日本三大カルストの一つとして知られる、福岡県・平尾台。黄金色に輝くすすきや"羊群原(ようぐんばる)"を楽しみながら太平山を目指す、絶景トレッキングコースをご紹介します。
(初出:「やまポトレ」2019年01月07日)
2021.05.11
YAMAP MAGAZINE 編集部
「異世界のようだった」
平尾台を訪れた人は、口を揃えてこう表現する。
黄金に輝くすすきと、カルスト台地独特の美しさが織りなす景勝地を、ゆっくりと歩いた。
福岡県北九州市に位置する平尾台は、日本三大カルストのひとつに数えられる。長い歴史が生み出したこの山の、晩秋の色づきを求めて、ゆったりと登っていく。
吹上駐車場をスタートして少し進むと、登山道の両側には一面のすすきが迎えてくれた。
春に野焼きがなされ、夏には新緑が広がるという平尾台だが、秋は黄金色に輝くすすきが見頃らしい。
正面には、白い岩がぽつぽつと。
羊群原(ようぐんばる)とはよく言ったもので、地表に現れる岩が、確かに羊の背中のように見える。
高校時代は山岳部として色々な山を登ったが、石灰岩がこんなに露出した道は初めての経験だった。
地表に露出した石灰岩のことをピナクルというらしい。表面は結晶化していて神秘的に見えた。
ファインダーの向こうでは、たくさんの羊が群れて遊んでいるよう。
「ニュージランドは、人よりも羊が多い」と、かつての旅仲間が言っていたことをなんとなく思い出す。
今回の目的地は大平山。ここまでの道のりは、ハイカーにとても優しい。ゆったりと登っても、あっという間に山頂だ。
この日は平日ということもあり、山頂は貸し切り。晩秋の絶景を、じっくりと味わうことができた。
山でいただくものには、旬のものをなるべく取り入れたい。既成品も便利だけれど、その季節を感じながらの食事も良い。
今回は、秋冬に美味しいみかんを持参。裸で持って来て、皮を剥いて、口に放る。この手軽さがいい。
山頂の尾根沿いにもピナクルは広がっていた。ちびっこハイカーたちには、かくれんぼ岩と親しまれているとか。
岩の隙間からの生命の芽吹きに、自然の優しさと強さを感じる。
途中、道が大きく凹んでいた。
ドリーネと呼ばれる地形だ。長い年月をかけて石灰岩が水に溶けることで地表が陥没し、このような姿になる。
想像もつかないような太古の昔からこの場所はあり、その道をいま、歩かせてもらっているのだ。
静かな風にすすきが揺れる。
“秋の野のおしなべたるをかしさはすすきこそあれ”
そういえば、清少納言も揺れるすすきの美しさを詠っていた。
平安時代から続く日本の情緒をしみじみと感じながら、ゆっくりと進む。もうすぐ、今回の山行は終わりを迎える。
名もない絶景が、山にはたくさんある。
1枚シャッターを切ってみると、羊がちょこっと顔を出していた。
「また来るよ」と心の中で声をかけ、平尾台に別れを告げた。
標高:587m
平尾台は、山口県秋吉台、四国カルストと並ぶ日本三大カルストの一つで、国の天然記念物にも指定されている。南北約6km、東西約2kmのなだらかな楕円形で、面積1500ha、標高300〜700mほど。広大な草原に石灰岩が散らばるピナクル「羊群原(ようぐんばる)」が独特の景観をつくっている。