キャラバンシューズ 〜 それは信頼の登山靴 〜

長年、登山を愛好されている方であれば、一度は目にしたことがあるであろう登山靴の代名詞、キャラバンシューズ。 誕生から63年。その歴史は名実ともに、日本の登山史と共に歩んできた。
キャラバンシューズが歩んできた歴史と、キャラバンのこれからについて掘り下げてみたい。
(インタビュー:春山慶彦、撮影:平良博義、記事公開日:2017年5月18日)

*キャラバンシューズ 発売から63年間、累計600万足以上、1年間の最高販売記録は約27万足国民的登山靴というべき存在

2017.05.18

YAMAP MAGAZINE 編集部

INDEX

日本人に合った登山靴を!キャラバンシューズ誕生秘話

春山
はじめに、キャラバンシューズが生まれたきっかけ、その歴史についてお聞きできればと思います。キャラバンシューズの誕生は、いつ頃になりますでしょうか。

株式会社キャラバン・代表取締役社長 岡部道成氏

岡部
キャラバンシューズの誕生は、1953年の日本山岳会隊マナスル遠征登山にまでさかのぼります。まだ、日本が戦争の傷跡を色濃く残す時代です。そんな時代に、「日本復興」を掲げて、当時未踏峰だったマナスル(*ヒマラヤ山脈に属するネパールの山。世界に14座ある8,000メートル峰のひとつ)へ遠征登山が計画されました。
この時代はまだ日本全体、物不足が続いていた頃です。登山道具も海外から輸入して使わざるを得ない状況でした。当然、登山靴もヨーロッパから輸入していました。
登山靴の重要性は、昔も今も変わりません。今でこそ、日本人の足に合う靴は当たり前に存在しますが、その当時は皆無でした。ヨーロッパから輸入した登山靴を日本の遠征隊員も履かざるを得なかったのです。
ただ、日本人と西洋人とでは、足型が大きく異なります。一般に日本人の足は甲が高く、足幅が広いのが特徴です。輸入した登山靴では日本人の足に合わず、足が痛くなりやすく、歩きにくかったのです。
春山
登山靴が合わず靴ズレが起きると、低山ハイクでもきついのに、このときはマナスルという高所での登山ですから、登山靴が合わないというのは、とても切実な問題ですね。
岡部
そのような中、当時マナスル遠征隊・隊長であった槇有恒さん(*日本山岳会の設立者のひとり。近代アルピニズムの開拓者)と当社の創業者である佐藤久一朗が、仲がよかったこともあり、槇さんより登山靴の開発を依頼されました。というのも、佐藤はアイデアマンであり、手先が器用で、デザインにも造詣が深いことで有名でした。(*佐藤氏は、当時、日本山岳会に所属し、ヒマラヤ委員会の装備を担当していた)
佐藤自身も”明治の山男”であり、登山靴の課題を理解していましたので、槇さんからの依頼をふたつ返事で引き受けたようです。そして、日本人遠征隊の隊員一人ひとりの足型を測定し、一足一足丁寧に登山靴をつくっていきました。
春山
今も引き継がれる「日本人の足に合う靴であること。一人ひとりの登山に寄り添う靴であること」というキャラバンシューズの原点は、約60年前のマナスル遠征登山にあったのですね。
遠征隊員の方が佐藤さんに送った手紙の一節がとても印象的です。
この度の布製の靴は快調です。キャラバンと愛称し、皆よろこんではいています。こんな険しい山旅によい靴なら、日本の山歩きに最適のはずです。日本の登山界のために市販されるべきでしょう。
岡部
遠征隊員の絶大な信頼と評価が後押しとなり、佐藤は会社を設立、キャラバンシューズの市販化を目指します。

*キャラバンシューズの生みの親であり、明治の”山男”。佐藤久一朗氏(1901-1984)

岡部
1956年、日本山岳会隊の3回目の挑戦が実り、世界で初めてマナスルに登頂しました。その偉業に日本中が沸き立ちました。戦後日本の復興とマナスル初登頂が重なり、それまでは一部の愛好者にだけ親しまれていた登山が、庶民にまで広がっていきました。いわゆる大衆登山ブームです。
当時、キャラバンシューズが日本人の足にフィットしている唯一の登山靴であったこと。また、手に入れやすい価格帯で販売したいという佐藤の思いもあってコストパフォーマンスに優れていたこともあり、登山入門者の多くがキャラバンシューズを履いて、山に登ったといいます。
春山
当時の人気ぶりを示すエピソードとして、キャラバンシューズが登山靴の代名詞だったそうですね。

*日本の登山史に歴史を刻むキャラバンシューズ。初期モデル

技術革新を重ね、「安心、安全、信頼」の登山靴へ成長

岡部
キャラバンシューズの改良はその後も続きます。
1950年初頭まで、登山靴はゴムとソールの部分を釘や鋲で貼り合わせる工法がほとんどでした。そのため、登山靴が重かったのです。
春山
これがその当時、主流の登山靴だった「ナーゲル靴」ですね。実物を初めて見ました。めちゃくちゃ重いですね。

*ナーゲル靴。靴底に金属製の鋲が打ち込まれている。重量は今の登山靴の2倍以上

岡部
登山靴の軽量化を目指し、佐藤は、関係の深かった藤倉ゴム(現在のキャラバンの親会社)の協力を得て、特殊な製法で、ゴム部分と帆布生地を接着することに成功、それまでにない軽量の登山靴を生み出しました。
技術革新は軽量化にとどまりません。綿の生地では防水性に劣るため、靴のアッパー部分に、当時の新素材であったナイロンを採用。1958年、防水性の高い登山靴の開発にも成功しました。
春山
佐藤さんご自身が”山男”。作り手であると同時に立派な使い手でもある。だからこそ、現状に満足せず、登山者の快適性を第一に、技術革新を積み重ねてこられたのですね。
岡部
キャラバンシューズは「軽くて、履きやすくて、歩きやすいこと」を何より大事にしています。時代によって登山スタイルが変化しても、山を歩く方の足元をサポートするキャラバンシューズの精神は変わりません。
初心者の方がはじめて履く登山靴として、キャラバンシューズはこれからも「安心、安全、信頼」の登山靴でありたいと思っています。

*尾瀬。1950年代の登山ブーム時、多くの人がキャラバンシューズを履いて登山を楽しんだ

*左:キャラバンシューズの最新モデルC1、右:最上位モデル・グランドキング

▶ キャラバンシューズについて

「モノからコトへ」キャラバンが主催する山イベント

春山
近年、御社は登山教室や沢登り体験会などリアルのイベントを積極的に開催されていらっしゃいますね。
岡部
はい。製品をつくるだけでなく、DOの部分であるイベント開催にも力を入れています。「地図読み講座」などの机上講座から、実際の登山や沢登りなどを企画・実施しています。
春山
山岳団体に属さない形で登山を楽しむスタイルが主流になってきている今、アウトドアメーカーだからこそ提供できるリアルのイベントは、大変価値がありますね。
岡部
私たちアウトドアメーカーだからこそできる体験会イベント・机上講座を通じて、登山の楽しさを広く伝えていきたいと思っています。また、イベントを通して、技術向上を含め、若い人の登山経験をサポートしていきたいですね。
キャラバンシューズというモノだけを提供するのではなく、登山体験そのものをプロデュースしていきたいと考えています。

キャラバンが推奨する「親子登山」とは?
なぜ、いま、親子登山なのか。

春山
先ほど岡部社長の話の中で、リアルイベントに関する取組について触れていただきました。その中でも、今後、御社が力を入れていかれる「親子登山」について、井原さんから詳しくお話をお聞きできればと思っています。
なぜ、いま「親子登山」なのでしょうか。

*株式会社キャラバン・マーケティング部 井原隆一氏

井原
親子登山を提案する背景には、家族関係の変化があります。今、親子の関係を含め家族のあり方が大きく変わってきていると思うのです。
気になっているのは、都市生活が中心となる中で、親子が”親子であること”を感じられる時間が少なくなってきていることです。
親子の絆は、一緒に同じ経験を共有することで深まります。ただ都市生活では暮らしが便利になった分、親と子でそれぞれ世界が分かれてしまい、同じ経験を共有する機会が少なくなっているように感じます。
ただ、時代がどれだけ変わろうと、親が子を思う気持ちは不変です。今の時代において、親子が親子でいられる最良の場はどこか。そう考えたとき、親子で自然に触れ、山や森の息吹を感じる”登山”こそ、親子が一緒に過ごせる最良の場所になり得る、と当社は考えています。

春山
確かに、自然を前にすると、人間の無力さを痛いほど感じます。だからこそ、お互いが共に思いやり、支え合おうとする気持ちも自ずと生まれてきます。自然への向き合い方を学び、信頼関係を深める絶好の機会にも登山はなり得ると私も思います。
井原
ですね。子どもだけでなく、親も自然の中で命を開放してほしい。親が人生を楽しみ、生き生きとした姿を子どもに見せることは、子どもにとって、何よりの喜びになると思うから。
春山
おっしゃる通りですね。
井原
すでに登山に親しまれている方は、ぜひお子さんを山へ連れて行ってみてください。決して高い山である必要はありません、住んでいる街の、身近にある山で十分です。自然に触れたときの子どもの表情、家の中では見せない子どもらしい命の輝きがそこにはあると思います。子どもの可能性を自然の中で、一緒に育んでほしいと願っています。
春山
ただ、登山経験のない大人にとって、子どもを山に連れていくのはハードルが高いと感じます。
井原
登山未経験の方たちでも安心して親子登山が体験できるよう、当社では専用のイベントも企画しています。富士山の親子登山イベントは、実際にキャラバン商品をレンタルして使えるので、初期費用を抑え、親子で登山を始められる機会になっています。
キャラバンは、子ども登山靴の製造・販売から、実際の登山イベントまで、親子の絆を深め、親子で山を楽しむ環境づくりにも、力を入れていきたいと思ってます。

YAMAP MAGAZINE 編集部

YAMAP MAGAZINE 編集部

登山アプリYAMAP運営のWebメディア「YAMAP MAGAZINE」編集部。365日、寝ても覚めても山のことばかり。日帰り登山にテント泊縦走、雪山、クライミング、トレラン…山や自然を楽しむアウトドア・アクティビティを日々堪能しつつ、その魅力をたくさんの人に知ってもらいたいと奮闘中。