登山地図GPSアプリを利用していれば、現在地やルートの確認が簡単にできます。けれども紙の地図が読めるようになることで、登山地図GPSアプリからさらに多くの情報を読み取れるようになるのです。そんな地図読みやコンパスワークのための知識を、4回にわたって紹介。第1回は地図の種類と地図記号についてお伝えします。
地図読みマスターへの道|記事一覧
2023.04.18
YAMAP MAGAZINE 編集部
YAMAPなどの登山地図GPSアプリは、スマートフォンでの閲覧を前提としています。このため画面に表示されるのは、(拡大や縮小は可能ですが)登山ルート全体のごく一部となります。
「登山ルート全体のどれくらいを歩いたか」「この先の登山ルートはどうなっているか」など、歩く山とルート全体を俯瞰して把握するためには、登山地図GPSアプリだけでなく、広範囲が掲載されている紙地図を併用することがおすすめです。
中でも、多くの登山地図GPSアプリに表示されるのが、国土地理院発行の地形図(等高線が入っているもの)です。この地形図を読み取る知識を身に付けてアプリ画面を拡大・縮小やスクロールさせることで、アプリ画面からもより多くの情報を得ることが可能に。地図読みマスターをめざして、地形図を読み解く基礎知識を身に付けましょう。
登山用の紙地図の多くは、15,000分の1程度から50,000分の1という縮尺が採用されています。そして、多くの登山地図GPSアプリで表示される国土地理院発行の地形図は25,000分の1の縮尺。これらは中縮尺と呼ばれ、一般的な歩行速度に適した縮尺サイズとされています。
中縮尺があれば小縮尺と大縮尺の地図もあります。小縮尺の代表例は地球儀。小玉メロン程度の大きさ(直径21cm)で6千万分の1という縮尺で地球全体をカバーしています。
逆に大縮尺は写真の小さな公園のような狭い範囲を地図化したもの。建物の縮尺に厳密でない場合もありますが、デパートの売場案内図や鉄道駅の構内図・出口案内図も、数百〜数千分の1という縮尺で描かれています。
国土地理院の地形図は、登山専用に作成されたものではありません。日本全国の地勢を明確にするために発行されている25,000分の1地形図は、全国で4,400枚以上。緯度・経度によって網羅する範囲は機械的に分割されており、登山ルートが複数枚の地形図にまたがる場合もあります。
地形図の左上に青囲みで表示された地図名と、9マスで周囲の地図名を表示した索引図を参考に、まずは登山ルート全体を網羅する地形図を書店やオンラインで入手してみましょう。自分が計画した登山ルートを「どの地形図で網羅できるか」を調べるだけでも、かなり実践的な行動になります。
▼参考
日本地図センター:25,000分の1地形図の網羅範囲
地形図の体裁も、時代によって少しずつ変わってきました。かつての地形図は写真右下のように余白が広いものでしたが、新しい地形図は写真左上のように余白が小さくなっており、以前よりも少し広い範囲が掲載されています。
かつての地形図は3色刷りといって、黒(文字や記号)・青(河川や海)・茶(等高線)の3色のインクのみで印刷されていました。
新しい地形図は多色刷りとなり、高速道路・国道・都道府県道などの道路を色分けしたり、建物を橙色で描くことで、特に都市部の地形図はカラフルになっています。山間部にも陰影が描かれるようになり、以前よりは立体感がある表現に変化しました。
国土地理院が発行する地形図に使用されている地図記号は130種類あまり。寺院の「卍」や温泉の「♨︎」などが有名ですね。この地図記号も時代の変遷によって使用されなくなったものや新しく生まれたものもあります。
2023年現在もっとも新しい地図記号は「自然災害伝承碑」で、2019年に生まれました。御嶽山(おんたけさん、3,067m)山頂直下に建立された2014年の噴火災害慰霊碑も、この地図記号で地形図に記載されています。
もちろん、これらの記号すべてを覚える必要はありません。地形図の下の余白には、地図記号の凡例も掲載されています。それでも、山登りで地形図を使用する時に頻出する地図記号は覚えておくと便利。ここからは、それらの地図記号を紹介していきます。
日本の山の多くを占めるのが樹林帯、すなわち森林です。こうした背が高い樹木を表す代表的な地図記号が、針葉樹と広葉樹。
針葉樹は低山であれば杉・松・ヒノキ、高山であればシラビソ・コメツガなど。多くが常緑針葉樹で、冬でも緑色の葉を茂らせているのが特徴です。ただし、上高地の梓川沿いなどで見られるカラマツは漢字で“落葉松”と書く通り、秋には葉が黄色く色づき、冬には落葉します。
広葉樹はブナ・ケヤキ・サクラ・カエデなど、多くは落葉樹です。秋には紅葉が美しく、冬には落葉し、翌春にはみずみずしい新緑を楽しむことができます。
ただし、海に近い温暖な山や南斜面では、タブノキ・スダジイ・ヤブツバキなど、葉が肉厚で冬でも落葉しない常緑広葉樹が森林を形成している場合もあります。
針葉樹・広葉樹など森林を形成する背が高い樹木は、冬の環境が厳しい高所では生育できません。その上限となる境界線が森林限界。緯度によって変わり、北海道の山では標高1,000m前後、北アルプスでは2,500m前後となります。
森林限界より高い標高で見られる代表的な植物がハイマツ。文字通り、地をはうように枝を伸ばした独特の樹勢で、高い山のシンボル的存在です。
高い山と聞いて思い浮かぶのが、高山植物。意外にもこれは、「荒地」という地図記号で表されます。言葉の印象とはずいぶん違いますが、地図記号では、雑草など背が低い植物が生育している場所を荒地で表しているのです。
尾瀬ヶ原などの湿原や、牧場、ゴルフ場などの人工的な草原、ススキやセイタカアワダチソウなどが生い茂った河川敷でも、荒地の地図記号を目にすることができます。
斜度が急な崖のうち、岩で覆われた場所を岩崖の地図記号で表します。くさび型の地図記号で、これがずらりと並んでいると大規模な岩壁ということになります。
斜面の土砂が崩落して形成される土崖(つちがけ)は、地図記号でも斜面を指でえぐったように表わされています。丹沢山塊のように地質がもろい山域のほか、噴火による火砕流・土石流の跡が土崖になる場合も多く、火山でも頻繁に目にする地図記号です。
等高線と同じ茶色の粒状で表現される砂れき地。山頂に花崗岩が風化した砂浜が広がる山梨県の日向山(ひなたやま、1,659m)が代表的な景観ですが、実際には岩石や砂の大きさに関係なく登場する地図記号です。
粒子の小さい海岸の砂浜も、富士山や日本アルプスなどの高山で見られる大きな岩が積み重なったガレ場も、同じ砂れき地の地図記号で表されています。
鈴鹿山脈北部(滋賀、三重)や秋吉台(山口)など限られた場所になりますが、雨や地下水などに溶けやすい石灰岩地質の山では、水の浸食で地面が陥没したドリーネという穴が点在しています。このように地面の一部がへこんでいる場所は、凹地(おうち)という地図記号で表されます。
2023年3月現在、日本列島には111の活火山が存在しています。中でも火山活動が活発な山では、地表に火山ガスを吹き上げる噴気孔がある場合もあります。
こうした山に登る時には、風向きに注意しましょう。登山道が噴気孔の風下になるタイミングでは、火山ガスを吸い込むことで硫化水素中毒になる危険性も。リスクを認識した、慎重な行動が必要になります。
山へ降った雨や雪解け水は、沢(谷)を流れ下って、時には滝を経ながら、河川となって海へと注ぎます。
奥秩父山塊の甲武信ヶ岳(こぶしがたけ、2,475m)は、太平洋側へと流れる荒川と富士川、日本海側へと注ぐ信濃川(千曲川)の源流で、日本一長い川の水源地標も設置されています。
急斜面を流れ下る川の途中には滝ができることも。地図記号では、下流側に黒い点が2つ表記されています。
落差日本一を誇る称名滝(しょうみょうだき、富山県)は、岩崖に囲まれ絶壁を流れ下る様子を、地形図からも想像できますよ。
日本一大きな湖・琵琶湖をはじめ、湖沼はその形どおりで地形図に表記されます。山登りにおいても、明確で把握しやすいランドマークといえるでしょう。
湖沼の周辺はもちろんですが、湖沼を形成するに至らないような場所でも、水がたまって湿地となる場所もあります。こうした場所は青色の横線で表記され、周囲の水草が荒地の地図記号で記載されていることもあります。
北アルプスや北海道・東北の山々では、夏でも雪渓が残っている場所もあります。真夏の暑さを経ても溶けることなく、9月頃でも一定の規模で雪が残っている場所は、青い粒状の万年雪という地図記号で表されています。
近年、北アルプス・立山連峰や後立山連峰の万年雪のうち7つは、日本ではこの一帯にしかない氷河と認定されました。
景観との調和という観点では違和感を抱く人工物。山の中で出会うと、かなり目立ちます。送電線の下をくぐる時は、地形図で送電線と登山ルートが交わる場所というピンポイントで、現在地を特定できます。
そもそも高くなっている場所という点で、山は電波塔を建てるのに適した立地。日本百名山でも筑波山(877m)や美ヶ原(王ヶ頭・2,034m)の山頂付近には電波塔が林立し、周囲の山々や山麓からも、電波塔の存在からその山であることが認識できます。
古くから人の生活圏が山に近かった日本。特に低山では、登山口までの山麓が農地になっている場合もあります。
神奈川県にある矢倉岳(やぐらだけ、870m)の登山口のひとつである矢倉沢周辺では、写真の茶畑だけでなく田・畑・果樹園などあらゆる農地が、地形図に地図記号で表記されています。
意外にも、登山道という地図記号は存在しません。高山や自然豊かな山では破線で描かれた徒歩道が登山道となることが大半ですが、低山や林道では実線で描かれた軽車道や二本線で描かれた道路が登山道となっている場合もあります。
高尾山(599m)の場合は、自動車も通行する舗装された1号路(写真上)は1車線道路の地図記号で表記され、さらに黄色く塗られていることから、都道であることがわかります。
対照的に、自然の景観を色濃く留めた稲荷山コース(写真下)は、徒歩道の地図記号で表記されています。
登山用の地図用紙は水濡れに強い加工が施されていますが、地形図は普通の紙製なので、雨に濡れれば破れやすくなります。登山用品店では専用のマップケースも販売されていますが、写真のようなジップ付ポリ袋でも十分です。
濡れないための収納方法よりも大切なのは、登山中の収納場所。ザックの中に入れてしまうと、休憩時しか地形図を見ることはありません。ウェアのポケットなど、すぐに取り出せる場所に入れておき、こまめに地形図を確認する習慣をつけましょう。
執筆・素材協力・画像撮影=鷲尾 太輔(登山ガイド)
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