「世界の地図を広げたい」 YAMAP専属アウトドアガイド「ひげ隊長」の流儀

ヤマップのお膝元、九州・福岡で始動した知られざる山の魅力を発信する山番組「やまプリ」(RKB毎日放送)。「やまを感じて、やまに感謝する」このシンプルな番組コンセプトが、都市と自然の近接性を知る県民のハートに火をつけはじめているという。同番組のナビゲーターを務め、区切りのシーズンを終えたYAMAP専属アウトドアガイド「ひげ隊長」に今後に向けた思いを聞く。

2021.10.16

千田 英史

YAMAPスタッフ/PRマネージャー

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「ひげ隊長」の朝は早い

「ひげ隊長」の朝は早い。人生49年目にして初の「生放送」を控えているからだ。番組名は「やまプリ」。山への感謝(アプリシエイト)が自然と湧き出してくる。そんな番組を目指して、今年の7月にスタート。第一章を終えた。

番組と隊長を見ているうちにふと気づいたことがある。それは、アウトドアガイドと生放送の「構造的同一性」についてだ。

事前にガイド計画を立て(シナリオを描き)、ポイント(カット)を決め、参加者(視聴者)に伝達し、発見や学びを提供すること。円滑な進行が期待されること。簡単にやってるように見えること。一期一会であること。アウトドアガイドとかけ生放送と解くその心はどちらもアクシデンタルだったりする。

映像をフレームの連続と捉えるのと同じように、流れの中に垣間見える瞬間に光を当てる。そんな刹那的で希少な仕事を担うプロフェッショナル。それが「ひげ隊長」なのだ。

ー と、私は思います。

ひげ隊長:知らんがな(苦笑)

ー 準備してきた感をあらわにしない、本業の隊長と重なったんです。

ひげ隊長:アウトドアガイドもライブやからね。ライブこそ準備が要るけど、ライブ感が失われるとアカンって根底では思ってるね、たしかに。ほら、お遊戯会みたいに準備してきたことをただ披露する場所じゃないからさ。楽しみに来てくれた方の楽しさが一番やし。

ー 現場に集中ですね。

ひげ隊長:そう、その上で大切なのは「機転」やと思ってて。この「機転」ってほんまに自分が見聞きしたものとか、体験からしか出てこんやん? だから、やまプリでもとにかく経験を掘り出すってことに汗かいた3ヶ月やったね。YouTubeは撮り直せるし優秀なスタッフもいるけど。ライブはちゃうからね。

ー 振り返って、手応えはいかがでしたか?

ひげ隊長:そら視聴者の方というか、相手が感じてなんぼのことやから。自分ではあまり分からんけど、これまで山を知らんかった視聴者の方から「こんど井原山行ってみます」とか、そういう声が届いてるって聞いたのは、やっぱり嬉しかったよね。

ひげ隊長:登山を始めたスタッフも増えた。2人の子供連れて立花山行きましたとか、担当ディレクターなんて毎週登るようになった(笑)。視聴率も良いらしいし、そういう変化はシンプルに嬉しいことやね。

あと、今も緊張はするんだけど、ほんまに「自然やったな〜」と思う。これは、視聴者の方・共演者の方・スタッフ、誰に対しても本当に変わらない。このまんま。たまにええんかなって反省もする。逆に聞くけど、どうだった?

ー 最初の頃と比べると、格段に自然になったと思います。肩肘張ることもなく。

ひげ隊長:(笑)。YouTubeのほうがもっと自然やけど、やまプリでも「ここで絶対これ言おう」とか、この台詞でなんて言うか「決めたろう」「よく見せよう」とか本当無いんよ。シナリオ通りにいかないから。

ー リハーサルと本番が全然違うって仰ってましたね。

ひげ隊長:そう。一応、本や段取りはあるけど、その日のスタジオの空気とか、間とか、尺とかで変わるし、ベテランたちはリハの時と変えることで本番を沸かすから(笑)。でも、それって視聴者にちゃんと届けるためでもあるんだよね。台本通りの人生より、波に乗り続ける心構えで、新参者はもう爪跡残すのに必死よ。

現場に密着!

ー 第一章の最終回は、ベニイグチとタマゴダケを間違えて「引退」という設定でした。毎回テーマやストーリーが整ってるなと思います。

ひげ隊長:そうやね(笑)間違えてもリカバリーできるディレクターさんやスタッフさんの力が素晴らしいからやけど。シンプルに色んなパターンが出てきて、編集に頼らない力もついて。面白くなってきたよね。

これまで番組で紹介してきた福岡県の山々

立花山

井原山

立石山

宝満山

天拝山

叶岳高地山高祖山鐘撞山

ー 今後の展開については、いかがですか?

ひげ隊長:子供たちだったり、若い人に届けていきたい思いが増してインスタが出来たよ。フォローよろしく山。
https://www.instagram.com/yamapuri.rkb/

九州は北アルプスのような高い山はないけど、本当に魅力ある山に囲まれてるから、近場にこんな所があるんだって、地元のことを深く知るきっかけにしてほしい。
これは本当に。心からそう思うね。

その心を話してくれた

地図を見るのが大好きな子どもだった。
いつか行きたいと想像を膨らませる小学生だった。
中学生・高校生になっても地理だけはエキサイトした。
大学も地理学科へ。アルバイトをして自分の足で世界を広げたくて仕方なかった。
24歳の秋、単身アラスカへ。一瞬で虜になった。

ある日の川下り。
その距離およそ800km。
釣った魚を食糧に下っていく。
毎日、魚ばかり。ビタミンが足りなくなった。
川のほとりに降り立ち、ブルーベリーを採った。
すると、自分に似た誰かが近寄ってきた。
熊だ。
冬眠前。
なるほど。たくさん食べて寝るのだ。
熊と一緒にブルーベリーを食した。

夜。
見上げればオーロラが空いっぱいに広がる。
夢のような2ヶ月。
飽きるほど見て帰国した。のに、冬もまた行ったのだった。

そこから25年。
いまだに「(日本の)田舎の星空を見上げるとオーロラが見える」という。
川を見ると『あそこを下ったら楽しそうだな』
波を見ると『サーフィン気持ちいいだろうな』
沢の岩場を見ると『あの下にヤマメがいるな』
そんなことに、思わずピントが合ってしまう。

伝えていきたいこと。
それは単に想像を広げてみようとか、
違った視点から見てみようといった凡庸なアドバイスではない。

『自分の世界の地図が広がっていく豊かさを感じてほしい』

アウトドアはとても優れた手段なのだ。
自然への敬愛・感謝の念が、自然と湧き出してくる。
そんな内発的で壮大な経験の伝承を、ガイドとしての信条にしている。

そしてそれはいみじくも「やまプリ」のゴールになっている。

「『秋か。そろそろ九重の紅葉が始まるな?』そんな塩梅でいい。ポイントは、山に行ってる時じゃないとき。日常生活の中で、自然を喚起してもらえるかやね。」

YouTubeから地上波へ。
蓄積してきた経験はどこへ向かうのか。
第二章がはじまる。

番組概要
やまプリ(RKB「まちプリ」内にて放送)
放送局:RKB毎日放送
放送時間:毎週火曜日 10:25~11:30内にて(最終週火曜日は休止)
URL:https://rkb.jp/tv/machipuri/

千田 英史

YAMAPスタッフ/PRマネージャー

千田 英史

YAMAPスタッフ/PRマネージャー

山と自然に囲まれた盆地で育った広報。熊本県山鹿市出身。九州に高いシビックプライドを持ち日々YAMAPの中と外を行き来しています。