住む街の山を守る地元愛|YAMAP AWARDS 山の清掃整備部門・吉良謙一さん

YAMAPユーザーの中から、山の環境整備や活動日記で個性が光ったユーザーを自薦、他薦問わず募集し、表彰するYAMAP AWARDS特別推薦賞。

山の清掃整備部門を受賞したのは、香川県で地元の山をコツコツと整備し続ける吉良謙一さん。吉良さんに地域の山を守る意味や苦労をお聞きました。

2026.09.10

米村 奈穂

フリーライター

INDEX

山道具に憧れて山の世界へ

香川県在住の吉良謙一さん(63)。登山歴10年。

── 特別推薦賞・山の清掃整備部門で、地元の山の整備をコツコツと続けられた活動が讃えられました。まずは登山を始めたきっかけを教えてください。

吉良謙一さん(以下、吉良) 昔バンドを組んでいまして、バンド仲間で山の話をしていた時に聞いた、アイゼンとピッケルという山道具のことが僕の中ですごく引っかかったんです。

「雪山に行ったら足にアイゼンを付けて、ピッケルでギィギィ上がっていかないかんのや」っていう話を聞いてカッコいいなと思ったんですよ。

── それで興味がわいて山へ?

吉良 そうなんですよ。石鎚山だったり、こちらでいうとわりと高い有名な山へ毎週行っていました。

── バンド仲間で行かれたのですか?

吉良 一人です。バンド仲間は不健康な人間ばかりなんで(笑)。僕も当時は、今では考えられないぐらいの大酒飲みのヘビースモーカーで、髪もヘソ位まであって、両耳にピアスが3つずつ開いてるような感じだったんですよ。

── 登山道整備とはギャップのあるビジュアルですね(笑)。初めての登山はいかがでしたか?

吉良 全く初めてです。もう二度と行かないと思いました。でも、翌週にも行ったんですよ。どうしてかは分からないんですが、それから病みつきになったんです。ほぼ毎週、石鎚山と近隣の東赤石山という二座に交代で行くようになりました。

── どっぷりはまってしまったわけですね。それからどう登山道整備につながったのでしょうか。

吉良 今回、インタビューを受けることになって気づいたんですが、高い山や日本百名山の登山道は遊歩道みたいな感覚じゃないですか。何の障害もなくて。

でも、だんだん山が低くなって、近場になればなるほど荒れてくるんですよね。うちの近所の里山に入った時も、荒れ方が凄かったんです。登山口にちゃんと看板があるような山なのに、放ったらかしになっているのがかわいそうに思えたんです。

古い階段の手直しをする

吉良 登山道って誰かが手を入れなければ、1年放っていただけでも無茶苦茶になるじゃないですか。「誰かがしないといかんのかな」というのもあって、僕もやっていて楽しいので続けています。

── どんなところが楽しいのでしょうか。

吉良 今は使われていない、昭和40年ぐらいに使われていたであろう古(いにしえ)の登山道を発見したり、その道を今の道につなげたりして道を切り開いていくのが、古民家再生みたいな感覚で面白いんです。

── 古い道はどうやって発見したんですか?

吉良 たまたまです。登山道ではないバリエーションルートの感覚で歩いてたら、古いテープを発見して進んでいくと道になっていたりして面白かったですね。

── 活動日記には、地権者の方に許可を得ているとありました。どのようにつながったのでしょうか?

吉良 ここでしたら三豊市の税務課に行くんですよ。納税している地権者の地図があるんです。地図を出してもらって、地権者を割り出して、電話したり訪ねて行きました。ほとんどの方が自分が地権者であることを知らないんです。何人かは僕がそこまで案内して説明したこともありました。

地権者の方に反対されて、自治会の集会に出向いて50人ぐらいの前で演説をして許可を得られたところもあるし、得られなかったところもありました。ほとんどの方はすごく喜んでくれました。

山の話をしたり、里山愛好会を立ち上げたりしてやっていることを説明すると、ほとんどの方は、「やってください」「そういう道があって、昔遊んでいた」と話してくれました。

住む街を見下ろせる山

── 吉良さんのYAMAPのプロフィール欄に、地元の鬼ヶ臼山の復元に取り組んでいると書かれていました。

吉良 鬼ヶ臼山は標高200mくらいの山ですが、山頂に鬼ヶ臼という巨岩があるちょっと変わった山なんです。

今回、頂上の地権者の方にも許可をいただいて、山頂周辺の木も切って眺望もかなり良くしたんです。それまでは放ったらかしだったんでもう凄かったんですよ。今は景色の良いところになりました。里山の良いところは、自分が知っている風景を見下ろせるところにあるんです。

香川県三豊市高瀬町にある鬼ヶ臼山(208m)

── 自分の住む町を見下ろせるんですね。

吉良 そうです。あれが駅だとか、あれが小学校だとか、僕の家はあそこだとか、そういうものを見られるのが里山の楽しいところだと思います。

── 香川県以外の山にも登るんですか?

吉良 最初はすごく意識があったんです。立山の方にも行ったりしたんですけど、あまり興味が湧かなくなってしまいました。

── 北アルプスまで登るようになると、高山ばかり登るようになる人もいますが、興味が湧かなくなったのはなぜでしょう?

吉良 私の周りにも日本百名山に挑戦されている方もおられるんですけど、私はそこまでは思わないですね。里山に目が向いたのは自分でもどうしてか分からないんですが、香川であれば石鎚山や剣山が百名山になるんですが、まず人がすごく多いんですよ。

本来、単独行がメインだったもので、あまりにぎやかなところには行きたくなくて、静かな山の中に居たいというのがあります。そういう点で里山は、2時間ちょっと山の中に入るだけで、生活圏から隔離されてしまいます。しかも里山には割と原生林が多いんです。そこは魅力だと思います。

里山愛好会による整備活動。足場をつくっているところ

── 地域の里山愛好会とはどんな会なのでしょうか。

吉良 最初に地権者を紹介してもらうために市役所の窓口に行った時、何も分からなかったので、「登山道に階段を設置したいんですが、地権者を教えてください」と聞いたんです。

そしたら、「三豊市には里山愛好会という団体があるので、そちらの方に聞いてもらえますか?」と言われて、その窓口に行ったら、ていよく吸収されちゃいました(笑)。

── 会に入って一緒に整備しましょうということになったんですね。

吉良 そうです。まちづくり推進隊というNPO法人が三豊市高瀬町にありまして、その一環で里山愛好会高瀬という会があるんです。これが近隣の町にもあって、他の町の里山愛好会のお手伝いもしています。どこも高齢化が進んでいて担い手がいないんです。

── 里山愛好会の方々は、どんな活動を中心に行われていたんですか?

吉良 登山道整備が中心です。私が、「階段を作りたいんですが」と話を持っていくと、会長さんに「だったら一緒にしませんか?うちでやるんだったらケガをした場合に保険にも入れるしどうですか?」とくどかれて一緒にやることになりました。

かわいそうな山

── 先ほど、高齢化のお話も出ましたが、吉良さんの活動を見て後に続く人が出てきたりすることはありますか?

吉良 こればっかりは好きでやらなきゃ続かないんで。なかなかそこはまだ見えていないところです。ただYAMAPさんのおかげで、若い方も登山に来られるケースが増えて、顔見知りもできてきたので、私が登山道整備をしていることは広く知れ渡ってきたと思うんです。それで同じような気持ちを持ってくれる人も出てきてくれるんじゃないかと思っています。

── 整備活動で苦労する点はどういうところですか?

吉良 ゴミは本当にすごいですね。常に拾っているんですが、みなさんに状況を知ってもらうためにYAMAPの活動日記に拾ったゴミを掲載させてもらっています。見ている方の意識が少しでも変わってもらえればいいかなと思っています。

会で清掃活動をすると80キロほどのゴミを拾うこともある

── 目に見えることは大事ですね。

吉良 僕もいろんな山に登りますが、綺麗に整備されているところはそれぞれご苦労されているなと思います。その地域に見てくれる人がいるおかげで登れているんだなというのは思います。

── 今のお話しのように、登山道整備を始められてから気になることとか、前に登っていた頃の自分とは違うところといいますか、ご自身の登山に変化はあったりしますか?

吉良 僕だったらこうするなとか、なんでここにピンクテープが無いんだろうかとか、この倒木はあった方がいいよねとか。印象的な倒木とかは残したいですね。あまり遊歩道チックにはしたくないんです。そういう見方は変わりましたね。

── 他の山に登られていて、「これはちょっとやりすぎだな」とか、自分の登山道整備に役立てることはありますか?

吉良 色々アイデアをいただいています。ギリギリ分かるくらいの絶妙なピンクテープの間隔とか。ちょっと不安に陥れておいてから「あった!」ぐらいの間隔が一番効果的ですよね。

だけど足の踏み跡が全く分からないようなところもあるから無くっちゃ困るし。その絶妙な距離感は参考になります。

巨岩周辺の草刈りをして、巨岩群を見えるようにする

── 先ほど、「遊歩道みたいにしたくない」と話されていましたが、吉良さんの思う理想の登山道はどんな道でしょうか?

吉良 原始林みたいな森があるじゃないですか。本当は山はそのままの状態で置いておきたいんです。ただゴミがすごく散らかっていたり、放ったらかしにされている登山道はなんか分かるんです。かわいそうな山と感じる場所があって、そういう風には見られたくないですね。

── 登山道に「かわいそう」とはあまり感じたことがなかったので、登山道整備をしている人の目だなと感じました。

吉良 難しいですね。せっかく立派な看板まで作ってるのに、おそらくもう20〜30年前に作られた看板だったり、それ以降何も手が入れられていないっていうのは分かるんですよね。

── 看板だけ設置して予算消化したよというような感じですよね。

吉良 そうそう。そういうのを見ると余計なお世話かもしんないけど、行ってチョキチョキ切ってやりたいなという気がすごくします。要は担当者の思考なんですよね。今の三豊市の環境衛生課の担当者の方は、わりと理解してくれているのでいいんですが、自治体の担当者は変わるじゃないですか。

── だいたい3年ごとぐらいですよね。

吉良 変わってしまうと、次の担当者が全く山に興味を示さない、そんなところにお金を払う必要はないという人になるともう次の3年間はアウトなんです。結局、自己満足の手弁当になっちゃってるんですよね。

草刈りをしてきれいに姿を現した巨岩。手入れによって山の魅力を引き出す

── こんな風になると登山道整備がやりやすくなると思われるのはやっぱり自治体の担当者の方の理解が一番でしょうか?

吉良 1番は世間からの注目ですよ。山歩きや登山がもっと注目されて、メディアとかが盛り上げてくれれば、行政も無視するわけにいかないと思うのでお金を使うでしょ。

── 一般の人がこれだけボランティアで動いているのにとなると。

吉良 まぁ、僕の場合は好きでやってる部分があるんでいいんですが。

山で伝える地元愛

── 活動日記を拝見していたら、幼稚園児と一緒に登っていましたね。

吉良 あれは地元の幼稚園の卒園遠足なんです。園長先生の方針で、毎年20人弱の園児と一緒に登っています。もう4年ほどになります。今年は初めて保護者の方も一緒に登りました。保護者の方からリクエストで一緒に行きたいと話があったそうです。

卒園遠足で山の上から住む街を見下ろす園児たち

── 里山愛好会に依頼があったんですか?

吉良 その繋がりだと思います。でもその当時、僕は個人でやっていたんですが、里山愛好会自体が高齢化しているので僕に行ってくれとなりまして(笑)。

最初は単に、子どもたちが可愛いなくらいだったんですが、段々こっちも欲が出てきて、もっと印象付けたいというか、一生の思い出にしてあげたい、「昔そう言えば行ったよな」みたいにしてやりたいなと思って、ありとあらゆる手を使っています(笑)。

── それはどのような手を使われたのですか?

吉良 鬼ヶ臼山には伝説があるんです。そのお話を聞かせるために紙芝居を作りました。里山愛好会のメンバーが作ってくれたんです。

── 山で紙芝居をするんですか?

吉良 そうです。あと、隣に龍王山という小さな山があるんですが、その山からちょうど自分たちの校区や幼稚園が見えるんです。そこまで連れて行ってみんなに見せるんです。「来年からみんなが通う小学校はあれだよ」と。

── これから通う小学校が見える山に連れていくわけですね。

吉良 そうです。山頂に茂っていた木を伐採して、景色が見えるようにしました。

── 園児達の反応はどうでしたか?

吉良 やっぱりなかなかお父さんお母さんと一緒に山に登るなんてないから喜んでいましたよ。

── 活動日記には泣けてきたと感想がありましたが、どんなところに泣けてきたのでしょう?

吉良 何て言ったらいいんでしょうか。地元の良いところを紹介できたことでしょうかね。その一役を担えたところは非常に嬉しかったですね。

卒園遠足で地元のお年寄りから山の言い伝えを聞いているところ

── 登山道整備に携わっている立場から、登山者へ伝えたいことは何かありますか?

吉良 よく言うじゃないですか、「来た時よりも美しく」って。せめて見かけたゴミぐらいは持って帰れる登山者であってほしいと思います。人前で正しいことをやるって、結構勇気がいることですよね。例えば、電車の中でタバコ吸ってる怖いお兄ちゃんに注意するのって勇気がいるじゃないですか(笑)。

── それは相当な勇気がいりますね(笑)。

吉良 山道を歩いてる時、誰も拾わなかったゴミをパッと拾う勇気。これはみんな持ちましょうと言いたいです。正しいことやねんけど、拾うとなったらちょっと勇気が要るのかなと思って。他の山でも、ペットボトルとか結構落ちてるんですけど、割とみんな知らん顔して歩いてる。僕も拾い出したのは最近なんですけどね。

── それはやっぱり整備をしていて気になったからでしょうか?

吉良 そうですね。やっぱり山がかわいそうですよね。パッとゴミを拾って帰る。その勇気がみんなにあったら良いなと思うんですけどね。

── その勇気を持とうと。吉良さんの活動日記からは、登山道整備を楽しんでされていることが伝わってきます。こういう方が増えていったらいいですね。

倒木の恐れのある木を処理する吉良さん

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お話しの中で何度も出てきた「山がかわいそう」という言葉。コツコツと整備活動を続けてこられたからこその言葉だと思いました。登れる山にはどの山にも、吉良さんのような方がいらっしゃるのだろうと思います。高い遠くの山だけでなく、住む街の山をもっと愛そうと思えたお話しでした。

吉良謙一さんのアカウント
YAMAP:キラ

米村 奈穂

フリーライター

米村 奈穂

フリーライター

幼い頃より山岳部の顧問をしていた父親に連れられ山に入る。アウドドアーメーカー勤務や、九州・山口の山雑誌「季刊のぼろ」編集部を経て現職に。