長崎県対馬|白嶽登山・ヤマネコ観察・島グルメ! 五感で楽しむアイランドアウトドア

海と山両方の魅力がギュっと詰まった魅惑のアウトドアスポットとして国内外から広く注目を集めている、長崎県の離島「対馬」。2020年秋、この対馬を舞台に海と山、そして離島ならではの文化を堪能するツアーが開催されました。参加したのはYAMAPのユーザー3組。島の自然を堪能し、美しい海の恵みに舌鼓を打ち、さらにはツシマヤマネコの捜索まで! 充実の旅の様子をご紹介します。

2021.01.06

佐々木 達也

ローカルメディアクリエイター

INDEX

アイランドアウトドアの幕開け

長崎県対馬は、日本の最北西端に位置する南北82km、東西18kmの細長い島。面積は709㎢と、東京23区とほぼ同じ大きさです。

九州の最も北に位置する離島ということもあり寒い印象を持つ方も多いと思いますが、対馬海峡を流れる暖流の影響を受け、福岡と同じような温暖な気候。

とはいえ、冬は大陸からの冷たい季節風が強く吹く日が多くなります。四季がはっきりしていて、季節ごとに移り変わる山の景色や、旬によって顔ぶれが変わる水産物など、四季折々で島の姿が変化するのです。

また、大陸とも近い事からで、独特な歴史や文化が残るのも、この島の魅力。対馬は離島ならではの特異な自然と文化が目白押しの、不思議が詰まった島といえるかもしれせん。そんな対馬の新しい楽しみ方を見つけようと、秋も深まる11月にYAMAPユーザーが参加したツアーが行われました。
対馬空港に到着した皆さん。これからどんな旅になるのでしょう

参加したのは、アウトドア好きの5人家族や夫婦、友人2人組の総勢9名。飛行機を使って、福岡からたった30分の空の旅で対馬に到着です。ちなみに、対馬へは、空と海から入ることができます。空路は、長崎と福岡からそれぞれ約30分、海路は福岡の博多港から高速船で約2時間、フェリーで約4時間半~6時間(福岡から対馬南部厳原港まで約4時間45分、対馬北部比田勝港まで約5時間50分)の道のりです。

スタッフの出迎えを受け、まずは参加者の顔合わせ。ほとんどが対馬初上陸の人ばかりで、期待と少し不安な表情です。今回の旅を案内する対馬観光物産協会の舟橋さんから、今回の旅のスケジュールの説明を受けます。
空港にある地図を使って説明を受けるも、いまいち距離感を掴めていない様子

対馬は、基本的に車移動が必要です。路線バスも走ってはいますが、時間や目的地に合わないことが多いので、レンタカーを借りることをお勧めします。今回はツアーで用意した車両に乗って移動です。

神話の世界と繋がる対馬を感じる

一行はまず、対馬空港から車で40分ほどの和多都美(わたづみ)神社へ。対馬に来た観光客が必ずといっていいほど訪れるスポット、対馬のシンボル的な場所です。
大昔から対馬の人達に大切にされてきた和多都美神社

神話の時代、海の神である豊玉彦尊(とよたまひこのみこと)がこの地に宮殿を作ったことが始まりとされるこの神社は、海の上に建つ2基の鳥居(1基は現在台風被害で倒壊)がとても印象的です。この神社に祀られているのは、彦火火出見尊(ひこほほでみのみこと)と豊玉姫尊の夫婦神。ふたりは浦島太郎と乙姫のモデルとされ、潮が満ちると境内まで海水で満たされる神社は、まさに竜宮城のような雰囲気。

神社には、本殿の下まで伸びる根と鱗の様な樹皮が見事な御神木や不思議な形の岩があり、自然そのものを神様として大切にしてきた対馬の人達の想いに触れることができます。
(左)本殿の奥にある豊玉姫の墳墓(お墓)とされる場所。(右)手で仰いでパワーを取り込む

さらに本殿横を抜けた奥の森にある豊玉姫の墳墓(お墓)は、この神社の中でも強力なパワースポット。なんだか不思議な雰囲気に包まれます。

リアス式の美しい海岸線を一望!

神話の世界に触れた後は、対馬のほぼ中央にそびえる烏帽子岳の展望台へ。ここは、日本有数のリアス式海岸である浅茅湾が一望できるスポットです。この日はあいにくの曇り空でしたが、雲の切れ間から日が差すと神話の世界に迷い込んだような美しい風景が広がります。
季節や天気によって雰囲気が変わる浅茅湾

烏帽子岳から眺める浅茅湾は、四季折々晴れや曇り、雨上がりなど、天候によって色々な表情を見せてくれます。「今日はどんな風景を見せてくれるのか」展望台の階段を登るたびにワクワクした気持ちにさせてくれるので、何度行っても飽きることがありません。普段学校やクラブ活動が忙しく家族揃って旅行に行くことも少なくなったという松本ファミリーも、この風景に感動の様子。浅茅湾の大パノラマをバックにパシャリ!

幻の「対州そば」で腹ごしらえ

神話の世界に日本有数の絶景という、旅の入り口からディープな対馬を目の当たりにした一行。今度はお腹で対馬を感じるため、島の北部、上県町佐須奈(かみあがたまちさすな)の「そば道場あがたの里」へ向かいます。
生産から販売までを行っているそば道場あがたの里

大きな水車がお出迎えしてくれるこのお店は、対州そばを味わうことができるスポット。朝鮮半島と日本の中間に位置する対馬は、古代から大陸と日本をつなぐ道でした。そばもそのひとつ。縄文時代に大陸から対馬を経由して日本へ伝わったと考えられています。

対州そばは、大陸で生まれたそばの原種に近く、とても香りが強いのが特徴です。収穫量が少なく、対馬でしか育てられないので、島の外ではほとんど食べることができません。そば好きの間では「幻のそば」と言われているほど、貴重なものなのです。しかもこの日は、ちょうど秋の新そばが入荷したばかり。風味豊かなその味わいを、対馬の郷土料理「いりやき」風の温かいお出汁で頂きました。
(左)具材もしっかりと入った「いりやきそば」。(右)そばアイスはクリーミーで濃厚な味わい

いりやきとは鶏や魚で出汁を取った寄せ鍋で、汁を少し甘めに仕上げるのが対馬風。地区によって具材や作り方に違いはあるものの、どの家庭でも鍋の途中で、湯がいたそばやそうめんの上に汁をかけて食べます。

そばの味もさることながら、可愛い食器にも目がいくこのお店、器にはツシマヤマネコのイラストが描かれています。対馬の中でも上県町は、ツシマヤマネコが数多く生息するエリアで、保護やPRの中心地でもあるのです。美味しいそばと可愛いヤマネコに囲まれて、お腹も心もほっこりとした一行は、さらに北を目指します。
ツシマヤマネコをモチーフにした食器もかわいい

対馬初のグランピング施設を拠点に、アクティビティに挑戦

コテージタイプでグループでの宿泊にぴったりの施設

2泊3日のツアー最初の宿泊地は、比田勝(ひたかつ)港から程近い、上対馬町泉にあるグランピング施設「Sloth glamping」。コテージタイプの客室にはウッドデッキが備えてあり、雨の日でもバーベキューを楽しんだり、備え付けのハンモックでゆっくりしたりと過ごし方は様々。プロジェクターや、韓国式の床暖房「オンドル」まで備えてあり、施設の名前のSloth(ナマケモノ)の様にゆったりと過ごすことができます。子ども達は客室に入るなり、室内を探索していました。
思い思いに部屋で過ごす子ども達

このままゆっくり過ごすと思いきや…。ひと心地ついた後はヘルメットをかぶって、自転車で20kmの行程を走る冒険に出発です。

オレンジが自転車、グリーンが途中で立ち寄ったハイキングのコース。YAMAPの該当地図はこちら

いやいや、島の89%が山地の対馬で、この距離を自転車で進むのにはちょっと無理があります…。

さらにSloth glampingの周辺は、アップダウンの激しさから、国内屈指の厳しい大会とも言われる国境マラソンのコースにも選ばれるほどの過酷な道のりなのです。こんなところを自転車で走ったら大変なことに…。そんな心配をよそに、YAMAPアプリを立ち上げたスマホをセットして軽やかに出発する一行。

それもそのはず、今回乗った自転車は、電動でアシストしてくれるE-BIKE。ペダルを漕ぐと、その力に合わせて手助けをしてくれるという優れもので、入り組んだ入江を風を切ってどんどん進んでいきます。

参加者の方曰く、坂道を、まるで誰かに引き上げてもらっている様な不思議な感覚があり、アップダウンが全く苦しくないそうです。ゆっくりと走っているうちはしっかりとアシストしてくれ、スピードが出るとアシストが穏やかになるため、みんなのスピードが同じになるのもポイント。まさに、グループで自然を楽しみながら行動するにはもってこいの乗り物とのこと。また、前輪のサスペンションやブレーキもしっかりしているので、坂や悪路での安心感も普通の自転車とは比べ物にならないそうです。
対馬のきつい坂でもすいすいと登る

半分ほど過ぎたところで、自転車を降りて、韓国展望所へと向かいます。
韓国展望所と遠くに見える朝鮮半島

その名の通り海の向こうに韓国が見えるスポットですが、この日は約50km先の朝鮮半島の山の形がくっきり見えるばかりか、釜山の街並みまでが目の前に広がります。「この分だと夜景も見えるかも…」というスタッフの呟きに反応する皆さん。暗くなったらもう一度来ることを誓って展望所を後にしました。

一行は足を伸ばして、展望所から少し離れた戦争遺構、豊砲台へと歩いて向かうことに。遊歩道をただ歩くとはいえ、子ども達は大はしゃぎです。落ち葉の積もった山の中を走り回ったり、ヤブツバキの花を見つけたりと、ただ歩くだけでもたくさんの発見がありました。

展望台から歩くこと15分、目の前には大きな穴が。ここは、対馬海峡を通る敵を攻撃するため、戦艦に搭載されてた大砲が昭和9年に据え付けられた場所。結局1発も発射することなく終戦を迎え解体されましたが、現在でも山をくりぬいて作られた地下室や厚さ3mのコンクリートの砲台跡が残っています。
山をくりぬいて作られた内部を散策

さて、寄り道も含め、2時間30分ほどで20㎞を漕ぎ進みグランピングへと戻ってきた一行。あたりも暗くなり、夕食前に韓国展望所の夜景を見に行こうとしたのですが、心地よい疲労感に子ども達は夢の中へ。代表してお父さんがしっかりと夜景を堪能していました。

暗くなり、火が恋しくなってきた夜は、対馬の海と山の幸をバーベキューで楽しみます。対馬産の良質な薪が燃える心地よい音を聞きながら、ヒオウギ貝やシイタケ、そして対馬のソウルフードとんちゃん(甘辛いたれに漬け込こんだ豚肉)を堪能。食に景色に体験にと盛り沢山だった初日の夜は更けていくのでした。

波の音をBGMにルーシーダットン(タイ式ヨガ)で身体をリセット

ツアー2日目、この日も対馬を楽しむために、しっかりと朝食をいただきます。対馬で捕れたイノシシで作ったソーセージが入ったスープと、たっぷりのはちみつがかかったトースト。はちみつはもちろん対馬でしか採れない日本ミツバチ100%のもの。甘さよりもうまみが強いはちみつで、4枚切りの分厚いトーストが瞬く間に消えていきます。

朝食から対馬パワーを充填したあとは、日本の渚百選にも選ばれる三宇田浜へ移動しルーシーダットンに挑戦します。インストラクターは近くの飲食店で店長を務める江口さん。

ルーシーダットンは、タイ語で、仙人(ルーシー)・ストレッチ(ダッ)・自分(トン)に由来しています。仙人が修行の疲れをとるために行っていたと言われ、身体を整えるには持ってこいとのこと。簡単なポーズが多いので、日ごろ運動をしていない人でも手軽に楽しむことができます。

身体いっぱいに朝の空気を取り込みながら、身体を動かしていきます。30分ほどの運動ですっかりリフレッシュした参加者の皆さん、表情も爽快です。

日本の果てでツシマヤマネコを感じる

次に一行が向かったのは、日本の最北西端である対馬の中でも最も最北西に位置する上県町の棹崎。なんと、朝鮮半島からの距離は49.5km! 高速船で1時間の距離なので、実は福岡よりも韓国の方が近いのです。


この棹崎のある佐護地区には、ツシマヤマネコ保護の拠点である対馬野生生物保護センターがあり、その生態や保護の現状について学ぶことができます。今回の旅でも、対馬グリーンブルーツーリズム協会の案内で、ツシマヤマネコの保護について学ぶスタディーツアーが行われました。


ツシマヤマネコというと、山の中にいるイメージですが、実際はえさが豊富にある水田や川の近くに生息していて、人間の生活と深く関わりながら生きています。そのためスタディーツアーでは、ツシマヤマネコの保護区となっている山や水田を巡り、減農薬農法などによってツシマヤマネコの餌となる生き物が暮らしやすい米作りに取り組んでいる現場を見学しました。

スタディーツアーの締め括りには、野生のツシマヤマネコを探しに出かけます。ツシマヤマネコは夜行性のため、暗くなるのを待って出発。宿泊する民泊にいったん入り、対馬産アナゴが1匹乗ったお弁当で腹ごしらえして、いざヤマネコ探しに出発です!

午後7時、対馬一の水田地帯が広がる佐護地区の中を、サーチライトを片手に車で移動します。稲が育つ8月から10月下旬までの期間は、約8割の確率でヤマネコを見ることができるというナイトツアーですが、稲刈りが終わったこの時期はそのシーズンも終わって微妙な頃…。ですが、参加者全員目を皿のようにしてあたりを見回します。

「何かいる!」捜索開始から1時間ほど経ったころ、声が上がりました。数十メートル先の水田の先で何か猫のようなものが…。さっそく車を停め、フィールドスコープで観察!

「うーん、イエネコかなぁ」残念ながら、ツシマヤマネコの特徴である模様は確認できず…。結局ヤマネコに出会う事は出来ませんでしたが、子ども達は夜の探検にワクワクした様子。最後は近くの千俵蒔山に登り、昨日見れなかった韓国の夜景をしっかりと楽しんで2日目の夜は過ぎて行きました。

旅のしめは九州百名山「白嶽」

奥に見える白嶽頂上を目指す

対馬ツアー最終日。前日までの曇り空はどこへやら、すっきりと晴れた青空のもと向かったのは、霊峰「白嶽」。標高518mの山ですが、頂上からの360度の景色に惹かれ、島外からの登山客も多い人気の山です。2日間の行程ですっかり打ち解けたメンバー全員で頂上を目指します。

今回は白嶽登山口からスタート。YAMAPの該当地図はこちら

登り始めはほぼ平坦な道がしばらく続きます。白嶽は、山頂に至る約2㎞の登山道の中で風景が数百メートルごとに変化する千変万化の山。その景色は飽きることがありません。途中には紅葉したカエデが一面に散った秋の絶景も! 登山口からしばらく進むと頂上の岩と同じ石英斑岩が目立つようになります。
(左)巨大な岩に全集中で挑む。(右)途中、シマサルナシの実(キウイフルーツに似た果実)を見つけ、恐る恐る口に運ぶ

登り始めて1時間ほどで鳥居が見えてきました。白嶽は昔から対馬の人達にとって信仰の対象。この鳥居の奥は神域とされ、手付かずの自然が残っています。
ここから神様の住む場所

徐々に険しさをます登山道、両手両足を使って頂上を目指します。

何とか山頂近くの広場へ到着した一行の前には、白嶽のシンボルである雄岳と雌岳の二つの岩がそびえ立ちます。ここから100mの距離で40mの高さを登らなくてはいけません。後ろを振り返らずひたすら上を目指します。
(上)雄岳と雌岳の間を登り山頂を目指す。(下)岩をよじ登り山頂へ!

そしていよいよ…。一生懸命登った先には、素晴らしい眺望が広がっていました。どんなに素敵な写真を撮っても、この美しさは登った人にしかわからないでしょう。身体いっぱい使って登ったご褒美を楽しむように、山頂での時間を過ごした一行。忘れられない時間となったようです。

「また来たい!」「また来んね!」来るたびに姿を変える魅惑の対馬

対馬の旅もあっという間に別れの時。白嶽から降り、対馬のご当地バーガーで遅めの昼食を取った後、空港へと向かいます。

3日間のアウトドアツアー、対馬の魅力を存分に感じてもらいたいと組まれたスケジュールは、天候の関係もあってタイトな所もあり、ちょっと大変な場面もありましたが、その時々で違った表情を見せてくれた対馬のすばらしさを感じてもらえたようでした。

参加した皆さん、それぞれの目線で対馬の魅力を堪能できた様で「違う季節に来たらどうなるんだろう?」などの嬉しい感想もちらほら。お迎えしたスタッフも「次来たときは、ここに案内したい」と、新たなアイディアが浮かんだようです。真っ赤な夕日が白嶽の稜線に消える頃「また来るね!」「また来んね~」お互いの姿が見えなくなるまで手を振ってやり取りする姿にほっこりしながら、あたたかな余韻と共に旅は幕を閉じました。


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佐々木 達也

ローカルメディアクリエイター

佐々木 達也

ローカルメディアクリエイター

カメラマン、ディレクターからアナウンサー、ドローン操縦者、映像制作を起点に、ライターや観光ガイドまで、地域のモノ、ヒト、コトを情報発信をすることで結びつけ、新たな価値を見出すため、いろんなところに首を突っ込むフリーランサー。対馬在住12年。