登山者ならば、多くの方が過去に「一眼カメラ」の購入を検討されたことがあるのではないでしょうか? でも「重くて持ち運ぶのが大変」「雨で壊れないか心配」などの理由で、なかなか一歩踏み出せない方が多いのも事実。
今回の記事では、圧倒的な防塵・防滴・耐低温性能を備え、軽量小型で登山にもぴったりだと噂の新型デジタル一眼カメラ『OM-5 MarkⅡ』を雨の八ヶ岳に持ち出し、使い勝手を試してきました。レビュアーは、撮影と執筆業を生業とする小林 昂祐さん。果たして過酷な環境下でも、壊れずにその性能を発揮できたのでしょうか?
2025.07.22
小林 昂祐
撮影と執筆業
いまや、カメラは登山の必携品!と言えるほど、山での写真撮影は身近なものになりました。「雄大な山の景色を切り取りたい」「山の思い出を残したい」「SNSで活動を発信したい」といったように目的は人それぞれ。そして使うカメラも、本格的なデジタル一眼カメラからコンパクトデジタルカメラまで、多種多様あるでしょう。
それだけ選択肢が多いものの、登山のカメラ選びに答えが見つからずに悩んでいる方が多いのも事実。たとえば、「重いのは嫌」「壊れないか心配」「操作が難しい」といった声をよく聞きます。
では、どんなカメラが登山向けなのか? 私は「コンパクト」で「軽量」、そして「天候へのタフさ」を兼ね備えたもの、だと思います。欲を言えば「操作が簡単」というのも大きな魅力です。でも、そんな夢のようなカメラがあるのでしょうか?
『OM-5 Mark II』本体にキットレンズM.ZUIKO DIGITAL ED 12-45mm F4.0 PROを装着。なお、記事中でレンズの記載がない作例はこのレンズで撮影した
今年7月に発売されたばかりの『OM-5 Mark Ⅱ』がそれ。マイクロフォーサーズという小型のセンサーを採用することで一般的なデジタル一眼カメラよりもレンズ・本体ともにコンパクトなのが特徴です。
しかも防塵・防滴設計(IP53対応)なので雨に濡れても、砂埃が舞っても大丈夫。変わりやすい山の天気でも安心して撮影ができます。まさに登山者のためのカメラだと言っても、過言ではないでしょう。
でも、スペックや機能をお伝えするだけではいまいちピンと来ない……と思いますので、今回の記事では、『OM-5 Mark Ⅱ』を八ヶ岳のテント泊山行に実戦投入し、使用感や作例をお伝えしたいと思います。ちなみに取材日は、雨天から晴天へと目まぐるしく天気が変わるハードな環境。『OM-5 Mark Ⅱ』の堅牢性もしっかり試すことができました。
まずは『OM-5 Mark Ⅱ』で撮影した作例から。手前味噌な感じではありますが、結構いい感じですよ!
作例 |雲海をバックに朝焼けの山を登っていく。空のグラデーションが美しい。高感度センサーと手ぶれ補正がかなり効いているので、薄暗くても問題なし
作例|山頂で朝日を迎える。波打つような雲の諧調をしっかり捉えている
作例|スローシャッター効果を簡単に楽しめる「ライブND」機能で川の流れを表現。三脚は使わず、手持ち撮影でもこのとおり!
作例|キットレンズ(M.ZUIKO DIGITAL ED 12-45mm F4.0 PRO)はしっかり寄れるので小さな花の撮影も可能
すべて、『OM-5 Mark Ⅱ』で撮った写真です。写真加工ソフトでの調整なしでも、ここまできれいに写ります。「写真はスマホでいいかな」と思っていた方も、デジタル一眼カメラの魅力に気づいてもらえたのではないでしょうか?
私は、この「OMシリーズ」のカメラとは馴染みが深く、旧モデルを使用していたことがあります。本体のコンパクトさ、軽量さに加えて、交換レンズが小さいため、長期の縦走やヒマラヤ遠征など、荷物を減らしたい山行で愛用していました。さらに遡ると、初代の『OM-1』の発売は1972年。世界最軽量(当時)のフィルム一眼レフとして人気を集めました。
そして、最新の『OM-5 Mark Ⅱ』ですが、一般的なデジタル一眼カメラよりもひとまわり小さい印象。思った以上に軽く、これならどこにでも持って行けそうでワクワクします。交換レンズもコンパクト。レンズを変えていろいろな被写体を撮りたい人にもちょうどよさそうです。
今回の山行では靴紐をストラップとして使用。軽量コンパクトな『OM-5 MarkⅡ』だからこその遊び
私のオススメレンズは広角~中望遠まで使えるズームレンズ『M.ZUIKO DIGITAL ED 12-45mm F4.0 PRO』。この1本で、登山での撮影はほとんどまかなえます。しかも、写真と文章を生業としている私から見ても、かなりきれいに写るんです。なお、OMシリーズは、ボディはもちろんレンズも小さいので登山用のポーチやサコッシュをカメラバッグとして活用できます。
ここからは八ヶ岳でのレビューを詳しくお伝えしていきます。
取材日は梅雨の真っ只中。1日だけ天気が回復しそうな日を見つけ、友人と八ヶ岳へ。ルートは、1日目に桜平駐車場からオーレン小屋へ向かいテント場で野営。天候が回復すれば夕陽を見に根石岳方面へ。2日目は早朝にテント場を出発し、硫黄岳山頂で朝日を拝み、下山というもの。
森に囲まれたオーレン小屋のキャンプサイト、岩場が広がる硫黄岳、そして八ヶ岳の主峰・赤岳の眺望など、手軽ながら満足度の高いルートです。
作例|木の幹や苔の表面のディテールもしっかり表現できる。少し暗めに設定してしっとりとした表情に
初日は雨。レインウェアを着込んで入山します。森のなかとはいえポツポツと雨が降る登山道。こんなときは『OM-5 Mark Ⅱ』でよかったと思います。雨を気にせずカメラを首から下げられるのは非常にありがたい。
雨の日は木々や苔のいきいきした姿を見られるので、重い腰を上げてでも山に入る甲斐があります。装備は湿り、シューズも濡れてしまいましたが、カメラは防滴なので問題ナシ。
作例 M.ZUIKO DIGITAL 25mm F1.8 II|単焦点レンズはボケが大きく、被写体を際立たせてくれる
のんびり森を歩き、オーレン小屋のテント場に到着。夕方から雨雲が抜ける予報だったので、テント設営後は40分ほどで登れる根石岳へ。ときおり青空が見え、これはワンチャンあるかも?と寒さに耐えながら待っていると……。
作例 M.ZUIKO DIGITAL 25mm F1.8 II|シャッタースピードは1/60秒。手ブレしがちな暗さだが、気にせずシャッターを切れた
幻想的な夕焼けに遭遇。刻々と移り変わっていく空にシャッターを切りました。天候が変化する日の方が、ドラマチックな景色に出会えます。
装備が軽いと散歩感覚で撮影に行けるのも嬉しいところ。持ち物は行動食と飲み物やいざという時の装備一式、片手に『OM-5 Mark Ⅱ』。やっぱり軽さに勝るものはありません。
作例 M.ZUIKO DIGITAL 25mm F1.8 II|夕焼けに露出を合わせ、手前の人物と山並みをシルエットに
夕焼けの空を存分に楽しみ、後ろ髪を引かれつつ山頂を後にします。夕暮れ〜夜の撮影で感じたのは、暗いシーンでもしっかり写る!ということでした。手ぶれ補正がかなり効いているようでボツカットはほとんどナシ。スマートフォンではノイズが乗ってしまったり、色がきれいに出なかったりしますが、さすが最新のデジタル一眼です。
2日目は硫黄岳山頂で朝焼けを迎えるために午前2時半にテント場を出発。空にはまだ雲が残っていましたが、煌々と輝く満月が山肌をうっすら照らしていました。オーレン小屋のテント場から山頂までは1時間半ほどのコースタイム。ヘッドライトを点け、暗い森を歩いていきます。
作例 M.ZUIKO DIGITAL 17mm F1.8 II|午前2時。テントの灯りと月光。三脚は使わず手持ちで撮影。高感度耐性と手ぶれ補正機構は月の明るさで写真が撮れそうなほど。スマートフォンでは難しい夜の写真撮影も難なくこなしてくれる
尾根道を登っていくとだんだんと空が明るくなってきました。雲はすっかりなくなり、麓には雲海が広がっています。早起きして大正解! 雨上がりの快晴ほどフォトジェニックな瞬間はありません。
作例 M.ZUIKO DIGITAL 17mm F1.8 II|雲海側に露出を合わせても山のシャドーが綺麗に残っている
作例 M.ZUIKO DIGITAL 17mm F1.8 II|登ってくる同行者たち。山頂アタック時の臨場感を撮影できた。オートフォーカスが早いので狙った瞬間を逃さない
ぴったり日の出に間に合いました。日の出前後の色を逃さないよう、アングルを決めに忙しい時間です。身体が揺れるほどの強風が吹き、かつ薄暗い状況で撮影には過酷でしたが、ここでも強力な手ぶれ補正が大活躍。
作例|山頂から朝日を拝むことができた。広角側で雲海と空のグラデーションを写し込む
作例|ズームして人物のシルエットにフォーカス。暗くてもしっかりとオートフォーカスが効いてくれる
ドラマチックな景色は早朝ならでは。この一瞬のために早起きをしているようなものです。硫黄岳の山頂からは八ヶ岳の主峰・赤岳もクッキリ見え、振り返ると硫黄岳の山容が影となり山に落ちていました。
作例|朝日に照らされた硫黄岳の爆裂火口。早朝ならではの光のコントラストが美しい
作例|硫黄岳の山頂から赤岳を遠望する。東側の山肌に当たるかすかな朝日が美しい
作例 M.ZUIKO DIGITAL 25mm F1.8 II|日の当たる雲海と影の岩場でかなりの明暗差があるが、シャドーもしっかり残っている
これまでは大きなカメラと三脚を担ぎ重い荷物を背負って撮影ポイントまで登っていましたが、『OM-5 Mark Ⅱ』であれば文字通り「片手に持って軽々」です。
作例 M.ZUIKO DIGITAL 25mm F1.8 II|下山後はテント場で朝食タイム。手前、中央、奥、というように立体感を出せるのも一眼カメラならでは
作例 M.ZUIKO DIGITAL 25mm F1.8 II|スマートフォンだと平面的な写真になってしまうが、OM-5 MarkⅡなら料理写真もお手のもの
1泊2日の山行で『OM-5 Mark Ⅱ』を使ってみて感じたのは、軽さと小ささはやはり正義である、ということでした。山の撮影で大切なのは、いい瞬間にシャッターを切れるかどうかだと思います。どんなにハイスペックなカメラを持っていても、重くて足取りが遅くなったり、操作に戸惑ってしまっては本末転倒です。
その点『OM-5 Mark Ⅱ』は天候を気にせず、ずっと手に持っていられる手軽さがありました。それでいて十分な画質を備えているのも心強い。撮りたいときに撮れて、山でも思いっきり使える登山者向けのカメラだと改めて感じました。
ちなみにマイナス10℃の耐低温性もあるので冬山でもガシガシ使えそうです。
最後に『OM-5 Mark Ⅱ』の特徴的な機能をご紹介したいと思います。
『OM-5 Mark Ⅱ』には「コンピュテーショナル フォトグラフィ」という機能があります。馴染みのない言葉なので難しく感じますが、要は「カメラが手取り足取り撮影をフォローしてくれる機能」みたいな感じでしょうか。撮影者はモードを選んでシャッターを押すだけ。カメラが自動で働いてくれます。ここからはコンピュテーショナル フォトグラフィで撮影した作例をいくつかご紹介したいと思います。
まずはライブND機能から。サングラスのようなフィルター効果をイメージしていただければと思います。レンズに入る光量を抑えるデジタル処理をかけることで、シャッタースピードを遅くしても、白飛びせずに写真を撮ることができます。
こちらはライブNDのスローシャッターで水の流れを表現。これまでは三脚を立て、別売りのNDフィルターを装着して、露出を決めて……というように手間のかかるプロセスが必要でしたが、モードを切り替えてシャッターを押すだけでこの通り。三脚ナシ、手持ちで撮影できるのはすごい!
こちらはタルチョ(写真上部のカラフルな旗)の動きを表現してみました。この機能、結構いろいろと応用ができるので知っていると楽しいです。風になびく草原、雲の流れなどに使っても面白そうですね。
つづいて紹介するのは、連続撮影した複数枚の写真を合成し、高解像写真を生成してくれる「ハイレゾショット」。『OM-5 Mark Ⅱ』の通常撮影時の画素数は約2000万ですが、ハイレゾショットだと約5000万画素相当のデータを生成できます。
シャッター近くのCPボタンを押し、ダイヤルを回して「ハイレゾショット」に設定。あとはシャッターを切るだけです。ひとまず朝焼けを広角で撮影。少し処理に時間がかかりますが、カメラが自動で頑張ってくれるので撮影者はただ待つだけでOK。
こちらは上の写真中央部をトリミングしたもの。まるで望遠レンズで撮影したようなカットになりました。高解像度のハイレゾショットであれば、このようにトリミングしても美しい画質を保持できるのです。
もうひとつ「ライブコンポジット」と呼ばれる機能もご紹介したいと思います。こちらは、複数枚の写真をカメラ内合成することで、星の軌跡を1枚の写真に写し込むことのできるモードです。
方法は、星が綺麗な方向に三脚に乗せたカメラを設置、モードダイヤルを「SCN」に合わせ、「夜景や光の軌跡を撮る(光跡撮影)」を選択してシャッターを押すだけ。撮影中は画面に途中経過が表示されるので、星の軌跡を確認しながら撮影を楽しめます。
これまでは何十枚、何百枚と撮影したデータを写真専用のソフトで合成して1枚の写真にする必要がありましたが、モードを変えるだけで手軽に軌跡を描く星を撮影できます。テント泊や小屋泊の際には、ぜひとも試していただきたい機能です。
ちなみに『OM-5 Mark Ⅱ』には「星空AF機能」も備わっています。実は、星はフォーカスが合いにくい被写体であり、マニュアルでの調整が一般的です。「星空AF機能」であれば難しいピント調整は不要。撮影後にボケていた、星が滲んでいたという失敗もなくなります。
ボディのカラーは「シルバー」「ブラック」「サンドベージュ」の3種
実際の山行で撮影した作例を紹介しながら、『OM-5 Mark Ⅱ』についてお届けしました。好印象だったのが、専門的な機能もさることながら、デジタル一眼カメラがはじめての方でも安心して操作できる手軽さでした。
今回はほぼオートモードで撮影してみたのですが、余計なストレスがなく、撮影に集中できました。シャッターを押すだけでここまで撮れてしまうのはすごい。デジタル一眼カメラって難しそうと感じている方でも安心して使いこなすことができると思います。
そして、最初の話に戻りますが、コンパクトで軽量、天候へのタフさを備えた『OM-5 Mark Ⅱ』は、やはり登山者のためのデジタルカメラなのだと思います。ぜひ手にとって、その小ささと軽さを体感してみていただければ幸いです。きっといい相棒になるはずです。