YAMAPのテクノロジーとアイデアを、安全登山と環境保全につなげる |YAMAPの中の人 #04

登山地図GPSアプリ「YAMAP」はダウンロード数がすでに240万を超え、今や安全登山を支える「登山者のインフラ」になりつつあります。単なる地図機能としての登山アプリを超え、安全登山のために何ができるのか日々試行錯誤する人たちをちょっとだけ覗いてみませんか? 安全登山には人一倍思い入れがあるという、アウトドアライターの米村奈穂さんがYAMAPで働く「中の人」に迫る本シリーズ。第4回は、自治体と連携して、自然を活かした観光プロモーションや登山届けの取り組みに駆け回る自治体担当が登場します。

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2021.05.12

米村 奈穂

フリーライター

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人と自然をつなげるというYAMAPのミッションに、個人ユーザー向けの登山地図アプリサービスとは別の形で取り組んでいる人がいる。大土洋史(おおつち ひろし)さんがこれまでに回った自治体の数は約130。自然を活かした観光プロモーションの提案や、県警と協定を結び、YAMAPの登山届けを正式なものとして受理してもらう取り組みを進めている。その中でも私たち登山者に大きく関わる、登山届けの話を詳しく伺った。

登山届けのその後、考えたことありますか?

プライベートでは、アメリカ西海岸のパンク好き。「パンクのライブは、無秩序に見えて秩序やマナーがちゃんとあるんですよ」と熱く語ってくれた。憧れの登山家に会ってもらえるまで、手紙を書き続けたことも

YAMAPで正式な登山届けを提出できる自治体があるのをご存知だろうか? 

YAMAPの登山届けは、アプリ内で作成した登山計画をYAMAPに提出すると、自動的にYAMAPが登山届けの協定を結んでいる自治体にも提出されるというもの。今のところ、協定を結んでいる自治体は長野県のみ。長野県では、指定された登山道をルートに選ぶ場合、登山計画書の提出が義務付けられている(登山計画書を届出しましょう/長野県)。よって北アルプスや南アルプスなど長野の山を歩く際は、YAMAPのアプリ内で一度に手続きが完結し非常に便利だ。大土さんは、登山届けの提出が必須となっている、全国の自治体全てとの締結を目指し動いている。

YAMAPでは、アプリ上で作成した「登山計画」を「登山届」として受理・保管。有事の際に、迅速で適切な救助活動に繋げるシステムを、自治体・警察向けに2020年より提供している

具体的に、どのようなやりとりが行われているのかというと、まず、YAMAPのアプリから送った登山届けを正式なものとして受け付けてもらうためには、県・市区町村と県警の両方と協定を結ぶ必要がある。

それぞれの登山届けの活用目的は別れていて、自治体の目的は主に、数を集計してその山の登山者状況を把握すること。県警の目的は、遭難事故が起きた際の個人情報を確認するため。観光プロモーションで自治体とのやり取りが多かった大土さんは、両者との調整役を担っている。

登山届の提出方法は様々。我々登山者が一番目にする提出先は、登山口に設置された登山届ボックスだろう。その他には、山域を管轄する警察署に、メールやFAX、郵送で提出する方法や、専用のサイトにメールで提出する方法などがある。大土さんは、自治体との取り組みを進める中で、紙ではなく電子申請の必要性を強く感じている。

「現在協定を結んでいる長野エリアは、北アルプス、南アルプス、八ヶ岳を抱え、膨大な数の登山者が訪れています。紙で提出された登山届けはどう処理されるかというと、万が一事故が起こった際、まず登山口まで回収に行き、その中から紙をめくり該当者を探すことになります。自治体としては、時間も労力もかかる紙の登山届けよりも、できるだけ電子化に寄せていきたいという思いがあるようです。自治体の抱える課題と、YAMAPの提供できる価値が合って協定を結ぼうという流れになりました」

2019年度のデータでは、全体のうち、電子申請の割合は20.2%。YAMAPユーザーの登山届けの提出率は、長野県で見ると全体のおよそ11%(数値は2020年7月〜2021年3月までの平均。直近の2021年3月は14.4%と増えてきている)。アプリのダウンロード数230万からすると、この数は少ないように思える。

「YAMAPで登山届けを提出できると思っている人はまだ少ないのが現状です。登山中の現在地の確認だけに使っている人も多いようです。活動日記を公開する人も全体の3割弱。そういう意味では、機能を使いこなせている人が少ないということが言えます。中には登山届けを提出する意義を理解していない人もいると思います」

大土さんには、YAMAPで登山届けの取り組みを進める必要性を強く感じたきっかけがあった。単独の雪山での遭難事故で、長野県警から連絡が入り位置情報を提供後、遺体を発見することができた一件だ。

遭難して発見されないということ

最近はオンラインでのmtgも増えたという。写真は観光プロモーションを一緒に手掛けるクライアント企業の方とのディスカッションの様子。また、「大土さんは切り込み隊長」と語るのは、同じく自治体や企業向けの事業を担当する同僚の米谷さん。「冷静かつロジカルに、お客様にとって未来につながる一手を提案しています。熱くて人間くさい部分があるのもまた魅力ですね」

「県警の話では、谷に滑落していたということなんですが、雪山での捜索の場合、場所が判明していない状況でやみくもに谷を下り捜索することはまずないそうなんです。YAMAPの位置情報がなければ下りることはなかったと。ご遺体での発見とはなったけれど、残されたご家族を救うことはできたと言われました。

どういうことかというと、発見されればご遺体と対面できるだけでなく、死亡認定されたことで、退職金や保険金を受け取ることができます。発見されないままだと7年間は「失踪者」扱いになり、保険金を受け取るためには、保険料を7年間支払い続けなければいけません。

万が一亡くなってしまっていたとしても、ご遺体が見つかるということは、心の面でも経済的な面でもご家族を救うことができるんだということが分かりました。同時に、やはりこの取り組みは広げていくべきだと思いました」

しかし、登山届の提出が徹底できているとはいえないのが現状。高山や長期縦走、あるいは登山口に登山届けボックスがあるところに限られているのが実際のところで、日帰りや低山では、面倒に感じている登山者がほとんどではないだろうか?

「そういう方がほとんどだと思います。いい悪いではなく、現状では登山届けを出す意義が、高い山に登る=危険だから、という判断基準になっていると思うんですね。しかし、遭難の数としては低山での道迷いの方が圧倒的に多いです。

登山届けを出すことがもっと日常的に、例えばYAMAPのアプリを起動してスタートボタンを押すのと同じ感覚でやってもらえるようになればいいなと思っています。その意識をどう変えていくか、その意義をどう伝えるかが私たちの仕事です。同時に、手間に感じられている部分をどれだけ簡素化できるか、我々が追求していかなければいけないとも思っています」

大土さんは、登山届けの協定を結んだら終わりではなく、遭難事故を防止するために何ができるか、長野県警と情報のやり取りを続けている。今年度やってみたい取り組みは、登山者向けの遭難防止ツアー。例えば、県警の人と一緒に、遭難事故の話を聞きながら歩くツアーというものができないかと話しているそうだ。

「怖いことを怖いと言うだけでは、人には伝わりにくいと思うんです。そこをYAMAPの強みである、伝え方を工夫したり、取り組みを工夫したりすることで浸透させられるんじゃないかと。私たちが間に入って、現場の方々の知識や経験を伝えていけたらと思っています」

YAMAPの強みを生かした活動

「YAMAPを多くのユーザーさんが使ってくれるほど未来の山を守ることができる」、大土さんはそんな将来像を描いている

大土さんには安全登山の推進と合わせて、登山道整備や環境保全の取り組みでもやってみたいことがある。

登山道整備の取り組みとしては、YAMAPの持っている山中のGPSログデータを、登山道の道標の設置に活用すること。現状の道標は、設置作業を行う人が迷いやすいと感じる場所に主観で設置される場合がほとんど。地権者との関係もあり、設置場所が偏ってしまう問題もあるようだ。GPSデータを元に、人が迷っている動きが見られる場所に設置できれば事故防止にもつながる。

環境保全の取り組みでは、「入山料」という形で登った山の保全活動に協力する機会をユーザーに提供すること。

「地域の自然を生かした観光プロモーションを担当していますが、活用と保全は合わせて取り組むべきだと思うんです。自然を活用する促進はするけれど、保全の促進はほとんどしていないことにようやく気づいたんです。子どもはおもちゃで遊んだら自分で片付けますよね。一方、我々登山者は踏み荒らした山が、自然に元に戻ると思ってしまっているところがあります。

元に戻っているとしたら、そこには必ず人の手が入っているからだということを伝えられたらいいなと考えています。直接的に登山道の整備をすることももちろんですが、入山料という形で、登った山の保全活動に協力する方法もあると思います」

登山道整備というと、行動を起こすのにハードルを感じる人もいるかもしれないが、入山料で環境保全と言われればもっと簡単に協力できる。

ユーザー数の力で環境保全?

YAMAPは定期的に社内登山を行い、その気づきをサービスや開発に活かしているという。登山者が気軽に山の保全のために協力できる仕組みづくりを、YAMAPの強みである「テクノロジー×アイデア」で解決していきたいと大土さんは語る

「我々は多くのユーザーを抱えています。例えば下山後にアプリの終了ボタンを押すと、『こういう保全活動をしているので取り組みに協賛してもらえませんか?』というメッセージが出るようにすると、どちらも気持ちがいいと思うんです。

ある地域との取り組みの一環で、登山者に対して入山料についてのアンケートを実施したことがあります。すると、『環境保全のためなら、500円くらい払ってもいい、むしろ払いたい』という人が8割もいました。習慣化する仕組みを作って、環境保全に気軽に協力できる機会をユーザーに提供できればと思っています」

登山届けや環境問題に全ての登山者の意識を向けることは難しいと思われがちだが、伝え方や取り組み方を変えれば、意外とすんなり振り向いてもらえるかもしれない。山麓が現場の大土さんと話していると、課題も見えたけれど、同時に展望も見えてきた。登山者の数は、もしかしたら大きな力になるのかもしれない。YAMAPユーザーの数を持ってしたら、こんなことも、あんなこともできるんじゃないか。想像するだけで、山の未来が少し明るくなった。

(撮影:YAMAP 齋藤 光馬)

米村 奈穂

フリーライター

米村 奈穂

フリーライター

幼い頃より山岳部の顧問をしていた父親に連れられ山に入る。アウドドアーメーカー勤務や、九州・山口の山雑誌「季刊のぼろ」編集部を経て現職に。