登山を始めるきっかけで多いのが、「職場の仲間に誘われて」というパターン。仕事とプライベートを分けたいという人もいる一方、なぜ同僚たちと行くグループ登山が増えているのでしょうか。そこで、登山コミュニティをもつ企業の登山部員たちに、心身のリフレッシュだけではない、グループ登山の魅力を伺う「登山部インタビュー」連載をスタートしました。
第四回は、会社ではなく大学ゼミに取材を敢行。福岡大学商学部の太宰教授のゼミでは、ゼミ合宿での登山をきっかけに「登山」が主要なコミュニケーションツールになっているのだとか。現役学生とOB/OGとの交流の場としても機能しているそうです。今回は、福岡大学・太宰(だざい)教授と、ゼミOBである高松(たかまつ)さん、仁田原(にたばる)さんに「ゼミ登山部」の魅力を伺いました。
2024.12.20
YAMAP MAGAZINE 編集部
< 話を聞いた人 >
太宰 潮(だざい うしお)さん|福岡大学商学部 教授
2001年学習院大学経済学部卒業後、シンクタンク勤務を経て、学習院大学大学院に進学。 博士後期課程単位取得退学後、2008年から福岡大学商学部に専任講師として勤務。 2022年から現職。主な研究分野はマーケティング、消費者行動、価格戦略、マーケティングリサーチ(データマイニング・テキストマイニング)などなど。最近はメディア接触や店頭研究などもやります。
https://www.fukuoka-u.ac.jp/
高松 郁人(たかまつ いくと)さん|太宰ゼミOB
所属:株式会社カホエンタープライズ(嘉穂無線HD:グッデイ)
ホームセンターGooDayでの取組み経験をもとに、データ活用支援、Google Workspace活用支援、クラウド型データ活用プラットフォーム「KOX」の提供、DX人材育成支援等、企業のDX化を支援。
https://kaho-enterprise.co.jp/
仁田原 良信(にたばる よしのぶ)さん|太宰ゼミOB
所属:株式会社プリンシプル
「Googleアナリティクス」認定パートナーとして、データ解析を軸にオンライン戦略コンサルティングを行っているデジタルコンサルティングファーム。「データを収益化する」を理念に、データドリブンな戦略立案だけでなく、データ取得基盤の構築、データ可視化ダッシュボードの作成、運用型広告・SEO・LPOなどの集客施策をワンストップで提供。
https://www.principle-c.com/
── ゼミメンバーが「飲み会をする」というのはよくある話のような気がしますが、「登山をする」というのは珍しいように感じます。どのようなきっかけがあったのでしょうか?
太宰教授:僕自身、登山が好きなんです。ゼミの学生たちを連れて行ったのは2021年のことだったかな。ちょうどゼミ合宿の開催地が、大分県の「由布岳(1,583 m)」のすぐ近くだったんです。ちょうどその年は、仁田原(にたばる)くんもいたよね。彼は小さい頃から山に入って遊んでいたという話も聞いていたから、ちょうど目の前に山があるし、「登りたい奴がいたら、有志で登ろう」と声をかけたんです。それが最初のゼミ登山ですね。
仁田原さん:僕を含めて4人が手を挙げて、太宰教授と一緒に登りましたね。でも、僕以外の3人は完全に初心者でした。最初は本当に登れるのか不安だったけど、みんなで励まし合いながら山頂を目指しました。山頂で飲んだ冷えたドクターペッパーが最高に美味しくて…! それで登山にハマったというメンバーもいましたね。ひとりは下山後すぐにジェットボイル(湯沸かし道具)を買ってました(笑)。それくらいインパクトのある思い出になったんだと思います。
太宰教授:この由布岳登山から、ゼミでの登山が定番になりましたね。登山はゼミ生同士の交流を深めるだけではなく、OBとのつながりを育む場にもなっています。最大で5〜6世代にわたるゼミ生が集まることもあり、現役生がOBにキャリアの相談をするために登山に参加してくれたりもするんです。
高松さん:僕たちの代はそこそこ人数が多いからこそ、逆に同期だけで登山に行ったりもしています。社会人になってからは住む場所も変わったりで回数こそ減ってしまっているけど、飲み会などで定期的に顔をあわせる関係性が続いています。登山をしていなかったら、もっと希薄なつながりになっていたかもしれないなあと思うこともあります。
── 高松さんと仁田原さんはそれぞれお一人でも登山をされるのでしょうか?
仁田原さん:僕はひとりでもよく山に登ります。父が渓流釣りをやっていた影響で、小さい頃からよく山に入っていたんです。歴史や伝承が好きなので、本などで知った山にも積極的に登りに行ったりしていますね。
高松さん:僕は大学3年生くらいのときに、家族での思い出づくりとして父と山に行ったのが最初の登山でした。そこから山に行くことは増えましたが、ソロはほとんどないかもしれないです。いつも誰かと一緒に登っていますね。
── 高松さんは、グループで登山をするほうが好きなんですね。
高松さん:僕は、登山を「コミュニケーションツール」の一つだと思っている節があって(笑)。もちろん飲み会も楽しいけど、登山は「しゃべることが目的じゃない」ところが飲み会とちがうなと思うんですよね。故に話しやすいというか、話すことに必死にならなくて済むんです。それが、なんだか心地よくて、気楽で良いんですよね。
仁田原さん:僕は、ひとりで登るとずーっと頭の中でぐるぐると考え事をしてしまうんです。気付くと内省モードに入っていて、結果的にネガティブな思考に陥っていることが多くて。時にはそれも、自分にとって必要なことなんですけど、やっぱり仲間がいると終始楽しく登れますよね。登山は、お互いの知らない一面を知る良い機会にもなっているなとよく思いますね。
高松さん:そうだよね。太宰ゼミの登山はOBの参加率も結構高くて、いざ行ってみたら全然知らない人がいる、とかもよくあることなんです。でも、「話す」というよりはまず「登る」という目的があるから、はじめましての人でも気付いたら仲良くなってるんですよね。
太宰教授:二人の言う通りで、登山は長い時間を共にするアクティビティなので、自然と絆が深まるのでしょうね。ゼミの教授としては、こちらの働きかけなしに学生同士がコミュニケーションをとってくれるのは嬉しいことです。また、素晴らしい景色や経験を共有した仲間ができるというのも良いことなんだと、下山後の飲み会の様子などを見ながら、いつも思っています。
── ゼミを卒業され、仁田原さんは東京でお仕事をされていると伺いました。お二人は社会人になってからも登山を続けているのでしょうか?
仁田原さん:はい! 東京でも週に一度は自然に触れるようにしています。もともと渓流釣りが好きなので、東京に来てからは週末はあきるの市の養沢川などに出かけていますね。最近は、僕の働いているデータを扱う業界の方達と、交流として一緒に登山をするようになりました。やっぱり、都心でIT系の仕事をしている人も「自然に回帰したい」という思いが強いんだなあと実感しています。
高松さん:僕も、会社に登山が好きな先輩がいて、ありがたいことに社会人になってからも登山を続けています。最近は、九州の登山文化 “朝駆け(深夜や早朝から登るハイキングスタイル)” を教えてもらい、山での楽しみ方がどんどん広がっています! 職場では話すきっかけが少ない人とも、山に行くと自然に会話が生まれるんです。登山後には会社での関係もスムーズになる気がします。
仁田原さん:仕事の情報交換もできて、自然のなかでリフレッシュできて、登山ってやっぱり一石二鳥だよね。ゼミでも、登山に参加する人は、新・忘年会などのイベントへの参加率も高い。登山や自然が、人間同士のコミュニティの繋がりをより強いものにしてくれているんだなあと、僕たちの経験を通していつも実感しています。
自然の中でリフレッシュできるだけじゃなく、仲間との結束力も深まる「登山」。同じ景色を見て、同じ達成感を味わうことで生まれる一体感は、心の距離を縮め、信頼や絆を育んでくれます。仲間との絆が深まることで、日々の仕事にも思わぬ変化が生まれるかもしれません。
「次の週末は、会社の仲間や友人と一緒に登山をしてみようかな?」
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