東京都八丈島|手付かずの自然とともに、プチアドベンチャーの旅

羽田空港から飛行機で45分。東京都でありながら手付かずの自然が残る絶海の孤島「八丈島」。名前は聞いたことがあるけど、どんなところなのかはいまいちわからない…という方も多いのではないでしょうか? 今回、ここ八丈島を旅したのはファッション誌やカルチャー誌の記事を数多く手がけるライターの松本昇子さん。アウトドア初心者の彼女は、八丈島の大自然に何を感じたのでしょうか?

2021.02.22

松本 昇子

エディター・ライター

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普段は都心で暮らし、フリーランスなので会社への通勤もあまりなく、仕事はほぼ自宅作業。休日は最近趣味で始めた陶芸教室に通うか、部屋にこもってSNSチェック。家から一歩も出ない、なんて日もザラにあるほどアウトドアとは縁がない生活をしている私ですが、今回は仕事で大自然が残る東京の秘境「八丈島」でのアウトドア体験をすることになりました。実はこの八丈島、近年の離島ブームも相まって、注目を集めている場所らしいのです。初心者だからこそ気がつく魅力、そして実際に体験してみたリアルな感想を伝えるべく、一路八丈島へ向かいました。

 

伊豆諸島最高峰の「八丈富士」に登山

八丈島は富士火山帯に属する火山島で、年代の違うふたつの火山が合わさって、現在のひょうたんのような形(それが所以でアニメ『ひょっこりひょうたん島』のモデルになったと言われているそう)になっている伊豆諸島のひとつ。

北西側を八丈富士、南東側を三原山と言い、八丈富士のほうは、今後噴火する可能性もあるとのこと。初めての登山体験なうえ、伊豆諸島最高峰、そして現役の活火山、なんて言われると尻込みしてしまいそうだけれど、そこは安心、八丈島を知りつくしたガイドの方が丁寧にレクチャーしてくれます。まずは登山口で軽く準備体操。

ガイドさんに従って軽くストレッチ。ここであらかじめ身体をほぐしておくことが大事

ガイドの方について、いざ八丈富士へ。登山者数を調べるための登山者数カウントボタンを1回押して入っていきます。

鬱蒼と茂るダイナミックな木々をかき分け、ずんずんと進んでいきます。緑豊かな木々や苔、小さく咲く花々…。カタツムリがいたり、鳥のさえずりがかすかに聞こえたり。目を、耳を凝らすと、普段生活している時には見過ごしてしまうようなものまで、たくさんの発見があります。「シダ」の葉ひとつとっても、種類は様々。ガイドさん曰く、「八丈富士」というだけあって、山の雰囲気は富士山に似ているんだそうです。

木々に覆われた小道を、一歩一歩確かめながら進んでいきます

山頂には、ぽっかりと空いた断崖絶壁の火口があり、その中に生い茂る樹木や池を見下ろしながら火口を一周する「お鉢めぐり」が旅の見所のひとつなのですが、今回はあいにくの天気。火口内にある浅間(せんげん)神社にお参りをして、当初予定していた時間を短縮し下山します。浅間神社には、幼稚園児が運んできたと思われる石などもあり、なんだかほっこりしました。

鬱蒼と茂る森の中に突然現れる鳥居。登山者が記念に置いていく石。

 

晴れていればお鉢巡りを楽しむことができます

それにしても、なかなか霧は晴れません。ガイドさん曰く、昨日までは快晴が続いていたそう。本来なら、10〜11月は気候もよく天気も安定しているので、登山するにはもってこいのベストシーズンなのだとか。たしかに、晴れた日に山頂から海を一望するのはとても気持ちがよさそう…。

今回登山をしてみて感じたのは、八丈富士登山は、スニーカーなどの軽装でも問題ないと言われているとはいえ、トレッキングの装備があった方がやっぱり良いということ。備えあれば憂いなし。登山慣れしている方には言わずもがなですが、トレッキングシューズと、雨具、あとは着厚スパッツのようなもの(翌日の足の疲れが全然違います!)は、念のため準備しておくことを推奨します。不規則な石段や勾配が多様なスロープを歩いたり、天候によってはぬかるみもあったりするので、ご参考までに。

 

冒険のあとは八丈島名物「くさや」で地元ランチ

お昼は『藍ヶ江水産』へ。八丈島が発祥と言われている「くさや」を堪能できるお店です。

一歩店の中に入ると…あれ?くさくない。トビウオやアオムロアジの干物…美味しそう

八丈島近海で獲れた最高級のアオムロアジなどを、明治時代から伝わる秘伝の漬けダレに漬け込んで作られた干物は、どれも味わい深くて美味しい! 「くさや」と聞いて抱いていたイメージでは「すごく臭そう…」と思っていたけれど、そんなことはありませんでした。また近海で獲れた旬な魚を醤油ベースのタレに漬けてヅケにした郷土料理「島寿司」も甘辛くて美味しかったです。お寿司なのに、わさびではなくてからしを添えるというのも、初めての経験でした。工場直売の水産加工品などのオリジナル製品も多く販売しているので、お土産として購入するのもいいかも。

アオムロアジのくさや定食1380円。島寿司8貫定食1980円

デザートをいただくなら『藍ヶ江水産』のすぐ近くにある『八丈島ジャージーカフェ』へ。おすすめは100%八丈島産の明日葉(八丈島は明日葉も名産)を使ったソフトクリーム。ジャージーミルクとのミックスにすれば、どちらも堪能できてお得です。プリンやクッキーも美味しそうでした。喫茶スペースもあるので、ちょっと休憩するにはぴったりのお店です。

カフェではコンセント使用可能、旅人にとってうれしい気遣い。ソフトクリームはさっぱりとした甘さでおいしい!

 

八丈島の自然と文化をもっと知りたい!『八丈ビジターセンター』へ

八丈富士へのプチトレッキング、そして名産品ランチと、八丈島の自然とグルメを体感したあとは、島のことをよりわかりやすく展示、解説してくれる『八丈ビジターセンター』へ。

写真パネルや展示などで八丈島についてより詳しく知ることができる

温室や植物公園が併設された施設内には、100種類もの亜熱帯性の植物が育っています。大きなガジュマルの木やヤシの木は圧巻。昔なつかしの漫画『がきデカ』にも登場するキュートな小型のシカ・キョンに挨拶をしつつ、八丈島植物公園を通り抜けて館内へ入ると、資料がたくさん。わからないことや疑問点があれば、ビジターセンターの職員さんが詳しく教えてくれます。雨の日にもうれしい立ち寄りスポットです。

(左)人懐っこいキョン。(右)真っ赤な樹液が流れる「龍血樹」という名前の木。なんだか少し怖い

 

『南原千畳岩海岸』で、火山の歴史を踏みしめる

次に訪れたのが、八丈島が本当に火山でできているんだな、ということが目で見て、足で踏みしめて実感できる場所、『南原千畳岩海岸』。

溶岩でできた断崖絶壁は、息を飲むほどダイナミック

冷えた溶岩が真っ黒な瓦礫になって、断崖絶壁を作り出している、不思議な場所です。まるでハワイ島のキラウエアを思わすような景色。ところどころ岩の隙間から、植物が生えていて、自然の力強さを感じたりもしました。天気がよければ、海の向こうに八丈小島を望めるらしいけれど、今回は曇天のため、残念ながら遠くにうっすらと佇んでいるのが見える程度。でも逆に、蜃気楼のような、なんだか幻想的な風景。

先に見えるのは、海に浮かぶ八丈小島。生命力を感じる植物たち

この場所へ来る途中、丸い石が規則的に積み上げられた外壁のあるスポットへも寄りました。玉石垣といって、ひとつの石に6つの石が面すように積み上げられた「六方積み」という手法が特徴的な外壁。台風の多い八丈島で、暴風雨から住宅を守るために、かつては流人が石を運んで作り上げたと言われている、昔の島の人たちの暮らしが垣間見える場所でもあります。

規則正しく積まれた玉石垣。先人の智恵を感じる

 

旅の疲れを癒してくれる…最高の温泉地

その後は添乗員さんの粋な計らいというか、臨機応変な対応で、急遽、温泉へ立ち寄ることに。八丈島は〝花と緑と温泉の島〟と呼ばれるほど、豊かな温泉に恵まれた土地でもあるんです。

タオルなど購入できるので手ぶらでも安心

参加者の方たちも、とってもうれしそうでした。みんなやっぱり温泉が好きだよね、と実感。数ある温泉のうち、向かったのは『ふれあいの湯』というところ。ヒノキ作りの大浴場と露天風呂を備えていて、すこし熱めのお湯がめちゃくちゃ気持ちよかったです。雨降りだったけれど、露天に浸かりゆっくりと登山の疲れを癒しました。入浴料が300円というのもおどろき。あと、こちらの温泉タオルが素敵なデザインだったので、お土産に買って帰りました(よく見ると、ローマ字で書かれたHACHIJOJIMAの〝HI〟の部分が温泉マークになっているんです!)。路線バスで町営の温泉施設を巡ることができる『BU・S・PA(バスパ)』というチケットもあるそうなので、温泉好きとしては見逃せません。

素敵なデザインの温泉タオル

宿泊は、まるでバリのリゾートを思わせるような、ゆったりとした空間が魅力的の『リゾート シーピロス』。

リゾート感溢れる造り。室内も広々快適

晴れていたら、目の前に底土海岸(そこどかいがん)の青い海が望めます。今回はこちらにお世話になって、前述した名産でもある明日葉の天ぷらや、島寿司、くさやの干物などをいただきました。また、より島の雰囲気を感じたいなら、近くにある『八丈島民宿 そこど荘』もおすすめ。八丈島の旬の魚を使った郷土料理を食べられます。

名産をいろいろ食べられて、おなかもこころも満足

 

マイナスイオンをたっぷり浴びて!『裏見ヶ滝』の大自然で癒しタイム

一夜明けて翌日の朝。天気の好転を祈ってカーテンを開けると、雨は止んで、うっすらと青空も。「雲ひとつない晴天!」とまではいかなくても、少しは願いが通じたのかもしれません。この日は三原山の登山と、裏見ヶ滝ハイキングへ向かいます。三原山に向かう道中、なかなか天気に恵まれなかった旅程で、唯一八丈島の全景を感じ取ることができたのが、大坂トンネル展望台から望んだ景色。雲が切れ、遠くには海に浮かぶ八丈小島も見えます。八丈八景のひとつとも言われ、ここから沈む美しい夕陽は「大坂夕照」と呼ばれているそう。見逃せない絶景ポイントです。

八丈八景のひとつ「大坂夕照」を見逃さないで

晴れていればこんな絶景が見られるそう 写真提供:(一社)八丈島観光協会

そして八丈島にある、もうひとつの火山、三原山へ。八丈富士とは違い、その豊かな水資源には目を見張るものがあります。三原山にある『裏見ヶ滝』までの道のりは、散策路として整備されてはいるものの、雨上がりは滑りやすくなっているので、要注意。

青々と茂るシダに、豊かな水資源

辺り一面にひろがるジャングルのような景観に圧倒されながら、奥へ奥へと進んでいきます。木々の緑はしずくがきらきらと反射して、とても幻想的。そうこうしているうちに現れる滝は、前日の雨のせいもあり、ものすごい水量!

ごうごうと音を立てながら流れ落ちる滝。圧巻です

『裏見ヶ滝』のその名の通り、裏側から滝を見ることができます。水って不思議ですよね。音とか、しぶきとかを浴びていると、なんだか心と身体が浄化されるような感覚になるというか…。マイナスイオンを全身に浴びて「都会で暮らす私に足りなかったのはこういう時間だったのかも」と喧噪から離れたひとときを満喫しました。

水がきれいだからか、まさかの沢ガニも発見。裏見ヶ滝には『裏見ヶ滝温泉』という、現在では珍しい混浴の温泉も併設されています。この日は先客ありで入浴することが叶いませんでしたが、とっても気になるところ。地元の方々にも人気の場所なんだそうですよ。

小さなカニがきれいな水を求めてこんにちは。気になる混浴

その後は、足湯『きらめき』で、太平洋を一望しながら疲れを癒します。

同じ職場で働いているという女性参加者ふたりの癒し旅。芯からポカポカ

10分程度足を浸けているだけでも、からだの芯からぽかぽかと温まるのを感じます。底には石が敷きつめられていたんですが、これが足つぼを刺激して、ものすごく痛い!腰が引けてしまうほど痛かったけれど、ほかの参加者のみなさんは、全然痛がっていなかったので、自分だけか…と己の不健康さを実感しました…。ぜひ体感してみてください。

時間があれば『えこ・あぐりまーと』への立ち寄りもおすすめ。温室で育てられた観葉植物と、八丈島の農作物や特産品が並びます。珍しいモンステラの身(食べられるのだそう!)や、島トウガラシなど、お土産にぴったりなものが様々並びます。

地元の特産品は物産店などで買うのがおすすめ

 

『大竜ファーム』で椎茸の収穫体験

亜熱帯の島・八丈島特有の海風と高い湿度の恩恵を受けた『うみかぜ椎茸』。国産の菌床と島の豊かな自然から生まれ、八丈島の新たな名産品として注目を集めています。某有名バラエティ番組にも八丈島名物として取り上げられたことがあるのだとか!その収穫体験ができる『大竜ファーム』へ伺いました。

一面にずらりと並ぶうみかぜ椎茸の菌床。根本から慎重に切り取ります。かご一杯に収穫!

普段はなかなか自分の手で穫ることはないので、参加者のみなさんも大興奮。大きいものを厳選して、かご一杯に収穫していきます。『うみかぜ椎茸』は独特のくさみもなく爽やかで、肉厚、ジューシー。そのまま素焼きにしても、フライにしても、ピザやパスタに加えても美味しい万能食材。併設されている『農園レストラン 男メシ食堂』では、うみかぜ椎茸を含めた八丈島の名産品を使ったバーベキューも可能だそう。今回は肉詰めフライのカレーライスをいただきました。

 

日常から離れて、手付かずの自然の中で静かに自分と向き合う時間を

手つかずの大自然に触れて、癒され、静かな時間を過ごしてみる。自然の恵みを存分に受けた地元の特産品を味わってみる。ライフスタイルの変化を余儀なくされ、知らず知らずのうちに疲れをためてしまっているかもしれない今だからこそ、必要なのは、喧噪から離れて過ごすこういう時間なのかもしれません。アウトドア初心者でも、まずはやさしめのコースから、そして登山以外にもオプション的な経験がいろいろできるとあれば、私のような都会で生活するインドア派にとっても、挑戦しやすいというもの。1泊2日のプチアドベンチャー。東京から45分の絶海の孤島「八丈島」で触れ合う手付かずの自然。ぜひとも小旅行を計画してみてはいかがでしょうか?

松本 昇子

エディター・ライター

松本 昇子

エディター・ライター

出版社勤務を経てフリーランスの編集に。書籍や雑誌、WEBなど媒体・ジャンルを問わず幅広く活動中。趣味は陶芸と温泉、ダンス。