大分県・日出(ひじ)町。緑豊かな山々と海辺の風景に彩られた、大分県中北部の小さな町です。今回訪ねるのはその日出町の「鹿鳴越連山(かなごえれんざん)」。かつての古道が登山道となっていて、尾根道からは別府湾を望むことができます。山と海、人びとの暮らしの距離が近いのも日出町の特徴。歩くほどに新たな魅力に触れられる、日出町の山旅をお届けします。
2026.11.05
小林 昂祐
撮影と執筆業

まずは「鹿鳴越連山(かなごえれんざん)」についてご紹介。「鹿がよく鳴いていた峠」がその名の由来なのだとか。連山というだけあり、経塚山や七ツ石山といったいくつものピークが連なります。
標高は600m程度と低山の部類に入るものの、山頂や稜線からは別府湾と日出町の町並みがすぐ眼下に迫り、高度感のある山歩きを楽しめます。また遠くには由布岳や鶴見岳を望むことも。ちなみに、交通の要所として山城が築かれた歴史があり、山中に残る古道は宣教師フランシスコ・ザビエルも歩いたのだとか。歴史好きにも歩いてほしい山でもあるのです。

▲鹿鳴越連山から別府湾を望む
そんな山の魅力もさることながら、鹿鳴越連山が位置する日出町(ひじまち)も、旅先として知っておいてほしい場所。
山の麓には湧水地が点在する「水がおいしい土地」でもあります。豊かな海が育む海産物、温暖な気候で育つ野菜・果樹は古くから日出町の魅力のひとつでした。

▲大神(おおが)漁港「深江(ふかえ)の朝市」で競りを見学
山はもちろん町も海も楽しめる場所、それが日出町。とはいえやっぱり気になるのは「山」ですよね。前置きが長くなってしまいましたが、本記事では「鹿鳴越連山」のハイキングを中心に、ローカルな魅力がいっぱい詰まった日出町の旅をレポートします。

▲1日目のルート(歩いて6時間30分程)

▲1泊2日で訪れた全スポット
鹿鳴越連山と日出町を旅するにあたって計画したのは2日間のプラン。ちなみに、日出町の東西の距離は約19.2km。南北にも9.2kmほどしかありません。歩いて旅することもできるほどのコンパクトな町なのです。
起点となるのは、日出町の中心にある「暘谷(ようこく)駅」。観光交流拠点「二の丸館」で情報を収集し、市街地のスポットに立ち寄りながら山へ。鹿鳴越連山をなす「経塚(きょうづか)山」と「七ツ石山」を歩き、下山。翌日は連山の最も東に位置する「城山展望台」で朝日を迎え、地元の魚が水揚げされる「大神(おおが)漁港」の朝市を訪ねます。
※今回は鹿鳴越連山の一部が通行止めのため「経塚山」と「七ツ石山」のみを訪れましたが、2027年3月には5座縦走が可能になります。山と町を巡るオリジナルモデルコースはこちら:https://yamap.com/model-courses/104673
秋晴れの空が眩しい旅の1日目。「暘谷駅」からいくつかのスポットを訪ねながら、登山口のある「山田湧水」へと向かいます。

▲JR九州「暘谷駅」から旅をはじめる。「二の丸館」までは徒歩約5分ほど。
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▲日出町の情報が詰まった観光交流拠点「二の丸館」
まず向かったのは「二の丸館」。かつてこの地にあった日出城・二の丸跡を活用した観光インフォメーションセンター。鹿鳴越連山の登山地図をはじめ、さまざまなパンフレットを入手することができます。

▲職員さんから情報を聞くこともできる。カフェやお土産コーナーも併設

▲ハイキングマップには登山道の情報もかなり細かく記載されている

▲日出町の特産品・城下(しろした)かれいを模ったクッキー
トレイルマップはもちろん町歩きのための情報も充実しており、ついつい長居してしまいそう。「二の丸館」のすぐ裏には「日出城址」があり、別府湾に面した断崖、石垣を見ることができます。

▲現在は1台のみだがEVカーシェアも完備。レンタサイクルも利用できる
カーシェアやレンタサイクルも整備されているため、JR等で日出町を訪れる県外からの旅行者も移動手段に困ることはありません。なお登山口である「山田湧水」までは3.5kmほど。時間があれば車や自転車に頼らず、町歩きを楽しみながら向かうのもよさそう。

▲地元の特産品や食品、お土産が集まる「シーガーデンひじ」
「二の丸館」をあとにして向かったのは「シーガーデンひじ」。日出町をはじめとする大分県産の品々を扱う、いわゆる道の駅のような施設です。旅好きであればローカル感満載のお店は嬉しいはず。
山に向かう前、行動食と昼食を買いに来たはずなのに、ついつい鮮魚やお土産に目が行ってしまいます。お弁当やお惣菜も充実しており、特産品のひとつ「かぼす」を使ったお菓子や地元産の食材をつかった弁当を購入。

▲日出町には湧水が各所に点在しており、水に恵まれた町であることを実感

▲登山口にある「山田湧水」で水を補給。夏は2L汲んでおきたい
山はすぐ目の前に見えているというのに足を止めるスポットがいくつもあり、なかなか登山口に辿りつきません。
やっとのことで楽しみにしていた「山田湧水」に到着。地元の人たちが大きなポリタンクにこんこんと湧き出る水を汲んでいました。鹿鳴越連山で磨かれた水のおいしさは言わずもがな。きりりと冷たくまろやかな口当たりで、汲みに来られる距離に住んでいる人たちを羨ましく思ったのでした。
「山田湧水」裏手の登山口から山へ。目指すのはひとつめのピーク「経塚(きょうづか)山」。標高は610m。距離は1.7kmだが標高差は400mあり、コースタイムは1時間ほど。

▲静かな照葉樹林のトレイルを歩く

▲かつて日出城の石垣に使われた石切場の名残も
「山田湧水」から「経塚山」へとつづく登山道は、「西鹿鳴越道(にしかなごえどう)」という古道としても知られています。山中には石切場跡があったり、ザビエルが歩いたことを伝える看板があったりと、なかなか興味深い場所を歩いているのだと実感できます。

▲日出町や地元有志らによる登山道整備が行われている

▲稜線付近のルートは複雑だが看板やマップが充実している

▲標高をあげていくと梢の隙間から別府湾が見えた
ほどなくして経塚山の山頂に到着。別府湾はもちろん、活火山の由布岳(1538m)を望むことができました。山頂付近は開けていてミヤマキリシマが群生していました。なかには花をつけている株も。春に咲く花だと思っていたのですが、ここ鹿鳴越連山では秋にも花期があるとのこと。

▲鹿鳴越連山のピークのひとつ「経塚山(610m)」に登頂!

▲幸運にもミヤマキリシマの花を見ることができた
ミヤマキリシマといえば、万年山や平治岳といった標高1000m以上の山が名所として知られていますが、鹿鳴越連山はわずか標高600mほどでありながら群生地がある珍しい山なのだとか。例年5月上旬〜中旬ごろが春の見頃、秋は10月中旬にも一部が開花するとされています。秋のミヤマキリシマを探しに登ってみるのもよさそうです。

▲「シーガーデンひじ」で求めたお弁当でランチ

▲「経塚山」から「七ツ石山(623m)」へと縦走していく
ランチ休憩後は鹿鳴越連山の縦走へ。本来は東端の「城山」まで歩く予定だったのですが、登山道整備のため一部が通行止め(2027年3月に開通予定)。ということで七ツ石山を経由し「山田湧水」へと戻る周回ルートを歩くことに。

▲「七ツ石山」山頂からの絶景。日出町を一望できる
距離は1.3kmほど、あっという間に「七ツ石山」へ。標高600mほどの低山ではあるものの、海を目の前にした大パノラマと美しい森が続き、心地よいハイキングを楽しむことができました。
嬉しいことに、ルートのほとんどが自然林。スギ・ヒノキの植林はごくわずかで九州らしい照葉樹と広葉樹の森を歩くことができました。落葉樹が少ないため冬でも緑がきっと美しいのでしょう。縦走路を戻り、分岐から「山田湧水」へと下山。日出の市街地へと戻りました。
別府湾に面した日出町は豊後と豊前を結ぶ交通の要所でした。そのため、1602年には日出城が築かれ城下町として栄えたのだそう。フランシスコ・ザビエルがこの地を訪れたのも、そんな地理・歴史的背景があったからなのかなと、想像が膨らんでしまいます。

▲夜は日出駅周辺へと繰り出した。ローカルな食事処が点在している

▲地元の食材を使った料理を提供する「やっさん」の大将
日出町は観光客向けのレストラン・食事処は多くはないが、地元の人たちが通う、渋い店が点在しています。のれんをくぐったのは、日出駅近くにある「やっさん」。地元の魚介と酒を楽しめる昔ながらの居酒屋で、刺身や焼き魚などがおいしいと評判の店です。

▲地元産の「鱧(はも)」が絶品

▲幸運なことに、旅はちょうど「タイワンガザミ」の旬に当たった
日出町といえば、「城下(しろした)かれい」というブランドかれいが名物。別府湾で育ったマコガレイで、江戸時代には将軍家にも献上され「殿様魚」とも呼ばれたのだとか。しかし、漁期は4月〜9月頃と、残念ながら取材時はシーズン外。
しかし「やっさん」にいた常連さん曰く「城下かれいに負けず劣らずな、おいしい魚はいっぱいいるよ。いまはマゴチ、タイワンガザミをぜひとも食べてほしいね」。「やっさん」の大将も、「毎日のように朝市で新鮮な魚を仕入れているから、季節ごとに多彩な味を楽しめるよ」と教えてくれました。
常連さんとの話が盛り上がり、ホテルにチェックインしたのはだいぶ夜も更けた頃でした。
午前4時にセットした目覚ましで起床。荷物をまとめ車で向かったのは鹿鳴越連山の東にある「城山(しろやま)展望台」。せっかく日出町に来たのであれば、日出(ひので)を見てみたいと、地元でも有名な朝日スポットを訪れたのでした。

▲朝日スポットとして選んだ「城山 展望台(真嶽城跡)」

▲日出町を照らす朝日。沖には停泊する船が見えた
山頂に到着したのはまだ暗いうち。街灯と車のヘッドライトがマジックアワーを彩り、空は濃紺のグラデーションに染まっています。冷たい風が吹きつけ思わずウインドシェルを着込み日の出を待ちました。
太陽が雲の隙間から顔を出す瞬間。オレンジ色が空と水平線を染め、町を照らします。昨日、鹿鳴越連山を歩きながら見た日出の町並みと別府湾の景色。こうして朝を迎えながら、あらためて見ていると、日出町が山と海に囲まれ、自然豊かな土地なのだなと再認識するのでした。
今回は次に向かう朝市の時間もあったため車で訪れましたが、登山口から城山までのコースタイムは1時間ほど。朝駆けをしてそのまま鹿鳴越連山を西へ縦走してみるのもよさそうです。

▲車で移動し「大神漁港」へ

▲前日の夜に居酒屋「やっさん」で出会った漁師さんと再会!
日が上がり切らぬうちに向かったのが大神漁港。毎朝7時過ぎから「深江の朝市」が開かれていて、旅行者も競りを見学できるのです。ちいさいながらも活気にあふれた港の朝市。競りには鱧(はも)やタイワンガザミといった昨日の夕食で食べたものばかりが並んでいました。

▲「やっさん」の大将も競りに参加していた。手にしているのは「タイワンガザミ」

▲出航していく漁船を見送る
旅先で地元の生活を垣間見ることのできる機会は多くはありません。朝市ともなれば、地元産の海の幸はもちろん、漁師や仲買人なども集まってきます。漁港の日常に触れられたような気がして嬉しいひとときとなりました。
日出町の魅力はなんなのだろうか。この土地に暮らす人だからこそ知る、日出町の「らしさ」を聞きました。
ひとり目は役場の職員・鳥井田さん。鹿鳴越連山の登山も町歩きもアテンドしてくれました。

鳥井田さん:まずは日出町を訪れて鹿鳴越連山を歩いていただいて、「ここはいいな、また来たいな」と思ってもらえたら嬉しいですね。日出町には山や海といった自然、おいしい食など魅力的なものがいろいろあります。山を歩き、町で食事をし、地元の人と話す。そんな時間を通じて、少しずつ日出町を好きになってくれる人が増えたら何よりですね。
日出町を代表するホテル、ソラージュの井村さんは日出町の隣、杵築(きつき)市出身。日出町の魅力を知るひとり。

井村さん:鹿鳴越連山は、地元でも知らない人もいますし、登山目的で訪れる人もまだまだ少ない印象です。そして、なんと言っても温泉は日出町の魅力のひとつ。日出町で暮らしている人にとっても、温泉は日常の延長にあるとても身近なものなんです。山歩きと温泉、地元の食や店を組み合わせた旅は、もっと多くの人に知ってほしいですね。
旅の2日目に立ち寄った「すずらん食品館」は日出町「鈴木養鶏場」が営む卵にまつわる直売所。産みたての卵はもちろん、ロールケーキやシュークリームも名物となっている。

鈴木さん:日出町は週末には福岡などから訪れる家族連れが多いですね。「すずらん食品館」では、卵を使ったシュークリームやロールケーキ、サンドイッチ、塩ゆで卵など、ここでしか味わえないものも多く取り揃えています。登山でいらっしゃるみなさんには、山へ向かう前に食料を買ったり、下山後に立ち寄ったりする場所として選んでもらえたら嬉しいですね。

▲山と海、自然と暮らしの距離が近いのが日出町の魅力だ
取材の依頼をいただいたとき、恥ずかしい話ですが日出町を正しく読めませんでした。隣町の別府には行ったことはあっても、まったく認識できていなかったのです。実際、大分といえば別府や湯布院といった名所、山でいえば由布岳や九重連山を思い浮かべる方も多いでしょう。私もそのひとりでした。
しかし、鹿鳴越連山のこと、ローカルスポットの話を聞けば聞くほどに日出町が魅力的な場所に思えてきました。そして山を歩き、町の人たちと話し、数日を過ごすうちに言葉では表しきれない「居心地のよさ」のような魅力を感じるようになったのです。
海を望む山からの景色はもちろん、歩いて旅ができるほどの町の大きさ、大きな観光地にはないゆるやかな時間の流れ、そしておいしいご飯とあたたかい人たち。旅先としてだけではもったいない、こんな場所に住むことができたらどんなにいいことか、と思ってしまうほどでした。
旅の目的であった鹿鳴越連山だって、早朝の朝活ハイクで登ってもいいし、友人と週末にのんびり過ごしに登るのもいい。素晴らしい裏山があることの豊かさを噛み締めていました。
そして、この日出町を起点に、九州の山々に足を伸ばしてみるのもいいなと考えたりもしました。もし記事を読まれている方に福岡や北九州、熊本在住の方がいたら、週末の旅先に日出町を選んでいただければと思います。九州外の方は、鹿鳴越連山と日出町を目的に別府にちょこっと立ち寄るといった旅もいいでしょう。
記事に収めることのできなかった旅のエピソードはたくさんあります。書ききれないことが残念な気もしますが、ここでネタバレしすぎるのももったいない。ぜひ日出町を訪れ、旅をして感じ取っていただければと思います。きっと、歩くほどに日出町の魅力に出会えるはずです。
鹿鳴越連山をめぐる旅で立ち寄ったスポットをあらためてリストにしてお届け。ひとつひとつが目的地になる魅力的なスポットばかりです。

二の丸館
鹿鳴越連山登山だけでなく、日出町の観光情報を発信する交流拠点。特産品の販売、カフェ、EVカーシェア、レンタサイクルなども利用できる。JR・暘谷駅から徒歩約5分。
詳細:https://hijinavi.com/spots/detail/55

ホテルソラージュ 大分・日出
別府湾を望む海辺のリゾートホテル。全室オーシャンビューの南館を中心に、天然温泉の露天風呂からは海と日の出を眺めることができる、日出町の滞在拠点。
詳細:https://solage.jp/

シーガーデン ひじ
国道10号沿いにある日出町の物産館・産直市場。別府湾で獲れた魚介類、地元産の野菜や果物、肉、惣菜、大分県の特産品が揃う。
詳細:https://www.instagram.com/sea_garden_hiji/

糸ヶ浜海浜公園 オートキャンプ場
別府湾に面した糸ヶ浜海岸に隣接するキャンプ場。車の乗り入れサイトや電源付きサイト、ログキャビンも完備。
詳細:https://www.town.hiji.lg.jp/gyoseijoho/shisetsuannai/koen/1/1701.html


nicoドーナツ日出店(ニコノハコ)
大豆ペーストを使用し、もちもちした食感のドーナツを提供するカフェ。定番のプレーンはもちろん、地元産のかぼすを使ったユニークなドーナツなど季節限定のものも楽しめる。
詳細:https://www.instagram.com/nico.oita.hiji/

城山展望台(真嶽城跡)
鹿鳴越連山の東にあり、かつての山城跡。頂上まで車でアクセスでき、別府湾や日出町を見渡すことができる。本丸跡地には大きな鳥居と地蔵などが残る。
詳細:https://hijinavi.com/spots/detail/39

大神漁港 深江の朝市
毎朝7時頃から競りが行われる漁港の朝市。一般向けにも販売コーナーが設けられ、新鮮な魚介類を購入できる。毎週土曜日には地元の新鮮な野菜の販売も。
詳細:https://hijinavi.com/spots/detail/60


すずらん食品館
日出町の鈴木養鶏場が営む直売所。農場から届く新鮮な卵をはじめ、その卵をたっぷり使ったロールケーキやシュークリーム、プリン、たまごソフトなどを購入できる。
詳細:https://www.suzuran.shop/
取材・文章:小林昴祐
撮影:村上智一
YAMAPが運営する登山・アウトドア用品のセレクトオンラインストア