みちのく潮風トレイル 相馬市ルート(福島県)|城下町と海街を訪ねるのんびりハイク

青森県から福島県にかけての太平洋側に延びる総延長1,025kmの「みちのく潮風トレイル」。相馬(そうま)市はその南端に位置し、野馬追に代表される歴史文化と懐かしい田園風景、美しい海の絶景を満喫できるルートが設定されています。この記事では、日頃は山ばかり登っている方にこそぜひおすすめしたい「街と海をつなぐ、歩く旅」の楽しみ方をお届けします。

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2021.09.06

YAMAP MAGAZINE 編集部

INDEX

トレイルと地域の特徴

「みちのく潮風トレイル」は、青森県八戸市から福島県相馬市までの太平洋沿岸をつなぐ、総延長1,025kmのロングトレイル。2013年(平成25年)、環境省が主導して整備を始め、2019年に全トレイルが開通しました。トレイルとは“森林や原野、里山などにある「歩くための道」のこと”(環境省「みちのく潮風トレイル」Webサイトの定義)。沿岸の自然だけでなく、地域の伝統文化や地元の人たちとの触れ合いなどが体験できると同時に、東日本大震災の被災地の“いま”を知る道ともなっています。

みちのく潮風トレイルは、三陸復興国立公園エリアのリアス式海岸など海沿いの道がメインですが、最南端に位置する相馬市ルートは、海沿いではない設定がその特徴。田園や街中、川沿いを歩くルートは、南東北の自然とともに生きてきた人々の暮らし、1,000年以上続く祭事「相馬野馬追」の舞台である相馬市の歴史・文化などを堪能する、ゆっくりじっくり歩きたい情緒あふれるトレイルとなっているのです。トレイル起終点である松川浦環境公園のすぐ先、見事に復興を遂げた海沿いの街・松川浦地区は鮮魚の食事や買い物が楽しめ、宿も多いエリア。たっぷり歩いた後のご褒美とも言える海の幸いっぱいのプラスアルファも併せて紹介しましょう。

終点の南東、松川浦に浮かぶ文字島(写真:相馬市観光協会)

里の暮らしと文化を散策したら、ちょっと足を延ばして海まで

相馬野馬追の総大将の出陣式が行われる相馬中村神社の参道

今回ご紹介するのは、みちのく潮風トレイル 相馬市ルートのうち、新地町のJR常磐線駒ケ嶺(こまがみね)駅から汽水湖である松川浦の環境公園までをつなげる約14kmの区間。前半は田畑に囲まれた道を行き、中盤は相馬市街、後半はゴールに向けて川沿いの道を中心に歩きます。

車道の横断以外に歩行に注意が必要な箇所はありませんが、右へ左へと生活道路を歩くため、要所に道標が立つものの地図は必携。曲がり角では必ず地図を確認しましょう。また、このコースは相馬中村神社付近を除いて日陰がなく、市街地以外は自販機やコンビニもほぼないため、夏を中心に日除け対策や飲料水の確保が大切となります。

トレイルには要所にこうした道標が立つが、地図は必携

トレイルDATA

グレード:初級
日程:日帰り
歩行時間:5~6時間
歩行距離:13.8km
累積標高差:登り127m・下り127m
登山適期:4月上旬~12月上旬
アクセス/行き=JR常磐線駅駒ケ嶺駅。帰り=JR常磐線駅相馬駅。※東京方面から出かける場合、JR東北新幹線で仙台駅まで行き、そこから常磐線で南下したほうが早く着く。また、相馬駅には特急「ひたち」が1日3便停車する。東京方面への最終は18時50分発。マイカーは、常磐道相馬ICから国道115号を経由して相馬市街まで約3㎞。市街の有料駐車場に停めて、JR常磐線でひと駅隣の駒ケ嶺駅へ。

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駒ケ嶺駅~白幡のいちょう~みさご沢池

スタートはJR常磐線の駒ケ嶺駅。ここにはトイレと自販機があるので、飲み物を購入しておくことをおすすめします。駅から西へと住宅地を右に見ながら車道を直進し、しばらく歩くと左の小山に「白幡(しらはた)のいちょう」が見えてきます。赤い鳥居に守られるように立つイチョウは直径約3.8m、樹齢約240年の巨大な古木。福島県の天然記念物に指定されています。木陰でちょっとひと休み。

白幡のいちょう。新緑と黄葉の美しさは格別

ここからは国道113号を少しだけ歩いて側道から国道をくぐります。田園風景をしばらく南下し、道標にしたがって西に向かうと、冬は白鳥をはじめとした渡り鳥で賑わう「みさご沢池」に到着します。木々に包まれ、池畔に道のないこの池は、渡り鳥たちにとってさぞ居心地がいい場所なのでしょう。

白鳥の越冬が見られるみさご沢池

みさご沢池~相馬中村神社・中村城跡~千客万来館

「みさご沢池」からは再び南下し、住宅の横の砂利道をたどって小泉川の支流へと下ります。川に出たら左へと土手を進みますが、ここは右後方に阿武隈高地が大きく望める開放的な道。この土手を1kmほど歩き、ショッピングモールの駐車場が現れたらすぐ先で右へと橋を渡ります。このあたりから市街を抜けるまではコンビニや飲食店が点在するので、休憩や食事に困ることはありません。

トレイルの途中から振り返った阿武隈高地

広い車道を南下し、”中村城跡 蓮池”の道標から左折。正面に見える蓮池の手前を右に入り、「相馬中村神社・中村城(馬陵城)跡」の裏山を歩いて境内に入ります。未舗装の道ですが、きちんと整備されているのでご安心を。本殿への階段手すりに沿って馬の顔がずらりと並び、国の重要無形民俗文化財「相馬野馬追」の舞台となる相馬中村神社は、その出陣式にも使われる名社。全長200mにおよぶ広い参道は壮観、桜並木が素晴らしい春にもおすすめの場所です。隣接する1600年代創建の中村城跡は相馬氏の居城だったもので、いまも石垣や堀が往時をしのばせます。

手すりに馬の顔が並ぶ相馬中村神社

参道を歩いて境内を抜け、左へと掘沿いに歩けば相馬市観光協会の入る「千客万来館」。相馬野馬追の顔出しパネルが置かれたホールには観光パンフレットが並び、観光アドバイスもしてくれるので、ぜひ情報を収集したいところです。

千客万来館~松川浦環境公園

千客万来館には、震災により多くを失った観光資源の復興をめざす相馬観光復興御案内処があり、観光や復興視察の案内などを行っている

千客万来館からは市街を抜けるまでおいしいお店めぐりが続きます。まずは少しだけ北に歩いて、手造り醤油と味噌が観光客にも人気の「相馬ヤマブン山形屋」。続いて南に歩けば「鳥久(とりきゅう)精肉店」。ここは人気の揚げ物だけでなく、20種以上のお弁当が地元住民御用達となるほどの支持を受けています。鳥久さんの少し東にある「船橋屋製菓」は、和菓子から洋菓子、おせんべいなど、お菓子なら何でもそろう老舗。各店の詳細は後述の「立ち寄りスポットガイド」をどうぞ。

味わいある外観の相馬ヤマブン山形屋

船橋屋製菓からはいったん南下して、宇多川の手前を左折し、常磐線と国道6号をくぐって宇多川の土手を東へと3kmほど歩きます。日陰はありませんが、眺めがよく涼風の渡るとても気持ちいい道。この土手はやがて百間橋に突き当たるのでここを左折し、こんどは北へと松川浦環境公園を目指します。途中にある和田観光苺組合では1~5月、イチゴ狩りが楽しめます。ここまで来れば、ロングトレイルもゴールまであと1.5kmほど。広い車道に突き当たったら右に、さらにすぐ右に入れば、みちのく潮風トレイル全線の起点・終点である「松川浦環境公園」(詳細は後述)は間もなくです。

みちのく潮風トレイルの起点・終点となる松川浦環境公園

プラスワン:海街ぶらぶら歩き

みちのく潮風トレイル 相馬市ルートは松川浦環境公園でゴールとなりますが、ここまで来たらせっかくなので、海沿いの街へと足を延ばすのもおすすめです。汽水湖である松川浦北岸には食事処や宿が立ち並び、「浜の駅 松川浦」では鮮魚や野菜などの買い物も楽しむことができます。最後の訪問地「相馬市伝承鎮魂祈念館」までは約3kmの道のりです。

松川浦の堤防と食事処や宿が立ち並ぶ海辺の街

まずは松川浦環境公園に隣接する細田ポンプ場との間の道を松川浦方向に向かい、堤防に出たら左へと堤防上を歩きます。海風を浴びながら街に入り、突き当たった県道を東に向かいましょう。このあたりは船宿もあちこちにあって、活気が感じられます。しばらく歩いて丸三旅館の立つ十字路を左折し、坂を登りきったところを右折して海に向かって下れば、震災からの復興のシンボル「浜の駅 松川浦」が見えてきます。

浜の駅からは原釜尾浜海水浴場の砂浜を歩いて「相馬市伝承鎮魂祈念館」へ。なお、祈念館の山側の原釜や浜の駅にはバス停もありますが、本数がたいへん少ないため、帰路は祈念館からタクシーを呼ぶことをおすすめします。

震災の記憶がない小さな子どもたちが遊ぶ原釜尾浜海水浴場

相馬市のとっておきの立ち寄りスポット

里のトレイルは、あちこちのスポットに立ち寄りしながら歩けるのが魅力。地元で人気の惣菜で小腹を満たしたり、疲れた体に甘味でエネルギーを補給したりしながら歩くのは楽しいものです。マイカー利用の人なら、相馬復興市民市場「浜の駅 松川浦」や海沿いの海産物店での買い物にはクーラーボックスがぜひほしいところ。相馬市の旅の最終地である「相馬市伝承鎮魂祈念館」では、鎮魂と復興の物語をぜひ体感してください。

相馬ヤマブン山形屋

創業から150年、「店主自ら造るべし」の家訓のもと、高品質の本場相馬味噌・醤油を造り続けてきた老舗。千客万来館からほど近い場所にあり、昔ながらの造りの店舗を眺めるだけでも価値があります。全国品評会で何度も賞を取っている醤油をはじめ、本場相馬味噌や無添加甘酒、塩麹、紅麹、鮭の卵を使った紅葉漬(こうようづけ)など、いずれも通信販売で購入できるので、荷物にならずにすむのがうれしいです。詳細はこちら

高品質と評判の相馬ヤマブン山形屋の醤油と味噌

鳥久精肉店

こちらも千客万来館の近く。最上級の相馬牛を扱う精肉店として知られていますが、相馬牛ジューシーメンチ、コロッケなどの揚げ物、20種類におよぶお弁当も地元の人たちに大人気。お弁当はワンコインでおつりが来る相馬牛カレー弁当やのり弁当、ちょっとだけ高い相馬牛カルビ焼き弁当(760円)など、選ぶのに困ること請け合いです。気候がいい時期なら、お弁当に揚げ物をひとつふたつ買って公園などで食べるのもいいですね。詳細はこちら

(左)鳥久精肉店のちょっとシュールな入口。(右)人気のメンチとコロッケ

船橋屋製菓

鳥久精肉店から歩いて数分。和菓子から洋菓子、焼き菓子、おせんべいまで、ないものはないほどの品ぞろえで、ずらりとお菓子が並んだ店内では目移りしてしまいそうです。数々のお菓子のなかの代表格は、もちもちした皮が特徴の“まどか饅頭”。黒糖の入った皮+こしあん、味噌の入った皮+白あんというふたつの饅頭は、どちらも1888(明治21)年創業の老舗の看板商品となっています。また、店舗に隣接して、古民家を活用した甘味処「ゆったり庵」があり、そば、うどんなどの軽食もとることができます。詳細はこちら

(左)看板商品の“まどか饅頭”をはじめ、船橋屋製菓の和菓子いろいろ。(右)「ゆったり庵」は女性ファンが多い

松川浦環境公園

潟湖である松川浦にある松川浦環境公園は環境教育の場として2010(平成24)年に造られましたが、翌年の東日本大震災で被災。その翌年に復旧され、現在はみちのく潮風トレイルの起点・終点としての役割も果たしています。園内にある5つのチェーンソーアート作品と4本のトーテムポールは、津波で枯れたヒマラヤスギを活用したもので、園内奥の「ふるさと相馬歌碑」は、太平洋に面する鵜ノ尾岬で津波にさらわれた歌碑をこの公園に再建したものです。歌碑の前に立つと、歌手さとう宗幸さんの歌声が流れてきます。詳細はこちら

松川浦環境公園のトーテムポールは津波で枯れたヒマラヤスギから作ったもの。奥に見えるのは「ふるさと相馬歌碑」

相馬復興市民市場「浜の駅 松川浦」

昨年(2020年)オープンしたばかり。その名の通り、相馬市の復興・水産業の復活のシンボルであり、風評被害払拭を目指した観光拠点施設として建設されました。広い店内は水産物、農産物、地域商品の3つのコーナーがあり、美味しい海鮮メニューが揃った「浜の台所 くぁせっと」は大人気です。浜の駅近くには、相馬原釜地方卸売市場や原釜尾浜海水浴場などもあり、休日には多くの人で賑わいます。詳細はこちら

(左)浜の駅 松川浦の外観と看板。(右)店舗内は3コーナーに分かれている

相馬市伝承鎮魂祈念館

東日本大震災から10年。いまでも鎮魂の気持ちは忘れずにいたいものです。伝承鎮魂祈念館は、津波で大きな被害を受けた尾浜・原釜・磯部地区の震災前の風景を残し伝える施設。大震災当日の映像を前に語り部から解説を受けることで、震災での教訓や経験を風化させないよう伝承する役割も担っています。残されたご遺族の心の拠りどころでもありますので、建物の前の小高い丘にある慰霊碑の前で、そっと手を合わせてください。詳細はこちら

(左)大震災の映像記録室。(右)犠牲者一人一人がお地蔵様となって祀られている

地元の人々から強さややさしさを受け取る「みちのく潮風トレイル」

2011年3月11日に発生した東日本大震災は相馬市にも、約490名の犠牲者、約5,200棟の住宅損壊という大きな被害をもたらしました。あれから10年を経てもなお、みちのく潮風トレイルのトレースは震災の記憶なしには難しいと思います。地元の方との会話で震災の真実に触れ、感情が入り乱れてしまう人も少なからずいるかもしれません。

それでも、ここ相馬ルートを歩いているとなぜか元気な風に吹かれているような気持ちになるのです。この町に住むのも悪くなさそうと思ってしまうのが不思議でした。もしかしたら、町の人々とのほんの短い会話に、被災した地域を復活させた強さとやさしさを感じたのかもしれません。みちのく潮風トレイルを歩くことは、復興の歩みと自分の歩みをほんの一瞬だけ重ねること、そんな気がします。穏やかな一日、この素敵なコースをぜひ歩いてみませんか?

松川浦が朝焼け色に染まる。太陽はいつも変わらない(写真:相馬市観光協会)

★トレイル地図の入手方法等は相馬市観光協会

文:森田秀巳


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YAMAP MAGAZINE 編集部

YAMAP MAGAZINE 編集部

登山アプリYAMAP運営のWebメディア「YAMAP MAGAZINE」編集部。365日、寝ても覚めても山のことばかり。日帰り登山にテント泊縦走、雪山、クライミング、トレラン…山や自然を楽しむアウトドア・アクティビティを日々堪能しつつ、その魅力をたくさんの人に知ってもらいたいと奮闘中。