YAMAP AWARDS 2024 歩行距離賞|富山・庄司一雄さん、立山を毎日望み受賞

YAMAPをたくさん使っていただいたユーザーのみなさんを表彰する「YAMAP AWARDS 2024」。歩行距離の累計が最も多いユーザーに贈られるThe Walker(ザ・ウォーカー)を受賞したのは、富山市婦中町在住の庄司一雄(しょうじかずお)さん。自宅から走って30分の場所にある城山(じょうやま、145m)に毎日登り続けての受賞となりました。

あるときはヤブ蚊や膝上の雪に行く手を阻まれながら、あるときは剱岳(2,999m)登山の翌日も休まず登り続けた日々のお話を伺いました。

2025.06.03

米村 奈穂

フリーライター

INDEX

狙っていたのは累積標高だった⁈

── このたびは、The Walkerの受賞おめでとうございます!

庄司一雄さん(以下、庄司):本当のことを言うと、累積標高の多い人に贈られるElevate Explorer(エレベート・エクスプローラー)を狙ってたんですよ。距離にそんなにこだわりはなかったんです。なんで標高じゃないんだ…と思ってちょっと悔しかったです。累積標高もけっこう登っていたので、「なんで?」と思いました。今でも思っています(笑)。

── では、YAMAP AWARDSを意識し始めたのは、去年の表彰(YAMAP AWARDS 2023)を見てからですか?

庄司:そうです。それで去年(2024年)の1月から、毎日登っている家の近所の城山(じょうやま、145m)の活動日記をYAMAPに載せるようになったんです。

それまでも登ってはいたんですが、城山くらいで活動日記を上げるのは恥ずかしいかなと思っていました。 距離は時間さえかければ稼げるのでそんなに大変だという意識はないんですよ。普段から月間1000キロとか走っていたこともあるので。

2025.2.24 8:52 家の近所から見た城山

── 毎日、城山に登るようになったのは通勤ランがきっかけだったとか。ご自宅から職場まではどのくらいかけて走っていたんですか?

庄司:通勤ランが山に変わっただけで、特段山に行こうと思って登ったわけじゃないんです。たまに通勤ランの途中で城山を通ってみたりしてたんです。寄り道しながら走っていたので、行きは2時間くらいかな? 帰りは1時間くらいでした。

庄司一雄さん(68)。登山歴約30年の富山市婦中町在住の会社員。毎日登っている城山にて。

── 通勤ランを始めたきっかけは?

庄司:車で行くのは時間がもったいないじゃないですか。ラッシュもあるし。走ればラッシュもないし、車で20分くらいのところを35分くらいで行けちゃうんで。時間がもったいないし、走るためにはまた別に時間をつくらないといけない。なんだか車で通勤するのが馬鹿らしいと思ったんですよ。もう病気みたいなもんです(笑)。

── 体力もつくし一石二鳥だと。通勤ランをしていた庄司さんにとって毎日登山は、体を動かすためのいち手段であって、特別なことではないんですね。1日に2回登っている日もあるようですが、通勤ランのことを考えればそれも普通のことなんですね。

庄司:ランニングの延長ですよね。山に登った方が心拍数も上るし、負荷がかかるんです。高地トレーニングじゃないけど、昔は山に登った後の方がランの記録が出たりしたんです。割とアップダウンのある大会が好きだったので。

2025.1.3 8:33 今年のお正月も欠かさず城山へ。雲海の上に天使の梯子が降りる

誘い文句は、「お前なら剱岳を日帰りピストンできる」

── 庄司さんが登山を始めたきっかけは、ランニングのための体力づくりがきっかけとお聞きしました。ランニングはいつ頃からされていたんですか? 陸上部だったとか?

庄司:部活はフィールドホッケーをしていました。だから走るのは全然苦ではない、というか走ってないと死んでしまう人間なんです。

── 登山歴は約30年で、30代の頃はご家族で登られていたそうですね。子どもさん達と一緒に登られていたんですか? 

庄司:男の子3人と嫁さんと一緒に登っていました。一番下の子が幼稚園に入る前くらいの時に、立山(3,015m)に連れて行ったんです。室堂から登って、一ノ越でもうだめそうだなと思って嫁さんと一番下の子だけ置いて、あとの二人を連れて登ったんですけど、嫁さんが騙し騙し下の子も上まで連れてきてくれました。

ほかには、家族で白馬に遊びに行ったりもしていました。人のいないところがいいなと思ったので、ディズニーランドとかよりも山登りがいいかなと。

── お仕事の都合もあって一旦山から離れた後、再び登るようになったのは40代の頃、職場の先輩に「お前なら剱岳を日帰りでピストンできる」と誘われたのがきっかけだったとか。なぜ、見込まれたのでしょう?

庄司:職場で駅伝のチームに入っていたからだと思います。駅伝をやめた後も、通勤ランで行き帰りに走ってたんです。昔、登っていたこともあって山にすごく興味があったので、いろいろ話を聞いたりしていたというのもあったと思います。

誘ってくれた先輩は、槍ヶ岳(3,180m)とか剱岳(2,999m)とかいろんな山に日帰りで行く人だったんです。本当は泊まった方が朝晩のきれいな景色が見られるのでしょうけど、先輩の影響で今でも日帰り山行が染み付いてしまったんです。

昨年(2024年)の秋、城山で出会った常連さんと登った剱岳。早月尾根からの日帰りのピストン山行だった

── 庄司さんの活動日記を見ていると、剱岳に日帰りで登っていたので「さすが富山の人」と思っていました。50代でトレイルランニングを始められたそうですが、何かきっかけがあったんですか?

庄司:ずっとマラソンをしていたんですが、膝が痛くなってしまって。それで山を走ろうかなと思ったんです。トレイルランニングを始めたらどういうわけか膝が痛くなくなったんです。膝も治ったし、大会に出ると勝てるし、非常に面白くなったんです。60代で3位とか。そもそもトレイルランニングでそんなに年配の人は走ってないですよね(笑)。

── これはいける!と思われたんですね。それは面白くなりますよね。

庄司:それからまた膝が痛くなって現在に至ります。一時は階段も登れないくらいでした。4〜5年前の64歳くらいの頃です。病院の先生に体を動かした方がいいと言われて水泳をしたりしていたらだんだんよくなって、また走れるようになって山にも行けるようになりました。

昨年(2024年)の春、膝の故障を抱えて出場した平尾富士トレイルランニングレース

── 毎日の城山登山で膝を痛めないように気をつけていることはありますか?

庄司:サポーターをして湿布も貼って登っています。湿布は24時間貼りっぱなしです。ストックも2本使います。膝が痛い方が無理をしないからいいのかなとも思います。飛ばしすぎて下山時に転倒したり滑落したりするような危険は回避できていると思います。

ちょっとペースは遅いけど、年相応の安全登山をしたいと思っています。若い時は登りより下りが得意だったけど、下山は慎重になりました。下りではあまり大股で歩かないようにもしています。

立山を仰ぎ見ながら毎日登山

2025.2.21 6:19 早朝の城山展望台から富山市街地を望む

── 夜も登られていますが、最初は抵抗はなかったのでしょうか。

庄司:ありましたけど、もう慣れました。街中だからクマもいないし、街明かりとかでそんなに真っ暗ではないんです。夜景もきれいですよ。雪が積もるとすごく明るいんです。ヘッドライトもいらないくらいです。どこかの光が雪に反射するのかもしれません。

2025.1.29 19:48 雪が積もると雪明かりで明るくなる登山道

── 真っ白になればなるほど、登山道は明るくなるんですね。雪の街の山ならではですね。庄司さんのホームグラウンドである城山の魅力を教えてください。

庄司:近い(笑)。結構アップダウンもあって、立山がきれいに見えます。立山を見るために行ってるようなもんです。立山連峰を見ていると剱岳とかに行きたくなります。明日、天気がいいから行こうかなとかそんな感じです。どうせ行くなら天気のいい日に登りたいですよね。

11月くらいからは立山が白くなります。いっぺんには白くならないんです。徐々に白くなっていきます。真っ白になった稜線に朝日や夕陽が当たるとすごくきれいですよ。特に、朝夕のマジックアワーが美しいです。割と湿度が高い時に赤くなるようです。乾燥してきれいに晴れすぎても空は焼けないですね。

2024.2.19 6:24 城山から朝焼けと立山連峰を望む

2024.9.24 5:12 住む街から剱岳を望む

── 城山は常連さんが多く、地元の人に愛されている山のようですね。富山の中心街からも近いんですか?

庄司:ちょうど富山の中心にある細長い山です。だから歩行距離は結構長くなりますよね。自宅からは3〜4キロで、早歩きで30分くらいの距離です。

呉羽山、城山あたりは呉羽丘陵というんですよ。富山県では昔、呉羽山の西側と東側を呉東・呉西と呼んでいました、天気予報でもそう言ってたんです。今は県西部、県東部と言うから富山の人でも知らないですけどね。西側には富山では有名な呉羽梨の梨畑があって、梨の花が咲くととてもきれいです。

城山の西側に広がる呉羽梨の畑

── 庄司さんは朝も夜も登られるので、日の出や月、星、空の移り変わりの全てを見られますよね。季節によってそれらの見え方も変わってきますか?

庄司:日の出の位置は全く変わってきますね。剱岳のてっぺんから上がる時もあれば、薬師岳(2,926m)の横くらいまでは移動します。

日の出を写真で撮りたいなとは思います。でも、朝は家を出る時間が決まってるので、日の出を待つことはできないんです。仕事に間に合わなくなっちゃうので。山の中でも見える場所と見えない場所があるでしょ。見える場所でちょうど日の出が見られたら嬉しいですね。

2025.1.27 6:29 城山から早朝の富山市街地と立山連峰を望む

── 活動日記に、花火大会の日は花火を狙ったカメラマンが多くてゆっくり見られなかったとありました。そんなふうに、毎日登っている山の日常が突然変わることはほかにありますか?

庄司:そうそう。花火は人が多くて見られなかったんです。あとは、飛行機が来る時間があるんです。富山空港は神通川の河川敷にあって、そこに飛行機が降りていくので、立山に夕陽がかかる時間に重なると、ちょうど飛行機のバックが立山になっていい感じなんです。そのタイミングになると、カメラを抱えて展望台で待っている人たちがいます。

花火を狙うカメラマンが多い東出丸跡

── 毎日城山に登るようになって変わったことはありますか?

庄司:年代別のトレイルランニングの大会やマラソン大会で入賞できるようになりました。城山をホームグラウンドにする方と顔見知りになって、一緒にいろいろな山にも行くようにもなりました。 YAMAPのおかげで人とのつながりができましたね。

山で全く知らない人から「ポンコツさんですよね」ってよく声をかけられるんです。城山以外の山でも言われます。

── ちょっとした有名人ですね。

庄司:YAMAPやってる人で顔を載せてる人は、みんなそうじゃないかな。地元の人で山に登っている人って、だいたい決まってるじゃないですか。特に富山の低山は、県外から来る人はそんなにいないんです。

── なるほど!県外から富山に来た人は高い山に行ってしまいますよね。低山はほぼ地元の人なんですね。それもいいですね。

庄司:でも、剱岳に行っても知り合いがいますけどね。以前、富山から剱岳を2ラウンド登っていた人に会いました。早月尾根を午前0時くらいにスタートして2回登っていました。途中で抜かれたんです。若い人で、自分が登るときに向こうは下山してきて、その後、後ろから抜かれました。とんでもない人ですよね。

── 恐るべし富山県民ですね。庄司さんもその中の一人なんでしょうけど(笑)。YAMAPのアカウント(ポンコツ)のプロフィールに、1日の目標を標高1,000m、距離20キロと設定しているとありました。何かきっかけがあったんですか?

庄司:最近載せたんですよ。前は累積標高1,000mだけだったんですけど、累積距離を加えたんです。The Walkerをいただいたから、20キロならいけるかなと思って。

昨年から城山に登るときもYAMAPで記録するようになって、1日の平均記録が分かったんです。可能な数字だと思っています。きついけど目標があった方が継続できますね。でも、こんなに雪に降られるとだめです。

2025.2.5 18:12 寒波の中、80センチの膝上の積雪の中ラッセルを強いられる

続けるコツは、続けること。

── 雪の障害があるから頑張れるのかもしれないですね。今後の山の目標はありますか? 

庄司:これまでもやってきた、剱岳、黒部五郎岳(2,839m)、槍ヶ岳の日帰りピストンを70歳で達成したいです。一番大変なのは黒部五郎なんです。林道を車で通行できる時間が6時から20時までなんです。

初めて日帰りで登ったのはもう20年以上前で、その頃は軽く下りて来られてたんですが、最近はギリギリなんですよ。一昨年(2023年)、折立の駐車場が満車でなかなか駐車できなくて出発が遅れたために、下山も遅れてしまったんです。林道のゲートを閉めるおじさんが車に乗って帰るところをパッシングして引き留めて、なんとか通してもらえました。

去年はゲートが開く30分前から並んで入って、それでも下山したのはゲートが閉まる10分前くらいでした。今年はもう無理かなぁ。でもそんなことをしているのが面白いです。

昨年(2024年)夏の黒部五郎岳への日帰りピストン山行。この前日、翌日も城山登山は欠かさない

── ギリギリのタイムトライアルが逆に燃えるのかもしれませんね。想像以上にスーパーマンでした。活動日記を拝見していると、夏の遠征の前後でも欠かさず城山に登られていますよね。

庄司:距離や標高が1日抜けると取り返すのが大変なので。今に始まったことではなくて、昔からなんです。距離には割とこだわりがあって、高い山に行ったとしても翌日に登らないと、意味がなくなっちゃうと思ってしまうんです。

── でも剱岳を日帰りでピストンしてきた翌日ですよね。その強靭な精神力はどこからきてると思いますか? 体力があるだけではなかなかできないと思いますが。

庄司:なんでしょうね?休みたくないというか、休むなんてあり得ないと思っているんで。性格でしょうかね(笑)。

── 最後に、何かを継続したり日課にしたりするコツというか、アドバイスをいただけますか?

庄司:いやぁ〜、何でしょう?好きじゃないと続かないですよね。好きになることかな?あとは自分なりのこだわりを持つとか?

── 目標を持つこともコツのひとつでしょうか?

庄司:目標なのかな。でも、やっぱり好きじゃないとダメですよね。好きじゃないことは続けられないと思います。

私は体を動かすことが好きなのかもしれないですね。何かしてないとダメなんです。止まると死んじゃう(笑)。マグロみたいって人に言われます。やめたら余計落ち着かないというか、「今日は登ってない」みたいな感じで気になるんです。。

── 続けることより、逆にやめることの方が難しくなってくるんですね。面白い!じゃあ、続けるコツというのは究極、続けるしかないということなんですね。

庄司:かもしれないですね。やめるなんてことは頭の中にないですから。明日の朝も行きます!

庄司さんのアカウント
YAMAP:ポンコツ

2024.3.10 16:08 春が来るのを心待ちにしながら見守り続けるオウレン

***

立山のお膝元に住む山好きさんの、羨ましき日常が浮かぶお話を聞くことができました。雪は美しくもあり、累積歩行距離を邪魔する厄介なもの。雪と戦いながらのThe Walkerの受賞、本当におめでとうございます!「継続は力なり」を山で実践する庄司さんでした。

取材後、庄司さんから、膝の痛みが悪化し悩んだ末、手術を決断されたとご連絡をいただきました。これもランと登山を続けるためのチャレンジだそう。一日も早い回復をお祈りしております。

聞き手:米村奈穂

米村 奈穂

フリーライター

米村 奈穂

フリーライター

幼い頃より山岳部の顧問をしていた父親に連れられ山に入る。アウドドアーメーカー勤務や、九州・山口の山雑誌「季刊のぼろ」編集部を経て現職に。