岳温泉に泊まった人だけが知る“秘密のミルキーデイ”にもご登場願い、安達太良山と山麓の魅力を紹介しましょう。

鉄山・峰ノ辻分岐付近から見た沼ノ平の爆裂火口壁。火口内は有毒ガスが発生し立入禁止となっている

なだらかな山容に隠された爆裂火口に驚き、いで湯湧く山小屋に一夜を過ごす山旅

山頂駅まで10分で運んでくれるあだたら山ロープウェイ(写真提供:二本松市観光協会)

安達太良山のメインコースは、あだたら山ロープウェイ山頂駅から「ほんとの空」碑を経由して安達太良山をめざすコース。山頂への最短路でもあり、1時間20分前後で安達太良山の頂(安達太良本峰)に立つことができます。通過困難な箇所や迷いやすい分岐などもなく、天気が安定していれば、ビギナーでも対応できるコースです。日帰りで歩かれることがほとんどですが、今回はこの山の売りである絶景に加えて、爆裂火口・沼ノ平の壮絶な眺め、そしていで湯湧くくろがね小屋の宿泊も楽しむ欲張りコースを取り上げます。

安達太良山の北にそびえる標高1,709mの鉄山。左下に見える建物はくろがね小屋

登山DATA

グレード:初級
日程:1泊2日
歩行時間:5時間
歩行距離:10km
累積標高差:登り534m・下り943m
登山適期:5月中旬~11月上旬
アクセス:行き=JR東北本線二本松駅から福島交通シャトルバスの直通便で奥岳へ(約50分)。奥岳からあだたら山ロープウェイ(10分)で山頂駅へ。帰り=往路を戻る。※二本松~奥岳間は岳温泉乗り換えの便もある(直行便・乗り換え便ともに運行日要確認。運行日以外は二本松駅または岳温泉からタクシーを利用する)。マイカーは東北自動車道二本松ICから国道459号、県道386号などを経由して奥岳の無料大駐車場(約1,500台)へ約17km。

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山頂駅~安達太良山

登山のスタートは、ロープウェイに乗って約10分で到着する山頂駅の裏手から登山道に入ります。すぐに現れる分岐を右に行って薬師岳頂上広場に立てられた「ほんとの空」碑に短い寄り道を。「この上の空がほんとの空です」と書かれた碑の立つ広場からは、“乳首山”そのものの姿を見せる安達太良山や矢筈森の岩峰が見渡せ、テンションが高まってくることでしょう。

高村智恵子も眺めた「ほんとの空」が広がる薬師岳頂上広場からの景色。左から安達太良本峰、矢筈森、鉄山(写真提供:二本松市観光課)

しばらくの間、ゴヨウマツやハクサンシャクナゲが茂る樹林帯をゆるやかに登ると仙女平分岐の広場に到着。ここで表登山口(県民の森)からの道が合流し、登山道は傾斜を増していきます。ウラジロヨウラクやノリウツギが目立つ灌木帯を登れば山頂の岩峰が大きく迫ってきます。やや歩きにくいガレ場を行くと山頂下広場で、スリップに注意して岩峰を登れば360度の大展望が広がる安達太良本峰の頂です。絶景をしばし楽しみましょう。

安達太良本峰直下はガレ場の道。視界不良時はペンキ印を頼りに進む

安達太良山~くろがね小屋

山頂下広場に戻ったら、「牛ノ背」と呼ばれる広い尾根を北へと向かいます。沼ノ平の荒々しい火口壁が見えてくれば鉄山・峰ノ辻分岐。ここから東に下れば、峰ノ辻を経てくろがね小屋に至りますが、天気が安定していれば安達太良本峰より標高が10m高い鉄山(てつざん 1,709m)を往復するのもオススメです。往復には1時間とかからず、山頂からは迫力ある沼ノ平をはじめとするすばらしい眺めが広がります。ただし、コース上には痩せた稜線もあり、荒天時には注意が必要です。

鉄山・峰ノ辻分岐へと続く広々とした牛ノ背

鉄山・峰ノ辻分岐に戻ったら、峰ノ辻をめざして東に下りましょう。十字路になった峰ノ辻からは、勢至平へと続く登山道には入らず、北方向に延びる登山道をくろがね小屋へと下ります。なお、日帰りの場合は直接、勢至平に下ったほうが時間の短縮が図れます。勢至平は初夏、レンゲツツジやシャクナゲが美しいところです。

牛ノ背から見た篭山(中央)。その左の鞍部が峰ノ辻

30分ほど下ると現れる通年営業の山小屋・くろがね小屋は、あるWEBサイトの「美肌の温泉地ランキング」で3位に選ばれており、代々受け継がれる秘伝のカレー(宿泊者限定)も人気です。ただしコロナ禍の影響で、当分の間、宿泊にはシュラフが必要となっているのでご注意ください。小屋の上部には源泉帯があり、1割がくろがね小屋、9割が8km下流の岳温泉(後述)に引かれています。源泉帯では「湯守(ゆもり)」と呼ばれる人たちが源泉の管理を行ない、お湯を守り続けています(くろがね小屋や湯守についてはこちら)。

くろがね小屋は温泉付きの県営山小屋。通年営業。要予約。立ち寄り入浴可。TEL090-8780-0302。※建て替え予定のため、営業は2023年3月31日まで(写真提供:いずれも福島県観光物産交流協会)

くろがね小屋~奥岳登山口

山小屋での宿泊を満喫した翌朝は、勢至平、奥岳登山口に向けて下山しますが、奥岳登山口まで1時間30分ほどなので慌てなくても大丈夫。小屋から下り始めてすぐ、塩沢温泉に向かう湯川コースを左に分け、ゆるやかに下ります。ほどなく、峰ノ辻からの道が合流する勢至平で、6月頃ならレンゲツツジのオレンジ色に染まっていることでしょう。南西方向には安達太良山も望めます。勢至平からゆるやかに下り、林道合流点を過ぎて急になった斜面を、こんどは林道のショートカットを繰り返しながら歩きます。スリップに注意しつつ烏川を渡って歩を進めれば、日帰り温泉「奥岳の湯」とシャトルバス乗り場がある奥岳登山口に到着です。

(上段)勢至平付近に多く咲くレンゲツツジ。ツツジ科の落葉低木で有毒、花期は6月前後。(下段)同エリアでは、タニウツギやベニサラサドウダンなども見られる

その他のコース

ロープウェイを使ったコース以外に、同じ二本松市の塩沢登山口(塩沢温泉)からのコース(山頂まで約3時間30分)、南東側の大玉村・表登山口からのコース(山頂まで約4時間)、南西側の郡山市・銚子ヶ滝登山口からのコース(約4時間30分)、西側の猪苗代町・沼尻登山口からのコース(約3時間)、北側の福島市/猪苗代町・旧土湯峠からのコース(約4時間)などがあり、健脚者ならこれらのコースをつないで歩くこともできます。上部は吹きさらしになっているので、天気の予測はくれぐれも慎重に。

矢筈森付近から振り返った安達太良本峰

下山後のお楽しみスポット

四季折々に美しい自然に囲まれた高原の岳温泉郷。写真は新緑のころ(写真提供:岳温泉観光協会)

安達太良山の迫力と美しさを満喫した翌日は、麓に広がる高原の温泉郷、岳温泉街を散策。岳温泉では透明な湯が白く濁る日(ミルキーデイ)が毎週1日だけあるので、この日をめざして訪れるのも一興です。温泉街の南東にある緑ヶ池では、水面に乳白色の模様が描かれる幻想的な光景にも出会えます。日帰り入浴施設を巡ったり、老舗の酒蔵見学、郷土料理を味わうのも楽しいもの。詩集『智恵子抄』で知られる高村智恵子の生家と記念館に立ち寄り、安達太良山の抜けるような青空に再び想いを馳せてみませんか。

岳温泉街とミルキーデイ

豊かな自然に恵まれ、昔ながらの温泉街の風情もある岳温泉は、全国的にも珍しい酸性泉で、美肌の湯としても有名です。安達太良山の標高1,500m付近の源泉から8kmの距離を約40分かけて引き湯しているため、湯樋に付着した湯花を定期的に流し落とす作業を行っています。作業は1年を通して毎週行われ、その日は温泉の湯が湯花で白濁するミルキーデイに。温泉街には日帰り入浴施設や足湯があり、温泉成分たっぷりのミルキーな湯を楽しめます。ミルキーデイの日程は岳温泉観光協会のSNSで公開しています。詳細はこちら

(左)ミルキーデイには温泉の湯が乳白色に。(右)ミルキーデイには足湯もミルク色(写真提供:いずれも岳温泉観光協会)

緑ヶ池

ミルキーデイに岳温泉を訪れたら、ぜひ足を運んでみたいのが鏡ヶ池公園の隣にある緑ヶ池。安達太良山中の源泉から引き湯された温泉は最終的にはこの池に注がれるので、エメラルドグリーンの池の水面に乳白色の模様が描かれます。新緑、紅葉、雪景色と、四季折々の絶景とミルキーデイのコラボは感動的な美しさ。天気が良い日には安達太良山も眺望できます。

ミルキーデイの緑ヶ池は幻想的な雰囲気に…(写真提供:岳温泉観光協会)

スカイピアあだたら

数種類のお風呂が楽しめる日帰り温泉施設。高原の爽やかな景色を眺めながら、筋肉痛や冷え性などに効能のある単純酸性温泉の湯に浸かれます。250席の休憩コーナーやレストランがあり、定食やそば・うどん、ピザなどメニューも豊富。隣接する全天候型インドアパーク「スカイピアあだたらアクティブパーク」では、スケートボードやスポーツクライミングなどのアクティビティを体験できます。詳細はこちら

(左)浴室からは安達太良山高原の景色を一望できる。(右)隣接する「スカイピアあだたらアクティブパーク」ではスポーツクライミングを体験可能(写真提供:二本松市振興公社、二本松市観光課)

大七酒造

1752年(宝暦2年)の創業以来、自然の乳酸菌の力を利用した伝統的醸造法「生酛造り(きもとづくり)」一筋に美酒を醸し続けてきた伝統ある酒造。独自に開発した「超扁平精米技術」により雑味の元となる成分を徹底除去した日本酒は、すっきりした飲み口ながら、奥深い旨味と余韻。各種コンクールで数々の栄冠に輝き、国内外で高い評価を得ています。酒蔵では、工場と仕込み蔵内の見学が可能(試飲付き)、事前に予約が必要です。詳細はこちら

左から力強さと優美さが両立した純米大吟醸酒「大七頌歌」、上品な芳香とやわらかに円熟した緻密な舌ざわりの純米大吟醸酒「大七箕輪門」、奥ゆかしい芳香と艶のある味わいの純米吟醸酒「大七皆伝」(写真提供:二本松市観光課)

智恵子の生家・智恵子記念館

高村光太郎の名作『智恵子抄』で有名な高村智恵子の生家。明治初期に建てられた造り酒屋の建物を当時の面影そのままに復元しています。建物の入り口には新酒の醸成を伝える杉玉が下がり、2階には智恵子の部屋があります。裏庭に建つ「智恵子記念館」には、明治から大正にかけて洋画家として活躍した智恵子の油絵や紙絵の作品が展示されています。詳細はこちら

智恵子の生家は屋号「米屋」、酒銘「花霞」の造り酒屋だった(写真提供:二本松市観光課)

郷土料理「ざくざく」

二本松市の郷土料理「ざくざく」は、人参、大根、ごぼう、こんにゃく、鶏肉など、たくさんの具材をザクザクとさいの目に切って作る汁物。具材や味付けは家庭や地域によって違いがあり、それぞれのおいしさを楽しめます。市内のカフェや先述の「スカイピアあだたら」内のレストランでも味わうことができます。

各家庭の味が伝承されてきた郷土料理「ざくざく」(写真提供:二本松市観光課)

アウトドアや温泉だけでなく歴史・文化も個性あふれる二本松

県庁所在地である福島市と県内有数の人口集積地・郡山市に挟まれながら、十万石の城下町・二本松市は独自の存在感を放ち続けています。ここで紹介した安達太良山登山や岳温泉だけでなく、日本三大提灯祭りのひとつといわれる「二本松の提灯祭り」(10月)や日本最大規模とも謳われる「二本松の菊人形」(10~11月)、400年以上の伝統がある山車祭り「針道のあばれ山車」(10月)などの祭り・イベントも大きな見どころ。いずれもこれからの秋に開催されるものです(新型コロナウイルス感染拡大状況によっては中止となる場合があります)。

1日、2日ではとてもめぐりきれないほどに観光の幅も広く、福島市、伊達市、相馬市などとともに福島県北部のアウトドア観光エリアの一拠点である二本松市の旅は、誰をも飽きさせることのない味わい深さに満ちています。ぜひ二本松市で、火山の恵みや歴史・文化に触れる魅力的なハイキングと旅を満喫してください。

文:森田秀巳、後藤厚子


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雄大な山々と美しい海が広がる魅惑のエリア、福島県北東部。震災からの復興も目覚ましいこのエリアを舞台に、大好評のYAMAPピンバッジキャンペーンが2021年9月7日(火)〜 11月7日(日)にかけて実施されることとなりました。舞台となるのは、「一切経山(いっさいきょうざん・福島市)」「安達太良山(あだたらやま・二本松市)」「霊山(りょうぜん・伊達市)」「みちのく潮風トレイル相馬市ルート(相馬市)」の4トレイル。東北の秋の絶景を巡り、限定ピンバッジをGETできるこの機会をお見逃しなく!

YAMAP MAGAZINE 編集部

YAMAP MAGAZINE 編集部

登山アプリYAMAP運営のWebメディア「YAMAP MAGAZINE」編集部。365日、寝ても覚めても山のことばかり。日帰り登山にテント泊縦走、雪山、クライミング、トレラン…山や自然を楽しむアウトドア・アクティビティを日々堪能しつつ、その魅力をたくさんの人に知ってもらいたいと奮闘中。