狭心症を克服、手術後2年で憧れのジャンダルムへ|フォトコン2023スマホ優秀賞・赤座 正さん

YAMAPフォトコンテスト2023でスマートフォン優秀賞を受賞した、大阪市在住の赤座正(あかざただし)さん。受賞作は、南アルプスで富士山をバックにした登山者2人を撮影した一枚。そのシルエットはまるで映画のワンシーンのようでした。

狭心症をきっかけに「人生に悔いが残らないように」と登山に目覚め、スイッチが入ったように山にのめり込むようになったという赤座さん。撮影時のエピソードや、大病からの驚異の復活劇についてお聞きしました。

2024.02.28

米村 奈穂

フリーライター

INDEX

受賞作の中にあった見覚えのある写真

スマートフォン優秀賞を受賞した作品。南アルプス間ノ岳(あいのだけ、3,190m)山頂にて

──YAMAP MAGAZINEの結果発表の記事を見て、発表から数日後に受賞を初めて知ったそうですね。

赤座正さん(以下、赤座):気軽な気持ちで応募していたので、受賞するとは全く思っておらず、受賞者の発表のライブ配信も見ていませんでした。

そういえばどんな作品が受賞したのか気になって記事を見ていたら、見覚えのある写真があり、「あれっ?、この写真は……」となりました。そのときは、飛び上がるくらい嬉しかったのを覚えてます。 

──その場所にいなければ撮影できない感動を、スマートフォンで見事に捉えた写真でした。間ノ岳の頂上にいる二人の会話が聞こえてきそうなシルエットが印象的です。

赤座:本当になにげなく撮った1枚でした。後から見返したときに、この写真が際立っていいことに気づき、気に入ったのでパソコンの壁紙にもしていました。

家族も「この写真、素敵だね」と言ってくれて、私も「もしこのふたりとYAMAPでつながりができたら、写真を送ってあげたいね」と話していました。

──後ろに大きく富士山も写っています。構図は意識せずに撮ったのでしょうか。2人のシルエットのサイズや、距離感、姿勢も絶妙でした。

赤座:富士山は入れようと思ってました。人物より、富士山を撮ろうと思った写真です。いつも山の壮大さを表現したいと思っているので、その雄大さがわかりやすいように比較対象が映り込むようにしています。

──天気にも恵まれ、本当に気持ち良さそうな南アルプス縦走だったのが伝わってきます。

赤座:北岳の肩の小屋にテント泊し、そこから間ノ岳に登って帰るルートだったので、肩の小屋を午前4時前くらいに出ました。撮影したのは午前6時か7時ごろ。早朝だったので、雲海もきれいに広がっていて、南アルプスらしい、本当に気持ちの良い景色でした。

北岳(3,193m)・間ノ岳を縦走中

大病を克服して出会った登山

──4年の登山歴の中で、かなり多くの山に登られていますね。

赤座:YAMAPの活動日記に記録しているものだけでいうと56座です。YAMAPを始める前を含めると70座位だと思います。ありがたいことに長期休暇を取れる会社なので、夏場は1か月ほど会社に行かず、山に行って帰って、また山に……という感じです。有給休暇をほとんど夏場に詰め込む感じですね。会社の人にも、夏はいないものだと思われてます(笑)。

──そんな活発な赤座さんですが、登山を始める前には大病を経験されています。

赤座:ちょうど5年くらい前に狭心症を患って手術しました。会社に自転車で通っていたのですけど、ある日、ペダルを漕げないくらい胸が痛くなったんです。「おかしいな」と思って病院に行ったら、即入院、即手術という状態。心臓の血管がほぼ詰まりかけていました。

医師によると、自転車に乗っていたから胸が痛くなって自分で気づいたけど、運動していなかったら完全に血管が詰まって、命を落としていた可能性もありました。運動すると血液の流れが速くなるじゃないですか。それで血液の詰まりが分かりやすいみたいです。

──持病を抱えて山に登る不安はなかったのですか。

赤座:正直、狭心症で見つかったから良かったんです。これが急性心筋梗塞までいってたら、命はなかったかもしれない。そう考えると、これからの人生、何があるかわからないので、好きなことを今やった方がいいのかな、と思いました。

──そもそも、運動しても問題はないのでしょうか。

赤座:激しい運動は避けるように医者から言われていたのですが、山のことは話していませんね……。先生とはよく言い合いになるのですが、生きがいになっている趣味のことだけは自由にさせておいてほしい、という感じです。

学生時代は体育会系で、ずっとスピードスケートをやっていました。全日本強化選手にも選ばれ、冬季五輪で日本初のメダリストとなった橋本聖子さんも同世代で、一緒に練習していました。だから追い込むことが染み付いているんですかね。

関西圏の中でも好きな滋賀県の蓬莱山(ほうらいさん、1,174m)。気持ちのいい稜線歩きと、琵琶湖の眺めがおすすめ

──手術前は、どちらかといえば不健康な生活だったそうですね。高い山に一人で登り始め、その復活劇に周囲は驚いたはずです。

赤座:お酒とタバコはバンバンという生活でした。ただ山に関しては、もともと体育会系だったこともあり、違和感がなかったようです。ただ、タバコをやめたのには驚かれました。

登山する人は、みなさん山に行くとゴミを拾うなど、山をきれいにしようとする意識が高いじゃないですか。そこでタバコを吸う感覚にはあまりなれなくて、禁煙できました。

憧れの頂は遠かった

念願の槍ヶ岳山荘から見る日の出

──登山を始めるきっかけは狭心症ということでしたが、山の世界に魅了されるようになったのは北アルプスでした。

赤座:病気の後に運動をしたほうが健康的だと考え、手術の1年後くらいに関西の高尾山的な存在である金剛山(こんごうさん、1,125m)に久しぶりに登り、山はいいなと思ったんです。

ネットで山の情報をいろいろ調べていて、燕岳(つばくろだけ、2,763m)から槍ケ岳(3,180m)へ縦走する表銀座をそのときに初めて知り、絶対に北アルプスに登ってみたいという思いが強まりました。槍ヶ岳が登山をする人の憧れの山の一つだということと、燕山荘が泊まってみたい山小屋に選ばれたと知って、ぜひ行ってみたいと思いました。

途中で足をひねってしまって、槍ヶ岳までは断念しました。でも燕岳までは登れて、あの壮大な北アルプスの山並みと、森林限界の縦走路を初めて見ることができ、本当に生きてるって素晴らしいと感じました。

パノラマ銀座縦走中、燕岳から大天井岳(おてんしょうだけ、2,922m)に向かう途中にて

──その時もテント泊だったのでしょうか。

赤座:有名な燕山荘には泊まりたかったので、そこだけ小屋泊でした。燕山荘は本当に素晴らしい山小屋だと思いました。スタッフの方が、皆さん笑顔でハキハキしていてとても素敵でした。ご飯もおいしかったです。コロナ禍だったので、ホルンの演奏がなくて残念でしたが、それ以来毎年お邪魔しているので、去年やっと聴くことができました!

山の装備もこのとき初めてそろえたのですが、初めてのテント泊装備が重くて、しんどかったのを覚えてます。そこから学んで、今はUL(※)化が進んでいます。

今回の賞でいただいたマウンテンハードウェアのテント「ニンバスUL2」もかなり軽いやつなんで、嬉しいです。届いたその日に家の中で建てて、最高の予感しかないです。

※UL=ウルトラライト。装備を軽量化して体への負荷を軽減することで長距離を歩いたり、快適性を高めた行動ができる、近年人気の登山スタイルのひとつ

──燕岳の次はどこに行かれたんですか?

赤座:同じく北アルプスのジャンダルム(3,163m)です。

──もしかしていただいてたプロフィール写真(記事冒頭のメイン写真)でしょうか。

赤座:はい、北アルプスデビュー2年目です。手前の西穂山荘の手前まで新穂高ロープウェイで行く予定だったんですけど、その日は運休になってしまって。しょうがなく焼岳(2,444m)経由になってしまい、かなり時間のロスをして行きました。

──お写真では軽々と行けた感じに見えますが。ジャンダルムとなると、体力的なものとはまた別に、岩場の技術も必要になりますよね。

赤座:クライミングジムには定期的に通ってたので、技術的にはなんとかなりました。ただ、素人が行っていいのかと思うくらい険しかったです。天気があまり良くなく、高度感をあまり感じなかったので、逆によかったかなと思いました。

もちろん、それでも怖さはありました。もうしばらくは、北アルプスはいいかな、というくらい怖かったです。

──ソロ登山が多いとお聞きしましたが、このときも一人だったのでしょうか。

赤座:そうです。基本、北・南アルプスに行くときは常にソロです。普段、仕事で人と関わり合う仕事をしてるので、山に行くときは、そういう環境から逃げたいというのもあります。ひとりになりたいなと。

もちろん挨拶や世間話はするんですけど、その後も一緒に登るような仲になることはほとんどないですね。登っているときは無心に追い込むタイプ。休憩とかもあまりせずに登りきるので一人のほうが気楽ですし、小さいことはあまり気にしなくなりますよね。

──事前にご用意いただいた山行写真では、伊吹山(1,377m)や蓬莱山(1,174m)と、滋賀県の山もありました。どちらも琵琶湖が見下ろせ、素晴らしいながめですね。

赤座:滋賀の周辺の山からは、だいたい琵琶湖が見えますね。大阪からは車で2時間前後くらいです。

特に、蓬莱山はすごく好きです。山頂までロープウェイで行く人が多いですが、自分で登るとなるとそこそこの距離はありますが、ちょっとした稜線歩きも楽しめ、充実した山歩きができます。登った先は観光地でお店もたくさんあるので、登った後も楽しめる山です。

あとは須磨アルプス(兵庫にある低山縦走コース)も好きですね。「馬の背」とよばれる絶景ポイントがあったり、住宅街に出て歩くところがあり、面白いです。

山岳雑誌PEEKS(ピークス)に掲載された写真。たまに一緒に登る奥様と、六甲山(931m)にて

──この写真(上)が雑誌の『PEAKS(ピークス)』に掲載されたそうですね。

赤座:「今年買ったウェアでどんなのがよかったですか?」みたいな企画に応募したんですが、写真も添えて応募したら、掲載してもらえ、妻もめちゃくちゃ喜んでいました。

──この写真のお隣は奥様ですね。

赤座:そうです。たまに一緒に行きたいと言い出すので。本当に年に1回あるかないかという感じです。下の小学6年生の息子とは、たまに一緒に登ります。

──今年の夏の遠征の予定はもう決まっていますか?

赤座:立山連峰の方はまだ行ってないので、立山(3,015m)・剱岳(2,999m)の方に行ってみたいと思ってます。チャレンジできる限り、さまざまな山に登ってみたいです。

100年後に残したい故郷の山の風景

家族で登った富士山(3,776m)

──今回のフォトコンテストのテーマは、「100年後に残したい景色」です。赤座さんが100年後に残したい景色は何でしょうか。

赤座:山梨出身なので、やっぱり故郷の富士山ですね。ただ、静岡側から見るとちょっと崩れてるところがありますよね。自然景観が変わっていくのは寂しいので、これ以上は崩れないでほしいなと思います。

──今後、写真に撮ってみたい山や景色はありますか?

赤座:いろんな山からの富士山を撮ってみたいです。山梨にいたときは身近すぎて、そこにいたときは、その魅力に気づきませんでした。仕事の関係で20代半ばに山梨を離れて、大阪にいる方がもう長いのですが、たまに山梨に帰って見ると、「やっぱり富士山はいいな」とあらためて気付かされます。

──最後に、今後の目標などあればお聞かせください。

赤座:大きな目標などはないんですが、これからも安全に登山を楽しみたいと思っています。そのためには事前の下調べや準備、体力作り、家族にも迷惑が掛からないように、万が一の時のための登山保険やココヘリ、YAMAPを使って楽しく登山を楽しんでいきたいと思います。

赤座さんのアカウント
YAMAP:Akaza
Instagram:あかざただし@the_realmccoys

米村 奈穂

フリーライター

米村 奈穂

フリーライター

幼い頃より山岳部の顧問をしていた父親に連れられ山に入る。アウドドアーメーカー勤務や、九州・山口の山雑誌「季刊のぼろ」編集部を経て現職に。