2026年の干支は午(うま)です。日本人と馬の関わりは深く、農地を耕したり荷物を運んだりと人々の生活の補助役として、時には戦場で騎馬隊を乗せたり馬車を引いたりと、乗り物としても活躍してきました。
そんな日本人の生活を見下ろしてきた山にも、馬の名を冠した山や馬にゆかりの深い山も数多くあります。今回はそんな「馬」にちなんだ山を紹介します。
2025.12.27
鷲尾 太輔
山岳ライター・登山ガイド

全国の駒ヶ岳で標高が最も高い甲斐駒ヶ岳(撮影:鷲尾 太輔)
日本全国には数多くの「駒ヶ岳」がありますが、今回はあえて山名に「馬」の字が付けられた山に絞って紹介します。それでもこれほどの山があることが、日本人と馬との関係を物語っています。

来馬岳のシラネアオイ群落(ひろろろさんの活動日記)
来馬岳 (らいばだけ・1040m)は、この山を源流とする来馬川の河口付近の水が淀んでいる様子がアイヌ語で「流れが死んでいる=ライパ」と呼ばれたことに由来するといわれています。北海道百名山・オロフレ山(1230m)の南に連なり、縦走するのもおすすめです。
オロフレ山麓のオロフレ峠か、カルルス温泉・サンライバスキー場が主な登山口。山頂手前は、初夏にはシラネアオイの群生地となります。眺望も見事で間近にそびえるオロフレ山はもちろん、遠くには日本二百名山にも選定されている樽前山(1041m)を望むことができます。

早馬山からのリアス式海岸と太平洋の眺望(寝坊助さんの活動日記)
2026年は東日本大震災から15年の節目の年でもあります。宮城県気仙沼市の唐桑(からくわ)半島にも津波が襲来し、午年がご縁年(縁起が良くご利益が大きい特別な年)である早馬神社も15mの高さで襲いかかった津波で浸水。境内にある復興祈願碑には、津波到達点が記されています。
そんな早馬神社の奥宮がある早馬山(はやまさん・219m)は、山頂まで歩きやすい遊歩道が延びており、冬でも登山が可能です。山頂は東屋が整備された展望台となっており、遥か沖の金華山や半島と湾が織り成すリアス式海岸を一望。津波という災禍だけでなく、恵みをもたらしてくれる海との関わりに思いを馳せる場所です。

相馬山から望む上毛の山々(撮影:鷲尾 太輔)
赤城山(最高峰は黒檜山・1828m)・妙義山(最高峰は相馬岳・1104m)と並んで「上毛三山」に数えられるのが榛名山(最高峰は掃部ヶ岳=かもんがたけ=1449m)。複数の外輪山や側火山から構成される連山の中には、蛇ヶ岳(じゃがたけ・1228m)・臥牛山(1227m)など干支の山名を冠した山が複数そびえていますが、相馬山(1403m)もその一座です。
最寄りであるヤセオネ峠登山口の「相馬山」の鳥居をくぐりハシゴも架設された稜線を登ると、黒髪神社奥宮が鎮座する霊山です。山頂からは妙義山のギザギザの稜線や荒船山(1422m)のテーブルマウンテンなど上毛の名山を一望する絶景が広がります。

馬頭刈山からの富士山(ニックさんさんの活動日記)
首都圏でも人気の山域・奥多摩のシンボルで日本二百名山にも選定されている大岳山(おおだけさん・1266m)の南東に延びる稜線上にそびえているのが馬頭刈山(まずかりやま・884m)です。
その山名の由来は諸説ありますが、東に連なる高明山(こうみょうさん・798m)の山頂には、現在も登拝者が多い武蔵御嶽神社(御岳山)・大嶽神社(大岳山)と並び称された高明神社跡があり、古くから信仰の対象となっていたようです。
関東の富士見百景にも選定された山頂からは、富士山や丹沢山塊の絶景が。特に空気が澄んだ冬は雪化粧した日本一の高峰をクリアに眺望できるでしょう。
また南西から延びる千足尾根コースの起点には東京都でただひとつ日本の滝百選に選ばれた払沢の滝があります。結氷する冬には迫力ある氷瀑となり、登山前後に立ち寄るのもおすすめですよ。

白馬の像と奥多摩の山並(撮影:鷲尾 太輔)
馬の名を冠した山の中でも、抜群の知名度と人気を誇るのが陣馬山(じんばさん・855m)です。地図で併記される(陣場山)は従来の山名で、、戦国時代に武田氏が北条氏を攻める際に「陣場(馬の宿営地)」を設けたという伝承が由来です。1960年代後半に京王電鉄が観光地として売り出すために白馬の像を建てたことで、陣馬山の名が定着しました。
草原状の山頂からは富士山をはじめ丹沢・奥多摩など全方位の眺望が広がり、2軒の茶屋で味わうグルメも楽しみ。高尾山(599m)・小仏城山(670m)・景信山(727m)を経て陣馬山をめざす壮大な奥高尾縦走路から、和田峠(クルマのみアクセス可能)からの往復1時間弱のコースまで、多彩なルート設定が可能なのも人気のポイントです。
陣馬山(東京都八王子市・神奈川県相模原市)の基本情報、地図を見る

白馬岳に現れた代掻き馬の雪形(りょーたろーさんの活動日記)
日本百名山や花の百名山にも選定され、北アルプスでも指折りの人気を誇る白馬岳(しろうまだけ・2932m)。
山頂直下の白馬山荘は1906年に頂上小屋として営業を開始した北アルプスでも最古級の山小屋で、日本の登山史においても重要な存在です。そんな白馬岳の山名の由来が「黒い農耕馬」であることはご存知ですか。
山々に囲まれた日本の農村で春の訪れを知らせる現象のひとつが、雪形(雪解けが進み黒い岩肌が露出した部分と白い残雪が織り成す模様)でした。
白馬岳の山肌に春先に現れる黒い馬のような雪形も、代掻き(田んぼに水を張り土を平らにする作業)を行う馬のような形、すなわち「代掻き馬」とよばれ、田植えの準備を始めるサインだったそうです。
後立山連峰には他にも五竜岳(2814m)の武田菱、爺ヶ岳(2670m)の種まき爺さんなど、雪形が山名の由来となった山が点在しています。

陣馬形山からの中央アルプスと伊那谷(ドリジャさんの活動日記)
長野県南部の伊那谷を一望できる展望台として有名なのが陣馬型山(じんばがたやま・1445m)。
その山名の由来は諸説ありますが、かつてこの地を支配した武田氏にまつわるものが多く、陣地を構えたり狼煙台に利用したという伝承が残されています。
現在でも伊那谷では「のろしリレー」が開催されており、陣馬型山も狼煙台として利用されています。
山頂直下まで車でアクセスでき、陣馬型山アルプスビューラウンジとして整備されています。例年12月上旬〜4月上旬の冬季通行止期間以外は宿泊施設・カフェ・キャンプ場(冬季も徒歩なら利用可)など、さまざまな施設が営業。
山頂展望台からは、中央アルプス・南アルプスの名山や、天竜川の河岸段丘が支流に侵食されてできた伊那谷特有の田切(たぎり)地形を望むことができます。

馬山からのリアス式海岸(ゆかさんの活動日記)
志摩半島・五ヶ所湾に面した馬山(まやま・198m)は、山中に戦国時代に活躍し剣術・影流(陰流)の始祖とされる愛洲 移香斎(あいす いこうさい)生誕の地・五ヶ所城址があり、こうした武将の馬術訓練場であったことや、五ヶ所湾から見上げた姿が馬の背中に似ていたことが山名の由来とされています。
西麓には資料館や剣道場を兼ねた施設・愛洲の館があり、ここから山頂へ続く登山道は2022年に整備されてさらに登りやすくなりました。ベンチや展望案内板が設置された山頂からは、五ヶ所湾や複雑な曲線を描くリアス式海岸など、志摩半島ならではの絶景を目の当たりにすることができます。

山麓の福島大池に映る有馬富士(さっすんさんの活動日記)
有馬富士(ありまふじ・373m)の山名は、そもそも旧摂津国(現在の大阪府と兵庫県の一部)の有馬郡という地名に由来します。新しく開かれた谷間が「新間(あらま)」とよばれ、これが「有間」「有馬」と変化したという説が有力です。
この地には日本書紀にもその記述がある日本最古泉のひとつ有馬温泉があり、日本史を彩る数多くの偉人にも愛されてきました。
そんな有馬郡でひときわ尖った山容が目を惹くご当地富士、有馬富士。周辺は有馬富士公園として整備されており、山麓には自然と親しむ様々な施設が充実しています。山頂は南側が開けており、六甲連山や金剛山地など、関西を代表する名峰を眺望可能です。

上佐山から望む三郎池や馬山などの山々(ルークさんの活動日記)
香川県は年間降水量が少なく農業用水を確保するため、数多くのため池が点在し、この地ならではの風景を作り出しています。
そんな香川県の中心地である高松市のため池・三郎池を取り囲むように連なる円錐形の山々は、約1400万年前の瀬戸内海火山活動で生まれたクレーター付近に位置するため「高松クレーター5座」として地元の人から親しまれています。
「高松クレーター5座」を構成する日山(ひやま・191m)・馬山(うまやま・146m)・実相寺山(じっそうじやま・249m)・日妻山(ひづまやま・235m)・上佐山(うわさやま・255m)は全山登頂する周回コースでも約6時間、午年の歩き初めにもおすすめです。

馬糞ヶ岳がもっとも賑わう6月に咲くササユリ(KEIJIさんの活動日記)
インパクトが強すぎる山名にまずは驚く馬糞ヶ岳(ばふんがたけ・985m)。その山名の由来は諸説ありますが、山容が馬糞のようであるという説が有力です。
ただし、西麓には平家の落人が隠れ住んだという秘密尾という地名も残っており彼らの軍馬の糞で山の形が変わったという説も。秘密ヶ岳という別名も相まって、こちらもうなずける説となっています。
中国百名山にも選定されており、本州南限のブナ林やササなど豊かな植生が魅力の山で、例年6月に見頃を迎えるササユリは特に人気があります。空気が澄んでいれば、山頂からは遠く瀬戸内海を望むことも可能です。

馬見山の山開き神事(さおりさんの活動日記)
馬見山(うまみやま・977m)は筑豊地方と筑後地方を隔てるように東西に連なる古処馬見山地の最高峰で、九州で唯一、サケが遡上する遠賀川(おんががわ)の源流でもあります。
九州百名山の古処山(こしょさん・859m)をはじめ、江川岳(えがわだけ・861m)・屏山(へいざん・927m)と合わせて嘉穂アルプスとも呼ばれています。日本山岳遺産にも認定され、山頂には避難小屋「うまみ」が設置されました。
初代神武天皇の馬がこの山中へ逃げ出し、天皇が呆然と見つめていたという伝承が山名の由来。現在も北麓に馬見神社が鎮座し、遥拝所(登拝すなわち登山できない人が遥かに仰ぎ見て祈る場所)が登山口のひとつ。例年5月に山開き神事が行われることからも、信仰の山として愛されていることが分かります。

羽黒山の国宝・五重塔(八咫烏さんの活動日記)
修験道の聖地としても知られる羽黒山(はぐろさん・414m)は午年が御縁年の山で、参拝すると12年分のご利益があるとされています。
参道の途中にある五重塔は国宝に指定されており、2023年から2024年にかけて20年に一度の杮葺屋根修繕工事が実施されました。2026年もきれいに葺き替えられた屋根を見ることができるでしょう。
さらに杉並木の中に続く2446段の石段を登り詰めると、出羽神社の社殿・三神合祭殿があり、出羽三山の他の2座(月山・湯殿山)と合わせた三神が祀られています。
ちなみに月山(1984m)の御縁年は卯年、湯殿山(1500m)の御縁年は丑年となっており、いずれもその年に登拝・参拝すると12年分のご利益を得ることができますよ。

YAMAPアプリには、指定されたランドマークを通過するとデジタルバッジがもらえるバッジ機能があります。2024年に引き続き、登り納め2025と登り初め2026の2種類の年末年始限定バッジを追加しました。
登り納め2025は2025年12月1日から31日、登り初め2026は2026年1月1日から31日の間に登山をして、該当の活動日記を公開した方が対象となります。年末年始は登山を楽しみながら、限定バッジをゲットしませんか?
バッジ獲得の条件など、詳しい情報は以下をご覧ください。
※どの山頂ランドマークを通過してもバッジの獲得対象になります。今回紹介した山や人気の山でなくても獲得できるので、ぜひ近郊の低山などでも登り納め・登り初めを楽しんでください。
執筆・トップ画像撮影=鷲尾 太輔(山岳ライター・登山ガイド)