「軽やかに山を歩きたい」という登山者のためのシューズがアークテリクスから発売されました。スタイリッシュなデザインだけに留まらず、アークテリクスがこれまで培ってきたシューズ作りのノウハウをふんだんに取り入れた「歩き専用」のトレイルシューズ。その魅力をご紹介します。
2025.04.22
小川 郁代
編集・ライター
最近、トレイルランニングシューズで山を登る人が多くなりました。コロナ禍以降、密を避けるアクティビティとして低山の人気が高まったことで、気軽に使えるローカットシューズの需要が増加。それに伴って、トレイルランニングシューズを使う人も増えているようです。
さまざまに変化する地形をスピーディに走り抜けるためのトレイルランニングシューズは、圧倒的な軽さと、足の動きを固定しない柔らかなつくり、岩や土、木道などの幅広い路面に対応する優れたグリップ性能を備えています。同じトレイルをフィールドとするハイキングでも、これらの特徴は魅力的に感じられるでしょう。
ただ、トレッキングやハイキングとトレイルランニングでは、アクティビティの本質が異なるため、それぞれのシューズが備える機能にも多くの違いがあります。
たとえば、トレイルランニングシューズは、足の指を使って地面を蹴り出して推進力を得るために、ソールはソフトで屈曲性に富み、クッション性や反発性が高いのが特徴。それに対してトレッキングシューズには、できるだけ力を使わず歩けるよう、凹凸のある地面を足裏全体で押せる硬めのソールが使われています。
履き心地だけでいえば、柔らかで足の動きを妨げないトレイルランニングシューズのほうが優れているように思えます。ただ、充分な筋力や歩き方の技術がないと、シューズの柔らかさが疲労を引き起こすことも。歩く場所や環境、荷物の量や行動時間などの条件によっては、トレイルランニングシューズが適さないことが多々あります。
なかには登山にも使えるように設計された、汎用性の高いトレイルランニングシューズもありますが、トレイルランニングをやらないのであれば、やはり必要なのは「軽くて動きやすい歩くためのシューズ」です。
そこで注目したいのが、アークテリクスのハイキング&トレッキングシューズ「コペック」。
アークテリクスが、山岳ランニングシューズ「ノーバン」シリーズの開発で培ってきたノウハウを活かしつつ、目的を明確に絞り込むことで完成させた「歩き」のためのシューズです。軽量で履き心地がよく、優れた歩行性能を備えており、少ない荷物で軽快に山を歩く、ファスト&ライトなシーンに向けて開発されました。
林道や登山道といった、アルパイン未満のトレイルで使うライトなシューズを探していた人はもちろん、登山しかやらないけどトレイルランニングシューズの購入を検討していた人、トレイルランニングシューズを使って不満を感じている人にも響く、高い完成度を誇ります。
上段:コペック MID ゴアテックス メンズ/ウィメンズ
下段:コペック ゴアテックス メンズ/ウィメンズ
ミニマムなアッパーとボリュームのあるボトムの組み合わせを、端正で都会的にまとめた、アークテリクスらしいデザインが印象的。素材や基本的な設計を共有する、ローカットとミッドカットの2タイプがあるので、好みに合わせて選ぶことができます。
次世代型ePEメンブレンが使われたゴアテックス素材を採用し、透湿防水性能も充実。雨天時でも快適に使用できます。トレイルランニングシューズでは、軽さや通気性を優先した非防水モデルが主流ですが、透湿防水性能は、行動時間が長く環境の変化が予測される山登りにおいてはとても重要な要素です。
アッパーには、優れた耐久性と通気性を備える、軽量コーデュラメッシュ素材を採用。トウキャップやヒールカウンターなどの保護パーツを備えながらも、ミッドカットで片足340g、ローカットでは312gという、トレイルランニングシューズに匹敵する軽さを実現しました。
ソールは、土踏まずからつま先にかけて大きな弧を描く「ロッカー構造」と呼ばれる形状を採用。
これは前方へのスムーズな体重移動を促して、蹴り出しによる推進力を生み出す、トレイルランニングシューズで多用されるスタイルです。優れた衝撃吸収力と反発力を持続的に発揮するミッドソールや、複雑な足の動きに対応するフレキシブルな構造も、スピード感を重視するトレイルランニングシューズの技術をベースにしたものです。
一方、トレイルランニングシューズと決定的に異なるのが、ミッドソールの土踏まずの部分にTPU製のシャンク(芯材)を配している点です。
柔らかいソールは蹴り出しがしやすく自由に足が動かせる反面、ハイキングの歩行スピードでは、つま先立ちのような状態が長くなり、筋肉への負担が増加してしまいます。これを防ぐために採用したのが、ソールに剛性のあるシャンクを組み合わせる技法。トレイルランニングシューズの持ち味である「柔らかなソール」と、トレッキングシューズの持ち味である「剛性」の両立を実現しました。
トレイルランニングシューズのスピード感と、トレッキングシューズの歩行しやすさを、最適なバランスで融合させています。
3D成型のヒールカップは、かかとを常に理想的な位置にキープするよう設計されています。くるぶし周りのパッドは、かかとの凹凸に無理なくフィットする立体的な構造。足の動きが効率的にソールに伝わります。
さらに、外側からはヒールカウンターが、かかとを挟むように支えて左右のブレを防止。締め付け感のない自然な履き心地で、適切なサポート性と安定感が得られます。
土踏まずの位置に合わせて、アッパーの内側に施された樹脂補強が、ミッドソールのシャンクの剛性と連動して、足首の過度な倒れ込みを防止。これは横方向への動きが多いトレイルランニングで培われた、軽量アッパーを最小限の重量で補強するアークテリクスの技術が、ここにも活かされています。
トウボックスはやや幅広で、足指にゆとりをもたせたボリュームのある形。シューズ内で指を動かせるため、足指で地面をグリップする感覚が得られるでしょう。また、登山の後半に足がむくんで痛みが出るという悩みも解消。行動時間が長くなりがちなハイクシーンでは、メリットを実感する場面が多そうです。
アッパーに内蔵されたループにレースを通すスタイルが、スムーズなフィッティングを可能に。つま先近くまで届くU字型のスロートは、デザイン性もさることながら、蹴り出しの際の指の動きを妨げないよう考慮されています。レースをしっかりと締めあげたときも、不自然な圧迫感や痛みの発生を抑えます。
ローカット、ミッドカットの仕様に違いはあるものの、どちらのタイプにも、足の形状に自然とフィットするパッド入りカラーを採用。タンも甲の形に添うよう3D成型されており、足首全体を包むようにフィットします。
「コペック」のミッドカットモデルでは、かかと部分のパッド入りカラーの外側に3D成型のヒールカラーを追加して、足首のホールド感を強化。
さらに、足首部分に付けられたメタル製のアンクルフックにレースをかければ、より確かな足首の安定性を得ることが可能。路面の傾斜や荷物の量、天候などの条件に応じて履き心地を調整することで、ミッドカットならではの安心感を得ながら、柔軟な自由な足の動きを確保できます。
幅広い路面コンディションで確かなグリップ力を生み出す、Vibram® Megagripのアウトソール。アッパーやミッドソールの機能を最大限に生かし、確かな歩きにつなげてくれます。さらに注目すべきはその軽量性。LITEBASEテクノロジーを採用し、高い耐久性やグリップ性能はそのままに、シューズ全体の軽量化に大きく貢献しています。
さまざまな向きに設置された深く角度のある凹凸が、ザレ場やぬかるんだ下りなどの悪条件にも抜群のグリップ力を発揮。凹凸の間隔にも適度な幅を持たせているため、泥や石が詰まりづらく、トラクション性能を常にキープできます。
もうひとつの注目すべきポイントが耐久性へのこだわり。トレイルランニングシューズでは軽さと速さが重視されているため、耐久性への優先度は低くなりがちですが、コペックはその観点も忘れてはいません。素材の選択に始まり、摩耗しやすい部分に配したプロテクション、ヘタリにくい高密度ミッドソール素材の採用など、随所に長く使えることを意識した選択がされています。
トレイルランニングシューズの優れた特性を偏りなく取り入れつつ、トレッキングやハイキングに必要な要素にも妥協しない、自由で革新的な一足。幅広く多用途に使えることのメリットはもちろん有用ですが、このシューズは「餅は餅屋」ともいうように、ものを選ぶときに目的を明確にすることの大切さを気づかせてくれるようです。
アークテリクスらしい色使いと、ミニマルで洗練されたデザインは、軽やかにトレイルを歩く時間を、より豊かなものにしてくれるでしょう。ぜひ一度、実際に手に取り足を入れて、柔らかくて硬い、不思議な軽さの正体を感じてみてください。
原稿:小川郁代
撮影:永易量行
協力:アークテリクス カスタマーサポートセンター/アメア スポーツジャパン