通気しながら、保温する。いまや登山のレイヤリングピースとして欠かせない装備となったアクティブインサレーション。
マウンテンハードウェア(MHW)から2022年にリリースされた「AIRMESH(エアメッシュ)」は、その中でも特に多くのユーザーに支持されている逸品。そんな「AIRMESH」が、2025年秋冬、より快適に、よりタフに、そしてよりスタイリッシュに進化を遂げます。
とくに生地に関しては、帝人フロンティアの「Octa® CPCP®」にマウンテンハードウェアのこだわりを搭載したオリジナル生地を採用。本記事では、その魅力と進化のポイントを紹介しつつ、両社のキーパーソンに聞いた開発の舞台裏もお届けします。
2025.09.09
平野美紀子
編集・ライター
キーパーソンはこちらの二人
「一枚でも着られるアクティブインサレーション」として、2022年から展開しているAIRMESH。
マウンテンハードウェアのアクティブインサレーションにはKORというシリーズもあるが、KORはどちらかというとアウター寄りのアイテム。AIRMESHはミドルレイヤーを想定しつつ、ベースレイヤーとしても使えるより汎用性の高いモデルで、ユーザーからも高い評価を得ている。
「AIRMESHは毎シーズン8月に販売を開始するのですが、翌年の5月まで全商品のなかで売上トップを誇っています。軽量で汎用性が高いので、秋冬だけでなく夏でも迷わずザックに入れられる安心感が、多くの方に支持されているのだと思います。(近藤)」
しかしニーズが高い商品カテゴリーであるため、昨今では各社からも似た製品が登場していた。そこで、マウンテンハードウェアらしい独自性を打ち出すべく行われたのが今回のアップデートだ。
Octa®の断面図。中空糸に8本の突起を備える“タコ足型”が特徴だ
まずはOcta®の説明から
新しいAIRMESHに採用されたのは、帝人フロンティアの技術に独自機能を備えた素材「Octa® CPCP®」。
そもそもOcta®とは、8本の突起を持ち、中心が空洞になったポリエステル繊維のこと。従来の中空糸を上回る吸汗速乾性や軽さに加え、遮熱・断熱性や嵩高など、アクティブシーンに快適な機能を兼ね備えている。
さらにこのOcta®を用い、メッシュと起毛を一体化させたトリコット生地が「Octa® CPCP®」。糸や生地の間に取り込まれる空気が断熱材のような役割を果たし、高い保温性と遮熱性を発揮するのだ。
Octa® CPCP®の断面図。上部のメッシュと、下部の起毛の一体化構造
「一体化構造によって、断熱層の役割を果たす空気の偏りを防げるのも特長。その結果、軽量で扱いやすく、製品設計の自由度も広がり、より快適なウェアづくりにつながります(三上)」
ポイント① 表情豊かなカラーに進化
左が従来のOcta® CPCP®、右が新しいOcta® CPCP®を使用したメッシュ生地。従来は単色しか表現できなかったのに対し、新しいOcta® CPCP®は2色の糸で編み立てることで表情豊かな色みが表現できるように
では、オリジナルのOcta® CPCP®は従来品と比べ何が凄いのか。
まずは業界初となる「2色の糸使い」が可能になったこと。これにより、表情豊かな色合いを生み出せるようになりデザイン性がアップしている。
「従来のエアメッシュは単色ゆえに“肌着っぽい”と感じる方もいらっしゃったんです。ちょうど帝人フロンティアさんから2色使いのOcta® CPCP®を製品化すると聞き、“街で着てもスタイリッシュに見えるカラー”をリクエストしました(近藤)」
ただ、この実現には大きな課題も。2色を表現するには「分散ポリエステル」と「カチオンポリエステル」を組み合わせる必要があるが、カチオンを使用すると耐久性が落ちやすく、さらにメッシュ構造は強度的に不利。
「そこで素材の特性を残しつつ、ハードユースに耐えられる強さを確保するために、編立工場や染色工場と協力し、試行錯誤を重ねました。無数の条件の中から最適解を導き出せたのは、日本の技術の粋を結集した成果だと思います(三上)」
「日本のブランドにはあまりない絶妙な色合いは、マウンテンハードウェアならではの魅力。今回はそのアイデンティティがしっかりと反映されたニュアンスのある色みに仕上げていただいています(近藤)」
ポイント②耐久性と保温性も大幅アップ
左が従来のOcta® CPCP®で、右が新しいOcta® CPCP®を使用した起毛生地。新しい方がより目付けが詰まっており、保温性に優れる
さらに機能面でも大きく進化。従来の生地より織りの密度が高く、少し厚みも出たことで保温性は約7%、耐久性は約17%もアップしたのだ。
「デザイン性だけでなく、耐久性と保温性が向上したことは、生地を採用するうえで大きな決め手となりました。マウンテンハードウェアの根幹を成すのは、いつだって“高品質・高耐久なものづくり”ですから(近藤)」
ポイント③消臭効果も
サムホール部の黒い生地には植物由来の防臭機能「HeiQ Mint」を採用
Octa® CPCP®に消臭機能を備えている点も、業界で唯一の特長。抗菌加工を施したOcta® CPCP®は他社でも見られるが、消臭効果のあるポリジン加工を施しているのは新しいAIRMESHだけ。
さらに、サムホール部分にも防臭機能を搭載。手元で汗を拭ってしまう場面でも、ニオイを軽減してくれる。
「サムホールには植物由来のペパーミントオイルを主成分とした消臭技術を採用しています。ニオイの発生を抑えられるうえ、洗濯するとその効果が再生され、長期間持続するのもポイントです(近藤)」
左はメッシュ側を表に、右は起毛側を表にして着用
素材のアップグレードだけでなく、快適性を高めるためのパターンの改良が施されている点にも注目したい。
まずは、リバーシブル仕様になったこと。裏面の起毛が「チクチクする」と感じるユーザーの声を受け、メッシュ面を外側にしても着用できるデザインに。
「テストによると、起毛面を表にしたほうが若干暖かいという結果も出ています。ただその数値はごくわずかで、体感的にはほぼ変わりません。どちらを表にしても快適な保温性を発揮するので、好みの着用感に合わせて使い分けていただけます(近藤)」
さらに、動きやすさを意識したパターン設計もポイントだ。従来のセットインスリーブからラグランスリーブに変更し、腕の可動域を広げるとともに、下に着るウェアやバックパックとの干渉を軽減。加えて着丈をやや長めにすることで、1枚でも着やすく、ベースレイヤーとしても快適に使えるようになっている。
左背面の裾にファスナー付きポケットを追加。コインや鍵などちょっとした小物の収納に便利
利便性の面では、全モデルにファスナー付きポケットを新設。コインや鍵などの小物を収納できるほか、歩行時に干渉しないよう背面に配置するなど、ディテールにまで快適性を追求した。
イチオシはフーディタイプ
エアメッシュフーディ (写真はメンズ、ウィメンズも展開あり)¥13,200
従来モデルから一番人気だというフーディタイプ。
バラクラバのような3ピース構造のフードが、首から頭をすっぽり覆うようにフィットし、風による冷えから首回りを守ってくれる。
ハーフジップ、クルータイプも選べる
左/エアメッシュハーフジップ*(写真はメンズ、ウィメンズも展開あり)¥ 13,750 右/エアメッシュロングスリーブクルー(メンズ)¥12,100 *ハーフジップのみリバーシブル仕様ではありません
エアメッシュクルー(ウィメンズ)¥12,100 メンズのロングスリーブクルーよりもハイネック仕様で、首元をしっかり保温してくれる
従来モデルは通気性が高い反面、風を受けると寒さを感じやすいという声もあり、インナーとしての通気性や汗抜けには優れていたものの、保温性の面ではやや物足りなさがあった。
新モデルでは通気性をキープしつつ、保温性を高めたことで従来の課題を克服。実際に着用したアスリートからもリアルな評価が寄せられている。
「起毛の目が詰まっていて肌触りが良く、保温性が上がっていると感じます」
(クライマー 野村 英司さん)
「ベースレイヤーとエアメッシュだけで南アルプスの稜線を快適に歩けました。行動中は適度な汗抜けがあり、停滞時にはしっかり保温してくれる。これからの秋冬シーズンにピッタリですね」(登山ガイド 伊藤 伴さん)
今回のリニューアルを経て、標高の高い山での稜線歩きや、秋から厳冬期までの山行でも安心して着られるようになり、より幅広いシーンで頼れる存在となったといえるだろう。
日本の技術とアメリカの感性が融合した“進化型Octa® CPCP®”。それにより、新しいAIRMESHはデザイン性、耐久性、保温性、消臭性、着心地と大幅なアップデートを遂げた。
しかも、この“進化型Octa® CPCP®”を搭載しているのは、2025年の秋冬シーズン時点ではマウンテンハードウェアのAIRMESHのみ! 来る秋冬の山行では、ぜひパワーアップしたAIRMESHを試してみてほしい。
写真:若林武志(YUKIMI STUDIO)
原稿:平野美紀子
協力:コロンビアスポーツウェアジャパン、帝人フロンティア