東北地方南部に位置し、東京駅から山形駅まで新幹線で約3時間弱とアクセス良好な山形県。日本百名山だけでも6座を有する山岳県でもあります。
今回は、その中でも県の北東部に位置する「最上エリア」の魅力をご紹介。
「東北のミニアルプス」とも称される神室連峰をはじめ、寄り添うように立つ巨木「小杉の大杉」、雄大な最上川の舟下りなど、涼やかで夏にぴったりの魅力に満ちています。
2025.07.31
鷲尾 太輔
山岳ライター・登山ガイド
山形県の北東部に位置し、四方を山々に囲まれた「最上エリア」。国宝に登録されている土偶「縄文の女神」が発掘されたこの地は、太古の昔から最上川が大地を潤す豊かな土地でした。その風景は今も面影を残しており、手つかずの自然と古き良き日本の魅力を満喫することができます。
・四方を囲む山々が守る、巨木の森と大自然
四方を山々に囲まれ、手つかずの自然が息づく「巨木の里」。トトロのように見える小杉の大杉をはじめ、神秘的な巨木たちがもたらすパワーを体感できます。
・癒やしの温泉郷
開湯1200年を超える肘折温泉をはじめ、源義経が発見したとの逸話も残る瀬見温泉など、昔ながらの湯治場が今なお旅人を癒やし続けています。
・雪国が育んだ、祭りの熱気と郷土の味
ユネスコ無形文化遺産でもある「新庄まつり」は、この地に暮らす人々の情熱の結晶(8/24-26)。また、豪雪地帯ならではの知恵が詰まったきのこ料理や山菜、香り高いそばを味わえます。
関東エリアからは山形新幹線「新庄駅」が便利。接する宮城エリアからは国道47号で結ばれ、仙台市内からのアクセスも良好です。
それでは「やまがた百名山デジタルバッジキャンペーン」で対象となっている最上エリアの山とその魅力を紹介します。1座の登頂で「エリアバッジ」は獲得できますが、せっかくの山形への旅、ぜひ複数の山を制覇してください。
神室山|空を突くギザギザの稜線。ようこそ、東北のミニアルプスへ
神室山へ続く稜線(パーパさんの活動日記)
山形県と秋田県の県境を構成する神室連峰の主峰が神室山(かむろさん・1,365m)、日本二百名山・花の百名山・東北百名山にも選定されている名峰です。神室連峰は最高峰・小又山(1,367m)をはじめ20座あまりが南北25km以上にわたって連なり、東北一の痩せ尾根といわれる急峻さと相まって、東北のミニアルプス・みちのくのアルプスなどと呼ばれています。
その異彩を放つ山容はもちろん、豊かな自然も魅力。キヌガサソウなどの植物が生育し、イヌワシ・クマタカなど絶滅危惧種の猛禽類も生息しています。
山頂にある神室神社(あゆさんの活動日記)
神室という山名は「神霊の宿る岩窟」に由来しており、古くから修験道の行場(修行の山)でもありました。山頂近くには鏑山大神という左手に稲穂を右手に桑の小枝を持った農耕の神が祀られており、山麓の人々は山肌の雪型を春の農作業の目安としていたそうです。
神室山には天狗が棲むという伝承があり、天狗森・天狗の相撲取り場などの地名が残っています。毎年8月24・25・26日に開催される新庄まつり(国指定重要民俗文化財・ユネスコ無形文化遺産)で練り歩く山車に「風流神室の天狗」の物語が登場したことも。現在は「かむてん」という新庄市のイメージキャラクターにもなっています。
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禿岳|てっぺんは、空と草原だけの360°ステージ。寝そべって見たい、大パノラマ
リトル谷川岳の呼称に相応しい断崖(はんぽさんの活動日記)
神室岳と文字は異なるものの同じ読みの禿岳(かむろだけ・1261m)、東北百名山にも選定されており、小鏑山(こかぶらやま)の別名もあります。隣県の宮城県にある名湯・鬼首(おにこうべ)温泉の源で、荒雄岳(984m)を中心としたカルデラ地形火口丘の外輪山最高峰でもあります。
このため外輪山の内側にあたる鬼首側の東斜面が標高差700mにも及ぶ断崖になっており、その険しい山容から「リトル谷川岳」の愛称でも親しまれています。その迫力は息を呑むほどです。
山頂から望む鳥海山(kc uptonさんの活動日記)
山形県からのアクセスは宮城県境の花立峠口からが短時間で登頂できますが、そこに至る県道63号線はカーブが連続するため注意が必要。
広々とした草原状の山頂からの展望は抜群。東側には荒雄岳のカルデラ地形、西側には最上町の盆地を眼下に見下ろし、遠望には葉山・月山・神室連峰・鳥海山など山形の名だたる秀峰が連なっています。
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薬師山|特徴的な山容から成る日本のピラミッド。心と体にじんわり効く里山セラピー
金山三峰(ノリッコさんの活動日記)
最上エリア北東部・金山町の田園地帯に突如として現れる3つの三角形の山。これが左からやまがた100名山のひとつである薬師山(436m)・中の森(415m)・熊鷹森(390m)からなる金山三峰です。明治時代に山形を訪れたイギリス人旅行作家イザベラ・バードは著書『日本奥地紀行』の中でこの風景を「日本のピラミッド」と記しています。
このうち登山コースが延びているのは薬師山のみ。東斜面(写真右)がえぐれた特徴的な山容で、山頂には古風な薬師神社が鎮座しており、山形県内では21箇所しかない一等三角点(薬師山)も設置されています。
山頂から見下ろす田園風景に癒される(伯爵52さんの活動日記)
大小2つの鳥居をくぐって薬師山へ向かう登山道は片道1時間足らずではありますが、傾斜は急で一部ロープも設置されているので登降には注意が必要です。山頂や登山道の途中からは、金山町の田園を見下ろすことができ、里山風情を満喫することができるでしょう。
また薬師山と中の森の間には、かつて福島から山形・秋田を経て青森を結んだ羽州街道の要衝・森合峠があり、戊辰戦争では奥州越列藩同盟軍仙台藩と明治新政府軍の戦場となりました。現在でも三本松の碑が残されています。
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猿羽根山|芭蕉が越えた、祈りの峠道へ。歴史と紫陽花が彩る、みちのくの旅路
歌人もこの景色を眺めたのであろうか。葉山と月山を望める絶景スポット(tomo68さんの活動日記)
猿羽根山(さばねやま)は、舟形町にある標高178mの山。羽州街道の難所として知られていた「猿羽根峠」は、江戸時代の俳人・松尾芭蕉が奥の細道の旅で「風の香も南に近し最上川」という句を詠んだ他、山形県出身で明治・大正・昭和に活躍した歌人・医師の斎藤茂吉も「もみぢ葉のすがれに向ふ頃ほひにさばね越えむとおもふ楽しさ」など猿羽根峠についての歌を17首残しています。
また庄内藩出身で新撰組の結成にも関わった清河八郎や薬師山でも紹介したイザベラ・バードも猿羽根峠を越え、前者は京都へ、後者は東北奥地へと向かったのです。
最上川と月山の眺望(ヤマノキ左衛門さんの活動日記)
周辺は猿羽根山公園として整備されており、四季折々の花や紅葉を楽しむことができる他、眺望の広場からは鳥海山・月山・葉山などの山々のパノラマが広がります。
また、古民家を移築した舟形町歴史民俗資料館では国宝土偶「縄文の女神」のレプリカが展示されています。
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地蔵盛山|縁結び、安産、商売繁盛のご利益とともに。祈りとぬくもりの道『地蔵倉』
地蔵倉に並ぶお地蔵様(fuuさんの活動日記)
山の地名には様々な意味が隠されていますが「くら(倉・蔵・鞍)」は絶壁を表す地名で、谷川岳の一ノ倉沢などが有名です。地蔵盛山(594m)の別名で西斜面にあたる地蔵倉も同様で、標高差250mあまりの絶壁となっており、子造り地蔵や奥の院の地蔵尊が安置されています。
8月下旬〜9月上旬はそばの花が見頃(yoshimiさんの活動日記)
地蔵盛山は地蔵倉のあまりの急峻さから西側からは登ることができず、東側の湯の台牧場からスキー場のゲレンデとなる斜面を登りながら向かうのが2025年現在唯一の一般ルート。また、湯の台牧場手前にある湯の台高原は例年8月下旬〜9月上旬に白いそばの花が咲き、ぜひ立ち寄りたいスポットです。
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山形県の大きな魅力のひとつが、数多くの温泉です。登山でかいた心地よい汗を温泉で流せば、さっぱり爽快。歴史ある名湯・秘湯も多く、山形への山旅では、ぜひ立ち寄りたいところです。ここでは、最上エリアの山から下山後におすすめの温泉地を紹介します。
神室温泉|金山杉の芳香漂う天然温泉でほっこり
ホットハウスカムロ。日帰り入浴可能なのが嬉しい(SEJ1MOさんの活動日記)
神室山の登山後におすすめなのが、西麓の金山町のリゾート地・グリーンバレー神室にある神室温泉です。滞在型リゾート・ホテルシェーネスハイム金山は東北最大級のドッグランも併設するペットにやさしい宿泊移設。施設内にあるホットハウスカムロは、地元産の金山杉をふんだんに使った温泉で、日帰り利用も可能です。
赤倉温泉|各旅館独自の自家源泉かけ流しの湯を楽しむ
禿岳の登山後には赤倉温泉。多様な源泉を楽しんで
禿岳の登山後におすすめなのが、稜線からも見下ろすことができる最上町の赤倉温泉です。7軒の宿泊施設は全て自家源泉を持ち、源泉かけ流しの湯を楽しむことができます。開湯は863年と言われ、1,100年以上の歴史を誇る名湯。各旅館が趣向を凝らした湯船に浸かりながら、その効能を満喫してください。
肘折温泉|開湯1200年の温泉街で湯治文化を体感
地蔵盛山の登山後には肘折温泉。日帰り温泉ができる施設も
地蔵盛山の登山後におすすめなのが、開湯から1,200年の歴史を誇る肘折温泉です。素朴な温泉街と源泉かけ流しの湯は、短期滞在や1泊なども含めて、現代版の湯治を体験できる名湯です。
せっかく山形県を訪れたならば、登山だけでなく観光も楽しみたいもの。ここでは、最上エリアおすすめの観光地を紹介します。
小杉の大杉|巨木の多い最上エリアを代表するパワースポット
冒頭で紹介した通り、最上エリアは豊かな自然に育まれた巨木が点在しています。エリア内には数多くの巨木が点在していますが、比較的アクセスの良い巨木が鮭川村にある小杉の大杉です。
その根元が2本分かれてそびえていることから、夫婦杉・縁結びの木・子宝の木など、パワースポットとして親しまれています。
最上川舟下り|船上から眺める最上峡芭蕉ライン舟下り
県南部の西吾妻山に源を発し、県北西部の酒田へ至る山形県の母なる川・最上川。中でも最上エリアから庄内エリアまでの出羽山地を東西に貫く最上峡では、雄大な自然を堪能できる最上峡芭蕉ライン舟下りを体験することができます。
雨天でも楽しめる屋根付き舟や、冬でも快適なこたつ舟も運行されており、船頭の舟唄と名調子な語りを聞きながら最上川を下れば、いにしえの旅人気分を満喫することができるでしょう。
紅葉に彩られる神室山
8/1〜11/3と期間が長く、紅葉シーズンまで楽しめる「やまがた百名山デジタルバッジキャンペーン」。今回ご紹介した最上エリアだけでなく、置賜エリア、村山エリア、庄内エリア、4つのエリアそれぞれのエリアバッジがあり、エリアバッジの複数獲得で「コンプリートバッジ」も手に入ります。
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執筆:鷲尾 太輔(登山ガイド・山岳ライター)
協力:山形県