山を歩いていて、ふと連絡を取ろうとスマートフォンを見てみると、あいにくの圏外…。YAMAPユーザーの皆さんなら、一度と言わずそんな経験をしたことがあるかと思います。でも、それが生死を分ける重大事故の局面だったら…。そんな時、電波を捉えるための知識を身に付けておけば、少しでも生存の確率を上げるために役立つはずです。今回は、国内屈指の大手キャリア、ドコモに勤める電波のスペシャリストに徹底インタビュー。山で生死を分ける「スマホ活用術」や、山中での電波範囲が一目でわかる「電波マップ」についてお伺いしてきました。
2021.03.29
コーマ
YAMAPスタッフ
「スマートフォンが圏外で困った…」という事態、誰しもが一度は経験したことがあるかと思います。特に電波が届きにくい山に分け入る登山者ならばなおさら。YAMAPは圏外でも地図や現在位置を確認できるアプリとして「山のインフラ」といえる存在になっているものの、いざ外部と連絡を取ろうと思ったときには、やはり電波は必要です。
「電源をON/OFFすれば入りやすくなる」「スマホをこすれば電波がよく入る」「稜線沿いに出れば良い」「電波マップなるものがあるらしい」などなど、ネット上には色々な情報が飛び交っていますが、いざという時に命を救ってくれる大切なアイテムだけに、その使い方についても正しい情報を仕入れておきたいもの。
と言うわけで今回は、そんなさまざまな疑問にお答えいただくべく、電波のスペシャリスト、(株)ドコモCSの群馬支店に所属する坂谷誠さんにお話を伺いました。
過去には大人気の登山エリア、北アルプス白馬岳での電波調査経験もあると言う坂谷さん、これは有益な情報をゲットできそうです!
ー本日はよろしくお願いします! 電波のスペシャリストにお話を伺えるということで、私もアンテナを張りまくって感度高めにお話を伺いたいと思います(鼻息)。まずは、単刀直入に、そもそも山の中でスマートフォンが圏外になるのはどう言った理由からなんでしょうか?
坂谷:基本的に電波は基地局と呼ばれる高い位置にある設備から、住宅地などの生活圏内に向けて下方向に放射されています。基地局には様々な形状があり、鉄塔のようなものや、ビルの屋上に設置されているもの、小型のものだと電柱タイプのものもありますが、そういった高所から下方向に向けて電波が出ているとイメージしてください。
でも、山ではちょっと状況が違うんです。街の基地局からは距離が遠いこと、周辺を高い木々や隣の山に遮られ、電波が届きにくくなっているということなどが原因で、電波が十分に届かず圏外となってしまいます。遠くなるほど輝きが弱くなっていくような光と同じイメージですね。
ーたまに登山道や山頂で電波が入ることもあるのですが、あれって…?
坂谷:人気がある山などでは、山麓に基地局を設置し電波を上向きに放射することで、 基地局より標高が高い場所でも電波を届きやすくしているエリアもあります。
山中に基地局を設置することもありますが、積雪などにより冬季はメンテナンスができないなんてことも。そのため、夏には電波が届いていたのに、冬には届かないといったエリアも存在するんです。
あるいは、基地局から離れていても、地理・気象の条件によってかろうじて電波が届いているエリアなんかも多くあります。
ー「山ではドコモが一番つながりやすい!」という話が登山者の中にはあるようなのですが、実際のところどうなのでしょうか?
坂谷:ん〜どうなんでしょうかね…(笑)
坂谷:ドコモとしてはまずはユーザーの方に使っていただけるエリアを拡大する、という考え方で今日まで走ってきました。エリアを大きく広げてきた結果、山中まで届いているのかなと思います。「つながる」エリアを広げることは、登山をされる皆さんの安心・安全を守り、生命を守ることにつながると信じて日々業務にあたっています。
坂谷:エリアを拡大し「どこでもつながるようにする」ことはもとより、基地局などを保守点検して「きちんとつながる」当たり前を日々守っていくことが大切だと考えているんです。そういった努力の結果として「山ではドコモがつながりやすい」と言っていただけているのであれば、それはとても嬉しいことですね。
ー続いてお伺いしたいのは、バッテリーについて。登山の際に、バッテリーの消費が気になるという声は、YAMAPユーザーからも多く寄せられています。バッテリーの持ちが良くなる方法なんかはあるんでしょうか?
坂谷:スマートフォンは周囲の気温が著しく低い(もしくは高い)場合、バッテリーを消耗しやすくなります。冬山に登った際「電池の減りが早いなぁ」と感じた経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか?これは電流の働きが弱まり、一時的にバッテリー持ちが悪くなっているため。寒い季節の登山では、スマートフォンをサコッシュやポケットの中に入れるなど、なるべく冷やさない工夫をしましょう。
アプリがバックグラウンドで動いていることもバッテリー消費の大きな原因になるので、不必要なアプリを終了させることも効果的です。
ーなるほど。
・スマホを冷やさないようにする
・使わないアプリやキャッシュを終了させる
・モバイルバッテリーを持参する
・新しく購入する際には、バッテリー容量や連続稼働時間に注意して機種を選ぶ
ですね。スマホの機能を理解して、山でも安心して使用していきたいですね。
坂谷:あとはなによりバッテリー切れを防ぐためにも、モバイルバッテリーの持参は忘れないようにしたいところです。バッテリーはどうしても機種個体差や使用期間、その時の環境によっても変わってしまいますので。これからスマートフォンを購入しようと考えている方は、内蔵バッテリーの容量や連続稼働時間などに気をつけて機種を選ぶといいかもしれません。
ーバッテリー以外にも、山の中で役立つスマホの使い方があれば教えていただけますか?
坂谷:そうですね…。それでは、電波を受信しやすくするための工夫についてお話ししましょう。
冒頭でもご説明したとおり、電波は光と似ています。そのため稜線や開けた場所の方が入りやすいんです。逆に遮蔽物があると届きにくいので、谷に降りると電波が入りづらくなる場合があります。もちろん基地局からの距離や複雑な地形の影響などによって、この限りではありませんが、ひとつの目安として知っておいてもいいかもしれません。
坂谷:他には、電源を再起動させるのも実は有効な場合があります。電源をオンにした直後、スマートフォンは電波を探す動きをするので、微弱な電波でもつながる可能性があるのです。機内モードのオン・オフも同様の効果が期待できます。こちらも絶対ではありませんが、いざと言う時には試してみる価値があるでしょう。
坂谷:あとはなにより、スマートフォンがどこで使えてどこで使えないかを事前に把握しておくことが非常に重要ですね。ドコモに限らず多くのキャリアでは、電波状況をWebサイトで公開しています。使えるエリア、使えないエリアを把握することは、電波を入りやすくする裏技のようなことよりも遥かに意味があり、重要なことです 。(ドコモの電波状況はこちらから)
とはいえWebサイトの地図では縮尺の関係上、山の細かな電波状況までを知ることはできません。山の細かな電波情報をユーザーの方に伝えることができれば、登山がもっと安全になるのではないか、そんな思いから私たちが作成したのが「ドコモ電波マップ」なんです。
ードコモ電波マップについて簡単に教えていただけますでしょうか?
坂谷:ドコモ電波マップとは、登山ルートのドコモ電波状況を可視化したマップのことです。全国複数のエリアで製作していますが、私が勤める群馬支店でも、「ぐんま県境稜線トレイル」という登山ルートで作成しています。
「ぐんま県境稜線トレイル」は総距離100キロを超える国内最長の稜線ロングトレイル。登山初心者の方から経験者の方、そしてご家族連れまで、それぞれのレベルや嗜好に合わせて遠くの山々を見渡しながら山歩きを楽しめる、県内有数のアクティビティスポットなんです。
坂谷:しかし人気であるが故に、やはり事故も発生してしまいます。
そう言った事故の予防や、いざ事故が発生した際にすぐにレスキューを呼べるよう登山者の方に、あらかじめ電波状況を伝えておきたいとの思いから作成しました。
坂谷:当初は紙面での配布とWebサイトでの公開を実施していたのですが、ユーザーの方から「YAMAPの中でもこれが見れたら」というお声をいただく機会がありました。確かにスマートフォン上で見れたら、よりこの電波マップを有効活用できる。そして使ってくれる人も多くなるはず。登山での安心・安全に寄与できるのではと思ったのです。
ーそういった経緯で今回、YAMAPのアプリ上でも電波マップが見れるようになったということですね。
坂谷:紙の電波マップを作っている地域は他にもありますが、アプリ上に掲載されるのは、ぐんま県境稜線トレイルが初めての試みですね。
坂谷:なにかあったとき、連絡したくても使えないということは、登山というアクティビティの性質上どうしてもありえます。電波がつながる場所を把握することで助けを呼ぶことができ、結果として救える生命があるのではないか、そんな願いを、この電波マップに込めました。
坂谷:ドコモでは登山道でも「つながる」をめざしていますが、実際は登山道すべてをつなるがるようにするのはなかなか困難な現状です。ドコモ電波マップは、どこで使えるかを示したものでもあり、どこで使えないかを示したものでもあります。それを包み隠さずしっかりと伝える事で、使っていただく方に判断してもらう。そうしてより多くのお客様の安心安全に寄与する事が、私達ドコモがすべき責務だと強く思っています。
ー坂谷さん、熱のこもったインタビュー、ありがとうございました! 「ドコモ電波マップ」を多くのYAMAPユーザーに使ってもらって、安心安全な登山をより広げていきましょう!
今や安全登山の必須ツールとなりつつあるスマートフォン。山中で使いこなすためには、私たちユーザーもその特徴を把握しておく必要があります。
中でも電波状況を把握しておくことは、もはや登山者の義務とも言えるかもしれません。
「山は圏外だから」と決めつけずに調べることが、安全な登山に繋がるはずです。今後は登山の前に、山の電波状況について調べてみてはいかがでしょうか?
ドコモ電波マップは、ドコモ回線をご契約中の携帯電話・スマートフォンのご利用可否ルートを示したものです。
▼使用方法
1)以下に掲載している対象の地図をダウンロード
2)該当の地図を開き活動中画面の設定をタップ
3)「ドコモ電波マップ」をオン
4)地図上に電波利用可否エリアが表示されます
▼地図上の表記・凡例
▼対象地図
・谷川岳・七ツ小屋山・大源太山
・仙ノ倉山・平標山・大源太山
・稲包山・赤沢山
・白砂山・堂岩山・八間山
・高沢山・エビ山・大高山
・横手山・志賀山・赤石山
・草津白根山・湯釜
・破風岳・土鍋山
・四阿山・根子岳
▼注意事項
※ドコモが独自に調査したルートについてのみ表示しています。
※通話状況は2016年7月から2018年11月までの初夏から秋シーズンを中心とした調査の結果を示しています。
※利用可能・一部利用可能ルートを外れると全く利用できない場合があります。
なお、利用可能(ルート・スポット・山小屋・避難小屋)においても電波状況等によりご利用になれない場合があります。
※FOMAプラスエリア非対応の機種をご利用されている場合、「利用可能」「一部利用可能」な場所においても、ご利用できない場合があります。
※FOMAエリアについては5G契約、またはahamo契約の場合は利用不可となるため、契約内容によって利用できない場合があります。