YAMAP✖️TRANSIT|世界の山を旅しようー奥多摩/御岳山・大岳山ー

トラベルカルチャー誌『TRANSIT』の編集部と、登山アウトドアライターの櫻井卓さん、そしてYAMAPのガイドひげ隊長らが、なにやら楽しい合同登山を決行。多くの人に愛される奥多摩の名山、御岳山大岳山へ山旅に出かけた様子を、『TRANSIT』編集長の林紗代香さんが寄稿してくださいました。道中で感じた、山旅の醍醐味とは…。

2022.08.10

林 紗代香

トラベルカルチャー誌『TRANSIT』編集長

INDEX

テーマは“山旅=YAMAtriP”。

『TRANSIT』56号「美しき世界の山を旅しよう」特集の発売を記念して、誌面でも取材にご協力いただいたYAMAPさんに「一緒に山に登りませんか?」とお声がけしたことから実現した、YAMAPとTRANSITの合同登山。

メンバーは、YAMAPからひげ隊長こと前田央輝さんとカメラ担当の齋藤光馬さん、TRANSITからは私、編集長林と、副編集長の津賀、編集スタッフの福田が参加。そして、顧問(!?)にひげ隊長とも親交がありTRANSITでも度々執筆をお願いしている、アウトドアに精通するライターの櫻井卓さんもお誘いすることに。

YAMAPとTRANSITの合同登山ということで、テーマは“山旅=YAMAtriP”。まずは、場所選びから。関東近郊で、日帰りで、実施するのが6月の梅雨時期ということもあり雨でも楽しい山。

ふだん活動の拠点としている九州では登山口まで車でアクセスするというひげ隊長は、「電車に乗ると一気に旅感増しますね」とリクエスト。「下山後はやっぱり温泉に入りたいです」と私。「僕はお酒が飲めれば」と櫻井さんがぽつり。さらに、「滝は雨だと水量も増えて迫力が増しますよ。これはガイドをしていて雨が降った時にお客さんに楽しんでもらうための常套句ですが(笑)」とひげ隊長。

「それなら、奥多摩がいいんじゃないですか」という櫻井さんの鶴の一言で、行き先は東京・奥多摩の御岳山(みたけさん)周辺に決定。電車とケーブルカーで登山口まで行けて、周辺には温泉も、酒造やブルワリーもあるのだ。

ケーブルカーで御岳山へ。

左から櫻井さん、私、ひげ隊長

当日、JR青梅線・御嶽駅でYAMAPチームと合流し、御岳登山鉄道の滝本駅(標高407m)へ。ここで軽くストレッチをして、山歩きの準備。けれど、まだそれほど気負わなくてもよし。今回の山行は、ケーブルカーで御岳山駅(標高831m)まで、標高を一気にあげる。つまりは、御岳山の山頂直下まで公共の交通機関で移動できるのだ。青々とした木々が目にやさしい車窓の景色を楽しみながら約6分の旅を終え、8時50分、いよいよ山歩きのスタート。

まず目指すのは御岳山。標高929mの御岳山は古くから関東有数の霊山として崇められ、多くの参拝客によって栄えてきたという。御岳山駅を出て、山頂に鎮座する武蔵御嶽神社までの表参道をゆっくり進む。「登山」というと装備も心構えもハードルが上がるけれど、山に参拝にきたと考えると足取りも軽くなる。

参道沿いには宿坊や茅葺き屋根の茶屋、土産物店が軒を連ねている。途中、竹籠を背負った年配者とすれ違う。畑仕事へ行くのか、あるいは山菜採りに出かけるところだろうか。「こういった山歩きの道は九州にはないですね」とひげ隊長、「集落を通っていく風景はネパールみたいですね」と櫻井さん。

長閑な景色を楽しみながら約30分、参拝にしては勾配のきつい坂道と、石段を登りきると、立派な社殿が迎えてくれた。武蔵御嶽神社だ。朱色が鮮やかな拝殿で一同参拝を終えて、旅の安全祈願にお守りを買おうと社務所に立ち寄る。

すると、狼のイラストを配したお札を発見。かっこいい!迷わず“ジャケ買い”をする。実はこちらは、境内に鎮座する大口真神社の御祭神で、「おいぬ様」として信仰される、日本狼の大口真神さま。盗難除けや火難除けといった厄除けのご利益があるという。

私が購入したお札を見た光馬さんが、興奮の声をあげる。「うわ〜!大口真神、これって『ワンピース』に出てくるやつですよね!?」……??? 正直、なんのことだかわからない。でも、こんな出逢いもまた、旅の醍醐味なのかもしれない。ちなみに「おいぬ様」を祀っている神社らしく、御岳山は犬も一緒に山を歩くことができる。

どっちの道に進む?

御岳山から先はいくつかルートがあり、行程は、天候とメンバーの体力と、山中での目的次第。コースタイムを確認すると、奥多摩三山の一つで、日本二百名山でもある大岳山までは、片道2時間半ほど歩く必要がある。御岳山〜大岳山の唯一の登山経験者である櫻井さんの「ロックガーデンでのんびりするのもいいですよ」の一言に、ひげ隊長も「山頂に行くだけが登山じゃないですからね」と、のんびりルートに票が傾きかける。

がしかし、御岳山では山に登った、とはいえない気がして、「せっかくなので、鍋割山まで行きませんか?」と提案。なし崩し的に、鍋割山(標高1,084m)まで向かうことになった。

奥の院峰までの荒れた急登に足取りが重いひげ隊長は「山頂には行かなくてもいいんだけどねぇ」と不服そうにぶつぶつ言っている。そんなとき、道を塞ぐようにして現れた立ち枯れの木に、巨大キノコを発見。「おお、サルノコシカケだ!」と一気にテンションが上がるひげ隊長。たしかに、動物がちょこんと座れそうな立派なカサ。よくぞユーモラスな名前をつけたものだと感心していたら、こちらのキノコは漢方として珍重されていて、売ったら結構な金額になると隊長が教えてくれた。そんなお宝が山に眠っている、それを知れただけでもちょっと顔がにやけてくる。(※採取は禁止されています)

汗だくになりながら急登を駆け登り、10時半頃に奥の院へ到着。お昼ご飯にはまだ早く、おやつの小休憩。そして、奥の院からは標高差が少ない平坦な道を歩き、10分弱で鍋割山に。

さて、このあとどうするか。みな顔色を窺っている。ひげ隊長は水辺でチルな時間を過ごしたいようだ。櫻井さんはもうお酒が飲みたいのだろうか!? 私だって下山して、温泉入ってビール飲みたい…。でも、ここは、TRANSIT編集部としての意地の見せ所。

「ここまで来たら大岳山へ行きましょう!」と息まいてしまい、大岳山(標高1,266m)を目指すことに。

奥多摩三山の一座、大岳山へ。

鍋割山からしばらく緩やかな下りが続く。すると突然、「左右の木、見てください」とひげ隊長。その言葉に視線を上げると、進行方向の左にはまっすぐに屹立するスギ林、一方右側にはさまざまな種類の木が茂る、広葉樹の森が広がっていた。「どっちの森が気持ちよさそうか、一目瞭然ですよね」とひげ隊長は感慨深げだ。木材の需要により山々の木が伐採されると、成長の早い針葉樹が植えられるのだという。標高が低いとスギ、高いとヒノキになるのだそうだ。

山を歩いていると、緊張感や疲労から視線を落としてしまいがちだ。そして、低山で危険が少ない山ならば、ガイドさんがいなくても歩くこともできる。でも、こうしてひげ隊長のように森に詳しいガイドさんと一緒に歩くことで、山の風景の解像度が上がる。尾根を境に植生が異なることを知り、自然な山の姿が失われていることに気づくことができるのは本当にありがたい。

芥場峠から大岳神社〜大岳山までの道のりは、なかなか険しい。「これより岩。滑落注意」の看板も。岩場や梯子、鎖場もあるので足元に集中して歩いていると、だんだん無言になる。大岳神社直下にある山荘(閉鎖中)で束の間の昼休憩。眺望が少しだけ開けていて、近郊の奥多摩の峰々が顔をのぞかせる。風が心地いい。

エネルギーチャージして、大岳神社の鳥居をくぐったら最後のひと踏ん張り。息を切らし岩場に注意しながら歩を進めると、視界の先の木々の間に青空が見えた。この瞬間が好きだ。もうこの先に道はない。山頂まであと少し、空がそう教えてくれる。

山頂からは西〜南の方角の展望が開けていた。快晴ならば富士山も拝めるそうだけれど、今日はあいにくの空模様。それでも、目の前にはジオラマで見るような深緑の峰々が遥か遠くまで連なっていて(峰の名前はわからなかったけれど、隊長が山の名前がわかるアプリで教えてくれた!)、人工物がほとんど見えない景色に心が揺さぶられる。随分と遠くに来た気もするけれど、奥多摩ってことは当然ながら東京だ。東京に圧倒的な自然が存在していることに、なんだか泣けてくる。人間って本当にちっぽけな存在だなぁ。山に登り、大自然を前にするたびに、そんな感傷にもふけってしまう。

ロックガーデンで(いつか)コーヒーを。

山頂でしばしの休憩の後、念願のロックガーデンを経由して御岳山駅へと戻ることにする。

ロックガーデンとは、御岳山の七代の滝のあたりから綾広の滝周辺に広がる岩石園のこと。渓流沿いはハイキングコースになっていて、“遊歩道に足を踏み入れると、苔むした奇石怪石が点在”と案内図にあるように、苔に覆われた岩の間を清流が流れていく、情緒のあるランドスケープが見所。「“別名「東京の奥入瀬」”っていうのが余計だよね」と誰からともなく突いて出た言葉に頷きつつも、「山に登らず、ここで1日を過ごすのもいい」と櫻井さんが勧めてくれた気持ちがわかる。次回はロックガーデンでピクニックを目的に来るのもよさそうだ。

武蔵御嶽神社の滝行の場でもある綾広の滝で手を合わせ、清流で顔を洗い、休憩所でひと息。コーヒーを淹れたり、河原で水遊びをしたり、ゆっくりくつろぎたいところだけれど、ちょっとその余裕はなさそう。実はこの日はTRANSIT山特集の発売日、夕方からはトークイベントを実施予定なのだ(はい、無事に実施しております)。ケーブルカーの時間と睨めっこしながら、歩をひたすら前に進める。

実は今回、編集部の津賀と福田は大人になってからの本格登山はほぼ初めて。一応年に数回ながらも登山歴12年の私としては、おぼつかない福田の足取りに心配になり、「登山の事故や遭難は下山時に起きることが多いんだよ」と先輩風をふかしながら、怪我をしないように、注意深く山道を降る。ライター櫻井さんからも「このルート、実はけっこう大変。TRANSITの編集者は体力ありますよね。それに、みんな気が強い」とお褒めの言葉(!?)をいただきながら、なんとか全員で無事に下山。

「大岳山に登りたい」という私のわがままで、結局、温泉にも酒蔵にも行く時間がなくなり、トラベル要素が少なくなってしまった今回の山旅。これはリベンジが必要なのでは!?
さて、次回はどこに行きましょうかね、YAMAPさん!


今回の山旅のコースはこちら。

周辺地図をYAMAPで見る
御岳山の山の情報を見る
大岳山の山の情報を見る

林 紗代香

トラベルカルチャー誌『TRANSIT』編集長

林 紗代香

トラベルカルチャー誌『TRANSIT』編集長

岐阜県生まれ。編集者。大学卒業後、いくつかの編集部をへて2008年の創刊時より『TRANSIT』に参加。その後女性版トラベル誌『BIRD』を立ち上げ、2016年より『TRANSIT』編集長に。『TRANSIT』5号ヒマラヤ特集での夢枕獏さんへのインタビューを機に山への憧れがつのり、年に数回山歩きを楽しんでいる。思い出の山旅は、カナディアンロッキーのバーグ・レイク・トレイル。