東北地方南部に位置し、東京駅から山形駅まで新幹線で約3時間弱とアクセス良好な山形県。日本百名山だけでも6座を有する山岳県でもあります。
今回は、その中でも県の南部に位置する「置賜エリア」の魅力をご紹介。
このエリアを代表する西吾妻山は、パッチワークのような山肌を埋め尽くす紅葉の名所。ロープウェイで気軽に楽しめるので、10月下旬までの夏山リフトの営業中にぜひ足を運んでみてください。
2025.07.31
鷲尾 太輔
山岳ライター・登山ガイド
山形県の最南端に位置し、吾妻・飯豊の峰々に抱かれた「置賜エリア」。松尾芭蕉の名句でも有名な最上川の源流が大地を潤す、自然の魅力にあふれた地域です。
・飯豊連峰を映す、神秘の「水没林」
飯豊連峰の麓に広がる白川ダム湖には、雪解けの時期だけ見られる「水没林」の幻想的な風景が広がります。水面に木々が立ち並ぶ様子は、ここでしか出会えない神秘的な光景です。
・母なる川「最上川」の源流と、大地の恵み
県を縦断する最上川の壮大な旅は、ここ置賜から始まります。その清らかな水と盆地の気候は、日本有数の生産量を誇るぶどうや、香り高い地酒といった豊かな恵みを育んでいます。
・上杉の城下町と、日本が誇る「米沢牛」
この地には上杉家の城下町として育まれた歴史や食文化が色濃く残っています。中でもオススメは日本三大和牛の一つ「米沢牛」。とろけるような極上の味は、まさに旅の醍醐味です。
関東エリアからは山形新幹線「米沢駅」が便利。隣接する福島エリアとは「東北中央自動車道」で結ばれた、山形県の南の玄関口です。
それでは「やまがた百名山デジタルバッジキャンペーン」で対象となっている置賜エリアの山とその魅力を紹介します。1座の登頂で「エリアバッジ」は獲得できますが、せっかくの山形への旅、ぜひ複数の山を制覇してください。
西吾妻山|母なる川・最上川が生まれる場所
秋の夕日を浴びる火焔滝
西吾妻山から山形県を南北に横切り、酒田市で日本海に注ぐ最上川。その流域に県内人口の8割が暮らすという、山形県の母なる川です。古くから舟運が行われた重要な交易路であり、米どころである庄内平野を潤すその存在は、松尾芭蕉をはじめとする文人の作品にも登場します。
その最初の一滴にあたるのが日本百名山・西吾妻山(2,035m)の懐深くに位置する火焔滝(ひのほえのたき)。秋の夕日を浴びて炎のように滝が染まることが由来で、秘湯・大平温泉からさらに険しい道のりを歩くことでようやく滝壺に至ることができる秘境です。
草紅葉の中を歩ける西吾妻の木道(たかまる。さんの活動日記)
西吾妻山へは東麓の姥湯温泉、福島県側にある南麓のグランデコスキー場、西麓の桧原湖に近い早稲沢など様々なアプローチが可能。もっとも手軽なのが、天元台ロープウェイと日本一の長さを誇る夏山リフトで、標高1,820mの山頂駅までアクセスできる北側からのコースです。天元台のロープウェイ・リフト乗換え場所からは火焔滝を遠望することもできます。
ここから西に連なる飯豊連峰の山並を眺めながら梵天岩・天狗岩などを経由して山頂をめざすコース上には、湿原や池塘が点在しています。
夏には様々な高山植物、秋には湿原が金色に染まる草紅葉など、季節に応じて表情を変える絶景も見所です。
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秋葉山|一度は炎に涙した山。みんなの愛でふたたび歩み出す、ふるさとの「あきはさん」
秋葉山・三の山の祠(四歩さんの活動日記)
秋葉山は、2024年5月に大規模な山林火災が発生して鎮火までに9日を要し、約122haが消失してしまいました。しかし、火除けの御祭神の秋葉神社はほぼ無傷で守られ、翌2025年からは毎年5月第3週の現地例祭も再開。春に植物の芽吹きも確認され、10月には市民植樹が予定されるなど、自然の力に人の手も添えて山は再生に向かっています。
南陽市宮内地区と飯豊連峰の眺望(ムサシさんの活動日記)
秋葉山は鳥居がある一の山、二の山、山頂の三の山に分かれており、それぞれに祠が鎮座しています。振り返ると眼下に南陽市宮内地区の街並が広がり、背後には飯豊連峰がそびえています。この山は、これからも南陽市を見守り続けてくれることでしょう。
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熊野山|見上げると蔵王の峰々。見下ろすと散居集落。二つの眺めを味わう、贅沢な山へ
熊野山から見下ろす散居村(カズさんの活動日記)
置賜地域西部の長井市や飯豊町周辺は、広大な田園地帯の各所に、西側に防風林(屋敷林)を伴った民家が散らばって点在する散居村(さんんきょそん)が広がっています。こうした風景は富山県の砺波平野でも見られますが、山形県でも他地域は集村(しゅうそん・民家が密集する集落)が多く、置賜ならではの景観です。
この地域の守護神として信仰を集めているのが熊野神社。獅子舞など今も地元の信仰が篤い神社です。
朝日に照らされる水田(山猫さんの活動日記)
そんな熊野神社の奥の宮が山中に鎮座しているのが、熊野山(670m)です。散居村を見下ろす展望台から登ると、中腹に熊野神社奥の宮が鎮座しています。こじんまりとした木造の社殿ながら、杉林の中に鎮座するその姿は神秘的。この付近からも散居村を眺望でき、特に田植え前の水を張った田園を朝日が染める光景は絶景です。
山頂へ向かう稜線上には第一展望台・第二展望台があり、長井ダムや同じくやまがた百名山で日本三百名山・東北百名山にも選定されている祝瓶山(1,417m)の「東北のマッターホルン」という形容に相応しい鋭峰や、日本百名山・大朝日岳(1,870m)を望むこともできます。
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倉手山|飯豊連峰の絶景を望む特等席。手を伸ばせば届きそうな、純白の稜線
倉手山から望む飯豊連峰(さささんの活動日記)
最高峰・飯豊山(2,105m)を筆頭に連なる飯豊連峰は、やまがた百名山はもちろん東北百名山・日本百名山にも選定されている名峰です。
その雄大な山並を縦走することは登山者の憧れですが、どのコースも技術的・体力的にも高いレベルが要求されます。長距離の登山となるため日帰りも困難で、途中の無人小屋へ寝具・食糧・炊事器具を背負って歩く必要がある高難易度の山です。
手軽に登れる倉手山から飯豊連峰に挑戦前のイメージを(村上yamadaさんの活動日記)
登頂するのは困難な飯豊連峰ですが、周辺の山々や山麓からは、その巨大な山並を随所から望むことができます。その中でも飯豊連峰を間近に望むことができるのが、倉手山(952m)です。玉川を挟んで飯豊連峰の対岸にそびえる山頂はまさに飯豊連峰展望の特等席。
地蔵岳(1,539m)・飯豊山(2,105m)・北股岳(きたまただけ・2,024m)・地神山(じがみやま・1,849m)・朳差岳(えぶりさしだけ・1,636m)などがずらりと連なる飯豊連峰は、初夏は残雪と新緑、秋は紅葉と新雪に彩られ、四季折々の稜線の絶景を満喫することができます。
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山形県の大きな魅力のひとつが、数多くの温泉です。登山でかいた心地よい汗を温泉で流せば、さっぱり爽快。歴史ある名湯・秘湯も多く、山形への山旅では、ぜひ立ち寄りたいところです。ここでは、置賜エリアの山から下山後におすすめの温泉地を紹介します。
白布温泉|茅葺き屋根の旅館がノスタルジックな世界へ誘う秘湯
西吾妻山の登山後は白布温泉へ。湯滝の宿 西屋(MAYUMIさんの活動日記)
西吾妻山の登山後におすすめなのが、白布(しらぶ)温泉です。西吾妻山で紹介した大平温泉や姥湯温泉などからなる米沢八湯のひとつで、鎌倉時代末期に開湯されたという歴史ある秘湯。まるでタイムスリップしたかのような茅葺き屋根の温泉旅館は日帰り入浴も可能。米沢市の天然記念物である純白のニホンザルをモチーフにした「吾妻の白ざるこけし」は土産物としても好評です。
赤湯温泉|戦傷をたちどころに治した効能豊かな湯とグルメを堪能
秋葉山の登山後は、赤湯温泉へ。入浴後のグルメも充実の温泉街
秋葉山の登山後におすすめなのが、赤湯温泉です。平安時代に奥州統一をめざした源義家の弟・源義綱が発見し、戦で傷ついた身体を浸したところ湯が血で紅く染まり、すぐに傷が治ったという伝承が伝わります。現在は6つのワイナリーと山形県のソウルフード・ラーメン店で賑わい、入浴後のお楽しみも満載の温泉地です。
小玉川エリアの温泉|飯豊連峰の恵みを体感できる秘湯の数々
倉手山の登山後におすすめなのが、小玉川エリアの温泉です。倉手山と飯豊連峰に挟まれた玉川沿いの梅花皮(かいらぎ)荘・川入荘・飯豊山荘など、おぐに白い森株式会社が運営する施設は、飯豊連峰の豊かな自然がもたらす温泉群。それぞれ宿泊・日帰り入浴・食事など様々な楽しみ方が可能です。
せっかく山形県を訪れたならば、登山だけでなく観光も楽しみたいもの。ここでは、置賜エリアおすすめの観光地を紹介します。
三淵渓谷|断崖絶壁が織り成す秘境を行く船旅
熊野山からも望むことができる長井ダムの上流は、ながい百秋湖と呼ばれる山形県内屈指の規模を誇る人造湖。その湖上では、水陸両用バスなどに乗船しての、水上アクティビティを楽しむことができます。
中でも上流部の三淵(みふち)渓谷は川幅が3〜5mと非常に狭く、高さ50mを超える断崖絶壁が約250m続く神秘的な空間です。ボートに乗らないと訪れることができない峡谷は「卯の花伝説」の伝承も伝わるパワースポットで、新緑から紅葉まで四季折々の絶景を楽しむことができます。
ぶどうの名産地とワイナリー巡り
果樹栽培が盛んな山形県の中でも、置賜エリアではぶどうの栽培が盛んです。特に高畠町は、ワインに使用されるシャルドネ・デラウェア品種ぶどうの出荷量が日本一で、高畠ワイナリーでは製造工程の見学や試飲も可能。南陽市にも東北最古のワイナリーである酒井ワイナリーをはじめ、6つのワイナリーが点在しています。
紅葉の西吾妻山(たかみーさんの活動日記)
8/1〜11/3と期間が長く、紅葉シーズンまで楽しめる「やまがた百名山デジタルバッジキャンペーン」。今回ご紹介した置賜エリアだけでなく、村山エリア、最上エリア、庄内エリア、4つのエリアそれぞれのエリアバッジがあり、エリアバッジの複数獲得で「コンプリートバッジ」も手に入ります。
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執筆:鷲尾 太輔(登山ガイド・山岳ライター)
協力:山形県