常陸国ロングトレイル・奥久慈男体山|公共交通機関で楽しめる最高の山旅

昨年4万人以上の登山者を記録し、人気急上昇中の「常陸国ロングトレイル」。標高500mほどの低山がほとんどながら、変化に富んだコースと山麓のグルメや歴史を楽しめることがその人気の理由。今回はその中でも、手軽に大展望が楽しめると評判の「奥久慈男体山」と日本三名瀑「袋田の滝」を、登山系YouTuber・モデルの山下舞弓さんと一緒に紹介します。絶景好きには絶対おすすめしたいコースなので、ご期待下さい!

2024.12.17

大関直樹

フリーライター

INDEX

常陸国ロングトレイルとは?

首都圏から約1時間半でアクセスできる「常陸国ロングトレイル」は、山や滝、海を望む大自然と、山麓に息づく文化や歴史を体感できるロングトレイル。2020年に整備が始まり、茨城県の県北エリアの北茨城市や大子町など6市町の里山や絶景スポットを結ぶ全長320km(予定)のコースです。2023年度の利用者数は、前年の4倍以上、約4万人を記録し、人気も急上昇中!

今回は、関東百名山のひとつ奥久慈男体山(おくくじなんたいさん・653m)と日本三名瀑に数えられる袋田(ふくろだ)の滝を歩く山旅を紹介。 また、紹介コースは2024年10月から始まっている「常陸国ロングトレイル デジタルバッジキャンペーン」の対象エリアなので、ぜひ最後までチェックしてみてくださいね。

常陸国ロングトレイル5つの魅力

YAMAP MAGAZINEでは、これまで5回に渡って「常陸国ロングトレイル」を紹介してきましたが、改めてその魅力を振り返りましょう。

1.低山の多様な自然・・・標高500mほどの低山歩きで、展望、滝など変化に富んだ自然を楽しめます

2.自由な計画性・・・単に山頂を目指すだけでなく、スタート&ゴールを自分で自由に設定できます

3.歴史あるスポット・・・「常陸国風土記」(717~724年に書かれた茨城県の地誌)の時代からの遺構など、歴史を感じるスポットが数多く残っています

4.地域色豊かなグルメ・・・山麓には、地域色豊かな特産品グルメが目白押し。下山後のお楽しみも盛りだくさんです

5.多彩なエリア・・・山間エリアや沿岸エリアなど、それぞれに個性があり、自分の好みのコースを選べます

また、9月には各エリアの特徴を楽しいイラストで紹介するイラストマップが完成。茨城県内の道の駅、県北地域の市町関連施設、道の駅等で無料配布しているほか、下記からダウンロードもできますので、ぜひ御覧ください。

奥久慈エリア|奥久慈男体山と袋田の滝を満喫

今回の山旅の舞台「奥久慈エリア」は、茨城県県北エリアの上部に位置し、おとなりはもう福島県。「久慈富士」とも呼ばれる雄大な山容の奥久慈男体山、日本三名瀑・袋田の滝と他では見られない景色が堪能できるエリアです。

水戸からはJR水郡線(すいぐんせん)の利用が便利。車窓から里山の風景を楽しんだあと、現地ではリーズナブルなAI乗合タクシーを組み合わせることができるので、登山口までリラックスして移動できます。また、下山後のグルメも大子町(だいごまち)ならではの特産品を楽しめます。

公共交通機関で奥久慈を楽しもう!AI乗合タクシー「たくまる」の使い方

地方はバスの便数が少ないこともあり、レンタカーを借りる人も多いと思いますが、大子町は格安のAI乗合タクシーが普及しています。AI乗合タクシーとは、目的地の近い利用者同士をAI運行システムを活用して目的地まで送り届けるサービスのこと。事前にスマホや電話で予約すると駅や登山口、ホテルなど決まっている乗降所にタクシーが迎えに来てくれる便利なサービスです。

●運行日時

  • ・日中(9時~17時)は毎日運行
  • ・夜間(17時~23時)は、金曜日、土曜日、祝日前日運行
  • ※年末年始(12月29日~1月3日)は運休

●乗降所

      • ・登録されている乗降所

    ●運賃

        • ・日中は、1人につき1回300円
        • ・夜間は、1人につき1回500円

    ●予約方法

      • インターネットの専用サイトにアクセスし、予約(降車場所、乗車場所、乗車人数、乗車希望時刻等)を入力する。なお、平日日中の運行分のみ、電話による乗車予約が可能。

乗車地を地図上で選べるなど、予約は直感的に操作できるので初めてでも難しくない

 

*とても便利で料金もリーズナブルなAI乗合タクシーですが、走行台数が日中は2〜3台、夜間は1台。専用サイトで3日前から予約可能なので、予定が決まったら早めに予約がオススメです。

それではAI乗合タクシー「たくまる」の説明はこの辺りにして、いよいよ今回の山旅の様子をご紹介していきましょう!

モデルコース1日目/常陸大子駅〜奥久慈男体山〜袋田温泉

10:40 常陸大子駅

JR水郡線は水戸駅と郡山駅を結ぶことから両者の頭文字をとって「水郡線」と名付けられている

JR水戸駅を9時23分に発車する郡山駅行きの水郡線に乗車。一路、常陸大子駅(ひたちだいごえき)をめざします。水郡線は、車窓から久慈川などの清流と里山の景色を楽しめることから、「奥久慈清流ライン」の愛称がついています。

山間部に入ってからは豊かな水量の久慈川を何度も渡り、ローカル線らしいのどかな風景を堪能。座席は進行方向に対して右側が、久慈川の眺めを楽しむのにおすすめです。

常陸大子駅の桑折駅長さんと談笑する山下さん。「大子町は、美味しいものがいっぱい。車窓からの絶景と一緒に、たくさん旅の思い出を作ってください」(桑折さん)

10:50 玉屋旅館
列車に揺られること1時間ちょっとで、常陸大子駅に到着。予約していたAI乗合タクシーで登山口に向かう前に、昼食を買っておきましょう。駅前にある玉屋旅館では、桑折駅長さんもオススメの大子町の特産品「奥久慈しゃも」を使った「元祖しゃも弁当」を販売しています(前日までに要予約)。

「奥久慈しゃも」のもも肉とむね肉を醤油ベースの秘伝のタレで味付け

「奥久慈しゃも」は、大自然に包まれた環境で一般的なブロイラーの3倍もの期間をかけて、大切に飼育されているブランド地鶏。脂肪分が少なく、肉に滋味があることで知られ全国特殊鶏(地鶏)味の品評会で第1位を獲得したこともあります。

「奥久慈しゃもは、身が引き締まっていて、とっても美味しいです。付け合わせのささがきゴボウとご飯も秘伝のタレが染み込んでいるのがたまりません!山頂でこのお弁当を食べたら、下山も頑張ろうって元気が湧いてきました(笑)」(山下さん)
玉屋旅館
元祖奥久慈しゃも弁当:1200円(前日までに要予約)
https://daigo-tamaya.com/

11:20 大円地乗降所
AI乗合タクシーで約30分、奥久慈男体山の登山口近くの大円地(おおえんじ)乗降所に着きました。運賃はひとり300円とリーズナブル!なお、山中にはトイレがないので、ここで済ませておきましょう。

AIタクシーの乗降所は、バスの停留所のような標識が立っている

11:30 上級コース登山口

上級コースの途中から見上げた奥久慈男体山山頂。急峻な岩壁がそそり立っている

奥久慈男体山は標高こそ653mですが、切り立った岩壁がそそり立ち、かつては修験道の行場として知られていました。その名の通り、男性的な荒々しい山容で、明治から大正時代の歌人で登山家でもあった大町桂月は、「久慈の奥 男体山を仰ぎ見て 画を学ばむと思ひけるかな」と絶景を歌にして称賛しています。

登山コースはいくつかありますが、今回はクサリ場が連続する「上級コース」で登ってゆきましょう。

登山口からすぐのところにあった朽ちた鳥居。ここが信仰の山であったことを物語っている

鳥居を越えた辺りから、本格的な登山道となりました。秋の爽やかな木漏れ日を感じながら、落ち葉の森を軽快に登ってゆきます。

樹林帯の急登が続くが、時折トラバース道となったときにホッとする

しばらく進むとクサリ場が連続して出てきますが、両側が切れ落ちているところは少ないので、あまり高度感は感じません。落ち着いて三点支持で登ってゆきます。ただし、雨で岩やクサリが濡れていると滑落の危険があります。天気予報は、事前にしっかりと確認しましょう。

なるべくクサリに頼らないようと心がけている山下さんだが、この急傾斜ならクサリを使った方がよいと判断した

登り始めてから約1時間10分。稜線に出たところで山頂と反対方向に少し進むと、見晴らしのよい展望台のような場所に出ました。眼下には見渡す限り、奥久慈の里山の風景がドーンと広がっています。これには山下さんも「すごーい!」と思わず歓声が。

長かったクサリ場も終わり、稜線に出ると大絶景のご褒美が待っていた。奥に見えるのは、奥久慈男体山の山頂

12:50 奥久慈男体山山頂
稜線に出てからは約5分で山頂に到着。山頂の西側の岩には男体神社奥宮が立っています。この神社の裏が絶景ポイント。ここからは、常陸国ロングトレイルの山々や久慈川の流れが一望できるほか、気候条件によっては筑波山や富士山まで見えるそう。

右上にあるのが男体神社奥宮。「標高653mの山でこんな大絶景に会えるとは思っていませんでした。電線や鉄塔などもないので、絵画を見ているようです」(山下さん)

山頂でパチリと記念撮影。小さめの広場になっているので、腰を下ろして休憩できる

山頂で「奥久慈しゃも弁当」を食べてエネルギー補給をしたら、下山は一般コースを通って大円地に向かいます。こちらは、上級コースとはうって変わって、傾斜のゆるやかな道。カサカサと落ち葉を踏みしめる音を楽しみながら約1時間の道のりです。

「色づいた葉が秋の陽にキラキラと輝いて、本当にきれいでした」山下さん

「コースタイムは2時間30分ほどですが、すごく充実したルートでした。登りのスリリングなクサリ場、山頂からの絶景、落ち葉の絨毯と、どれをとっても楽しい!の一言に尽きます。とくに山頂の展望は、3000m級の峰々に負けず劣らず素晴らしいので、ぜひとも満喫して欲しいです。これまで常陸国ロングトレイルは、6コースほど歩かせていただきましたが、私の中ではナンバーワンです!」(山下さん)

15:00 袋田温泉 思い出浪漫館
下山後は、再びAI乗合タクシーを利用して、本日の宿である、思い出浪漫館へ。まずは、宿自慢の柔らかなお湯があふれる、源泉かけ流しの湯「渓流露天風呂」で、山旅の汗を流します。

レンガ造りの外観は、大正浪漫を感じるレトロモダンな雰囲気

このホテルの最大の特徴は、プレミアムバー・クラフト体験・卓球などの料金が無料で利用できるインクルーシブサービスを導入していること。とくにプレミアムバーは、ワインや生ビール、コーヒーやジュースなどがすべて飲み放題。部屋に持ち帰ることもできます。

お風呂上がりにプレミアムバーで生ビールを飲む山下さん「くぅーっ!たまりません」

そして夕食は、地元産の食材をふんだんに使ったビュッフェ。ビーフステーキ、奥久慈しゃも鍋、鮎の塩焼き、けんちんそばなど常陸国の旬の味覚を思う存分味わえます。さらに日本酒、ワイン、ビール、焼酎などのお酒も全てフリードリンク。お酒好きは、山海の珍味を肴に至福のひとときが過ごせます。

鮎の塩焼きは、その場で炭火焼きにしてくれる

袋田温泉 思い出浪漫館
宿泊料金:9,000円~(1泊2食)
https://www.roman-kan.jp/

モデルコース2日目/袋田の滝〜月居山〜大子町グルメ

9:05 袋田の滝
翌朝もAI乗合タクシーを使って約5分の袋田の滝へ。徒歩でも20分程度なので歩いてもいいでしょう。

袋田の滝は、高さ120m、幅73mを誇り、華厳滝、那智滝とともに日本三大名瀑のひとつ。かつて「日本の滝百選」の人気投票で1位を獲得したほどの名勝です。滝は四季を通じて多くの観光客が訪れ、ハイシーズンにはエレベーター待ちの列ができるほど混雑することも。なるべく朝の早い時間に訪れるのがおすすめです。

袋田の滝は、平成27年に「恋人の聖地」にも選定されている

袋田の滝は、滝の水が大岩壁を四段に落下することから、別名「四度(よど)の滝」とも呼ばれています。一説によると、西行法師がこの滝を見た際に「四季に一度ずつ来なければ、本当の趣は味わえない」と絶賛したとも言われています。

滝の展望台までの道は、写真のようにライトアップされており、幻想的な雰囲気を演出している(期間限定で今年度は2025年1月末まで)

袋田の滝
営業時間:8時~18時(5~10月)、8時~17時(11月)、9時~17時(12~4月)
定休日:年中無休
観瀑施設(袋田の滝トンネル)利用料:300円
https://www.town.daigo.ibaraki.jp/page/page001474.html

10:45 月居山南峰
袋田の滝を見た後は、吊橋を渡って袋田自然研究路を進み月居山(つきおれさん・404m)に登ってみましょう。道の脇には解説板があり、付近の動植物について学ぶことができます。1時間ほど足を進めると、鐘つき堂のある月居峠に到着。周囲には水戸藩藩主・徳川斉昭公(とくがわなりあきこう)の歌碑や光明寺跡の石仏など歴史を感じる史跡が点在しています。

苔むした石仏が、時の流れを感じる/KAZUさんの活動日記(https://yamap.com/activities/35993839)より

月居山の下山口は、奥久慈男体山へ縦走する登山口にもなっている

11:45 大子温泉やみぞホテル
月居山までの散策でかいた汗を、さっぱりと流すために立ち寄り温泉に向かいます。袋田の滝からAI乗合タクシーで約15分の距離にある大子温泉やみぞホテルは、昭和天皇も宿泊されたという由緒のある温泉ホテル。9月から1月にかけては、大子町の名産であるりんごを湯船に浮かべた「りんご風呂」が楽しめます。

甘酸っぱいりんごの香り漂う温泉につかって、心もからだもリフレッシュ(写真提供:大子温泉やみぞホテル)

大子温泉やみぞホテル
日帰り入浴:800円(11時~20時、最終受付19時)
※毎週火曜日は清掃・メンテナンスのため12時から
※上記はりんご風呂(9月~1月まで)の料金
https://www.yamizo.com/facilities/

13:00 ピッツェリアKOZO&こんにゃく関所
温泉でリフレッシュしたらランチを食べに「ピッツェリアKOZO(ピッツェリアコゾー)」さんへ。ピッツァのメニューはたくさんありますが、マスターおすすめの「凍みこんにゃくとしゃもの玉子のビスマルク(1900円)としゃもと長ねぎ(1950円)をいただきます。

濃厚なしゃも玉子が凍みこんにゃくに絡んで、とっても美味。ピッツェリアKOZOでしか味わえないので、ぜひ食べて欲しい

「しゃもと長ねぎのピッツァも甘辛い和風味で美味しいです。こんにゃく入りスムージーも、後味がすごくすっきりとしていますよ!」

笑顔が素敵なマスターの高村さん。「チーズと小麦粉は、本場のイタリアから取り寄せたものを使っています」

ピッツェリアKOZO(ピッツェリアコゾー)
営業時間:11時~20時(ラストオーダー19時)
定休日:不定休
https://www.instagram.com/pizzeriakozo/

お土産を買うなら、こんにゃく関所がおすすめ!

ピッツェリアKOZOの同じ敷地内には、「こんにゃく関所」があります。ここでは、袋田のおいしい水で作った新鮮なこんにゃくを製造・直売。大釜で炊き上げられたこんにゃくは、風味が豊かで味わいが違います。

「生とろこんにゃく」は、味わったことのない「ぷるぷる食感」が最大の特徴。また、こんにゃく特有のえぐみもない

取材スタッフもおすすめの「生とろこんにゃく」を試食させていただきましたが、あまりの美味しさに全員がお土産として購入しました。ほかにも賞味期限は3日と短めですが「生芋こんにゃく」もお土産として人気があるとのことです。

生芋こんにゃくは、おでんに入れても固くならないのが特徴とか

こんにゃく関所
営業時間:11時~15時
定休日:不定休
http://konnyaku-sekisyo.com/

15:52 常陸大子駅 
こんにゃく関所からは、AI乗合タクシーで常陸大子駅へ。15時52分発の水郡線水戸行きで、帰路につきます。

山旅の締めくくりに奥久慈の夕景を車窓から眺めながら水戸へ戻る

【今回紹介したスポット一覧|茨城県・常陸国ロングトレイル】

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まとめ

古くから男性の神が宿る山として崇められ多くの修験者たちが登ってきた奥久慈男体山。八溝山の麓から町の中心を流れる久慈川、日本三名瀑の袋田の滝など、奥久慈の絶景を巡る山旅は、いかがでしたでしょうか。空気が澄んでいる冬から初春にかけては、遠くまで展望が効くので、今回のコースはとくにおすすめです。

「絶景に温泉、グルメと満足感の高い山旅でした。奥久慈男体山の山頂からの景色は、本当に目を見張りました。次は、絶対に双眼鏡を持ってこようと思いましたね(笑)。冬の時期は、山に登る機会が少なくなりますが、ここは絶景を見ながらトレーニングできるので楽しいですよ。下山後は、りんご風呂でほっこりして、絶品こんにゃくをお土産にしてください!」(山下さん)

文章:大関直樹
写真:西條聡
モデル:山下舞弓
協力:茨城県県北振興局

大関直樹

フリーライター

大関直樹

フリーライター

小中学校はボーイスカウト、高校はワンダーフォゲル部で自然に親しむ。好きなものは、タバコとお酒と競輪。最近は、山頂で一服すると周りの目が厳しいので肩身が狭いのが悩み。「みなさんが山で嫌な思いをしないように風下でこっそり吸いますので、許してください」