登山レポート【屋久島 縄文杉・白谷雲水峡】プロ写真家 横田裕市がめぐる、悠久の時を刻む樹木と苔の世界

言わずと知れた人気観光スポット「屋久島」。日帰りトレッキングもいいけれど、テントを担いで縦走路を歩く本格的な登山もおすすめです。宮之浦岳を登頂した前回に引き続き、写真家の横田裕市さんが美しい写真とともに、縄文杉や白谷雲水峡などの「これぞ屋久島」といえる魅力をお送りします。

2020.09.07

横田 裕市

風景写真家

INDEX

屋久島を一望できる、なだらかな丘陵が続く

宮之浦岳を登頂したら、そのまま北側ルートへ下山。

平石岩屋を目指して、ひらけた土地を進み、その後は坊主岩を横目にどんどんと森の中へと下っていきます。宮之浦岳登頂後は前半に比べると、下り中心で負担の少ない楽な道になります。

遠方に見える平石岩屋

一帯は屋久笹が生い茂っており、登山道の両側は屋久笹の壁ができています。遠方の景観は素晴らしいのですが、屋久笹エリアの道は狭いので早めに抜けたいところです。

平石岩屋側から臨む宮之浦岳

夏空に映える山の緑

北側の山岳地帯は屋久島の風景を広々と見渡すことができ、非常に抜け感のある良い登山道です。広角レンズで風景写真をたくさん残したくなります。

平石岩屋から向かう先の森へ下りて行きます

山間に突如姿を現す巨大な坊主岩

巨大な花崗岩が多く点在する屋久島。そもそも屋久島はおよそ1400万年前に花崗岩マグマが海底プレートを押し上げて隆起した島です。山間部は花崗岩の巨石で多く構成されています。

太陽光を浴びた苔は透き通っていて美しい

雄大な山から深き苔と杉の森へ

山小屋は多くの人が利用する小屋を選ぶのが安心

森を進み、新高塚小屋、高塚小屋へと道は続きます。

新高塚小屋は整備された広い山小屋。外のテントスペースも広く、水場やトイレも整備されています。60人収容できるそうですがシーズン中は満員になる場合もあるため遅くても15時頃まで、早めの到着が無難です。私が訪れた時は誰も居ませんでした。

高塚小屋は2013年に建て替えられた新しい山小屋。小さめの小屋でバルコニーが付いており、縦に細長い3階建てで収容人数は18人。こちらも15時頃までの到着が望ましいです。スペースが限られているのでテントをしている方も多く見受けられました。近くに水場はなく、水汲みには縄文杉近くの沢へ行く必要があります。

高塚小屋から歩いてすぐ縄文杉にアクセスできます。運が良ければ見ることができる、朝焼けに染まる縄文杉「赤縄文」を見物する場合は、この高塚小屋に宿泊しましょう。

新高塚小屋入り口

高塚小屋とテントスペース

宮之浦岳山域には他にも山小屋が点在していますが、人がほとんど利用していない小屋はカビだらけになっている場合もあるので、なるべく多くの人が利用する小屋を選んだ方が安心です。

ハードな山からイージーな縄文杉トレッキングへ

縄文杉から先は、登山道ではなく比較的平坦なトレッキングコース。身体への負担も減り、高塚小屋までの道のりと比べてより楽になります。

早朝の朝陽に染まる縄文杉を拝んでから出発です。

朝焼けに染まる赤縄文

赤縄文は晴天に恵まれた好条件が揃わなければ見ることができません。今回、運良く撮影することができました。最初は「本当に染まるのか?」という疑問が浮かぶような様子だったのですが、神々しい縄文杉の貴重な写真を撮影できて嬉しかったです。

その後は、縄文杉を背にしてトレッキングコースを進みます。この先は木材が敷かれ整備された道が多いのですが、雨上がりの木材の上は非常に滑りやすいので、思いがけずスリップしないよう注意が必要です。

縄文杉の他、夫婦杉、翁杉、大王杉、ウィルソン株などをはじめとして太古の深い森を観察しながら脚を進めます。

苔の力、朽ちた樹木と芽吹く新芽から感じる輪廻

朽ちて倒れた樹木は苔で覆われ、そこからまた新しい植物の命が芽吹いています。何百年という時を経ても倒木や切り株が腐ることなく姿を保ち、新しい命の苗床として機能している大きな要因に苔があります。樹木の表面を苔が覆うことで樹木の腐敗を防いでいるのです。多くの苔があるからこそ、屋久島は太古の森の姿を保っています。

天然の樹木の器に芽吹く新芽と苔の土壌

荘厳たる大王杉

途中にあるウィルソン株。ぜひ休憩がてら立ち寄って切り株の中に入ってみましょう。どこか神聖な空気のある不思議な空間が広がっています。切り株の中から森を眺めるのも新鮮です。

ウィルソン株内部には祠があり、地面からは湧き水が溢れている

ウィルソン株を囲む樹林

ウィルソン株から20分ほど下ると休憩場も兼ねた川沿いに到着します。ここから傾斜のないトロッコ道を1時間ほど歩きます。錆びたトロッコ道の名残や道路脇の苔など平坦な道のりでも視点を変えればとても見所があります。

水気と光を帯びた苔

トロッコ道に沿って敷かれた木材

最後の急登、楠川別れから白谷雲水峡へ

荒川登山口をゴールにする場合は、このままトロッコ道をさらに1時間ほど直進してゴールになります。白谷雲水峡へ向かう場合は、楠川別れというポイントから再び山に入り本格的な登山道を登ります。

楠川別れから辻峠というポイントまで向かうのですが、そこまでの登山道は、急登が続き宮之浦岳縦走コース最後の難関です。

登り坂をひたすら進む

辻峠の終点の目印には大きな岩屋が見えてきます。そこまで辿り着けばきつかった登り道も終わりです。

辻峠から展望の名所、太鼓岩へ

辻峠から10分ほど登ったところに太鼓岩という展望スポットがあります。天気が良ければ素晴らしい景色を眺めることができるので、白谷雲水峡へトレッキングに訪れた方のゴール地点にもなっています。

徒歩10分といえども傾斜がきついので、ここでは荷物を一時的に置いて登る、いわゆる「デポ」をされる方が多い印象です。私もデポして身軽になり、身ひとつとカメラだけで駆け登りました。

太鼓岩からの展望

太鼓岩は巨大な丸い岩石で、そこまでスペースが広くありません。太鼓岩からの落とし物や、落下事故も発生しているので注意が必要です。

白谷雲水峡、苔むす森を歩く

辻峠から白谷雲水峡登山口まではまたトレッキングコースとなっていて傾斜のきつい道はありません。ここからは白谷雲水峡の美しい苔や樹木の美しさを堪能しながら、縦走の終わりに名残を惜しみつつ脚を進めましょう。この一帯の苔や森は特に美しいです。

溢れる雫が滴る苔

悠久の時を感じさせる樹木の姿

道中に白谷山荘があります。広いテーブルが屋外に設置されているので晴れている日はそこで食事休憩をする方が多いです。近くに水場もあり、トイレも綺麗に整備された便利な小屋です。ティータイムにも最適。白谷雲水峡の清水で淹れた珈琲や紅茶は格別の味がします。

訪れる度に撮影している象徴的な沢

森を抜けて最後の下り道を行き大きなさつき吊橋が見えたら、ゴールはもうすぐです。道の隣には白谷川が顔を出します。いくつもの滝があり景観の美しい川です。ここまで来ると道も舗装された遊歩道になります。

白谷川の滝も美しい

入り口の施設の姿が目に入り、ようやくのゴール!全身汗でびっしょりでしたが、大きな怪我もなく無事に宮之浦岳縦走コースを3泊4日で完遂することができました。下山後はバスに乗車し空港へ。その後、汚れや疲れを洗い流すべく温泉へ向かいました。

今回は見どころが多すぎて、なんて贅沢な縦走だったのだろうと写真を見ながら振り返っています。登山を通して、これまで知らなかった新しい屋久島の魅力に気付くことができたことがとても嬉しいです。

屋久島の美しい森と山を味わい尽くす宮之浦岳縦走コース、皆さんもぜひいつか挑戦してみてくださいね。

この連載も次で最後。次回は観光編へと続きます。

横田 裕市

風景写真家

横田 裕市

風景写真家

福島県出身 85 年生、東京都在住の写真家。雄大な自然のスケールを伝える大胆かつ 繊細な絵を得意とする。プロとして10年のキャリアを持ち、主に商業向けに国内外の風景を撮影。Appleでの広告採用や国際フォトコンテスト ipa2016 での部門優勝、海外メディア 掲載等、国内外問わず活動の幅を広げている。今秋、TAMRONの新作レンズ広告撮影を担当。全国でSONYのセミナー講師を務める。20 ...(続きを読む

福島県出身 85 年生、東京都在住の写真家。雄大な自然のスケールを伝える大胆かつ 繊細な絵を得意とする。プロとして10年のキャリアを持ち、主に商業向けに国内外の風景を撮影。Appleでの広告採用や国際フォトコンテスト ipa2016 での部門優勝、海外メディア 掲載等、国内外問わず活動の幅を広げている。今秋、TAMRONの新作レンズ広告撮影を担当。全国でSONYのセミナー講師を務める。2019 年ソニーイメージングギャラリー にて初写真展「フィンランド 冬の光」が大成功を収め、全国で巡回展を開催。

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