クマ被害が目立った2025年ですが、国内各地で大規模な山火事が相次ぎ、山の異変が目立つ年でもありました。
2026年に入ってからも、ハイカーに親しまれている山梨県上野原・大月の扇山(1138m)で出火。同県で戦後最大規模となる山林火災が続くなど、大気の乾燥もあって警戒感が高まっています。
山林火災のほとんどの原因が人為的なものであり、山を歩く我々としても、他人事ではいられない事例は多々あります。
そこで、山林火災の専門家である日本大学生物資源科学部の串田圭司教授(地球環境学)に取材。日本の山林火災と地球規模での温暖化の関係や、登山者が出発前に確認すべき2026年1月からの新制度「林野火災警報」などについてお聞きしました。
2026.02.03
石田礼
YAMAP MAGAZINE編集部

岡山で発生した林野火災の跡(PIXTA)
── 山林火災のニュースが国内各地で報じられ、一般登山者の感覚では、増えているように思えますが、実際のところはどうなのでしょうか。
日本大学生物資源科学部・串田圭司教授(以下、串田教授):山林火災の件数自体は1970年代の8,000件台をピークに、長期的には減少傾向です。これは、野山での焚き火や野焼き、過疎化などで農村地域での火の利用が以前に比べて減ったことが要因だと考えられます。
とはいえ、林野庁がまとめた2020年〜2024年までの6年の平均では、1年間で約1200件、全国で毎日4件が発生している計算です。焼損面積では、約800ヘクタール(東京ドーム約171個分)にもなります。

参考 林野庁
消防庁が出火原因別にまとめた統計では、焚き火が最多の380件(32.5%)、次に火入れが221件(18.9%)、放火が90件(7.7%)、たばこ48件(4.1%)と続きます。
約400件、30%強の「その他」に分類される火災のほとんども、焚き火、火入れ、放火、タバコ、火遊びなど、原因が特定されていない人為的なものである可能性が高いとされています。
つまり、発火の原因については、ほとんどの地域で「人為」(人による発火)が大半を占めています。この傾向は日本だけでなく、海外でも変わりません。
雷が原因で大規模火災が発生することのある北米とは異なり、日本は湿潤な気候で、雨を伴う積乱雲による落雷が火災に至ることはごくわずかで、状況が国外とは異なります。

長野・霧ヶ峰高原で発生した火災の跡
── 人が入るところに原因があるということで、我々登山者も気をつける必要がありますね。林野火災の件数が減っている一方、大規模化しているのはなぜでしょうか。
串田教授:1件あたりの山林火災の大規模化は世界的な課題であり、日本も例外ではありません。
記憶に新しいところでは、2025年2月に発生した岩手県大船渡市の山林火災があります。このときは3400ha(東京ドーム約727個分)を焼損し、平成以降では国内最大規模の火災になりました。
2025年は大船渡の火災のほか、岡山県で2025年3月に発生した山火事では、同県最大規模の486haが燃えました(*)。
*報道によると、同市消防局は焚き火が燃え移ったとしている。
同年3月に発生した愛媛県の今治・西条両市にまたがる山林火災でも、焼損面積は442haの被害があり、2025年は大規模な火災が続発した年となりました。
ただ2026年に入っても、山梨県の上野原市と大月市にまたがる扇山の山林火災が発生。同県内で最大規模の被害面積となったとされました(*)。
* 火災発生から17日目で延焼拡大のおそれのない鎮圧の状態になった。
| 発生時期 | 発生場所 | 特記事項 |
| 2025年12月 | 神奈川県・日向山 | 1.3haが焼損、自衛隊が消火支援 |
| 2025年12月 | 群馬県・妙義山 | 山林30haが燃える |
| 2025年12月 | 埼玉県・宝登山 | 山頂付近の山林で出火 |
| 2026年1月 | 神奈川県・塔ノ岳 | 大倉尾根にある山小屋と周辺が焼損 |
| 2026年1月 | 山梨県・扇山 | 山梨県内で戦後最大規模の火災 |
| 2026年1月 | 東京都・青梅 永山公園 | ハイキングコース 2haの下草が燃える |

── 山林火災の大規模化が進んでいることと、地球の気候変動との関連はあるのでしょうか。
串田教授:こうした山林火災の大規模化の大きな要因が、「極端な乾燥」と「強風」の組み合わせです。夏には激しい雨に見舞われることが増えましたが、冬には、長期間にわたって雨が降らないことがあります。
つまり、地球の温暖化が進むと気温上昇によって、空気が含むことができる水蒸気量が増加します。水蒸気が持っているバケツの容量が増えるイメージをしてください。この乾燥した空気が野山の水分をバケツで奪っていくため、極端な乾燥が起こりやすくなります。
── 極度の乾燥に加えて、風にも気をつける必要があるとのことです。
串田教授:強風は火災を急速に拡大させる主要因です。燃焼によって上昇気流が発生し、その火災自体が周囲から空気を吸い込み、竜巻に似た回転を伴う予測不能な風「旋風」を発生させる危険性もあります。
また、2025年の大船渡の大規模火災では、最大瞬間風速18mの強風に加えて、三陸リアス式海岸の急峻な勾配と入り組んだ地形による局地的な風の影響で火が多方向に広がったことなどがあり、消火活動を困難なものにしました。

山林火災(PIXTA)
── 冬から春までの乾燥した時期、積雪のない地域の山に行く登山者は、どのような行動をとるべきでしょうか?
串田教授:まず知っていただきたいのは、山林火災の発生件数が最も多い傾向にあるのは4月ということです。
これは、春の強風の影響に加え、冬を通じて雨が降らず乾燥が続いた結果、乾燥する季節の終わり頃にリスクが高くなるためです。4月は野外活動が増えることも発火件数の増加に影響している可能性もあります。

参考 林野庁
串田教授:林野火災の予防を目的にした「林野火災警報」が出ている場合、焚き火や花火など屋外での火の使用に30万円以下の罰金又は拘留の罰則が科される可能性があります。
まだ聞き馴染みのない方がいるかもしれませんが、2025年の大船渡での大規模林野火災を受けて、ほとんどの自治体で2026年1月から運用が始まった新しい制度です。
この警報は、毎年1月1日から5月末までの期間中、気象条件やその他の指標を満たした場合に、該当する市町村ごとに発令されます。
具体的には、気象庁が強風注意報を発表し、以下の指標のいずれかをみたす場合に発令されます。
・前日までの3日間の合計降水量が1mm以下、かつ、前30日間の合計降水量が30mm以下
・前日までの3日間の合計降水量が1mm以下、かつ、気象庁が乾燥注意報を発表している
※ 発令条件に加え、当日に見込まれる降水状況などを考慮し、発令を判断する。

──2005年3月には、神奈川県秦野市の丹沢山系二ノ塔周辺の山林で、登山者のアルコールバーナーの火が雑草に燃え移り、火災の原因になった事例も報道されており、登山者もひとごとではありません。
串田教授:屋外での火の使用を制限する林野火災警報では、火の粉が舞わないガス器具については、規制対象外とされているとはいえ、バーナーの使用はなるべく控えるべきです(*1)。
アルコールバーナーでなく、一般的なガスバーナーでも、なにかの拍子に倒れてしまったり、ということはありますよね。
林野火災警報が出ている状況は、地面に非常に燃えやすい「着火剤」が豊富にある状態と言えます。落葉などの水分量が10%以下といった状況では、火の粉が触れただけでも発火する可能性が高まります。
さきほどの警報のところで、降水量に触れましたが、乾燥する季節に10mmの雨が降ったとしても、南斜面では一般的に、1日1mm近く蒸発するので、その雨は10日で蒸発してしまいます。南斜面でなくても、20日で水分が抜けるところが多いです。
降雪地でない地域では、冬に10日、20日雨が降らないことはよくあること。登山者の皆さんも、地面が乾いている状態はすぐに想像できるかと思います。
*1 YAMAP MAGAZINE編集部が東京消防庁に聞いたところ、制限される行為の例としては、たき火やキャンプファイヤー、どんど焼き、炎を使った土壌消毒や殺虫、花火や火遊び、落ち葉を燃やす、可燃物の 近くでの喫煙 、かまど(薪)など火の粉が飛散するおそれのある行為がある。
林野火災警報発令中でも規制対象外となる行為としては、バーベキュー台、七輪、ガス器具など、火の粉が飛散しない形態の火を使用することなどに限るとしている。それぞれの使用方法に従って使用する場合は、制限の対象とはならない。「一般的に登山で使用されるシングルガスバーナーもガス器具に含まれるが、発令中に積極的な使用は推奨できない」(東京消防庁)とのこと。
── 林野火災警報や注意報が出ていない場合には、岩場であれば火器を使用しても問題ないでしょうか。
串田教授:燃えるものが岩場の周辺に無ければという条件付きですが、岩場は風が強い場所であることも多く、突風などにより火の粉が飛ぶ危険性があります。安全とは断言できません。
大船渡の火災でも、はっきりとした原因は特定されていませんが、薪ストーブの火の粉から延焼した可能性があるとされており、その火の粉ぐらいでも、この雨が降らない季節にはリスクがあることを認識すべきです。
登山をしていて、山の頂上で食べるあたたかいカップラーメンや料理のおいしさが山の醍醐味であることはわかるのですが、山林火災の専門家としては、乾燥した季節は、沸かしたお湯を保温ポットに持っていくなど工夫して、楽しむのがよいかと思います。

山林火災の消火活動(PIXTA)
── 登山をしていて、山林火災に遭遇した場合、どのように避難すればよいでしょうか。
串田教授:山林火災の燃え広がりは、人が歩いて逃げられるかギリギリの速度です。火災を発見した際は、迅速に退避する必要があります。
風向きや斜面に関わらず四方に広がる可能性があるため、安易な判断は危険です。強風下では火の粉(飛び火)が発生し、火から風下の1kmの範囲では、どこに火が飛ぶのか予測が非常に難しいという恐ろしさがあります。
── 稜線上を避け、谷の方に避難すれば安全なのでしょうか。
串田教授:火は上昇気流により上に広がりやすい特徴はありますが、必ずしもそうとは限りません。林野火災は、斜面の上だけでなく、風向きのほうに広がり、風上だから安心だとは、言えません。
谷は尾根より風が弱い印象がありますが、谷に火が入ると、標高の低い方から強風が入って巨大な煙突のように激しく燃えることがあります。
串田教授への取材では、国内で大規模化する山林火災が地球温暖化による極端な乾燥や強風に起因する地球規模の現象の一つであることが再認識されました。
過去には、登山者要因の火災事例も報告されていることから、我々も他人事ではありません。登山者自身が、YAMAPの地図や活動日記で地形や登山道の状況を把握することに加えて、冬〜春にかけては、新しく運用が始まった林野火災警報・注意報を確認してから入山し、安全に対する意識の啓発活動を進めていきましょう。