よい山道具とは? 南アルプス深南部でファイントラック・カミノパンツを穿いて思ったこと

その動きやすさとシルエットの美しさで知られるファイントラック・カミノパンツ。同ブランドを代表する人気モデルが、今年、リニューアルを果たしました。YAMAP MAGAZINE編集部では、その機能を確かめるべく、訪れる者が少ないことから登山道が藪で覆われる南アルプス深南部・黒法師岳にライターの麻生弘毅氏を派遣。この記事では、身を持って感じた穿き心地をレポートします。

なお、記事の末尾にて、本記事で紹介しているカミノパンツをお試しいただけるYAMAPユーザーモニターを募集しますのでぜひ最後までご覧ください。

2022.05.23

麻生 弘毅

フリーランスライター

INDEX

「なんのこれしき」と黒法師岳へと登ってゆく

南アルプス深南部の藪にいる理由

俺はいま、なぜこのようなことをしておるのか…。

肩までどっぷり潜る藪にもがきながら、振り払ってもなおへばりつくヒルのような思考にとらわれていた。前日までの大雨で、登山道…その範疇に入るのか疑問ではあるが、とにかく、ぐちゃぐちゃとぬかるんだうえに横倒しになった笹がかぶさった獣道のような急登は、笑ってしまうほどよくすべった。

だからこそ足下に集中する必要があるのに、その不安定さや不条理さから「俺はいま…」というヒル的思考にループしたとたん、体重をかけた前足がずるっとすべり、きれいにヘッドスライディング——。

その3日前、49歳になっていた。こけた衝撃はともかく、不意の転倒により振り上げた肩と心が激しく痛む。不惑をとうに過ぎたいま、なぜ視界の利かない藪で泥にまみれて惑っているのだろう。

黒法師岳山頂へと続く笹藪。登山道はどこに〜(涙)

「アソーくんは沢登りをしてるじゃん。ってことは、藪漕ぎは嫌いじゃないでしょ!? だったら新しいカミノパンツを穿いて、変態的な藪を漕いできてよ!」

そんな脳天気な電話がYAMAP MAGAZINE編集部からかかってきたのは、ひと月ほど前のことだった。スマホを手にしばし考える。藪漕ぎが嫌いではない…?

藪漕ぎとは密生する藪や灌木をかき分けて進む行為であり、登山道のない渓谷をゆく沢登りでは避けられない場合がほとんど。実際、昨年も南会津のある沢で、いまにも崩壊しそうな雪渓と超ド級に濃密な藪の二択を迫られ、というか後者を無理矢理選ばされ、散々な目に遭った。つまり沢登りにおける藪漕ぎとは税金のようなものであって、逃れることのできない浮世の義理の――そんなことを電話口でぼそぼそ言うと、旧知の編集者は鼻くそをほじりながら(たぶん)、こんなことを言うのだ。

「本当にそうかなあ」

その一言にはっとする。

彼とは趣味も趣向も違うのだが、ある一点において、それも人格の根幹に関わるような深淵においての共通項があった。それは大学探検部の出身者であるということ。バブル経済の浮かれた余波がキャンパスにまで蔓延していた90年代前半、探検部に吹きだまるような輩は、そんな風潮に敢然と背を向けた…もしくは、そむけた風を装った、時代の波に乗れない野暮天どもだった。とはいえ、フェイクであろうがなかろうが、いったんファイティングポーズを取った以上、曲がりなりにも求道的にならざるを得ない。つまり、探検や山登りとは、「楽しい」でも「気持ちいい」でも、ましてや「映える」などでは断じてない、「男を磨く修羅の道」なのだ!

丸盆岳山頂付近でひと休み。藪さえなければ、稜線には平和な空気が流れている

…などと青臭く意気ごんでいたのも30年ほど前。現実には50に近いおっさんであり、肩は痛いし目もよく見えないし、なんだかとっても疲れやすい。しんどいことはできるだけ避けたいにもかかわらず、「山登り=楽しいこと」と明るく前向きに言い切れないところがあり、この歳になっても陰惨な沢で藪にまみれたりしているのだ。

大学は違えど探検部出身の彼は、そんな心情を知り抜いたうえで、「1時間かけて歩いても藪に阻まれ100mしか進めない、とんでもない変態ルートをファイントラックの新しいカミノパンツを着用してアタック。その真価を問う!」などという企画を立て、おっさんが激藪でヘロヘロにされる図を描いてはほくそ笑んでいる。これはやつからの裏切りとも言うべき挑戦状であり、絶対に引くわけにはいかないのだ!

「ああ、いいっスよ~」

軽~く承知した風の返事をすると、電話の向こうのやつはニヤリと笑い(たぶん)、南アルプスをテーマに撮影をする写真家の宇佐美博之と共謀して深南部を選び出し、ごていねいにもいちばん藪が深い黒法師岳(2,068m)直下が登りになるようなルートを組んだのだった。

待っていたのは累積標高差5,848mの激藪コース

シブロク歩道は沢沿いからスタートする。美しいけれど、この時期はヒル天国

戸中川林道のゲートについたのは朝の5時前だった。車から降りると、カメラマンのウサミがザックから小さなポーチを取り出した。

「ヒル除けと噛まれたとき用の生理食塩水、それとダニ除けです」

そうして執拗にシューズにヒル除けスプレーをかけ、パンツの裾を靴下にしまいこむ。この地を知る彼の流儀に倣ってスプレーをし、パンツを裾に入れこもうとすると、ウサミが笑った。

「パンツの撮影なんだから、それはなしでしょ!」

涙をこらえて飛び跳ねながら林道を歩き出す。シブロク歩道の取り付きまでは6kmほど。バラ谷ノ頭に上がり黒法師岳を経て丸盆岳へ、それから林道に下りて車を停めたゲートまでというコース。文明(YAMAP)というのはやっかいなもので、総距離は25km、上りの累積標高差は2,955m、下りは2,952m、合計5,848m――目を伏せたくなるような数値が明示されている。ちなみにウィキペディアによると、北米の最高峰・デナリ(6,190m)の項にこんなことが書いてあった。

「デナリはエベレストよりも大きな山体と比高を持つ。エベレストの標高はデナリより2,700 mも高いが、チベット高原からの比高は3,700 m程度に過ぎない。一方、デナリはふもとの平地の標高は600m程度であり、そこからの比高は5,500 mに達する」

いずれも片道の数値ではあるが、受け取る側のインパクトは充分。そんな山に日帰り!? しかも激藪?

涙を拭いながら歩いていると、林道にシカが倒れている。見ると2歳の雄ジカで、沢を滑って落ち、足が折れたまま絶命していた。この地で生まれ育ったシカが滑り落ちる山をおっさんが登るとは…。

シブロク歩道の取り付きに至ると、小さな吸血鬼がわらわらとシューズ上に這ってきた。ここに至り、滂沱(ぼうだ)の涙を禁じ得ない。

(左)登山道はやがて尾根上へ (右)急な段差や藪が顔を出しはじめる

シブロク歩道は等高線の詰まった沢を登り、やがて尾根へと吸いこまれていった。沢にはかつてのワサビ田があり、小屋も残されている。美しい沢ではあるのだが、気づけばシューズにはちびっ子吸血鬼。丹沢のヒルはシカの増加とともに広まったというが、ここはどうだったのだろう。けっこうな急登を、取材に同行してくれたファイントラックの岩狭勇士がすたすたと登ってゆく。立ち姿の美しい、いかにもな体型の彼はヨセミテなどを登ってきた現役クライマーであり、入社前には登山ガイドの資格を持っていたという屈強な若者だ。

「いや~、仕事中にこんなことを言ったら怒られそうだけど、気持ちいいですね~」

足下のヒルに気づいているのかいないのか、呑気にニコニコ笑っている。ゆっくり歩くとヒルに隙を与えるような気がして、せかせかと彼の後を追う。その後もきつい登りが続き、ヒルの気配の消えた1,530mの小さな山頂でようやく腰を下ろして、ひと息ついた。

その後、1,682mのピークを越えると、登山道は徐々に笹に飲みこまれてゆく。標高2,010mのバラ谷ノ頭にいたり、蕎麦粒山(1,628m)から黒法師岳を経て、丸盆岳(2,066m)、中ノ尾根山(2,297m)へと続く主稜線にたどり着いた。ピークは立て札のあるところだけまあるく土が見えているけれど、それ以外は笹が密生している。そんな一面の笹原が黒法師岳へと続く稜線をやわらかく覆っており、小さな雪渓がアクセントとなっている。風が吹くと山全体がうねり、海鳴りのような音を奏でた。

バラ谷ノ頭をすぎ、牙を剥きはじめる黒法師岳

海鳴りのような…なんて言っていられたのは、歩き出すまでだった。

広い尾根には獣道のような踏み跡…というか笹がよけられた跡がついており、それが細々と続いていた。バラ谷ノ頭からの下りは傾斜がきつく、一部がリッジ状になっている。そのうえ、下向きに倒れた笹に乗ると、足が滑る滑る。藪漕ぎと言うほどではないが、緊張感のある下りに神経を使う。水場のコルから先は傾斜が緩く、笹原のそこかしこに踏み跡があり、思い思いに歩くことができた。そうして、黒法師岳直下、150mの急登&藪漕ぎステージにようやくたどり着いたのだ。

(左)バラ谷ノ頭と1,909mピークの間のコルから下った水場 (右)遠目に見ると、美しい稜線なのだが…

山のよい道具、すばらしいウエアとは

一面の笹原に、獣道のような薄い踏み跡が続いてゆく

「ところでアソーさん、新しいカミノパンツはどうですかぁ?」

冒頭のヘッドスライディングを決めたぼくに岩狭は言う。「今このタイミングで?」と思いながらも、自分が好きな「沢登り」に沿って考えてみた。

とはいえ、藪漕ぎ必須の沢登りで新しいパンツを穿くことはない。10年ほど前のストームゴージュパンツ(現在は廃番)を使っているが、それも稜線をゆくトレッキングで擦り切れたあと、沢へと導入した。沢では例によって藪やら草壁やらを這いずり回り、濡れたまま着乾かしをし、焚き火で炙って穴だらけ…ある意味、ストームゴージュパンツの正しい使い方をしているのだが、痛痒を感じたことがないということは、充分に機能が発揮されているのだろう。

ぼくらの探検部では「道具に体を合わせる」という思考が至上のものとされ、良し悪しを語ることは軟弱者のすることとされていた。とはいえ、用途に見合わない道具がもたらす小さな不具合は、敏感に察知してしまうもの。長時間行動、長期間にわたる遠征において、不協和音はますます顕著になる。

山のよい道具、すばらしいウエアとは、己の機能を声高に主張することがない。「これっていいね」などと感じるさせることなく、静かに登山者に寄り添い、行動に集中させるものではないかと思う。

バラ谷ノ頭〜黒法師岳〜丸盆岳の間は、しつこいようだけど、遠目から見ると美しく、平和な稜線が続く

今回の山行でいえば、カミノパンツに足上げのストレスを感じることはなかった。手元にあるストームゴージュパンツと比べると、そのストレッチ性能は大きく進化している。裾がタイトになったのでより足さばきがよく、クライミングでも足下の確認しやすい。そして、2度派手にスッ転んだけれど、ものともしないタフさを見せてくれた。

ようやくたどり着いた黒法師岳山頂。やれやれ顔のおっさんとニコニコ顔のクライマー

(左)黒法師岳直下の150mの藪は手強い (右)笹藪に埋まった道標が登山道だと教えてくれる

背の高い藪をかき分けること15分、山頂がようやく見えてきた。振りかえるとバラ谷ノ頭とどこまでも続く深南部の広がりを垣間見ることができた。都心から比較的アクセスのよいこの地に、これほど広大な無人地帯があるとは。

結果的に「100m進むのに1時間かかるような藪」はここにはなかった。これしきの藪で舐めるなよ…編集者に電話してやろうかと思ったが、ならばと飯豊あたりの本場雪国の鬼藪に派遣されるのも困るので黙っておく。

そして、カメラのウサミとはここ数年、何度か山行を共にしているのだが、そのたびに彼が嬉しそうに話す南アルプス深南部のすばらしさ、その一端に触れられたのは大きな収穫だった。

個人的なことを言うと、1日行程の山に2日かけるくらい余裕を持って山を味わいたいと思っている。そうして、許されるなら火を焚いて、岩魚や山菜を口にし、山で眠りたい。藪漕ぎは、そんな一夜へとたどり着く過程で避けられないものだ。

ぼくの師匠は70歳を過ぎているのだが、灌木に掴まらないと滑り落ちるような斜面で、ネマガリダケを採りながら藪漕ぎをしている。あんなふうに従容として藪を受け入れ、しなやかに漕いでゆきたい。とはいえ、累積標高差6,000mに迫らんとする日帰り登山での藪漕ぎは勘弁してほしいが——。

ドロドロの草壁をへつり、しびれるような淵を泳ぎ、シャクナゲやハイマツが密生し、地面に足が着かないなか溺れるように藪を漕いで、人の香りのしない渓の奥へ。人生も半ばをすぎ、ようやく自分の好きな山が、自然との付き合い方が見えてきた。

遡行の旅でカミノパンツを穿きたいところだけど、そんなことをしておニューのパンツを酷使したら罰が当たらないだろうか。稜線のトレッキングにおいてもこのパンツはもの言わず活躍してくれるだろうけれど、そんな恩恵だからこそ、しんどい沢旅で味わいたい。でもやっぱりもったいない気がするから、しばらくは稜線歩きかな…。

南アルプス深南部で履いたカミノパンツ

ぼくはかつてカヤックに乗っており、海や川で数ヶ月単位の旅を繰り返していた。

カヤックという小舟はザックに比べて驚くほど大量のものを積みこむことができるが、2週間、補給ができないようなこともざらだったので、同じ用途の道具をふたつ持つ余裕はない。

アラスカからカナダへと海沿いを旅したときは、頑丈なことで名高いストーブが2週間で壊れ、その後2カ月以上、雨がとても多い熱帯雨林ならぬ「寒帯雨林」の海で流木を燃やした。それはかなり楽しい経験だったが、以来、道具選びにはより慎重になった。そんな経緯もあり、道具には耐久性を求めている。便利な機能が壊れてややこしい目に遭うのは嫌だし、ましてやいくら軽かろうとも、耐久性を天秤にかけたものを選ぶ気にはならない。

そうした視点で見ると、カミノパンツは、かなり道具的なウエアだ。

カミノパンツはソフトシェルを思わせるしなやかな手触りとコシを持っており、見た目からして耐久性に優れている。実際、高強度の66ナイロンを使用しており、耐久性は折り紙付きなのだが、カタログスペックを見ると、生地厚は約0.45mmとある。足を通して歩いてみると、素材のストレッチ性と縫製のよさから、着用感を覚えさせない軽さがある。また、タイトなラインは控えめな足の長さをカバーしてくれる気がするし、岩に取り付く場面での足さばきがいい。

多少の重さは気にしないたちなので、「実際に軽いこと」よりも、「軽さを感じさせること」を重視しているのだが、「耐久性をもちながら、実重量以上の軽さを感じさせる」のであれば、それ以上のことはない。

もうひとつ嬉しい点は、補修用の布が、「もしものときはこれで…」というお守りのように、ポケットに収められていること。そうした配慮に、耐久性に自信を持つファイントラックの矜持と、「遊び手が創り手」という標語を掲げる、仲間に背中を押されるような安心感を覚えさせてくれる。

カミノパンツ
メンズ:¥18,150(税込)
ウィメンズ:¥17,600(税込)
(モデル174㎝、Mサイズ着用)

自然に溶けこむナチュラルな色遣い。今シーズンから、ロゴと製品の色を合わせ、よりシックに

使用を経るごとに脆化していくポリウレタンに拠らず、ナイロンの特殊撚りによって生み出したタテ112%、ヨコ117%伸びる伸縮性(JIS L1092 B1法)により、足上げのストレスは皆無。膝から裾にかけてタイトなラインを描いているので、足下の視認性がよく、もたつかない

今春から採用している、よりシンプルになったロゴデザイン

両サイドに施された大型ベンチレーションが驚くほど効果的。藪はもちろん、樹林帯歩きなど、熱がこもりやすい状況で重宝する

水滴が転がるような撥水性能は、「雨具を出すほどではないけれど…」というよくある状況で活躍する。機能の持続性にも優れ、100回洗濯しても十分な撥水性能を発揮

タイトで美しいデザインなので、下山後も違和感なく着用できる

トルネードパンツ
メンズ:¥17,600(税込)
ウィメンズ:¥17,050(税込)
(モデル174㎝、Mサイズ着用)

カミノパンツと同素材を使ったトルネードパンツ。足の動きに沿うよう、螺旋状に縫製を施すことで、さらなる動きやすさを発揮

よりスリムなデザインを採用し、クライミングなどアクティブな山行にフィットする

文:麻生弘毅
写真:宇佐美博之
モデル:岩狭勇士(ファイントラック)
協力:ファイントラック

カミノパンツYAMAPユーザーモニター募集

finetrackの「カミノパンツ」のユーザーモニターになっていただける方を募集します。

選定された方には、今年リニューアルされたカミノパンツをお送りします。実際に山で着用し、その使用感や感想をYAMAPの活動日記でレポートしてください。

レポートは、カミノパンツを履いて登山をした様子を活動日記で投稿・公開していただければOK。なお、レポートしていただいたカミノパンツは、そのままプレゼントさせていただきますので、お楽しみに!

応募の詳細は以下のリンクをご覧ください。

YAMAP STOREでもfinetrack製品取扱い中

YAMAP STOREでもfinetrack製品を取り扱っています。
ぜひこちらもチェックしてみてください。

麻生 弘毅

フリーランスライター

麻生 弘毅

フリーランスライター

バックパッキングやカヤックによる長い長い旅にハマりがち。ロックと酒、焚き火が好き。著書に北極圏の泥酔紀行『マッケンジー彷徨』(枻出版社)がある