2025年の干支は巳(み=へび)です。実際に山では出会いたくない生物ですが、お釈迦様が悟りを開く際に守った那伽(ナーガ)は仏教を守護する蛇の神であり、神聖な存在でもあります。
山名に巳がつく山は少ないものの、蛇の名を冠した山は意外に多く、著名な山に隣接している山や、冬でも登りやすい低山も。今回はそんな「へび」にちなんだ山を紹介します。
2024.12.27
鷲尾 太輔
山岳ライター・登山ガイド
それでは早速「蛇(巳)の山」を紹介します。蛇の山から名山を眺望したり、つなげて歩くことができる山もありますよ。
太白山(たいはくさん・320m)・泉ヶ岳(1,172m)などと並んで、仙台やその周辺に暮らす人々に親しまれているのが日本二百名山でもある船形山(1,500m)。その南東に連なり、船形山とあわせて登られることが多い山が蛇ヶ岳(1,397m)です。
冬は雪に閉ざされ雪山登山経験者向けの山ですが、ブナの原生林が美しく、新緑や紅葉の時期には、心地よい森林浴と展望の良い稜線歩きを楽しみながら登ることができます。
仙台市街の西に連なる蕃山は、その名の通りの蕃山(ばんやま・355m)・西風蕃山(ならいばんざん・372m)そして蛇台蕃山(じゃだいばんざん・364m)の3つの峰で構成され、手軽な低山歩きを楽しむことができます。
ニホンカモシカなども生息する豊かな森に包まれた里山を巡れば、春の山野草や秋の紅葉が美しく、随所から仙台市街を望むことが可能。
伊達政宗公が菩提寺とした瑞巌寺の中興の祖・雲居禅師(うんごぜんじ)はこの山をこよなく愛し、現代では「杜の都・仙台 わがまち緑の名所100選」にも選ばれています。
その名の通り二つの干支を山名に持つ寅巳山(とらみやま・445m)は、2022年の寅年にも多くの登山者で賑わった山。山麓の日光街道から往復1時間ほどで登れるということもあり、2025年の巳年にも人気を博すことでしょう。
とはいえ干支の年以外は登山者が少なく登山道が不明瞭な箇所もあり、ロープが張られた急斜面を登降するので、低山だからといってあなどらないよう注意。山頂からの展望はないものの、山中には寅巳山城という中世の城郭の遺構も残っています。
日本二百名山に選定されており、赤城山・妙義山と並ぶ上毛三山でもある榛名山(最高峰は掃部ヶ岳=かもんがたけ=、1,449m)は複数の山々の総称で、掃部ヶ岳をはじめとする外輪山が中央の溶岩ドームの榛名富士(1,390m)とカルデラ湖の榛名湖を取り囲み、さらにその外側にも多くの側火山があるという、複雑な山容をしています。
蛇ヶ岳(じゃがたけ・1,228m)はそんな榛名山の一座で、登山口から往復35分ほどで登頂できます。榛名山にはほかにも臥牛山(1,227m)・相馬山(1,403m)と干支の名を冠した山があるので、あわせて登ってもよいでしょう。
日本百名山・浅間山(2,568m・登山道は前掛山まで)は2024年12月現在、火山活動にともなう火口周辺規制のため登ることができません。しかし東側に連なる外輪山からは、間近にその雄大な山容を望むことができます。
この外輪山には黒斑山(くろふやま・2,404m)・仙人岳(せんにんだけ・2,320m)などが連なっていますが、蛇骨岳(じゃこつだけ・2,366m)もその一座。特に晩秋〜初冬に雪で薄化粧した浅間山は多くの山愛好家にガトーショコラとよばれ、SNSなどでも人気の絶景です。
長野県南部に位置し、2006年に環境省が「夜空の明るさが星の観測に適した場所」1位に選んだことから、日本一の星空を鑑賞できる場所としても有名な阿智村。
この村で日本百名山・恵那山(2,191m)をはじめとする「阿智セブンサミット」の一座となっているのが蛇峠山(じゃとうげやま・1,663m)です。戦国武将・武田信玄が三河進出のためにこの山で軍用道路を整備し、狼煙(のろし)台にしたという伝承も残っており、山頂からは日本アルプスの名山を望むことができます。
また、蛇峠山は随筆『日本百名山』の著者である作家・深田久弥が茅ヶ岳(1,704m)への登山中に急逝する直前、最後に登った山でもあり、かつて登った南アルプスの百名山たちを眺めたというエピソードも残っています。
蛇峠山(長野県阿智村・平谷村・阿南町)の基本情報、地図を見る
琵琶湖の西岸に連なる比良連山の北端にあたるのが、関西百名山にも選定されているのが蛇谷ヶ峰(じゃたにがみね・901m)です。山頂からは眼下に広がる琵琶湖と対岸に連なる伊吹山・鈴鹿山脈はもちろん、霊峰・白山や京都北山など全方位のパノラマが広がります。
さまざまな登山ルートがあり、北東の朽木スキー場からが最短となりますが、南へ縦走して比良連山最高峰で日本二百名山にも選定されている武奈ヶ岳(ぶながたけ・1,214m)をめざすロングコースも、達成感にあふれたおすすめのルートです。
岩尾城址とよばれる城跡を山頂に有する蛇山(へびやま・358m)。戦国時代に丹波周辺を治めていた和田斉頼(わだときより)が岩尾城という山城を築き、その後明智光秀の丹波侵攻によって落城しました。その7年後、豊臣秀吉によって命じられた領主が改修を行いましたが、1596年には廃城となりました。
そのため現在は戦国時代の山城と近世的な城郭様式が混在して残り、山中には堀切・土塁・曲輪などの遺構が点在しています。
特に山頂にあたる天守台には石垣も現存しており、気温などの条件次第では眼下に雲海が発生することも。雲に浮かぶ山城の光景は「天空の城」として有名な竹田城や大野城にも劣らない、隠れた絶景です。
神戸周辺のホームマウンテンである六甲山地には、網の目のように無数の登山コースが延びていますが、六甲山(最高峰・931m)の東側にそびえ、芦屋市の最高峰でもあるのが蛇谷北山(じゃたにきたやま・840m)です。
最寄りの登山口は、宝殿橋バス停から芦有ドライブウェイを30分ほど歩いた六甲山神社一の鳥居前。ここからはやや深い笹原の中を進みますが、山頂付近からは神戸港の展望も。さらに土樋割峠を越えて六甲山最高峰へ向かうことも可能です。
蛇円山(じゃえんざん・545m)は山頂に高龗(たかおかみ)神社が座する霊山。御祭神は高龗神(タカオカミノカミ)で、龗(オカミ)とは水神・龍神を指しています。全国の水神様の総本社である貴船神社・本宮にも祀られている水の恵みを司る神様で、古くから雨乞い信仰の聖地でした。
秀麗な山容は備後富士の別名もつくほどで、山頂下の広場からは瀬戸内海や四国まで見渡すことができ、クルマでもアクセスできるため、初日の出スポットとしても人気です。山上の龍神でもある高龗神に辰年の御礼も兼ねてお参りし、巳年を迎えるのもよいでしょう。
白神山地の展望台・二ッ森(1,086m/青森・秋田)や、吉野川の源流・瓶ヶ森(かめがもり、1,897m)など山名に「森」がつく山は東北・四国に点在していますが、蟠蛇森(ばんだがもり・770m)もそんな一座。須崎市の最高峰であり、四国百名山にも選定されています。
山頂付近からは黒潮が打ち寄せる太平洋の海岸線を望むことができますが、この山がもっとも賑わうのは早春。中腹の桑田山では例年2月中旬から3月中旬に雪割桜(ツバキカンザクラ)の桃色の花が美しく、菜の花とのコントラストを楽しむことができます。
蛇焼山(じゃやきやま・505m)の山名の由来には、東に隣接する黒髪山(516m)に伝わる平安時代の大蛇退治の伝説が大きく関係していると思われます。黒髪山は山麓の黒髪神社の上宮や摂社・白山神社が点在する霊山で、九州百名山にも選定されています。
登山コースは東麓の黒髪神社下宮や、西麓の竜門ダムから延びていますが、黒髪山山頂である巨岩・天童岩の直下は鎖場やハシゴが点在する岩場です。雨や凍結で滑りやすい時は、特に注意して行動してください。
辰年の締めくくりにふさわしいのが、例年元日前後に富士山頂から日が昇るダイヤモンド富士が鑑賞できる竜ヶ岳(1,485m)です。初日の出がダイヤモンド富士となるため、例年大晦日深夜から元日早朝にかけて多くの登山者で賑わいます。
また、富士山麓の山梨県富士河口湖町(旧上九一色村)には、巳年に関わる伝承も。水神様へ子授けを願っていた夫婦のもとへ小さな蛇が現れ、神からの授かりものとして竜吉と名付け大切に育てたという昔話「へびのむすこ」が伝わっています。
竜ヶ岳(山梨県身延町・静岡県富士宮市)の基本情報、地図を見る
誰もが必ず持っている生まれ年の干支。そして十二支にはそれぞれの年に生まれた人を生涯に渡って守護してくれる八尊の「守り本尊」という仏様がいらっしゃいます。ちなみに2024年(辰年)、2025年(巳年)が歳男・歳女である人の「守り本尊」は普賢菩薩です。
雲仙岳(長崎県)の主峰・普賢岳(436m)は、日本一新しい山である平成新山を望むことができ、初夏のミヤマキリシマ、秋の紅葉、冬の霧氷など四季を通じて魅力にあふれた山です。
普賢菩薩をご神体に祀り、普賢岳の山岳信仰の拠りどころでもあるのが普賢神社。1991年の大火砕流を起こした噴火で社殿が消失しましたが、その後山頂近くに再建されました。地元の人からも「お普賢さま」と親しまれています。
なお、他の干支の「守り本尊」は以下の仏様です。ご自身の干支の「守り本尊」の名が冠せられた山や伝承がある山に登ってみたり、この仏様が祀られた寺院へ初詣するのもおすすめですよ。
・子年:千手観音菩薩
・丑年・寅年:虚空蔵菩薩
・卯年:文殊菩薩
・午年:勢至菩薩
・未年・申年:大日如来
・酉年:不動明王
・戌年・亥年:阿弥陀如来
2025年の初詣におすすめの寺院が、西暦645年の巳年に創建された安倍文殊院(奈良県桜井市)です。その名の通り陰陽師・安倍晴明が出生した寺であり、陰陽道の根本道場でもあります。そして安倍晴明が生まれたのも西暦921年の巳年なのです。
境内の花壇は秋にはコスモス迷路が作られ参詣者の目を楽しませてくれますが、毎年末〜翌年春にかけては翌年の干支をかたどった巨大な花絵を見ることができます。巳年にゆかりの深い寺院で、巳の干支花絵を鑑賞してみませんか。
初詣とあわせての登り初めにおすすめなのが、安倍文殊院から徒歩約25分ほどの等彌(とみ)神社から登る鳥見山(とみやま・243m)です。
毎年11月23日には全国の神社で穀物の実りに感謝する新嘗祭(にいなめさい・しんじょうさい)が行われますが、新天皇が即位して最初に開催される際には大嘗祭(おおなめさい・だいじょうさい)と呼ばれます。そして鳥見山は初代・神武天皇が最初の大嘗祭を行った場所という伝承がある山なのです。
山頂近くには大嘗祭のために設けられた「霊畤(まつりにわ」の石碑が建立されています。山中の等彌神社・下津尾社の御祭神の一柱は神武天皇、上津尾社の御祭神は今上天皇が大嘗祭を終えたことを報告する「親謁(しんえつ)の儀」を行った伊勢神宮と同じ天照大神。まさに初詣にふさわしいパワースポットといえるでしょう。
YAMAPアプリには、指定されたランドマークを通過するとデジタルバッジがもらえるバッジ機能があります。昨年に引き続き、登り納め2024と登り初め2025の2種類の年末年始限定バッジを追加しました。
登り納め2024は2024年12月1日から31日、登り初め2025は2025年1月1日から31日の間に登山をして、該当の活動日記を公開した方が対象となります。年末年始は登山を楽しみながら、限定バッジをゲットしませんか?
バッジ獲得の条件など、詳しい情報は以下をご覧ください。
※どの山頂ランドマークを通過してもバッジの獲得対象になります。今回紹介した山や人気の山でなくても獲得できるので、ぜひ近郊の低山などでも登り納め・登り初めを楽しんでください。
執筆=鷲尾 太輔(山岳ライター・登山ガイド)
トップ画像=まめたんさんのモーメント