地図をながめて想像するだけでも、幸せになれる縦走登山。その夢見ていたルートを実際に踏破した達成感は、人生に彩りが添えられる瞬間です。特に、縦走の魅力をレベルに応じて楽しめるのが「南アルプス」。そこで、大手旅行会社で登山ツアーを手掛け、全国各地の縦走ルートを熟知するガイドの窪田一紀さんが、縦走の初心者から中級者までのおすすめとコースと、注意点を案内してくれました。
2022.08.09
窪田 一紀
クラブツーリズム(株)首都圏テーマ旅行センター・登山チームリーダー
はじめまして、窪田です。私が登山に出会ったのは大学時代。ワンダーフォーゲル部で全国の山を歩き回り、縁あって今は旅行会社クラブツーリズムの登山ツアーに携わっています。得意なエリアは、学生の頃に盛んに歩いた日本アルプス。ただ頂上を目指すだけでなく、登頂に必要な知識や技術が学べる講習型ツアーを実施するなど、少しでもステップアップに役立つガイドを心がけています。
南アルプスの縦走コースは、峻険(しゅんけん)な山が比較的少ないにもかかわらず、3,000m級の幻想的な風景を楽しめるのが特徴。さらに、縦走の初心者から上級者までのレベルに応じたルートを選べるほか、花や歴史など、さまざまなテーマでコース設定ができます。
北は仙丈ヶ岳(3,032m)から南は聖岳(3,013m)まで、3,000m峰9座が広がっている南アルプス。山同士が遠く、北・中央アルプスよりアクセスがやや良くない分、静かな縦走路を選べるのも魅力です。私のように静かな登山が好きな方には、特におすすめです。
1日目:夜叉神峠登山口ー夜叉神峠ー杖立峠ー南御室小屋
2日目:南御室小屋ー砂払岳ー薬師岳小屋ー薬師岳(鳳凰山)ー観音岳(鳳凰山)ー赤抜沢ノ頭ー地蔵岳(鳳凰山)ー鳳凰小屋ー燕頭山ー御座石温泉
*2泊3日の場合は鳳凰小屋に宿泊
ビギナーでも可
※ビギナーは2泊3日のゆっくり行程をおすすめします!
所要日数:1泊2日 or 2泊3日
行動時間(1泊2日の場合):1日目/5時間、2日目/8時間
行動時間(2泊3日の場合):1日目/5時間、2日目/4時間30分、3日目/3時間30分
薬師岳(2,926m)・観音岳(2,841m)・地蔵岳(2,764m)の3座をめぐると、奈良〜平安の密教信者によって開山されたとされる、山岳信仰の痕跡にたくさん出会えます。古(いにしえ)の登山者が何を想い鳳凰三山へ来たのか? そんなことを考えながら登ってみてもいいかもしれません。
鳳凰三山は美しい白砂の稜線が続くことでも有名です。地蔵岳にそびえる大迫力の岩峰・オベリスクも一見の価値あり。
危険箇所も少なく、ゆったり行程ならば、縦走ビギナーにもおすすめ。子宝を願う民間信仰など、先人たちの足跡にも思いをはせながら、美しい稜線を歩いてみてはいかがでしょうか。
鳳凰三山の記事を読む:鳳凰山・地蔵岳の歴史と文化|天まで届け、夫婦の祈り
コロナ禍のため南御室小屋・薬師岳小屋・鳳凰小屋ともに完全予約制です。テント泊の予約は、南御室小屋が不要で、鳳凰小屋は土日祝日が必要。公式サイトなどでの事前の確認を忘れずに。小屋ごとに利用ルールが決められています。ルールを守り無理のない行程で登山を行ってください。
山小屋の公式サイトを確認する:
南御室小屋と薬師岳小屋
鳳凰小屋
1日目:鳥倉登山口ー三伏峠小屋ー三伏峠
2日目:三伏峠ー本谷山ー塩見小屋ー塩見岳ー北荒川岳ー新蛇抜山ー安倍荒倉岳ー熊ノ平小屋
3日目:熊ノ平小屋ー三峰岳ー間ノ岳ー北岳肩の小屋
4日目:北岳肩の小屋ー広河原
中級者以上推奨
※一部、岩場あり。2日目が長丁場。エスケープルートが取りにくい。
所要日数:3泊4日
行動時間:1日目/4時間、2日目/8時間、3日目/5時間、4日目/4時間
塩見岳→間ノ岳→北岳縦走
南アルプスの中央部にあり、「ヘソ」とされる塩見岳(3,046m)から、日本第2位の北岳(3,192m)へと縦走する魅惑のコース。
塩見岳の山頂からは、富士山、中央アルプス、白根三山など、360度の大展望。天候がよければ、北の仙丈ヶ岳に続く長大な仙塩尾根まで、抜群の眺望が広がっています。
2日目・3日目の縦走路は長く大変ですが、達成感もひとしお。個人的な見どころは、3日目に訪れる「中白根山から眺める北岳の形」。シルエットがなんともカッコよく、見るたびに素敵だなと感じます。
コロナ禍により、2022年夏は、三伏峠(さんぷくとうげ)小屋、北岳肩の小屋、熊ノ平小屋の山小屋利用は、事前の予約が必要です。テント泊は熊ノ平は要予約。ほか2つは2022年7月時点で不要ですが、サイトが満杯の場合にはそれぞれ制限があります。ルールを守った上で無理のない山行計画を立ててください。
山小屋の公式サイトを確認する:
三伏峠小屋
北岳肩の小屋
熊の平小屋
1日目:椹島(さわらじま)ロッヂ
2日目:椹島ロッヂー赤石小屋
3日目:赤石小屋ー赤石岳ー小赤石岳ー荒川小屋
4日目:荒川小屋ー東岳(悪沢岳)ー丸山ー千枚岳ー千枚小屋
5日目:千枚小屋ー駒鳥池ー椹島ロッヂ
中級者以上推奨
所要日数:4泊5日
行動時間:1日目/歩行なし、2日目/5時間30分、3日目/5時間30分、4日目/5時間30分、5日目/5時間
南アルプスは造山活動が盛んで、その痕跡を氷河地形として見ることができます。荒川三山周辺のカール地形は日本のカール地形の南限とされており、訪れた際には見てみたい光景です。
荒川三山は高山植物のお花畑が広がることで有名です。単一の植物が咲くというよりは、さまざまな種類の高山植物がいっせいに咲く様子は一見の価値あり。
各山小屋やテント泊は予約が必要。利用に制限があります。最新情報を確認して無理のない行程を設定してください
山小屋の公式サイトを確認する:赤石、千枚、荒川の各小屋共通
1日目:芝沢ゲートー弁天岩ー易老渡ー光小屋
2日目:光小屋ー光岳ーイザルガ岳ー易老岳ー希望峰ー仁田池ー茶臼岳ー上河内岳ー南岳ー聖平小屋
3日目:聖平小屋ー小聖岳ー聖岳(前聖岳)ー奥聖岳ー小聖岳ー易老渡ー芝沢ゲート
中級者以上推奨
※エスケープがしにくいうえに、1日の歩行時間が長い!
所要日数:2泊3日
行動時間:1日目9時間30分、2日目/10時間30分、3日目/10時間
南アルプス最南の3,000m峰で、巨大な山容の聖岳(3,013m)からは、富士山はもちろん南・北アルプスのほか、遠くには秩父の山の展望までが広がります。山頂の手前は高山植物が多く咲き、登山者の疲れを癒してくれます。
光岳(2,592m)へ縦走路は長く歩きごたえがありますが、縦走登山の名にふさわしい、素敵な登山道ではないかと思います。途中のセンジガ原では、地中の水分が凍結と融解を繰り返してできた起伏(周氷河地形)の名残や、光岳の先に現れる巨大な石灰岩の塊・光石など変化に富んだ風景も楽しみです。
他のアルプスに比べ、アクセスのしにくさなどから登山者が少なく静かな縦走が楽しみたい方におおすすめです
聖平小屋は小屋、テント泊ともに、事前の予約が必要。茶臼小屋も要予約で、素泊まりのみ。光岳小屋も同様。ルールを守り無理のない、山行計画をお願いします。1日あたりの歩行時間が長くなるので、水分や食料配分、重量など細かくチェックしてから山行に臨んでほしいと思います。
山小屋の公式サイトを確認する:
聖平小屋、茶臼小屋
光岳小屋
1日目:北沢峠ー薮沢小屋ー馬ノ背ヒュッテー仙丈小屋
2日目:仙丈小屋ー仙丈ヶ岳ー大仙丈ヶ岳ー伊那荒倉岳ー独標ー横川岳ー野呂川越ー両俣小屋
3日目:両俣小屋ー野呂川越ー三峰岳ー間ノ岳ー農鳥小屋
4日目:農鳥小屋ー農鳥岳ー大門沢小屋ー大門沢登山道入口ー奈良田
中級者以上推奨
※仙塩尾根は長く時間を要する可能性がありますので、体力を十分につけて挑みましょう。
所要日数:3泊4日
1日目/4時間、2日目/7時間、3日目/6時間、4日目/9時間
仙塩尾根の一部と白根三山の一部をつなぎ合わせて歩きます。仙丈ヶ岳(3,033m)から間ノ岳(3,190m)までは、あまり登山者の入らない、長大な尾根歩きが特徴です。
3日目は行程にゆとりを持って間ノ岳の山頂でのんびりと絶景を堪能しましょう。間ノ岳から先、農鳥岳までは快適な稜線散歩が続きます。最終日は長い下りが待ち受けていますが、下山口には温泉遺産にも認定される秘境・奈良田温泉が疲れを癒してくれます。
仙丈小屋は完全予約制。同小屋は公式サイトで「予約の無い方は宿泊をお断りする場合があります。お受け入れしても食事を提供できないこともあります」と説明しています。最終日の下山は思った以上に長く時間を要します。ゆとりを持った行程管理を心がけましょう。
山小屋の公式サイトを確認する:仙丈小屋
トップ画像:tamaneさんの活動日記より
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