自然を愛する新進気鋭のアーティスト「xiangyu」が語る山とものづくり

南アフリカのハウスミュージック・GQOM(ゴム)を取り入れたサウンドで、最近都内のライブハウスやクラブで少しずつ話題になって来ているxiangyu。実は彼女、自然好きのYAMAPユーザーなのです。それを知ったYAMAPからオファーをかけ、これまでになかったあたらしい山の曲が完成しました。本インタビューではxiangyuについてはもちろん、本邦初公開のxiangyuとアウトドア、YAMAPとコラボした曲などについて、たっぷりと語ってもらいました。

2020.07.28

YAMAP MAGAZINE 編集部

INDEX

音楽は、一番苦手なものだった

ー xiangyuさんが音楽を始めたきっかけについて教えてください

xiangyu:実は音楽を始めるまでは服に興味があって、10代の頃は服に携わることがしたいと思っていました。なので服飾系の専門学校に入ったんですけど、ある展覧会に作品を出したときに、今のマネージャーの福永さんがたまたま来ていて「一緒に音楽をやらないか」と言ってくれたのが直接のきっかけでした。

ー 福永さんが偶然この場にいるので聞きますけど、どうしてそんな場でスカウトしたんですか?

福永:僕が面白いと思うアーティストって、音楽以外に発信できる個性があるかどうかなんです。なのでスカウトする時にはそこを見るんですが、xiangyuを見たときにそこにチェックがついた感じですね。曲はケンモチさんにつくってもらおうと思ったので曲をつくれる必要はなかったし、歌がうまいかはそのときは分からなかったんですけど、歌は練習できるし歌がうまくなる人より個性ある人の方が貴重なのでスカウトしました。

xiangyu:それ、私も知らなかった笑

ー 一方、xiangyuさんは歌が得意ではなかったという…

xiangyu:歌うことには凄くコンプレックスを抱いていたので、そもそも自分の人生の選択肢に入っていませんでした。だけどこの6年近く、福永さんは「最近どうしてる?」「最近は何に興味があるの」と気にかけてくれていたので、この人と何か面白いことやりたいなぁとは漠然と思っていましたね。その面白いことの着地点を当初は「音楽」以外で模索していましたが、最終的には「音楽」にチャレンジすることになりました。

ー 一番苦手な音楽に着地するまでに、一体どんな心境の変化が?

xiangyu:実は私にとって専門学生の時は暗黒時代だったんですよね。服が好きで専門学校に進んだのに、自分のやりたいことと学校の感じが合わなかったり、自分がどういう風にものをつくっていきたいのか、どういう風に生きていきたいのかも分からなくなっちゃったんです。それが18から22、3歳の頃まで続いて…。でも、そうやって悩み続けながら、福永さんはもちろん色んな人と出会って話して、様々な考え方を知る中で「苦手と思っていること、本当はそんなことないのかも」とか「とりあえずやってみようかな」という風に気持ちが変化していきました。

ー たくさんの人と接することで視野が広がったんですね

xiangyu:そうですね。以前の私はとても視野が狭かったのですが、様々な人と出会ってから道が開けていった気がします。

すでにあるものを組み合わせて、あたらしくする

ー xiangyuさんは音楽をつくる前から服をつくっていたり、つくることが根幹にあるように思えます。xiangyuさんにとって「つくる」ことってどういうことですか?

xiangyu:たぶん、私は何もないところからつくるのは元々そんなに得意ではありません。既にあるものに何か手を加えて別のものに生まれ変わらせるようなものの作り方が好きです。
私、一番初めにつくったものをまだ持ってて、これなんですけど…。

xiangyu:これ、元は真ん中が丸くくり抜かれてる状態の正方形の板なんですよ。、中学校のゴミ捨て場に大量にあって。ほんと死ぬほどあったから、「なんかもったいないなー」と思って、拾って、ちょっとずつ地道に組み合わせてこれができたんです。14歳くらいのときだったかな。

福永さんが声をかけてくれた時につくってた作品は、軍手やブルーシートなどのホームセンターにある素材からつくった服で、それを着てまた軍手やブルーシートを買いに行くというのを記録したものを展示していました。

ー 他にもそういったエピソードが?

xiangyu:そうですね。高校生の時には体育倉庫に眠っていたバスケのユニフォームを何百枚ももらってきてそれで服をつくったり、体操服に付いてるゼッケンを学校中から集めてつくった服を着て専門学校の入学式に行ったり。そういうことばっかりしてました。

「もったいない」とか思ってるのかも、色んなものに対して。

それこそ、「既にあるものでどうにかする」って山の中でもあるじゃないですか。キャンプとかでも「これ足りなかった」とか「忘れてきちゃった」とか。でもよりよいキャンプ生活のために「これを使おう」とか「これとこれを組み合わせよう」ってなるじゃないですか。多分そういった考えが私のものづくりの中にはずっとあるし、生活の中でもそれがあるんだろうなと思っています。

登山とxiangyu

ー 登山をするようになったきっかけは?

xiangyu:子どものころは父親がよくキャンプに連れていってくれてたので、アウトドアはもともと好きだったんだと思います。だけど、ガッツリ登山というのはそこまでやってなくて、それこそ高尾山くらいでした。

その後もキャンプやサーフィンはやっていたので、就活のときにスポーツやアウトドアに携わる仕事がしたいなと思って、アウトドアブランドを受けることにしたんです。そしたら就職試験で「今年の夏にやってみたいこと」みたいな文章を書く課題があって「山登り」って書いたんですよ。そして、最終試験が近づいた8月あたりに、「書いたからにはやらないと。行くならやっぱり一番高いとこ」と思って、富士山に行くことにしました。

xiangyu:当時は装備がなかったのでレンタルしたんですが、当日は生憎の悪天候で家族には「やめろ」と言われました。山のアプリをつくってる人の前で言えないんですが、本当に悪天候だったけど「この日に決めたから」と言って出かけて、初めての富士山なのに一人で行って、しかも吉田ルートとか選べばいいのになぜか須走ルートで登って…やっちゃいけないことだらけですよね。

ちょうどその頃は人生で悩んでて、それこそ暗黒時代。将来のことに悩みながら登りましたね。悩むと山に登りたくなるんだと思います。

ー その登山は嫌な思い出だったんですか?

xiangyu:とにかく、自分の悩みとかどうでもいいくらい大変だったんです、登山が。

でも、泊まった山小屋で初めて出会った人たちと交わした会話がとても楽しかったんです。近しい人よりも自分の人生の悩みとか意外と言えて。他にも「あそこは気をつけてね」「また頂上でも会おうね」みたいなことも言ってくれたのがうれしくて。それこそ、そのとき山小屋で会った人とは今だに仲良かったりします。自然との触れ合いだけじゃなく、山登りはそこで会う人との交流も魅力なんだということを知りました。それからは登山好きだなと思うようになりましたね。

ー その後はどういう風に山を?

xiangyu:神奈川県育ちなので、大山とか鍋割山とかが多かったですね。富士山は自分の人生において大事なポイントになった山なので毎年行ってます。会社員の時は百名山を巡ったりもしてましたね。

ここ一年半くらいは、普通の登山というよりも、山に入ってキノコ狩りにハマっています。頂上を目指すというよりは、生き物とか植物に好みが向いていますね。

ー 生き物、植物。どんな楽しみ方を?

xiangyu:植物の図鑑をつくっている人やシダ植物を研究しているカメラマンの方とかと一緒に、新潟とか群馬とか山梨の山に行ったりしてます。季節やエリアで採れるキノコや見れる植物が全然違うことが面白くて、いろいろと教えてもらいながら楽しんでますよ。

私、勉強の生物って学生時代は全然興味なかったし、はじめはキノコも植物の名前も分からなかったんですけど、山の中で生き物と触れているうちに「さっき見たキノコとこのキノコちょっと似てるけど同じ種類かな」とか「この木の匂いはなんか知ってるっぽいぞ」とか分かるようになってきて、共通項を自分で見出せるようになったり、後で調べて「やっぱそうか」みたいな体験をすることが楽しくて、前よりもどんどん自然の中で遊ぶのが好きになっていますね。

xiangyu:あ、YAMAPと出会ったのは、それこそこのスタイルにはまってからです。キノコ狩りって登山道とも限らないし、自分がどこにいるのかわからなくなっちゃうんですよね。実際日が落ちて遭難しちゃう人もたくさんいますし、YAMAPのアプリを教えてもらって、これは絶対入れるべきって思ったんです。それからは、普通の登山でもYAMAPを使うようにしています。

ー 生き物や植物が好きというのは、本当に自然が好きなんだなと思います

xiangyu:好きですよ。というより、その一部だと思ってます。大きい地球の中で同じ仲間というか、植物も、例えば虫たちも自分とは生活スタイルが違うだけというか。全ての生き物は生活スタイルが違うだけで基本的には同じ生き物同士ですからね。

ー その自然観はどこから来ているんでしょう?

xiangyu:高校の時の修学旅行が、環境問題とか戦争についてとか自分達が学びたいテーマについて1年近く勉強して、最終的に現地でフィールドワークをするという内容だったんですが、私は環境問題について学び、現地調査は四万十川に行きました。

私の中ではその体験が大きくて、例えば「木は二酸化炭素を吸ってくれるから多い方がいい」と当時は思ってたんですけど、実は多すぎてもダメで「伐採は必要だからやっている」ということを林業をされている方から聴いたり、元々都市部で生活していたけど四万十に移住された方の話を聴いたりしました。1年間様々な方に話を聴きに行ったり、体験しに行き、最終論文では「自然と共生するということ」に関して書きました。

高校時代一番パワーを注いでいたのは、こういったフィールドワーク。この経験は今の私の考え方の大元になっています。だから今も私はフィールドワーク主義で、気になることがあったら実際に現場に行き、輪の中に入って感じることを大事にしてますね。

ー ものをつくることと自然で遊ぶことに何か共通項ってありますか?

xiangyu:自然の中で遊ぶことも、ものをつくることも、「どうなるか分からない」を楽しんでいる部分があると思います。でも、これは「何かをするとき」というよりかは「自分の人生」をそういう風に考えているんだと思います。

とりあえず今の自分がこうかな?って思う方向でやってみて、もしそれがなんか違ったと思ったら軌道修正をかければいい。「どうなるか分かんないけどやってみちゃお」で始めるというか、装備ゼロで登り始めちゃう感じ。恐れずにチャレンジしてみることは、ものづくりとか山に登るとかに関わらず、自分の人生がそういう感じだと思ってます。

そういう選択してるときの自分が一番ワクワクするし、やる気が倍増する。自分のパワーを最大限に発揮できるのがそういうシチュエーションなんだろうなと思ってます。

新曲「Y△M△」について

ー 今回、音楽をやっているYAMAPのプロダクト・マネージャーの土岐(hanali)がTwitterでxiangyuさんと繋がり、そこでxiangyuさんがYAMAPユーザーだということが発覚。その後オファーとなりましたが、話が来たときは率直にどう思いましたか?

xiangyu:両手ガッツポーズですよ。めちゃくちゃ嬉しかったです。やったーってなりました。

ー それはよかったです

xiangyu:YAMAPは普段使ってるアプリだし、実際に命も救っているようなアプリ。そんなアプリの「山登りを盛り上げるような企画」に自分も参加ができて本当に光栄だなと思ってます。

Y△M△がタイアップするYAMAPの企画「それでもやっぱり山が好き」

ー どういうことを考えながらつくっていきましたか?

xiangyu:山登りをしているときの気持ちを考えながら歌詞を考えたりしてましたね。山に登りながら口ずさんでもらえるように作りたいなと思って。結果的にxiangyuの曲の中でも爽やかな感じになったかなと思います。後、コロナの影響で色々ストップしている中だったので、また山に行くときにみんなが楽しくなれるような曲になったらいいなとか、そんなこと考えながらつくってました。

ー 特にこの部分は!というこだわりはありますか?

xiangyu:サビでもなんでもないけど「途中でeatおむすび」っていうワードがのっけから出てくるんですよね。その言葉を思いついてからずっと頭から離れなくて、絶対これで行こうってなりました。

ー うちの3歳の子どもも「eatおむすび」をずっと口ずさんでます笑

xiangyu:最高!いつも歌詞を書く時は「言葉の意味」よりも「言葉の持つ音」とか、どう聞こえるかというのを重視しています。

あ、でも「山を登って下る」みたいな流れは意識してつくりましたね。最初は1番と2番で流れはつくってなかったんですけど。登って、風呂入って、ビール。最高じゃないですか。

ー 山の普遍的な喜びやシーンを散りばめられているなと思う中、「ご来光」っていうワードは少しシチュエーションが限定的だなと感じたのですが、これにはご自身の経験が?

xiangyu:山で見るご来光って、多分明日の朝日とか前日の朝日と変わんないじゃないですか。

でも、一番最初に一人で登った富士山で、ようやく命からがらに頂上に着き見たご来光が忘れられないんですよね。「よかった、無事にここまで来れた」と思って。元々登山をしたことがなかった友達を山に連れて行くようになってからも、ご来光を見て感動している友達の姿が印象的だったんです。

登山の楽しみはそれだけじゃないし、普通に日帰りで登ることの方が多いかもだけど、ご来光のシーンは個人的に好きだったので入れました。

ー タイトルの「Y△M△」はかなりストレートなものですね

xiangyu:今までは歌詞の中に出てくる言葉を抽出することが多かったのですが、今回はどストレートにいこうってなって。一瞬「山P」ってのも案にでたんですが。

ー 山Pはやばい

福永:YAMAPも山Pを狙ってつくったのかなっていう…。

ー 違います笑 でも、余談ですが山 Pファンの方はYAMAPのグッズを買ってくれたりしています

xiangyu:えーーーーーー!すごい!!!

ー 最後に。曲に関して何かコメントあればお願いします

xiangyu:みんながまた気持ちよく自然の中で遊べるのが、一体いつになるのか分からないような状況がずっと続いているので何とも言えない部分はあるんですけど、家の中で山に思いを馳せながらとか、近所の公園を散歩しながら、とかでもこの曲を聴いてもらえたらいいな。

日頃登山をしている人は早く登りたい!という気持ちになってもらえると思うし、全然経験がない人も登ってこういう気持ちを味わいたいとか思ってもらえる曲になったんじゃないかなと思っています。この曲を多くの皆さんが、様々な自然の中に連れていってくれると嬉しいです。

ー Y△M△を口ずさみながら山を楽しんでみます!どうもありがとうございました

xiangyu:ありがとうございました。

楽曲情報

Y△M△(やま)

【配信プラットフォーム】
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レコチョク

【告知】xiangyuの自主企画イベント「香魚荘#02」

日時:2020年8月25日(火)
開場:18:30 / 開演:19:00
場所:渋谷TSUTAYA O-nest
料金:オンラインチケット2000円
クラウドファンディングURL:https://camp-fire.jp/projects/view/279039
出演者:下記
■xiangyu
出演:xiangyu (Vo:xiangyu、Manip:Kenmochi Hidefumi、VJ:孔雀倶楽部)
■テニスコート
出演:テニスコート*出演形態は当日までのお楽しみ
■コロナ禍の宇宙探検
出演:安部眞史+小林高士(オリガミ・イーティーエス合同会社/JAXAベンチャー)、小林由佳(小学館・図鑑編集者)

xiangyu
2018年9月からライブ活動開始。日本の女性ソロアーティスト。読み方はシャンユー。名前は本名が由来。南アフリカの新世代ハウスミュージック、GQOM(ゴム)のエスニックなビートと等身大のリリックをベースにした楽曲で関東を中心に勢力的にライブ活動を行なっている。2019年に初のEP『はじめての○○図鑑』をリリース。2020年6月5日には2ndEP『きき』をリリース。

写真 / 大作晃一、小林由佳

YAMAP MAGAZINE 編集部

YAMAP MAGAZINE 編集部

登山アプリYAMAP運営のWebメディア「YAMAP MAGAZINE」編集部。365日、寝ても覚めても山のことばかり。日帰り登山にテント泊縦走、雪山、クライミング、トレラン…山や自然を楽しむアウトドア・アクティビティを日々堪能しつつ、その魅力をたくさんの人に知ってもらいたいと奮闘中。