アークテリクスのハードシェルは、GORE-TEX プロダクトと共に歩んできました。それは「信頼」で結ばれた強い絆。
「GORE-TEX プロダクト」「GORE-TEX INFINIUM™ (インフィニアム)プロダクト」、それぞれを使ったアークテリクスプロダクトについて詳しく紹介します。
2021.10.18
小川 郁代
編集・ライター
登山やハイキングなど、長い時間を自然の中で過ごすためのアウトドアウェアには、非日常の環境下で快適性や安全性を確保するという、重大な役割があります。その役割を果たすために不可欠なのが、さまざまな用途を目的に開発された、機能素材の存在。アウトドアウェアの個性の多くは、採用する機能素材によって決まるといっても過言ではありません。
機能素材として真っ先に頭に浮かぶのは、GORE-TEXプロダクトに代表される「防水透湿素材」でしょう。近年は多くのブランドがこぞって独自素材を開発していますが、アークテリクスは、初めて防水透湿素材を使用したハードシェルを発表した1998年から現在まで、一貫してGORE-TEXファブリクス以外の防水透湿素材を採用していません。それは、GORE-TEXファブリクスに対する、ゆるぎない「信頼」があるからです。
「GORE-TEX」は、アメリカの素材メーカー、ゴア社が開発した防水透湿素材。要となるのは、薄い膜状のもので、正しい名称は「GORE-TEX メンブレン」といいます。
普段私たちがシェルなどの素材として目にするのは、「GORE-TEX メンブレン」に生地を貼り合わせたもの。主流は表と裏から生地を貼った3層のもので、張り合わされた状態の生地を「GORE-TEX ファブリクス」と呼びます。メンブレンは同じでも、張り合わせる生地の厚さや種類を変えることで、生地にそれぞれに違った特徴を持たせることができ、その生地を使って作られるジャケットなどの製品が「GORE-TEX プロダクト」です。
「GORE-TEX メンブレン」(膜)
↓
「GORE-TEX ファブリクス」(生地)
↓
「GORE-TEX プロダクト」(製品)
GORE-TEXファブリクス以外の防水透湿素材も、メンブレンに生地を貼り合わせるという基本的な作り方は同じ。
ただ、「GORE-TEX」は、メンブレンに生地を貼り合わせるまでを、ゴア社が一貫して行うことに特徴があります。この貼り合わせの行程が技術的に難しく、工場の技術や管理体制の違いで品質にバラつきが生じることを避けるため、素材(メンブレン)そのものを提供するのではなく、ファブリクスに仕上げてから提供するのです。
さらに、ゴア社は素材メーカーでありながら、自社の作った生地を提供したブランドの「製品」に対して、防水性、防風性、透湿性の保証を行ないます。ブランドに対するサービスともとらえられますが、それと引き換えに製品に対しては、ゴア社による徹底した管理が行なわれます。
すべての製品サンプルがゴア社に送られ、ゴア社による厳格な防水テストを受けて、最終的にクリアしたものだけが、ゴア社の製品基準を満たした製品として、世に出ることを許されます。店頭に並ぶ商品に付けられている「GUARANTEED TO KEEP YOU DRY」と記された、「GORE-TEX プロダクト」の黒いタグは、ゴア社の防水透湿基準を満たした製品にだけ付けられる保証書なのです。
ゴア社の素材と加工の技術に対する自信こそが、アークテリクスにとっての絶大な「信頼」の根拠。だからアークテリクスはGORE-TEXを使い続けています。
「GORE-TEX プロダクト」と「GORE-TEX INFINIUM™ (インフィニアム)プロダクト」それぞれに違う個性を備えます。
ゴアテックス プロダクトとゴアテックス インフィニアム プロダクト、それぞれの得意とする部分をもっとも簡単に伝えるのなら
耐久防水の「ゴアテックス プロダクト」、快適性と自由度の「ゴアテックス インフィニアム プロダクト」
というのがわかりやすいでしょう。アウトドア環境を安全で快適に過ごすという共通の目的のもと、用途によって「必要な機能の優先順位」を変えたことで、それぞれのメリットが際立つ素材になりました。
「ゴアテックス プロダクト」は、暴風雨などの厳しい環境でも、非常に高い防水性と透湿性を発揮する、プロテクション性の高い製品。素材の力と、それを最大に活かす製品デザインが融合することで得られる機能性が、ゴア社の厳格なテストによって保証されています。
「ゴアテックス インフィニアム プロダクト」は、優れた防風性、透湿性を備え、ゴアテックス プロダクトでは採用できない、薄さや軽さ、柔らかさ、着心地の良さを作り出すことができます。
耐水性にも優れ、突然の雨ですぐに内部が濡れてしまうことや、水たまりや濡れたブッシュを避ける必要などまったくありません。
また、ゴアテックス インフィニアム プロダクトはデザインや仕様の自由度が高いので、メーカーが求めるよりアクティビティに特化したデザインを作る事ができます。シームシーリングを追加して耐水性、防風性を上げるのも自由。
着心地やデザイン性が重視される、タウン寄りの製品にも多く使われることから、ゴアテックス プロダクトに比べてカジュアルなイメージがあるかもしれませんが、どちらもゴア社が長年培ってきたノウハウが詰め込まれた、高品質な機能素材。それぞれのメリットがもっとも必要とされる場面で、最大限の実力を発揮してくれます。
ここからは、アークテリクスのウェアを紹介していきましょう。
過酷な環境を強いられる、アルパイン&ロッククライミングのためのアイテムを揃える「アルファ」シリーズに、850FPダウンのビレイジャケットが登場しました。
冬期のアルパインクライミングが行なわれる環境は、非常に過酷。ただでさえ厳しい寒さのなかでも、特につらいビレイヤーの体を守るのが、素材、デザイン、仕様、すべてにおいてのベストを追求した、ハイエンドなダウンインサレーションジャケットです。
クライミングでは、2人以上が互いにロープを繋ぎ、交互に安全確保(ビレイ)をしながら登ります。クライマーが登っている間、ビレイヤーはその場にとどまり続けるため、場合によっては1時間以上も、雪混じりの強風が吹きつける岩壁にぶら下がり、じっと寒さと戦いながら、パートナーの命を預かる大役を果たさなくてはなりません。ビレイジャケットは、その時間のために作られた究極の保温着です。
素材として選んだのは、「ゴアテックス インフィニアム ファブリクス」。防風性、耐水性、保温性などのプロテクション性能と、軽さ、コンパクト性などの快適性に焦点をあてた2層のファブリックです。
過酷な環境で特に頼りになるのが、吹き付ける強風で体温や体力が奪われるのを防ぐための防風性。インサレーションの保温力を底上げする、保温性能も備えます。
製品にはシームテーピングも施し、非常に高い耐水性も確保。寒冷なアルパイン環境では、雨になるほど気温は上がらないので、気にすべきなのは、体温で溶けた雪や氷や汗などによる濡れ。透湿性に優れるインフィニアムの実力が、最大限に発揮される環境なのです。
軽さを保ちながら耐久性を確保するために、表地は2種類の生地を組合せました。
ビレイ以外の時間は脱いでいることが多いビレイジャケットは、携行性の高さも重要なポイント。薄く収納性に優れる生地をベースに、ロープやバックパック、岩や氷との接触が頻繁におこる部分には、強度に優れる液晶ポリマー繊維のリップストップグリッドを配置して、耐摩耗性を向上させました。
インサレーションは、質量あたりで高い保温性を確保できる850フィルグースダウンと、化繊のインサレーションを併用。
全体にダウンをたっぷりと封入し、発汗が多く熱や湿気がこもりやすい脇下を中心に、化繊のインサレーションを広めに配置しました。携行性や保温力はダウンに比べてやや劣りますが、濡れに強く通気性にも優れる化繊綿は、ゴアテックス インフィニアム ファブリクスの高い透湿性も手伝って、ムレによる不快感を防ぎます。
ビレイ時以外は脱いでいる時間も長いので、コンパクトに収納できることも重要な要素。柔らかな生地と、コンプレッション性の高いダウンの組み合わせは、携行性に大きく貢献します。
さまざまなビレイの体勢を考えた、後ろがわずかに長いシルエットと、ハードシェルの上から着用することを考えたサイジング。ただゆったりしているだけでは、内部の温度を効率的に「温かさ」に変えることができませんが、程よいフィット感で、温かさと安心感を得ることができます。
ボディに比べて肩回りに余裕を持たせたのは、ビレイ時の腕の動きを考慮したもの。立体設計により、腕の動きに裾が引っ張られて、お腹周りの温かい空気を逃がすこともありません。
たっぷりとダウンを封入したヘルメット対応の立体フードは、荒れた天候の中でも保温力を発揮し、視界を遮らない立体的な形。高さのある襟元が保温力を高め、ソフトに顔周りを包んで安心感も与えてくれます。
ビレイジャケットには必須の、ダブルファスナー仕様。下部のスナップボタンをとめれば、ビレイループの部分だけを開けることができて、冷気の侵入や温まった空気の流出を、最低限に抑えることが可能です。
ふたつの大型ハンドポケットと、左胸のチェスポケット。たっぷりサイズの収納力に加え、ポケット内もダウン感があり、凍えた指先を暖める役割をしっかりと果します。
大容量のインナーポケットが両サイドに。グローブを体温で温めるときや、ゴーグルの一時避難場所にも有効。
袖口はソフトなストレッチカフ仕様。すばやくスムーズに着脱でき、冷気の侵入を防ぎます。付属品がないため軽くてかさばらず、肌あたりもソフト。
ちなみに、袖口にはコンプレッション時にエアが抜けにくい袖がスムーズにつぶせるよう、小さな空気穴が設けられていました。
ビレイ時に限らず、BCスキーや雪中テント泊にも、圧倒的な保温力を利用しない手はありません。ソフトな着心地でストレスがなく、リラックスタイムやシュラフ保温力補強にも、欠かせない存在となるでしょう。
続いて紹介するのは、1998年の誕生から数回のリデザインを繰り返しながら、現在も絶大な存在感を示すハードシェル「アルファSVジャケット」。ロック、アルパインクライミングシーンにおけるあらゆる悪天候を想定した、アークテリクスのフラッグシップモデルです。
「GORE-TEX PRO Most Rugged(モストラギッド)テクノロジー」は、より過酷な環境での耐久性を求めるアークテリクス要望も取り入れられた新しいファブリクス。最高レベルの防水性、透湿性を備えるのは当然のことながら、少しの迷いもなく岩と接触できる耐久性も備えるGORE-TEX PROを、さらにワンランク強化しました。
強化のポイントは、汗や皮脂などの「油」に対する強さ。高耐久性を誇るGORE-TEX PROは、きちんとメンテナンスをしていれば、かなりハードな使い方をしても、簡単に摩耗や引き裂きなどを起こすことなく、防水透湿性も落とさずに長い期間使い続けることができますが、人間からでる汗や皮脂などは徐々に製品にダメージを与えていきます。特に長期遠征や過酷な環境下ではそのわずかな差が大きく影響します。
これを解消したのが、「GORE-TEX PRO Most Rugged(モストラギッド)テクノロジー」。
この進化で最も変化したのが、首の後ろにあたる部分。以前はこの部分の裏地とラミネートの間に、油の浸潤を防ぐためのパッチが挟まれていたのですが、「GORE-TEX PRO most rugged テクノロジー」が開発されたことで、その必要がなくなりました。製品となった状態では変化がわかりませんが、材料も行程も、重量もわずかに減ったことは、小さくて大きな進歩といえるでしょう。
防水性のために不可欠なシームシーリングには、風合いを固くし、透湿性を下げ、重量も増やすという要素があります。これを最小限に抑えるためにアークテリクスがこだわるのが、シームテープの幅。場所ごとに8㎜と13㎜の2種類を使い分けます。この細さを、これだけのクオリティで貼れるのは、数あるブランドの中でも、アークテリクスだけ。テープが重なる部分は、剥離を防ぐ円形のパッチで保護されています。
通気やレイヤリング、動きやすさを考慮したレギュラーフィットのシルエット。ヘルメットやハーネスの着用を前提としたデザイン、厳しい状況でストレスなくコントロールできるファスナーやアジャスター。
数回に及ぶ改良を加え進化を続けるプロダクト。穏やかな気候の中、気持ちよく歩いているときも、このジャケットだけは、いつ来るかもわからない最悪な状態への準備に余念はありません。
ゴアテックス プロダクトは、厳しい環境で頼れる高品質な機能素材ですが、その製品の作りとファブリクスの選び方によって、限界に挑戦するシビアな登山から、低山の気軽なハイキングまで、それぞれのシーンに最適な製品として特徴を変化させることができます。
ベータLTジャケットは、軽量性と多用途性にこだわったゴアテックスシェル。程よい厚みの40デニールで、400gを切る軽さが自慢。ゴアテックス プロダクトならではの優れた耐久性や、防水透湿性、防風性などの機能を備えながら、ソフトで着心地もいい、幅広い季節や用途で使えるように考えられた、オールラウンドな1着です。
さまざまなアクティビティで使えるように計算された、シンプルで機能的なデザイン。程よいゆとりを保ちながら自然と体にフィットする無駄のないラインは、計算された立体構造によって、動きやすさも確保します。
やや後ろの裾が長いスタイルで、バックパックやハーネスなどを身につけたときや、アクティブな動きにも、常に保護性をキープ。きれいなスタイルのまま着続けられます。
気軽なハイキングや散策、街の防寒着としてもオーバースペック感のないシンプルなスタイルですが、登山をはじめとする山のアクティビティに不可欠な機能は簡易的なものではありません。
止水ファスナーを備える大型のハンドポケットや、両サイドに設けられた裾のドローコード、引っかかりにくくて操作しやすいコンパクトなカフスアジャスターなどをフル装備。
悪天候時に快適性を大きく左右するフードは、ヘルメット対応の立体構造。高めの襟で雨風をしっかりとシャットアウトし、片手ですばやくフィッティング調整が可能。計算されたツバの角度と形状により、常に視界を確保することができます。
脇下には、行動量の多い場面で不可欠の大型のビットジップを配置。たまった熱を一気に換気でき、温度調整のための着脱の手間をなくします。
低山のハイキングから本格的な登山はもちろん、残雪期の登山やスノーアクティビティにも使えて、1年を通して大活躍。雨が降ったときだけに使うのなら、携行性を優先したもっと薄手のものでもいいですが、着ている時間が長いなら、これくらいの厚みがあるものが着心地もベター。
着用しないときはさっと畳んでフードにまとめれば、持ち運びの負担もありません。
この生地の少しハリのある質感は独特ですが、このハリ感がなければ得られない快適性もあります。
薄くソフトで体にフィットするストレッチ素材などは、大雨が降ったときなど、実際には濡れていないのに、肌に触れる部分が濡れたように感じることがあります。
この製品の場合は、適度なハリが生地を肌からひき離すために、このようなストレスを感じにくいということ。大雨に降られてつらい時に、この違いは意外と大きいかもしれません。
「GORE-TEX プロダクト」「GORE-TEX INFINIUM™ (インフィニアム)プロダクト」のどちらも、それぞれに個性あふれる実力を備えています。優れたテクノロジーである「GORE-TEX メンブレン」の力を形にし、使う場面に求められるものに昇華させるのは、アークテリクスの力。両者のパートナーシップで生まれるゴアテックス プロダクトは、今もこれからも、進化を止めることはありません。
最後にもう一つ。
アークテリクスの製品に共通する考えは、「いい物を長く使う」というコンセプト。その場で使えるものを手に入れては廃棄する消費サイクルは、アークテリクスの中にはありません。5年、10年先も使えることを考えた素材開発や、環境負荷の少ない染色方法の「ドープダイ」、ブルーサインの条件を満たす素材やトレーサブルダウンの使用など、これから先も長くフィールドで自由に遊ぶことを視野においていることを付け加えておきます。
原稿:小川郁代
撮影:中村英史
協力:アークテリクス カスタマーサポートセンター/アメア スポーツ ジャパン