米国ポートランド発のアウトドア・フットウェアブランド「KEEN(キーン)」が新たに展開するハイパフォーマンストレイルシューズ「NXIS(ネクシス)」(以下、ネクシス)コレクション。KEEN独自の設計によるブランド史上最軽量モデルであり、これまでの登山の常識を変える設計、スペックに注目が集まっています。そんな最新モデル「ネクシス」を、登山ガイドの岩田京子さんに伊豆の金冠山で徹底レビューしてもらいました。
2022.04.18
小林 昂祐
撮影と執筆業
YAMAP MAGAZINEで登山用具の連載を持つ登山ガイドの岩田京子さんは、エベレストをはじめ、4座の8,000m峰に登頂した経歴の持ち主。普段は登山ガイドとして多くの登山者と一緒に日本の山々を歩いています。今回、低山ハイクからエベレストまで、山を知り尽くした岩田さんに「ネクシス」がどのようなシーンで活躍するのか、リアルなレビューをしてもらいました。
「ネクシス」コレクションは、「登山道の凸凹からつま先・足を守るソール設計」「歩行負荷を軽減する優れたクッション性」「軽快なハイク・ランを可能にする軽量性」を備えた、「ハイパフォーマンストレイルシューズ」。これまでにYAMAP MAGAZINEでも紹介してきた、山や、その土地を旅するように歩く”トラベルトレイル”にもおすすめしたいシューズが新たに登場しました。
イメージとしては、登山靴とトレイルランニングシューズの中間。軽快性と堅牢性や信頼性を絶妙なバランスで「いいとこどり」したモデルとなっています。ちなみに本モデルのベースとなっているのは、KEENの代表的なモデルである「ターギー」。KEENらしい幅広の足型と広めのトゥボックス構造がもたらす履き心地や安定感はそのままに、軽量(332g WOMEN’s ミッドカットモデル 24㎝ 片足)に仕上げています。
「NXIS」とは、NO TERRAIN IS THE SAME(ひとつとして同じ道はない)の頭文字から名づけられた名称。あらゆるトレイルに対応できる、汎用性の高さを表現したネーミングとなっています。軽量性がもたらす軽やかな足取り、歩きやすさを追求した性能の高さは、気ままなライトハイクから、ハイパフォーマンスを求めるスピードハイクまで対応します。
クッション性に優れたミッドソール、歩行時のフィット感を高める「KONNECTFIT (コネクトフィット)」など、実用性の高い機能がふんだんに盛り込まれています。
足首のサポート機能を備えた防水ミッドカットとローカット。そして、非防水のミッドカットとローカットを展開。シーンや目的に対応できる4つのタイプが揃うのも魅力です。
その中で今回岩田さんが着用したのは、防水ミッドカットモデルの「NXIS MID WP(ネクシス ミッド ウォータープルーフ)」。
近年、軽量な登山道具は「UL(ウルトラライト)」とも称され特別なものではなくなり、ジャンルのひとつとして定着しました。シューズにおいてもそう。軽量なトレイルランニング向けのシューズで登山を楽しむ人も増えています。もちろん軽量になることで体にかかる重量負荷は軽減されるのですが、「安定性が心配」「脚力が弱いので使いこなせるか不安」という方も多いはず。
そんな時こそ、登山靴とトレイルランニングシューズのちょうど中間のような「ネクシス」の出番。
軽量性もさることながら、足首のサポートやKEENの特徴である、つま先の保護機能、耐久性といった、信頼性を高める独自機能が盛り込まれており、「登山靴では重いけど、トレランシューズでは心配」という方にも最適なモデルに仕上がっています。そんな「ネクシス」について、岩田さんは「登山の新しい選択肢になる」と、その実力を認めています。
岩田さん:「登山をする人の多くが、登山靴の正解は『ひとつ』だと思い込んでいることが多いんです。でも、『これ一足で万全』という登山靴はありません。岩場のない低山や比較的整備されたトレイルを軽快に歩きたいのであれば『ネクシス』が最適。一方、荷物が重く、岩場が多い北アルプスはしっかりした登山靴に分があります。例えば、緩やかなトレイルで本格的な登山靴を履いてしまうと、かえって歩きにくくなり、軽快なスピードハイクの妨げとなってしまいますよね。シューズを山や目的によって変えるという視点が大切なんです。
『ネクシス』を履く上で気をつけたいのは、シューズ自体が軽く柔らかいので、ある程度の筋力やバランス感覚が必要になるということ。ソールが硬く、ホールド感の高い登山靴は、シューズそのものが歩きを支えてくれる機能を持っています。そのため、しっかりした登山靴を履き続けていた方が『ネクシス』を履いてみると、いかにこれまで靴任せで歩いていたかを実感すると思います。
『軽く柔らかいシューズは不安だな』と思う方もいるかもしれませんが、見方を変えてみると、自分の歩き、その楽しさを取り戻せるシューズだということ。靴に頼り切るのではなく、自分の歩く力をしっかりと把握し、育てていくことが大事なんです。
最初はライトハイクで慣らしていって、次第にスピードを上げたり、距離を伸ばしていくといいでしょう。これまでにない新しい感覚のシューズなので、まずは体感してみてほしいと思います。その先には、これまでにない軽快なハイキングを楽しんでいるご自身の姿があるはずです」。
山や、その土地を旅するように歩く”トラベルトレイル”にもおすすめなハイパフォーマンストレイルシューズ「ネクシス」。その優れたスペックや機能がいかにフィールドで効果を発揮するか、そのポイントを岩田さんのコメントと合わせてお届けします。
「ネクシス」のトゥ部分には適度な反りがあります。足を踏み出すと自然と重心が前方向に運ばれ、次の一歩が自然と前方についてくるという、スムーズな足運びにつながります。更に、その歩きやすさを支えているのが、V字型のヒールキャプチャーシステム「KONNECTFIT(コネクトフィット)」。かかとをホールドするこの機能はシューレースと連動していて、足首とかかとの浮き上がりを抑えて安定性を増します。この蹴り出しやすさと、足が一体化するようなホールド機能は、歩行時の疲労軽減にもつながっているんです。
岩田さん:「履くとウキウキすると思います(笑)。走れるような軽やかさがあり、平地なら自然に進んでいくような、登りでも後ろから押されているような感覚ですね。歩行に対するエネルギーが抑えられるので負荷も軽減され、とくにロングハイクで効果を感じられるでしょう。
また、つま先より足首側、母趾球あたりのフィット感が高くなっているのも特徴。加えて、快適性をキープしたままホールド感を高めているため、歩いていてシューズ内で足がブレることがなく、軽快でスピード感のある山歩きが可能になります。」
「ネクシス」のソールの特徴は、柔らかさとグリップ力を高いレベルで両立していること。その機能を最大限に発揮するためには、「あまりかかとを上げすぎない」ことがポイントなのだと岩田さん。
岩田さん:「登りのとき、つま先に荷重をかけて力任せに登ってしまいがちです。でもソールが柔らかいので、曲げすぎる(かかとを上げすぎる)と滑ってしまいます。これはどのシューズにおいても言えることなのですが、ソールのグリップ力が強いので、ここまで上げなくても(つま先に荷重をかけなくても)軽快に登っていくことが可能です」
ソールユニットが比較的柔らかく、屈曲性があるので、登山道の凹凸に合わせてシューズがフィットします。石や木の根に乗り上げたとき、グリップ力のあるアウトソールがしっかり捉えるだけでなく、ミッドソールのクッション性が足を守ってくれます。
岩田さん:「クッションの柔らかさとフットベッドの薄さの効果なのだと思いますが、歩いてみると指先で大地を掴むような感覚があります。歩いていて気持ちいいんです。一般的な登山靴ではソールが硬いので、掴む感じではありませんよね。この柔らかさで指に力がはいることで、不安定な登山道でも地面をしっかり感じながら歩くことができます。バランスがとりやすく、また力の入れ具合の調整もしやすいですね」。
登山の悩みのなかでも多くの方が経験している「膝痛」。原因のひとつに挙げられるのが、下山時の負荷が膝に強くかかること。「ネクシス」は、クッション性の高い厚手のミッドソールを採用し、この負荷を軽減。近年人気のある厚底トレランシューズのような柔らかい履き心地、接地感を体験できます。
岩田さん:「段差を降りるとき、いくらそっと足を置いても衝撃を受けてしまいます。とくに軽量モデルはソールが薄いものが多いので、地面が直接骨に当たるような痛みを感じることも。その点、『ネクシス』はフワッとしたクッション感があるミッドソールのおかげで着地したときの衝撃がかなり軽減されます。長時間歩くときにも効果があるはずです」。
ミッドソールの素材は、実際の足底よりも少し上の高さまでデザインされていて、実際に足裏に触れる高さは、上の写真の指で示した位置ほど。とくに負荷が大きくなるかかと周辺は、足を包み込むようなすり鉢形状にすることで、きびすの安定感を高めています。クッション性の高いシューズにありがちな横ズレを最小限に抑える工夫が施されているんです。
ソールパターンにも注目してみたいと思います。「ネクシス」に採用されているのは、「全方向対応型」。前にも後ろにも、そして左右ななめにもしっかり効くラグパターンとなっています。
山での下り、しかも滑りやすい不整地での安定感を試してみました。例えばこのようなぬかるんだ登山道。接地と同時に滑って転びそうになった経験はあるはず。
岩田さん:「うっかり不整地に足を置いてしまっても、足の踏ん張りが効きます。つま先が乗り上げても足裏が捻れることで、接地面積を大きくキープできるんです。ちなみに、下りではシューズ全面をフラットに置くことで摩擦力を最大限に高めるのが大切。シューズ後方のラグパターンがしっかり効いてくれるのでしっかり止まります。」
大きく分けて4つのパターンで構成されているアウトソール。シューズの前側と後ろ側でU字型ブロックを反対向きに配置し、全ての方向に対するグリップ力をアップしています。また、もっとも摩擦が加わる親指の下とかかとの外側部分を横方向のラグパターンにして接地面積を大きくすることで、摩擦への耐久性を高める効果があります。必ずしも岩場向きのシューズではありませんが、岩稜帯やガレ場などを通過する際には、このアウトソールが効果を発揮するでしょう。
また、ソールのパターンが「八の字」のような形をしている点にも注目。アウトソールが分割され柔軟性を高めることで左右への動きにも対応できます。
登山靴を選ぶ上で重要なポイントになるのが防水性。シューズが濡れてしまうと不快なことはもちろん、場合によっては冷えの原因にもなることも。防水モデルがラインナップされているのはユーザーにとって嬉しいポイントでしょう。
防水メンブレンには独自開発の「KEEN.DRY」を採用し、くるぶしより上までの深い水たまりでも心配なく歩くことが可能。上の写真のようにシューズのほぼ全面にわたって「KEEN.DRY」が配置されています。ぬかるみの多い登山道や雨の日でも安心です。
「ネクシス」はその機能性に加えて、素早く靴紐を締め上げる「スピードレーシングシステム」を採用。ワンアクションでシューレースのフィット感とかかとのホールド感を同時に高めることが可能になっています。
岩田さん:「一般的なシューズでは、靴紐を通すための穴があると思いますが、こちらは細いコードとなっていますね。適度な摩擦があり、靴の先端から締め上げることができ、細かいフィット感の調整が可能になっています。とくに下山時に、足がシューズの前に滑っていくとつま先が当たったり、靴擦れの原因になってしまいます。確実に、かつ適切に靴紐を締め上げられることは、快適な歩行に欠かせません」。
シューズそのもののクッション性もさることながら、KEENが独自開発しているフットベッドも見逃せないポイント。EVA製の柔らかく、反発性の高いフットベッドは、土踏まずにフィットしやすい立体型成形。シューズ内で足を安定させる効果があるだけでなく、前に向かって薄くなっているため、歩きやすさの秘訣となる前傾姿勢をストレスなく実現しています。
岩田さん:「登山靴を買ったらフットベッドを高性能のものに変えるというのはよくあることでした。でも、このモデルであればそのままでOK。シューズに最適化されたフットベッドなので、むしろ効果を最大限感じられると思います」。
岩田さん曰く、買うときに気をつけたいのがサイズ感。ジャストフィットがベストなのだそう。
岩田さん:「一般的に登山靴を買うときはゆるめのサイズ選びをすると思うのですが、ゆるいとフィット感が得られません。『ネクシス』は、ほかのKEENのシューズよりも、若干タイトめなサイズ感になっています。いつものサイズで合わせてみて『ちょっときついな』と感じるかもしれませんが、それでOKです」
シューズ自体が柔らかい素材でできているので、靴ズレの心配もほとんどなく、いわゆる登山靴のように「大きめサイズ」「厚い靴下」は不要。ジャストフィットで履いてこそ効果を存分に体感できるんです。
最後に、KEENのものづくりの姿勢をご紹介しましょう。
アウトドアライフのために生まれたKEENは、自分たちが暮らし、遊び、働く場所を守る責任があると考え、地球環境負荷を低減した製品づくりを続けています。
「ネクシス」のメッシュアッパー、つま先とアッパー側部を補強するTPU素材にはリサイクルPETを使用。TPU素材は、オーバーレイすることで接着剤を不使用に。撥水加工に関しては、発がん性があるといわれる有害物質に指定されている過フッ素化合物を使用せず、安全で効果的な代替物質を使用しています。さらに防臭加工に天然由来のプロバイオティックスを採用するなど、さまざまな面で徹底した環境負荷低減を推進しています。
「NXIS ネクシス」の登場により、とくにハイキングシーンにおける歩き方に新しい風が吹き込まれたのかもしれません。「登山靴=重く硬い」や「トレランシューズ=軽すぎて不安定」といったこれまでのシューズのネガティブな面を、それぞれのいいとこ取りをすることで解消。体力や技術に不安のある方にはより負荷を抑えた山行が、一方、より速さや距離を追い求める方にはパフォーマンスを高めた山行が可能になりました。
さらに、ユーザーにとって嬉しいのは、ローカット&ミッドカット、さらに防水&非防水モデルがラインナップし、用途や目的に合わせた選び方ができること。国内のさまざまな低山ハイクからロングトレイルまでカバーできる、トラベルトレイルをより楽しくする新しいモデルを体感してみてください。
写真・文=小林昂祐
協力:キーン・ジャパン合同会社