表丹沢、東丹沢、西丹沢、北丹沢と4つのエリアに区分けされている丹沢山塊。そのうちの表丹沢エリアの最高峰で、その眺めの良さなどから、最も人気のある山が塔ノ岳(1,491m)です。
未経験・初心者はもちろん、初心者から中級者を目指したい方や、友人・知人を連れていきたい経験者におすすめコースについて、登山ガイドの上田洋平さんが厳選してくれました。
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2025.06.19
上田洋平
登山ガイド
塔ノ岳の山頂から、富士山を眼の前に見渡せる絶景が広がる
①表丹沢エリアの最高峰で一番人気の山
②人気の大倉尾根には山小屋やトイレが何軒もあって女性も安心
③山頂からは富士山、丹沢、海を望む360度の大展望
三ノ塔山頂から丹沢表尾根と富士山を眺める
登山コースが複数あり、初心者から中級者への登竜門として楽しめるのが塔ノ岳(1,491m)。
塔ノ岳の大倉尾根からの山頂部は広く開けていて、『日本百名山』の丹沢山(1,567m)や、丹沢山塊最高峰の蛭ヶ岳(1,672m)をはじめとする丹沢の山々はもちろんのこと、富士山(3,776m)や南アルプスの高峰、房総半島に三浦半島、相模湾に江ノ島まで望むことができます。
日本三百名山にも指定されている塔ノ岳は、東西南北に尾根が派生して登山道の交差点となっており、東側の表尾根、南側の大倉尾根(通称バカ尾根)、鍋割山(1,272m)からの縦走や、北側の丹沢主脈を縦走する人など、多くの登山者で賑わいます。
登山口にはトイレ、また登山道にも山小屋やトイレがあるため、初心者が不便な思いをして山から遠ざかってしまう心配もありません。
塔ノ岳は表丹沢を代表する名峰で、標高差が1,000m以上あるため、初心者や体力に不安のある人は山頂付近の山小屋で1泊すると良いでしょう。
表尾根コースでは一部ですがロープ場やクサリ場もあるので、十分な注意が必要です。
また、山頂へのコースが多いため、どの道がよいのか分かりづらいことも。そこで、登山ガイドの上田洋平さんに、魅力別な3コースに絞って紹介していただきました。
①バスでも車でもアクセスしやすい登山口
②丹沢名物の木段が続き、トレーニングに良い登山道
③所々に山小屋があり、登山者も多いので安心
コース定数:32(コース定数とは?)
コースタイム:約8時間10分
歩行距離:13.1km
累積標高差(上り)1,314m
累積標高差(下り)1,314m
大倉バス停から歩き始めます。車の場合は付近に有料駐車場が数カ所あります。大倉バス停にはトイレがありますので、登山開始前に立ち寄っておくとよいです。
約10分、道路を登ったところにある丹沢大山国定公園の標識が登山道のスタート地点。最初はアスファルトの急登ですが、途中から山道に切り替わります。
登山道に入ってしばらくすると観音茶屋、その先の分岐を右に進むと見晴茶屋に到着します。ここからは江の島方面を見渡せます。
さらに1時間半くらい登ると、堀山の家に到着します。ここから先は急登になりますので、ベンチのあるあたりで休憩しておきましょう。
ここからは木段が連続する急登です。心拍数を上げすぎないように、ペース配分に気を配りつつ登りましょう。
また、階段を登るときは同じ筋肉を酷使してしまいがちなので、同じ筋肉ばかり使わないように歩幅を変えたり、足を置く角度を変えたりして調整するのがおすすめです。
展望が開けた花立山荘まで来れば、塔ノ岳山頂まで1時間かからない距離まで来ました。
山荘で、料理や名物のかき氷を注文して、しっかりと休憩しておきましょう。
ちなみに名物のかき氷は、秦野の名水を凍らせたものを下から担ぎ上げているそうです。
暑い時期はカラダに染み渡る美味しさです。
花立山荘から先には、一部道が細くなっている箇所があるので、注意して進みます。
分岐点の金冷シ(1,368m)を右へ進みます。30分弱登れば塔ノ岳山頂に到着です。左に進めば鍋割山(1,272m)へ行けます。
塔ノ岳山頂は、天気のよい週末には多くの登山者で賑わいます。
山頂にある尊仏山荘という山小屋にはトイレがあって宿泊も可能です。初心者の方で体力に自信の無い方は無理せず1泊するとよいでしょう。
宿泊した場合は富士山に沈む夕日を眺めたり、名物のおでんを食べたり、夜景鑑賞ができたりなど、また違った楽しみがあります。
山頂からは西側から南西側にかけて南アルプス、富士山(3,776m)、駿河湾、箱根峠方面へ延びる箱根外輪山などを望むことができます。
山頂付近はテーブルやベンチもあるので休憩しやすいです。風が強い場合はバーナー等の火気の使用に注意しましょう。
下りは往路を戻ります。下りはやや疲れが出てくるときなので、転倒や滑落に注意。時間に余裕を持った計画を立てましょう。
大倉登山口に水洗トイレ、登山道沿いの山小屋にバイオトイレ(有料)があります。
山頂にある尊仏山荘のトイレも使用可能です。
三ノ塔付近から見た丹沢表尾根と富士山
①表丹沢随一の見晴らし眺められる稜線歩きコース
②縦走なのでヤビツ峠まではバス移動がオススメ
③鎖場もあるので慣れていない人は慎重に
コース定数:32(コース定数とは?)
コースタイム:約8時間10分
歩行距離:13.9km
累積標高差(上り):1,227m
累積標高差(下り):1,702m
スタート地点は「ヤビツ峠(766m)」。小田急秦野駅からバスで約50分です。トイレもあるので、登山開始前に立ち寄っておくとよいでしょう。
ヤビツ峠から北西方面に道路沿いに下り、富士見橋公衆トイレを左折すると登山道が始まります。
最初は階段状になっている樹林帯を三ノ塔(1,204m)方面を目指して進みます。
すぐに菩提峠方面から繋がっている林道に出るので、三ノ塔方面へ進みます。
登山道に入ってから1時間ほど急登を登れば二ノ塔(1,141m)に到着します。
テーブルも設置されているので、ここで水分や行動食を補給し、三ノ塔へ向かいます。
二ノ塔から一旦下って登り返せば三ノ塔へ到着します。
富士山と表尾根の全景がお出迎えしてくれます。
三ノ塔にはベンチ、休憩所、トイレがあるため、長い休憩をするのに適しています。
三ノ塔から烏尾山(からすおやま、1,136m)に行くまでにはヤセ尾根になっている箇所があるため慎重に進みます。
烏尾山の烏尾山荘(からすおさんそう)は2024年末で閉鎖され、トイレ等は使用不可なので注意して下さい。
トンネルに入っていくような錯覚を覚える道
烏尾山から先はアップダウンを繰り返す尾根道となります。
行者岳(1,181m)の前後には鎖場が出てきます。
表尾根で一番の危険箇所は、鎖が2つ設置されている箇所です。
三点支持(四本の手足のうち三本で体を支える技術)で確実に通過して下さい。
鎖場を下ったすぐ後に待ち構えるヤセ尾根も慎重に進みます。
ここを越えれば表尾根の難所は終わりです。
その後は政次郎ノ頭(1,209m)、新大日(しんだいにち、1,341m)とピークを越えると木ノ又大日(1,396m)の近くにある木ノ又小屋があり、宿泊することも可能です。
木ノ又小屋から約30分登ると、いよいよ塔ノ岳に到着します。
ここから先は① 大倉バス停発着 塔ノ岳往復コース から下るので、そちらを参照して下さい。
ヤビツ峠にある公衆トイレ
登山口のヤビツ峠には水洗の公衆トイレがあります。
登山道に入る直前にある富士見橋公衆トイレや三ノ塔にもトイレはありますが、冬期は水道管凍結により閉鎖されるので、神奈川県のHPで事前に調べておくと良いでしょう。
また、烏尾山荘にもトイレはありましたが、2024年末に山荘が閉鎖されたことにより、トイレも使用不可なのでご注意下さい。
木ノ又小屋には山荘内に有料トイレがあり、靴を脱いで使用します。
山頂には尊仏山荘の有料トイレがあります。
小丸付近から見た鍋割山(右側)と富士山
①鍋割山・塔ノ岳を周回する健脚向けコース
②後沢乗越から先は長い急登で体力が必要
③鍋割山では有名な鍋焼きうどんを
コース定数:38(コース定数とは?)
コースタイム:9時間20分
歩行距離:17.4km
累積標高差(上り):1,544m
累積標高差(下り):1,546m
鍋割山と塔ノ岳を登る周回ルート。
スタート地点の大倉バス停から道路を南西方向へ道標に沿って20分程度進むと、アスファルト道から細い未舗装路になり、西山林道に入ります。
西山林道は高低差の少ない道で、日陰が多く涼しいですが、夏場はヒルに要注意です。
西山林道を進み、旧登山訓練所の建物を左手に見た後、二俣(ふたまた)に出るのでここで橋を渡って沢を渡渉(としょう)します。雨の日や雨の翌日は増水していることもあるので要注意。
二俣の先にある小丸尾根分岐。本コースでは後沢乗越から登るので、道標の「鍋割山」方面へ進みます。
西山林道の終点にはペットボトルがおいてあります。
体力に余裕がある人は沢の水を入れて鍋割山荘へ届けてあげましょう。
渡渉は3回行うので、増水時には注意が必要です。
3回目の渡渉の後から急登になり、しばらくすると後沢乗越へ到着。
後沢乗越からも急登です。所々傾斜が緩やかになって山頂と間違えそうになる偽ピークが22〜3個所あります。GPSで現在地を確認しておき、ガッカリしないようにしましょう。
急登を登りきれば鍋割山山頂に到着です。
鍋割山荘は宿泊は受け付けておらず、日帰りのみで利用できる山荘です。
月・金が定休日なので、鍋割山荘のHPで営業状況を確認してから行くと良いでしょう。
鍋割山に登ったら一度は食べたい鍋焼きうどん。
山の上で食べるうどんは最高です。
鍋割山から塔ノ岳へ向かうため、小丸というピークを目指して東へ進みます。
途中で振り返ると富士山や西丹沢の稜線が見えます。
小丸に到着後、東へ進むと小丸尾根分岐、さらに進むと大倉尾根の金冷シに合流します。
金冷シから先の塔ノ岳山頂まで、および下りのルートはコース①で紹介した大倉尾根コースを参照して下さい。
大倉登山口に水洗トイレ、鍋割山山頂にある鍋割山荘のトイレが使用可能です。
大倉から鍋割山までの登山道にはトイレはないため、注意して下さい。
下りの大倉尾根では登山道沿いの山小屋にバイオトイレ(有料)があります。
休憩するのに適したテーブルやベンチがある山頂付近
山頂付近には休憩するのに適したテーブルやベンチ、周辺には山小屋もあるのでゆっくり休めます。
三ノ塔の休憩所
コース②の表尾根コースでは三ノ塔山頂に休憩所があり、悪天候時でも利用できるのでありがたいです。
大倉尾根上にある花立山荘
大倉尾根には山小屋が充実していて、要所要所で休憩を取るのに適しています。
大倉バス停周辺に自販機があります。
ヤビツ峠周辺に自販機があります。
また、各山小屋で飲み物の購入が可能です。
大倉尾根で食事が充実しているのが花立山荘。
ここの人気メニューは玉子の入った月見うどんです。
花立山荘の名物は月見うどん以外にも。
それが、秦野の名水を凍らせて作ったかき氷です。暑い時期、山でのかき氷は最高です。
画像提供:ととのいの郷 秦野 湯花楽
塔ノ岳の近くには登山後の疲れを癒す温泉施設がいくつかあります。
下山後にお風呂で山の汗を流せば、最高の休日が出来上がります。以下におすすめの温泉施設を紹介します。
画像提供:ととのいの郷 秦野 湯花楽
湯花楽秦野店は、神奈川県秦野市に位置する日帰り温泉施設。2025年5月にリブランドオープンしたばかりで、館内には7種類のお風呂やサウナがあります。
人工温泉の露天風呂では全国の名湯を再現した多彩な湯船。特に高濃度人工炭酸泉は血行促進や美容効果が期待できます。
男性用サウナは100〜110℃に設定され、毎日熱波師によるアウフグースイベントを開催。瞑想的な時間を過ごせる小型小屋サウナもあります。
女性用サウナは80〜90℃に設定され、毎時間のオートロウリュウによる蒸気で髪や肌を保湿してくれます。
さらには、荷物預かりや車中泊サービス、土日祝限定無料お迎えバスなど、アウトドアを楽しむ方に嬉しいサービスも充実。
詳細はこちら:公式サイトを見る (アウトドア関連サービス等の情報はこちら)
*施設の説明は2025年5月時点の情報です。公式サイトなどで事前にご確認ください。
画像提供:名水はだの富士見の湯
名水はだの富士見の湯は、神奈川県秦野市にある2017年にオープンした日帰り温泉施設。地下100メートルから汲み上げた「秦野名水」を使用した天然温泉は「メタけい酸」を豊富に含み、美肌効果が期待できます。
露天岩風呂からは富士山を望むことができ、四季折々の景色とともに癒しの時間を過ごせます。富士見テラスでは地元食材を使った料理を楽しめ、売店では秦野の名産品も購入可能です。
詳細はこちら:公式サイトを見る
*施設の説明は2025年5月時点の情報です。公式サイトなどで事前にご確認ください。
【コース①, ③】
小田急線渋沢駅より神奈川中央交通バス大倉行きで15分。
終点「大倉」下車
【コース②】
往路:小田急線秦野駅より神奈川中央交通バスヤビツ峠行きで50分、終点「ヤビツ峠」下車
復路:大倉バス停から神奈川中央交通バス 渋沢駅行きで15分「渋沢駅」下車
新秦野ICを降りた後、県道706号線を経由して約12分
もしくは東名高速道路の「秦野中井IC」を降りた後、県道71号・52号・706号を経由して約9.5km進む
駐車場
大倉バス停付近には有料の駐車場が複数あり
運動する格好で登れる塔ノ岳
塔ノ岳を登る際には、以下のような装備が必要です。
登山靴:
登山靴はソールが滑りにくいことをチェックして下さい。
●登山靴について詳しく知る:足の疲労度が変わる!登る山をイメージして登山靴を履き分けよう
服装:
季節に応じた防寒・防水・通気性のある服装を用意しましょう。
肌着には速乾性の高いものを。急な天候変化に備えて、防風・防水のレインウェアも必要です。
●服装のレイヤリングについて詳しく知る:基本6アイテムを活用した、1日のシーン別レイヤリングをご紹介|登山装備のチェックリスト
ザック(バックパック):
水や食料、着替えなど必要なものを入れるためのザック(バックパック)。雨の日でなければ、ご自身が持っている旅行用のリュックサックでも良いでしょう。
●ザック(バックパック)について詳しく知る:登山用バックパックの選び方を徹底解説|「どれがいいかわからない」に終止符を
水筒:
季節にもよりますが、1.5L程度を準備しましょう。塔ノ岳では登山道沿いにある山小屋で飲み物を購入できますので、足りない分は補充するようにしましょう。
●水筒について詳しく知る:登山用水筒(ボトル)を3タイプで解説|自分にぴったりな一本を見つけよう【山登り初心者の基礎知識】
行動食:
エネルギー補給のために、栄養価の高い軽量な食料を用意しましょう。ドライフルーツ、ナッツ、チョコレート、スポーツドリンクなどが適しています。
●行動食について詳しく知る:山でバテない行動食の選び方とポイント|山のお悩み相談室 Vol.2
GPSアプリ・地図:
道迷いしないように、登山GPS地図アプリ「YAMAP」と地図をインストールしたスマートフォンで、事前にコースを確認しておくことも重要。GPSアプリを使う場合、バッテリーが減った場合に備えてモバイルバッテリー(容量10000mAh程度)も用意しましょう。
●登山地図GPSアプリについて詳しく知る:登山地図GPSアプリの活用法をガイドが解説【山登り初心者の基礎知識】
ヘッドライト:
日帰り登山であっても、怪我などのトラブルがあった場合、予定通り下山できずに日没を迎える可能性があります。その場合にそなえ、ヘッドライトを準備して下さい。
●ヘッドライトについて詳しく知る:登山用ヘッドライトの選び方|日帰り登山でも必要なアウトドアの必需品【山登り初心者の基礎知識】
あると便利なもの:
手袋、帽子、サングラス、日焼け止め、ストック、防虫スプレー、ヤマビル忌避剤、タオル、救急セットなど、そのときの天気などに応じて用意しましょう。
●手袋について詳しく知る:登山用グローブの悩みを解消! 理想の一双が見つかる選び方を徹底解説
●サングラスについて詳しく知る:目の日焼けが体力を奪う原因に! 登山の紫外線対策に必須のサングラスを正しく選ぼう
事前にしっかりと準備し、安全に登山を楽しんでください。
執筆・写真協力:登山ガイド・上田洋平