怪獣のプロ・ガイガン山崎さんに「山の怪獣をつくってもらう」本企画。「YAMAPユーザーにとって人気があり、面白い特徴や伝説がある各地の山」をモチーフに、新・山の怪獣を紹介していきます。五体目の怪獣は九州屈指の山岳地帯・九重連山。一面をピンクに染めるミヤマキリシマ咲き誇る山々を一瞬で食い尽くすほどの凶悪さとスケール感のある怪獣のようです。一体どんな怪獣が登場するのでしょうか。
山の怪獣を本気でつくりたい #06/連載一覧はこちら
2021.01.08
ガイガン山崎
怪獣博士
一口に特撮ファンといっても十人十色、いろんな趣味嗜好が存在する。文字通り特撮技術そのものに興味があって、メイキング映像に目がないタイプ、ヒーローにあこがれて、変身ベルトなんかを買い集めているタイプ、怪獣が好きすぎて、自分で着ぐるみやソフビ人形を作ってしまうタイプ……と、最後のやつはデザイン担当の入山くんのことだが、実はヒーロー派と怪獣派の間には深い溝があるのだ。もちろん、ヒーロー派の特撮ファンだって、別に怪獣が嫌いということはないだろうし、逆もまた然り。ただ、ボクの部屋には優に300体を超す怪獣のフィギュアが飾られているけれど、ヒーローのほうは片手で数えるほどしかない。逆に怪獣なんて、ひとつも持ってないという特撮ファンも珍しくないと思う。で、どちらがマイノリティかといえば、これはもう間違いなく怪獣派。『シン・ゴジラ』の大ヒットは記憶に新しいものの、だからといって怪獣映画の新作が、そこに続くことはなかった。近年はウルトラマンシリーズよりも仮面ライダーシリーズのような等身大ヒーローもののほうが好調で、怪獣の影は薄くなる一方だ。もっというと、昨今は“悪のライダー”みたいな連中が幅を利かせていて、怪人(等身大の怪獣)も割りを食っている。ボクみたいな怪獣怪人フリークからすると、こういうダークヒーロー系は怪人の仲間かもしれないが、怪人ではないという認識で、いまいちピンと来てなかったりするのだ。
ちなみにボクと入山くんでやっている造形グループ「我が家工房」は、怪獣怪人の着ぐるみしかつくらない! というポリシーのもとに活動している。要するに全国各地の“ご当地ヒーロー”が、ヒーローとダークヒーローばかりつくっていることに対するアンチテーゼだったりするんだが、単純にヒーローをつくるのは難しいってのもある。初代ウルトラマンの生みの親である成田亨は、怪獣は混沌の象徴、ウルトラマンは秩序の象徴としてデザインしたと語っていて、やっぱりヒーローには均整の取れたフォルムが要求されるのだ。これ、我々が最もニガテとするところ。前回のガルラ星人にしたって自信のなさがディテールの量に現れていて、いつもの怪獣と釣り合いが取れるよう線を減らすという修正作業が続いた。最終的には、なんとか格好がついたんじゃないかと思うんだけど、如何でしょうか?
ただし、混沌のほうは任せて欲しい。こと混沌に関しては、成田亨のそれを軽く凌駕するのではないか。まあ、それがいいことなのか悪いことなのかは分からんが、今度の怪獣もカオス極まりない仕上がりとなった。その名も……。
九重連山で退治された宇宙怪獣。両肩の貝殻にも似た突起物は、大気圏突入時に断熱シールドの役目を果たす卵殻の残骸で、不毛の地で孵化してしまった際の非常食にもなるらしい。また、この卵殻は電波吸収体で構成されており、幾重にも張り巡らされたレーダー網に探知されることなく、地球への侵入を果たした。
高度な擬態能力と比類なき悪食を特徴としており、目についたものは片っ端から食べてしまう。九重連山に出現した個体は、ものの数時間で大船山を丸ごと平らげると、巧みに身体を作り変えて大船山になりすました。しかし、夜明けまでに卵殻の分解が間に合わず、地元の人間に正体を露呈。航空自衛隊によるピンポイント爆撃で息の根を止められた。その死骸は大船山そっくりで、標高から形状、果ては生物相まで一緒だが、大船山をよく知る登山家に言わせれば、出来の悪い紛い物だという。
さらにテナルンガに関しては、もうひとつ興味深い報告がある。九重連山の事件が発生した当日、全長3万kmはあろうかという巨大な宇宙怪獣が、地表に向けて複数の“なにか”を撃ち込んでいた様子が、某国の人工衛星に捉えられていたのである。すなわち地球に侵入したテナルンガは1体だけでなく、しかも成体は天体規模のスケールの持ち主と推測されるわけだ。
もしもあなたが登山家で、しかも勝手知ったる山を登っていて違和感を覚えたとすれば、その山はテナルンガに乗っ取られた可能性が高い。実際、大船山で採取された卵殻と同様の物質が、様々な山地で検出されている。しかし、我々にはどうすることもできない。また、気にする必要もない。いずれ地球はテナルンガたちに喰い尽されるかもしれないが、それは数千年、あるいは数万年後のことなのだから。
「成田亨が言うところの“動く抽象形態”を狙って、山そのものに擬態する無機的な怪獣というオーダーを出したところ、何故か入山から上がってきたのは、両肩にサザエをつけたタニシ怪獣のラフ画でした。当初、こいつには日本語が通用しないのか!? と頭を抱えましたが、これはこれで面白いかも知れないと考え直し、鱗翅目(チョウ目)の幼虫や頭足類、イソギンチャクなどの要素を付け足していき、最終的にミヤマキリシマっぽいカラーリングを施すことで、なんとなく山に擬態してる風にまとめていった次第です。ポイントは、一晩で山を丸ごと食い尽くしそうな大きな口でしょうか。ラフ段階で、もっと大きく、もっと大きくと修正を繰り返しました。山に成り代わったテナルンガの幼体は、誰に気付かれることなく周囲の土地を取り込んでいき、最終的に惑星内部で完全変態を遂げます。特大サイズの成体に関しては、ほとんど入山発信のアイデアで、ボクのほうで考えたのは顔の方向性と名前くらい。どちらか片方だけではつくれない、ウチらしい怪獣になったかなと」(山崎)
「主宰の山崎から星喰い、スターイーターというアイデアを聞かされたとき、あまりにも壮大でイメージが掴みづらく、とりあえず食いしん坊ということでアゲハの幼虫とジャンボタニシ(スクミリンゴガイ)を足したような怪獣を描いてみました。上の顔に見える部分は、極度に発達した感覚器という設定です。一方、成体のほうは、オケラとトンボとノミとガを合わせた感じで描いたつもりですが、実際にそうなってるかどうかは分かりません。『ウルトラマンタロウ』に登場するムルロアというガの怪獣を、自分たちなりにカッコよくアレンジしてみたらこうなった……ともいえます。2年前、同じ課題に挑戦したときはうまくいかなかったんですが、なんとか今回は形になりました。幼体のときは地殻という惑星の葉を食べ、成体になるとプレート内部に口吻を突き刺してマグマという蜜を吸う――。地球ではちっぽけな生き物と思われている虫けらの怪獣が、宇宙では最大規模の災厄として畏れられているという構図にロマンを感じていただければ幸いです」(入山)
いかがだったろうか。しばしば“生きた災害”と表現される怪獣だが、それを宇宙スケールまで拡大してみた。こればかりはガルラ星人はもちろん、かのウルトラ兄弟だってどうしようもないだろう。テナルンガが星を食べることは自然の摂理、そのくらいまで持っていきたかったのだ。しかし次回は一転、今度は人間サイズの怪獣……つまり怪人に挑戦してみたい。2週間後、またお会いしましょう。
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※表紙の画像背景はももさんの活動日記より