山歩きの経験に関係なく注意したいのが、「道迷い」。年間の山岳遭難者約3,000人のうち、原因のおよそ4割が「道迷い」です。ヤマップは、このリスクをゼロにすることを目指し、登山地図GPSアプリ「YAMAP」を利用するユーザーの軌跡データを今年も分析。「日本一、道迷いしやすい登山道2023」としてまとめました。今回取り上げる道の実例とともに、迷いやすい道の傾向と対策を、登山ガイドの上田洋平さんが解説します。
2023.06.12
上田洋平
登山ガイド
・「◯◯」ほど迷いやすい
・「◯◯」を信頼しすぎてはいけない
・「◯◯を読む」のが大切
山歩きを愛する皆さんは、道迷いを回避するためのこれらの心得はすぐにわかりましたでしょうか。
安全登山を推進するヤマップは、2021年から毎年、ユーザーの軌跡データから迷っていると分かる5か所を抽出し、「日本一道迷いしやすい登山道」として発表。
登山道の維持管理に取り組む自治体や山岳団体などにも共有して道標の設置など安全対策を呼びかけ、道迷い遭難をゼロにする活動を推進しています。
実際に、2022年7月に発表した「日本一道迷いしやすい登山道2022」の結果を受け、「道迷い」多発地点とされた5か所全てに道標が設置されました。このとき3か所が上位にランクインしていた埼玉・飯能アルプスでも大きく数値が改善し、今回は圏外となっています。
プレスリリースを見る:道迷い多発地点に道標設置 道迷いが減少(2023年1月)
YAMAPアプリには、ユーザーが登山中に危険だと思った場所やおすすめスポットなどを投稿できる「フィールドメモ」機能があります。他の登山者はその投稿を確認することで、直近の登山道の状況を把握できます。次にその登山道を通る人の役に立つ機能なのです。
調査の対象は、YAMAPアプリのルート上に投稿された「迷いやすい」タグが付いたコメント(フィールドメモ)約22,000件。
このタグ投稿のうち、他ユーザーが「参考になった」と評価した反応数を、直近一年間の「迷いやすい」地点の通行量で割り、「道迷い率」を算出。この割合の高かった順に、上位5カ所を抽出しました。
同時にYAMAPアプリ内にある累計約2,300万件の活動日記から、道迷いした形跡がある登山者の軌跡データを合わせて分析。道迷い多発地点を特定しました。
上の写真で、道は4つに分岐しているように見えます。正しいルートは左へ登っていく黄色の矢印です。
「迷いやすい」タグをつけた投稿者の1人は、下(南)の水落山から上(北)に進む登山者に対して、「対馬見山方面へは、下りきって左手へ登っていきます」とコメント。進むべき道を黄色の矢印で示した写真を一緒に投稿していました。
他の登山者からも「前回は、ここで間違ってしまった」「迷いやすいところ。報告のおかげで迷わずすんなり行けました!」などのコメントが多数寄せられています。
一番左の地図の赤線が「正しいルート」。一番右の地図の緑の枠内は、気づかずにそのまま直進してしまった軌跡データ(枠内)です。
右(東)にトラバース気味に下り、沢地形のようなところでその先は行けないと分かり、やっと左(西)に引き返しているのが分かります。
この分岐の難しいところは右側の木に赤テープが巻かれてあり、右(東)へ進むのが正しいルートだと思ってしまうところです。
分岐点がある場所の地形を読むと、南側の水落山から北にある対馬見山へは、下ってから登り返す「コル」(鞍部)と呼ばれる場所。間違ったルートの方面はどれも下っていくルートのように見えるので、写真の黄色矢印のように、登り返すルートが正解です。
地図に記載されている地形を前もって読んでおけば、「コルだから次は登りか」と写真に記された黄色の線の方向に進むのが正解だと分かります。
しかし、「下りの道だから、まだ下るはず」と分岐で確認しないと、「道迷い遭難」への一歩を踏み入れてしまう、怖い分岐点です。
真夏に水が尽きていたり、日没を迎えるのにヘッドランプを持っていなかったりして間違えると、突然に牙をむいてくる分岐になるかもしれません。
対馬見山を通るモデルコースを見る:宮地嶽神社-宮地山-在自山-水落山-対馬見山-冨士白玉神社 周回コース
左の林道ではなく、右側の登っていく道が正しいルート。どう見ても左側が快適そうなので、右の尾根に取り付くのを見落としがちになってしまいます。
実際に「右です。。。うっかり左に行きました」「林道じゃなく右の尾根へ」などのコメントが多数ありました。
一番左の赤線が正しいルートです。中央左と中央右は林道(棒線)をそのまま進み、間違いに気づいて登山道(点線)に引き返しています。
一番右の図のように、戻らずにルート以外の道を突っ切っている人もいました。
突っ切った登山者は「しゃーない、ここ登ろ。」とコメントしており、尾根筋より等高線が密になっている、急峻な危険なルートを進んでいることが分かります。
この分岐点(青点)は林道である上図1、2、3の3つの道が交わる三叉路。登山道である4、5も合わせると、5本の道が交わる五叉路となります。
ここでも山の「地形」を読んでみましょう。
分岐点は左(西)の龍神岳から下り、右(東)の耳取山に登り返す「コル」の地形になっていることが分かります。
コルから耳取山のピークへ登る道は上図2と3の林道に挟まれている登山道5のルートが正解ということになります。逆に上図2と3の林道を進むと、ピークを巻くように進んでしまいます。
幅の広い林道から幅の狭い登山道に入る箇所も見落としやすいポイント。分岐で立ち止まって地図を読み、自分の進むべき道を確認しましょう。
千ノ時を通るモデルコースを見る:ごまさんスカイタワー登山口-護摩壇山-龍神岳-耳取山-千ノ時 往復コース
道幅が広い左の道ではなく、右の茂みに入るかのように見える道が正しい登山ルートです。「入り口 分かりにくいです」、「通りすぎて引き返した。ここを上がらなくちゃ」などのコメントが多数。控えめにピンクテープがありますが、多くの人が気づかず、道なりに進んでいるようです。
一番左の地図の赤線が正しいルート。中央は広い道をそのまま道なりに進み、途中で気づいて引き返しています。一番右は広い道をそのまま進み続け、ずいぶん進んでから気づいています。
この分岐点も、2位の奈良県・千ノ時と同じく、林道から登山道へ入っていく箇所です。
上図の青点がこの山の登山口。青矢印で示している通り、その前の分岐点から林道をゆるやかに登り、約200m程度進んだ左カーブに登山口はあります。
ですので、前の分岐点に着いたとき、地図を見て「およそ200m進んだあたりに左カーブがある、そのあたりに登山道入口がある」と予測を立てておくと、うっかりとした見落としも防げます。
神明山を通るモデルコースを見る:岩崎山-大岩山-賤ヶ岳-公法寺山-大平良山-権現峠-神明山 周回コース
ルートがはっきりしない場所です。「踏み跡がいくつもあり迷いやすい」、「右側に巻きますがわかりづらい。何度か迷って、上に行ったり、戻ったり」とコメントがあります。
一番左の赤線が正しい登山ルート。右3枚が道迷いの軌跡です。緑枠内をみると、ルートが分かりにくく、引き返したり、戻らずに突っ切っている様子が分かります。
この立岩付近については、地図から地形の特徴をおさえておくことで、道迷いのリスクは減らせます。
上の地図の青丸のあたりは、傾斜が地図の等高線に現れないくらいゆるやか。もしくは平地のトラバース道になっていて、登山道をその先へ進むと等高線の間隔が狭い急登になっていることが分かります。
道迷いした軌跡に共通しているのは、急登を避けるように、ずっと平らなトラバース道を進んでいることが分かります。
このように平坦な道で広く、踏み跡が多くある箇所は、非常に道迷いしやすいポイント。地図をこまめに確認しつつ、予想と違う地形が続くようなら立ち止まり、地図で現在地を再確認。ルートから外れていたら、明確に登山道と分かる地点まで引き返すことが大切です。
立岩を通るモデルコースを見る:立岩周回コース
最後は、沢地形で正しいルートがはっきりしていない道迷いポイント。
「ここで沢を渡ります。反対側に赤い印があるので見落とさないように!」「いまいちどこが登山道かわからん道を進み(たぶん登山道を外れていたと思われ)」などのコメントがあります。
一番左の地図の赤線が正しいルート。中央左と中央右の道迷い軌跡では、沢地形の道が明瞭でないため引き返したり、一番右の地図については、かなりさまよってしまっている様子が分かります。
この地点のように、沢を渡って対岸に進む登山道も道迷いしやすいポイントです。
地図から地形を読み取ると、沢地形(上図の青線)に沿って登山道があり、上図のオレンジで示した通り沢地形をまたぐ箇所が3回あります。
沢地形というだけで、実際に沢が流れているかどうかは地図からは読み取れません。今回の沢もほとんど水が流れているようには見えません。
晴れた日は沢が流れていなくても、雨が降った後は沢が流れ、景色がすっかり違ってしまうポイントもあります。
登山道の途中に沢が横切っていると、沢に沿った道があると思いがち。この地点のように、沢を渡るケースもありますので注意が必要です。
YAMAPの「迷いやすい登山道」の発表は、2023年で3回目。これまでの分析から、道迷い多発地点の傾向が分かりました。
今回の発表の2位、3位のパターン。倒木により道が分かりにくくなっている上、左斜め前に道のようなものが見える分岐点。この左斜めが尾根筋であるがゆえ、左斜め前に行ってしまいそうになります。
林道から狭い道に入る分岐は、多くの人が見落としてしまいがちなポイントです。
今回の5位に入った愛知・城ヶ峰のように、涸れ沢の場合には、それが登山道に見えてしまい、そのまままっすぐ進んでしまうことがあるので、注意が必要です。
2022年の道迷い地点に4位に入った、鈴鹿山脈の御在所岳(1,212m)に向かう途中。急峻な登りがあると、そちらばかりに視線がいってしまい、その脇や下りになる登山道がわかりづらくなってしまいます。今回1位の福岡・対馬見山も同様で、下りばかりに視線が行くと、登り斜面に目がいかなくなってしまいます。
今回の発表で4番目の群馬・立岩のように、踏み跡が不明瞭な山域の場所は、事前の地図読みと、周囲の地形を読むことが必須。
紅葉で枯れ葉が登山道を覆ってしまったときも似た状態になりやすいため、登山地図GPSアプリを積極的に活用して現在地を把握しながら進みましょう。
道迷い多発地点の傾向は上記で述べた通りですが、道迷いしないようにするために他にも気をつける点があるので、ポイントを説明します。
今回紹介した道迷い多発地点は、ほとんどが標高1,000m以下の「低山」で起こっています。
多くの登山者が訪れる日本百名山や3,000m級のアルプスの山々は道標(どうひょう)もしっかりと整備され、登山道も明瞭であることが多く、道迷いのリスクは低くなります。
しかしマイナーな低山となると話は違ってきます。分岐点に道標が無いことはよくあること。市町村をまたぐことも多く、A市方面へ行く道標のみ整備されていて、B市方面へ行く道標は整備されていないなどのケースもあります。
「低山だから大丈夫」「低山だから簡単」という思い込みは捨て、登るルートをしっかりと下調べするとともに、登山届を出し、家族に登る山やルートを伝えておく(登山届を共有するのがベスト)のは基本動作。登山中は紙地図やYAMAPアプリを活用して下さい。
今回、1位で紹介した対馬見山では間違った方向へ進む側の木に赤テープが付けられていました。
実は赤やピンクのテープは登山道を示すことも多いのですが、中には林業関係者や沢登り、クライミングする人が付けた目印になっていることもあります。
赤テープやピンクテープが付いているからといって無条件に信頼せず、“その場”で地図を確認し、進むべき方向を再確認しましょう。
道迷い多発地点のすべてのケースに共通することですが、道迷いした方は地図は見ていたかもしれませんが、「地形」を読んでいなかったケースが多いと感じられます。
地形を読むことは最初は少し難しく感じるかもしれませんが、YAMAP MAGAZINE内の記事や書籍、登山ガイドや山岳ガイドが講師を務める講習会等に参加して、地形の読み方を学ぶと良いでしょう。
・分岐点やチェックポイントで進む方向と距離を確認
・次のチェックポイントまでの道をイメージして進む
・イメージと実際の登山道が違っていたら、地図で現在地を再確認する
・登山道から外れていたら、前のチェックポイントまで戻る
このような地図読みの基本をマスターすれば、道迷い遭難する確率はグッと減ります。しっかりと確認しながら、YAMAPアプリを活用して安全に登山を楽しんで下さい。
遭難は他人事ではありません。どんなときでも万全の備えを忘れずに。
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